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Rd.1 [Sun,18 April]
BARBER

長いシーズンの始まり 第1戦 バーバー
 バーバー・モータースポーツ・パークで開催されたNTTインディカー・シリーズ開幕戦を佐藤琢磨は13位でフィニッシュしたが、これは大喜びするほどいい成績ではなかったと同時に、ひどく悪い結果でもなかった。もっとも、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング・チームや琢磨にはどうしようもなかった事情により戦略的な不利を被らずに済んでいれば、状況はずっといいものになっていただろう。そのいっぽうで、オープニングラップで起きた多重アクシデントを琢磨が避けられなかったら、事態はさらに悪化していたはずだ。

 新型コロナウィルス感染症の影響が尾を引いた結果、期待よりやや遅れてシーズンは開幕することになった。その初戦は、うねるようなアラバマの丘に建つロードコースが舞台。琢磨は2019年のバーバーで、自身のインディカー・シリーズ史上最高ともいえる圧勝を達成しているが、2020年は同サーキットでレースが開催されなかった。もっとも、シーズンの開幕が遅れたのは誰かの怠慢が理由ではない。「インディ500で優勝した影響でイベントなどに出演する機会が増え、とても忙しいシーズンオフを過ごしました」と琢磨。「とりわけ日本の年末年始はパンデミックの影響で非常に困難な時期だったので、休むヒマもありませんでした!」

 そんな琢磨も、開幕戦に向けた準備としてRLLRダラーラ・ホンダのコクピットに戻ってきた。「2020年とは違ってテストは禁止されなかったので、僕たちも何度か走行を実施しました。プライベートテストができたのは3回だけで、これにくわえてテキサス・モーター・スピードウェイとインディアナポリス・モーター・スピードウェイでインディカーのテストが行なわれました。ウィンター・テストはどちらかといえばいい内容のものでしたが、これもいつもと同じでそれだけで判断することはできません。ところで、僕たちはマット・グリースリーという新しいエンジニアを迎え入れました。彼はもともと、僕がイギリスF3時代に所属していたカーリンの出身。バーバーでのテストは1日だけでしたが、これは春がまだ浅い時期のことで、とても寒い状況でした。タイアがオーバーヒートすることは決してなく、空気密度が高いためにいつもよりもダウンフォースが大幅に多い状況でした。また、先ごろバーバー・モータースポーツ・パークは路面を全面的に再舗装されましたが、この影響でラップタイムは僕たちが前回訪れたときに比べて2秒ほど速くなっていました。もちろん、2019年にはエアロスクリーンがなかったので、いまのほうがマシーンはずっと重く、ダウンフォースが減ってドラッグが増えているため、マシーンだけで1秒は遅くなったといわれています。したがってコース単体で考えれば3秒速くなったと考えられるのです!」
「したがって、ご想像のとおりセットアップの方向性は大きく変わりました。2019年仕様の発展版はもはやコンペティティブではなくなっていたのです。そこでセットアップの内容を見直し、どのような形にすべきかを再検討することとなりました」

 RLLのマシーンを操る琢磨とグレアム・レイホールにとってレースウィークの滑り出しは好調とはいえず、琢磨は最初に2回行なわれたフリープラクティスをいずれも20番手で終えた。「グレアムも僕も少し苦しんでいて、20番手あたりをウロウロしていました。しかも、45分のセッションを2回走ったら、そのまま予選に挑むという忙しいスケジュールでした。時間に余裕があるとはいえません。おまけにセッション自体もとても忙しく、しっかりとした分析を行なう時間はありませんでした。したがって持ち込みのセットアップが非常に重要でしたが、残念ながら、僕たちはこの点でコンペティティブではありませんでした。バランスに関しては、手の付けようもないほどひどいというわけではなかったものの、手放しで喜べる状態でもありませんでした。それに、僕たちは純粋に遅かったともいえます」

 予選グループで10番手となった琢磨は19番グリッドからレースに挑むことになる。「自分たちの手元にあるものはすべて試し、少ないながらも進化を果たしたと考えていましたが、これは誰にとっても同じことでした。2019年は大成功を収めていたので、僕は少しフラストレーションを感じていました」

 決勝日朝のウォームアップでも状況はほとんど変わらず、No.30のマシーンは19番手タイムをマーク。ただし、マシーンが意外なほどのポテンシャルを秘めていたことを、このタイムからうかがい知るのは難しい。「1スティントを通じたパフォーマンスの安定性という面でいえば、僕たちのマシーンはもっとも優れていたと思います。それに、タップタイム自体もそれほど大きな差をつけられていたわけではありません。トップグループに差をつけられていたのはタイヤが新しいときのパフォーマンスだけでした。僕は決して過剰な自信を抱いていたわけではありませんが、パフォーマンスの安定性という面では不安はありませんでした」

 ところが、レースが始まって1分と経たないうちに、状況は大幅に好転する。ターン4でグリーンに飛び出したジョセフ・ニューガーデンがスピンしながらコース上に戻ってきたために大混乱となり、数台のマシーンがアクシデントに巻き込まれたのだ。これで琢磨は一瞬にして12番手に浮上した。「率直にいって、あれは完璧なスタートでした。グリーンフラッグが振られたタイミングと僕が加速を始めたタイミングがぴったりとあっていたため、ターン1の進入でライアン・ハンター-レイ、シモン・パジェノー、グレアム・レイホールをパスしました。ターン2とターン3でシモンは僕の直後に迫っていましたが、目の前で大きなアクシデントが起きたのは、このすぐあとのことでした。最初はなにが起きたのかよくわかりませんでしたが、僕はどのマシーンとも接触せずに済みました」

 リスタートが切られると、琢磨はエド・ジョーンズと並んでいたが、突如として琢磨は追突され、パジェノーとセバスチャン・ブールデの先行を許すこととなる。「シモンと僕はモーターホームも隣同士のご近所さんで、ピットボックスも隣接しているので、ここでもご近所さん。しかも今回はグリッドまで隣同士でした!」 そう語ると琢磨は笑った。「シモンはいつも攻めた走りをしますが、とてもクリーンなドライバーです。ジョセフのアクシデントが起きたとき、マシーンの1台がターン5に向けたブレーキング・ポイントを示す看板をなぎ倒していたので、僕たちは目印を失っていました。リスタート後にエド・ジョーンズをオーバーテイクしようとしたところ、彼がポジションを守ろうとしたために、僕たちはサイド・バイ・サイドになりました。シモンによれば、彼はブレーキングの目印がなくなったためにタイヤをロックさせ、僕に追突したそうです! この後はリズムに乗り直さないといけませんでしたが、ディフューザーの一部にクラックが入ったためにダウンフォースが減っていました。そこから徐々にシモンに追いつき、再びサイド・バイ・サイドになって、最後には抜き返しました」

 これで琢磨は11番手となったが、3ストップ作戦を遂行するために早めのピットストップを行なった。「レース前の予想では、2ストップはほぼ不可能でしたが、長い間イエローが出ていたので、これが可能になりました。ただし、僕たちはテレメトリー・システムがまるで機能しない状況に追い込まれてしまったため、2ストップに作戦を変えるのは困難でした。情報がまったく手に入らない状況で、僕がどのくらい燃料を使ったかは知る由もなかったのです。これが僕たちの足を引っ張ることとなりました。エド・ジョーンズはペースが上がらず、その後方には長い列ができていました。ただし、僕は彼よりもコンマ5秒速く走れると思われたので、アンダーカットに挑むこととし、クリーンなエアのなかで速いラップを刻みました。ところが、不運にも最初のピットストップではタイヤ交換に3、4秒ほど余計に時間がかかり、ピットアウトしたときには別の列の後方に並ぶことになってしまったのです」

 この影響で、琢磨はフィニッシュまでずっと追い上げるレースを戦う羽目になる。2回目のピットストップまでには12番手へと浮上、3回目のピットストップまでには11番手まで追い上げたが、ピット作業を終えてコースに戻ったときの実質的な順位は14番手だった。「なかなか苦しい状況でした。なにしろ、僕たちのペースは悪くなく、かなり健闘していたのですが、ポジションは14番手か16番手くらいに留まっていました。せっかく完璧なオープニングラップを決めたのに、どうしてこんなことになったのでしょうか? 2ストップ作戦を選んだドライバーが優勝するのは明らかだったかもしれません。苦しいレースでしたが、いいバトルもいくつかできました。なかでもペンスキーのドライバーであるシモンとスコット・マクラフリンとはいい戦いを演じました。このときは、スティントの中盤ではペンスキーのほうが速いけれど、後半は僕のほうが速いという状況でした」

 レースが進行していくと、このふたりとの戦いがより注目されるようになる。残り21周となったところでマクラフリンをパスした琢磨は13番手に浮上。続いてパジェノーとの戦いに臨んだ。「僕とスコットが最後のピットストップのためにピットロードに飛び込んだのはまったく同じタイミングでした。全般的なパフォーマンスでいえばブラック・タイヤのほうがいいことはわかっていましたが、このタイヤが性能を発揮するようになるまでには長い時間がかかります。しかも、僕たちは他のドライバーとは違う何かを試さなければいけなかったので、レッド・タイヤを装着したところ、これが素晴らしいパフォーマンスを生み出してくれました。スコットと僕は何周にもわたってサイド・バイ・サイドを演じました。彼はインディカー・シリーズのルーキーですが、その実力は誰しもが認めるところで、僕自身も彼とのバトルを満喫しました。彼はフェアな戦いができるドライバーです。しかも、レース翌日の朝、僕とのバトルを心底楽しんだという内容のテキスト・メッセージが僕のもとに届けられました。こういうのは嬉しいですね。それに、とてもセンスのいいやり方だと思います」

「その後はグングンとシモンに追いついて行きましたが、残念ながらレッド・タイヤのデグラデーションが急速に進行していきます。これでタイムを失ったため、今度はスコットが直後に迫ってきました。僕はどうにか彼を凌ぎきりましたが、とにかくまったく息のつけないレースでした。あれが13番手争いじゃなければ、もっとよかったんですが! メカニックたちの奮闘振りも上位フィニッシュに相応しいものでしたが、これもレースというものです。でも、少なくとも僕たちは全力を尽くしました」

 今後のスケジュールは過密気味で、次戦のセントピータースバーグは来週の開催となる。「僕たちには何ができて、今後何をすべきなのか、もう一度見直す必要があります。もっとも、準備期間が限られていたことを考えれば、マットと僕はよくやったともいえます。悪くないシーズンの始まりでした。たくさんのことが起こり、僕よりも大きな不満を抱いているドライバーもたくさんいますが、ここを出発点として僕たちは長いシーズンを戦っていくことになります」

written by Marcus Simmons
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