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Rd.4 [Sun,22 April]
Alabama

雨のち晴れ、のち雨……
 バーバー・モータースポーツ・パークで佐藤琢磨は今季ベストとなる8位入賞を果たした。これまでに開催された2018年インディカー・シリーズの戦いと同じように、今回も、もっといい成績を残してもおかしくないレースだった。いっぽうで、もっと悪い結果に終わる可能性があったのも事実である。

 美しい景色を誇るアラバマ州のロードコースで、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのペースは伸び悩んでいた。しかし、奇妙な展開となったレースは、大雨が降る日曜日のひどいコンディションで始まり、ドライに転じた月曜日に再開されたので、ある種の公平性は達成されたともいえる。そしてNo.30をつけたダラーラ・ホンダを駆る琢磨は、このレースで次第に順位を上げていったのである。

 「最終的には一定の成績を残すことができました。実は、もう少し上の順位でフィニッシュすることを期待していましたが、プラクティスと予選でのポジションを考えれば、決して悪い結果ではなかったと思います」

 サーキットにやってきたとき、チームは決して自信満々の状態ではなかった。ウィンターテストではペースの点でなにかが欠けており、1ヵ月前に行なわれたインディカーのオープンテストは天候のため予定が短縮されたからだ。「ほとんどのドライバーは1スティントも走れませんでしたし、1セットのタイヤさえ使い切っていません。ウェットコンディションで走ったことのあるドライバーはエリオ・カストロネヴェスただひとりでした。ペンスキーに残留する彼は今季一部のレースにのみ出場しますが、そのエリオだけがウェットとドライで走行できたのです。したがって、新しいエアロパッケージでウェットタイアのデータを収集したのはチーム・ペンスキーだけということになります」 その影響は、日曜日にレースが始まったとき、はっきりとした形で表れた。「僕たちも戦っていけると期待していましたが、データを解析し、状況を分析した結果、おそらく10番手前後になることが予想されました」

 金曜日にフリープラクティスが始まったとき、琢磨は最初のセッションで11番手、2回目のセッションで8番手という見事な結果を残した。しかし、エキサイティングという言葉を使うにはいささか物足りない成績でもあった。「金曜日は、まあまあ悪くない、という感じでした。ところで、今年から週末のスケジュールが一部変更になりました。ロードコースでは日曜日朝のウォームアップセッションが行なわれないことになったのです。そのかわり、2回目のフリープラクティスは時間が15分間延長されました。つまり、FP1は45分間でFP2は60分間となったのです。でも、これはあまり都合のいいスケジュールではありません。なぜなら、予選と決勝ではセッティングが大きく異なるのが一般的だからです。FP1では、通常、全般的なセットアップ作業を行ない、FP2でもその作業を続けます。そして土曜日のFP3では予選向けのセッティングを行ない、日曜日はレース用のセットアップを試します。このふたつのセットアップを1回のセッション中に行なうのは、マシーンを大幅に変更しなければいけないので時間的に困難です。しかも、FP2とFP3(ここで琢磨は11番手となった)では何度も赤旗が提示されました。おかげで、どちらのセッションでも僕はニュータイアを試せませんでした。ニュータイアを履いてコースインしようとすると、決まって赤旗が振られたのです。ただし、スプリットタイムのベストをつなぎあわせても、僕たちはせいぜいトップ10くらいで、トップ6には入っていません。決していい成績ではないので、僕は満足していませんでした」

 予選が終わると、琢磨の不満はさらに高まった。なんと予選グループ内の9番手に終わり、18番グリッドからスタートすることが決まったからだ。ちなみにチームメイトのグラハムもセグメント2進出を果たせなかった。「最初の予選グループで出走したグラハムも苦戦しましたが、僕も基本的に同じセットアップを使っているので、ちょっと心配になりました。ただし、柔らかめのレッドタイアを装着したときの感触はプラクティスのほうが良好でした。いつもどおり硬めのブラックタイアでウォームアップを行ってから、予選アタックに備えてレッドタイアに交換しましたが、そこで赤旗が提示されました。このときはピットから出ることさえできませんでした! 自分たちにできることを証明できなかったのですから、とにかく残念でした」

 そして日曜日には嵐がやってきた。信じられないことに、インディカー・シリーズでは2016年のデトロイト・ベルアイランド以来、本格的なウェットセッションやウェットレースは行なわれたことがなかった。「いい結果が得られるので、雨のなかを走るのはいつも大好きです。ただし、チェッカードフラッグが振り下ろされるまで雨が降り続けたことはこれまでありません。けれども、天気予報は昼から午後5時までの降雨確率が100%と伝えていたので、今回は本来の意味でのフルウェットレースになることが期待されました。通常、たとえウェットコンディションでも最終的には路面が乾くと予想してドライセットにウェットタイアを組み合わせて、ハンドリングはフロントウィングで微調整します。というのも、ウェットからドライに変わるコンディションを完全なウェットセットで走ると、足回りがソフトで不安定にない、まったくパフォーマンスを発揮できなくなるからです」

 「けれども、もしも100%雨だったら……。インディカー・シリーズへの参戦開始以来、初めてフルウェット・セットアップで走ることになります。この場合、非常に柔らかいサスペンション・スプリングと最大限まで増やしたダウンフォースを組み合わせ、キャンバーやトーもこれに合わせます。でも、それがどんな手応えを示すかはわかりません。なにしろ、この新しいマシーンとタイヤでウェットのコースを走ったことはなかったのです」

 ひどいコンディションのなかで切られたスタートで、18番グリッドからレースに臨んだ琢磨はターン1での接触を避けるために最後尾付近まで転落。その後、チャーリー・キンボールの事故で黄旗が提示(これは後に赤旗に切り替わる)されるときまでには12番手へと駒を進めていた。「視界は本当にひどい状態でした。前方から捉えたテレビ映像でさえ、何も見えなかったのですから、コクピットからの視界はそれより3倍くらいひどいものでした。僕たちに見えたのは、白いカーテンだけです。マシーンのリアには強力なLEDライトが装着されていますが、分厚い水煙に阻まれ、3車身か4車身分ほど離れると見えなくなりました。ストレートの途中までくると、自分がどこにいるのかわからなくなるので、左右を見て、自分がコース上に留まっていることを確認しなければいけません。ちょっと恐ろしいくらいの状況でした」

 レースが再開されると、シモン・パジェノーがピットインした影響で琢磨は11番手に浮上。さらにザック・ヴィーチ、エド・ジョーンズ、スコット・ディクソンを次々と抜いて8番手まで順位を上げたところで再び赤旗が提示される。ウィル・パワーがアクアプレーニングを起こしてバリアに接触したことを受け、この日のスケジュールを一旦休止とすることになったのだ。琢磨はここまで挽回していたのだから、この判断に失望したのは当然といえる。「このまま順位を上げていければ僕にとってはよかったけれど、安全上の理由で赤旗を提示したインディカーの判断は尊重します。コンディションはさらに悪化しており、雨のなかでマシーンは操れない状態でした。僕自身は気にしませんでしたが、危ない状況だったのは確かです。レース中、僕は富士スピードウェイで行なわれた2007年F1日本GPを思い出しました。『本当に自分は正しいことをしているんだろうか?』とレース中に疑問に思ったのは、あのときが初めてでした。聞こえるのは、18,000rpmで回るエンジンの咆吼だけ。周囲は真っ白で、なにも見えません。『そのためにお金契約金をもらっているんでしょう?』と思う人がいるかもしれませんが、自分自身、心底疑問に思ったのはあのときが初めてです。もちろん、スロットルペダルは踏み続けましたが、本当に恐いと思った瞬間でした。バーバーで赤旗が振られたときは、だから少しほっとすると同時に落胆もしました。僕には、もう少しレースができそうな気がしたからです」

 月曜日は青空と太陽がインディカーの一団を迎えた。予選でレッドタイアを使わなかった琢磨は、決勝用にまだ3セットを手元に残していた。先頭グループを走る7人のうち、3セットを残しているのは琢磨だけ。また、計算上は2ストップ作戦で3セットのレッドタイアを使い切ったほうが速い。ただし、雨が降った影響で路面がグリーンに転じているため、レッドタイアはグレイニングを起こす可能性があり、ブラックタイアのほうがスティントを通じて安定したペースで走りきれると予想された。琢磨はディクソンに抜かれて8番手に後退。ただし、間もなくヴィーチを攻略して元の順位に戻る。その後はピットストップを引き伸ばしたこともあって4番手に浮上。ここで1ストップ作戦に切り替える決断が下された。

 「レッドタイアでできるだけ長く走り続けることになりました。路面にラバーが乗ってくるレース後半のほうが、レッドタイアには有利だと考えていました。ただし、安定したタイムとドライバビリティを優先してブラックタイアをチョイスしたので、必ずしも速く走る必要はありません。とはいえ、1ストップ作戦を実現させるには、とんでもない燃費走行を強いられることになりました。このおかげで順位を落とすことになったのです」 かりにそうだとしても、イエローさえ提示されれば上位に躍進することもできたはずだ。「おそらくトップグループに入れたでしょうし、正しいポジションにいれば首位も狙えたと思います」

 レースが残り15周ほどになって琢磨が10番手につけていたとき、雨が降り始めた。ここまでペースを抑えて燃料をセーブしてきた琢磨にとって、もっとも好ましくない展開はレインタイアに交換するためのピットストップだったが、それが避けられない事態となったのだ。「スリックタイアで少しでも長く走り続けようとしましたが、ピットに戻らざるを得ない状況になりました。ポジションのことは諦めてペースを落とし、燃料をセーブしてきたのに、ピットストップしなければならなくなったのです」 たとえそうだとしても、琢磨は雨のなか、ほとんどの周回で最速ラップを記録していた。そして6位のディクソンや7位のレイホールに迫る8位で琢磨はフィニッシュしたのである。「5台か6台のマシーンを易々とパスしました。パジェノーを攻略できたことには満足しました。なにしろ、ペンスキーはウェットコンディションで週末を通していちばん速かったのですから。僕は上位陣に追いつきつつありましたが、そこで時間切れになりました。これは残念でした。もしも雨が降るなら、もっと早く降り始めて欲しかった! 悔しいレース展開でしたが、プラクティスや予選のことを考えると、チームメイトとふたり揃ってトップ10でフィニッシュできたのは悪くない成績だと思います」

 次戦に向けてチームは北に移動し、“マンス・オブ・メイ”の皮切りとなるインディアナポリスGPに挑む。その前に、琢磨は一度帰国してスポンサーへの挨拶をするとともに、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのオーバルでテストを行なう。というのも、1ヵ月前に予定されていたマニュファクチュアラー・テストが雪のために延期とされたからだ。インディGPに向けて何が必要か、琢磨はよく承知している。「僕たちのロードコース用のセットアップは、まだなにかが欠けているようなので、これを改善するために一生懸命、作業をしなければいけません。“マンス・オブ・メイ”に向けて、僕たちには勢いが必要なのです」

written by Marcus Simmons
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