RACEQUALIFYINGPRACTICE
COLUMN
COLUMN
Rd.12 [Sun,16 July]
Toronto

結果に結びつけられなかった速さ
 トロントのエキジビション・センターを中心とする市街地コースは意外なレース展開をしばしば生み出すことで知られる。思ってもみないタイミングでコーションとなり、実力あるドライバーが全体のなかほどでフィニッシュすることも少なくない。先ごろ開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの一戦でこのような不運に見舞われたのは佐藤琢磨だった。最後と、そのひとつ前にあたるコーションのためトップ6を狙えるポジションから脱落したうえに、リスタートの際にアクシデントに巻き込まれた結果、優勝してもおかしくないポテンシャルを有していながら16位に終わったのである。

 カナダとの国境を北側に越えてすぐのところにあるこの街に、琢磨とアンドレッティ・オートスポーツは大きな期待を抱いてやってきた。実際、金曜日に行われたフリープラクティスではとても好調だった。「プラクティスデイは非常に充実したものでした」と琢磨。「完璧だったとはいえませんが、いくつかの異なるセッティングを試しました。僕たちのマシーンは、市街地コースでは単に“乗りやすい”だけでなく、コンペティティブです。最良の状態でセッティングをまとめあげようとしているところでした。マシーンはスピードとバランスを兼ね備えており、とても満足していました」

 「トロントはデトロイトに続いてバンピーなコースです。それとともにやっかいなのが、ひとつのコーナーのなかでさえ路面が何度も変わることにあります。進入ではアスファルト、それがコンクリートに変わって、アスファルトに戻り、またコンクリートになるようなことがひとつのコーナーで起きるのです。したがってどんなセットアップに仕上げても、アンダーステアやオーバーステアになることは避けられません。各コーナーでコンクリート・パッチが現れる前にコーナーへのアプローチを定めておかないと、それに乗り上げてまったくコントロールできなくなってしまうのです」

 金曜日に実施された2回のプラクティスを、琢磨は10番手と8番手で終え、土曜日の午前中に行われたプラクティスでも再び8番手となった。「続いて予選を迎えることになりますが、僕たちのペースはとても強力でした。あとはニュータイアを履くだけでよかったので、トップ争いを演じる自信がありました」

 最初の予選グループで琢磨は3番手となり、易々と第2セグメントに進出したが、ここでは意外にも10番手に終わり、ファイアストン・ファスト6への出場権を手に入れられないまま5列目からスタートすることが決まる。「最初のセグメントは狙い通りにいきました。Q2でも1回目の走行を終えたときは5番手で、最終セグメントに進むには十分なポジションでした。ところが、セッション中に赤旗が提示されたため、2回目の走行は誰もが1ラップしか走れないことになります。しかし、ここで僕はトラフィックに引っかかって十分にウォームアップできず、タイアの温度を適正なレベルまで引き上げられませんでした。僕がタイムを更新できなかったいっぽうで、ほかのドライバーはより速いタイムを刻んでいたので、とても残念でした」

 レース用のセットアップが施されたマシーンで日曜日のウォームアップに挑んだ琢磨は7番手のタイムをマーク。「予選と決勝の間に行う通常のセッティング変更を上回る量の作業をこの日は行いました。エンジニアのギャレット・マザーシードは素晴らしいセッティングにまとめ上げてくれました。僕がいちばん速かったわけではありませんが、なかにはセッション中にプッシュ・トゥ・パスを使ったドライバーもいましたし、僕はレッド・タイアも使わなかったので、純粋なペースではトップ3に入れたはずです。これはとても満足できる状況で、さらに嬉しいことに、僕が得意とするウェットレースになるかもしれないとの予報もありました。結局、雨は降りませんでしたが……」

 レースがスタートすると、琢磨は直ちにマックス・チルトンをパスして9番手に浮上。続いてターン1でチームメイトのアレクサンダー・ロッシを攻略し、8番手へと駒を進めた。しかし、バックストレートでは行く手を遮られる形となり、ロッシに抜き返されてしまう。これとときを同じくしてスコット・ディクソンとウィル・パワーが接触し、琢磨は7番手となった。「スタートはかなりよかったですよ。ターン1に3ワイド、4ワイドとなって進入するのはとてもエキサイティングでした。バックストレートでは前の数台よりも僕のクルマのほうが速かったのですが、どこにも行くことができず、ややリスキーだったのでスロットルを戻すことになります。その後、僕の目の前で混乱が起こり、破片が飛び散ってきました。その後のターン5ではアレックスを抜き返せそうでしたが、何台も折り重なるように進入していったので、様子を見ることにします。内側の縁石に乗り上げてペナルティを受ける恐れがあったので、ここでもスロットルを緩めて周囲のドライバーに対して優位に立たないよう気をつけました」

 ほとんどのマシーンはデグラデーションが大きなレッド・タイアを履いていた。彼らとは対照的にスペンサー・ピゴットは硬めのブラック・タイアを装着。リスタート後は次第に順位を上げていた。琢磨はロッシに続く7番手につけており、アンドレッティのふたりはペースが上がらないジェイムズ・ヒンチクリフを追い抜くのに手こずっていた。「最初はすごくタイアがグリップしていましたが、その後、急激にパフォーマンスは低下していきました。アレックスはありとあらゆる場所でヒンチクリフを抜こうとしましたが、結果的には追い越せないままピットストップ・ウィンドウを迎えることとなります」

 その直前、琢磨はターン3でロッシを捉えそうになるが、これが思いどおりにいかなかったうえに、反対にピゴットに抜かれてしまう。これと間髪を入れずにロッシがピットイン。1周後にはヒンチクリフもこれに続いた。

 「ここでペースを上げてふたりを攻略するつもりでしたが、実際にはものすごく運の悪いタイミングでイエローが提示されたため、この作戦は失敗に終わります。いっぽう、ピゴットのペースはブラック・タイアがベストな選択であることを示していました。僕には新品のブラック・タイアが2セットありましたが、その後がっかりするような出来事が立て続けに起きたのです」

 琢磨を含むほとんどのドライバーはコーション中にピットストップを行い、隊列の後方に整列。その後、リスタートが切られた3は素晴らしいオーバーテイク・ポイントです。ストレートを180mph(約288km/h)で走ってきた後で60mph(約96km/h)まで減速。もしも右コーナーのターン3にサイド・バイ・サイドで進入できれば、ターン4は左コーナーなので、有利なラインを手に入れることができます。また、事前のドライバーズ・ブリーフィングでレースディレクターのブライアン・バーンハートは『お互いをリスペクトしてスペースを残しておくように。特にターン4は注意深く、そして思慮深くレースを戦って欲しい』と語りました」

 「スペンサーとは完全に横並びになったわけではありません。たぶん半車身くらいが重なった格好ですが、勢いは僕のほうがありました。彼がミラーを見たことはわかっていたので、僕の存在にも気づいていたはずです。だから僕はサイド・バイ・サイドに持ち込んだのですが、そのとき彼はドアを閉じました。僕はサンドイッチになってマシーンの左側がウォールに接触。右のフロントタイアがパンクするとともに、このタイアのトレッドが剥離してフロントウィングのエンドプレートがダメージを受けました。彼が無理矢理近づいてきたことはとても残念でしたし、無用なことだったと思います」

 アンドレッティのメカニックたちが素早く作業を行ったおかげで、琢磨はレースリーダーであるジョセフ・ニューガーデンの直前でコースに復帰、リードラップに留まることができた。ここから琢磨は懸命にプッシュして後方のレースリーダーを引き離し始めた。琢磨はイエローが提示されて、上位に返り咲くチャンスを待ち望んだが、それは叶わなかった。「リーダーがすぐ真後ろに迫っていたので、ブルーフラッグが提示されましたが、そこで僕はスピードを見せつけました。次のピットストップまでに、それまで2秒だったリードを7秒まで広げました。30周にわたって、予選のように走り続けたのです。これで、僕たちがどれだけコンペティティブだったかがわかってもらえると思います。レースペースに関していえば、僕はコース上で最速のドライバーのひとりでした。ここまでの展開には満足していて、もう1度イエローが出るか雨が降ることを期待していました」

 最初のブラック・タイアはピゴットとのクラッシュで台無しになっていたため、次のピットストップでは再びレッド・タイアを装着することになる。コノー・デイリーに追い付いて攻略した琢磨は16番手に浮上。ところがここでタイアのライフが終わってデイリーへの防戦に追われることになる。そして再びレースリーダーが後ろに迫ってきて、琢磨との差を徐々に詰めていった。「少なくとも強力なパフォーマンスを示せたと思いますが、最後の5ラップはデグラデーションに苦しみ、ポジションを守るだけで精一杯でした。とても残念でしたが、チームメイトのアレックスが好戦略と力強い走りで2位に入ったのはとてもよかったですね」

 翌週は珍しいことにオフで、続く週末には緑豊かなミドオハイオでレースが行われる。しかし、琢磨たちに休暇をとる余裕はない。「エンジニアリングに関する作業をずっと行うことになります」 琢磨は依然としてタイトル争いの7番手に留まっている。「チャンピオンシップのことを考えるとできるだけ大量ポイントが欲しいし、ミドオハイオでは速さを手に入れたいと思います。昨年は終盤に追突さえされなければ表彰台に登れていたはずなので、ミドオハイオに戻るのが楽しみです。ミドオハイオではいつもレースをエンジョイできたので、できれば力強く戦いたいですね」

written by Marcus Simmons
▲TOPへ

TOPページへ戻る
takumasato.com
(C)T.S.Enterprise Japan LTD.
All rights reserved.


Powered by:
Evolable Asia Corp.