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Rd.5 [Sun,25 May]
Indianapolis 500 Mile

レースを台無しにしたカーボンパーツ
 2014年インディ500が残り32ラップとなったターン4でスコット・ディクソンがウォールに接触したとき、このレースが残念な結果に終わったドライバーはディクソンひとりだけでは済まなかった。

 クラッシュしたマシーンの破片が、その数台後方を走行していた佐藤琢磨が駆る#14 AJフォイト・レーシング・ダラーラに突き刺さってしまう。さらにアクシデントが発生して残り21周で再スタートが切られたとき、琢磨は5番手につけており、フィニッシュまで力強くレースを戦うことが期待されていた。ところが、マシーンに突き刺さった破片がブレーキのような役割を果たしたことでライバルたちに抜かれ、きわめて残念な19位でレースを終えることになったのだ。

 もっとも、19位という順位は、琢磨がもともとスタートしたポジションとそう変わらない。予選でスピードが伸び悩んだ琢磨は、33台が3列に並んでスタートを切るインディ500の伝統的なスターティンググリッドにおいて、8列目中央のグリッドに並んでいたのである。

 「昨年のレースで到達した位置から継続する形で今年のテストプログラムを始めることになりました」 インディアナポリスでのプラクティスが始まった当初、琢磨はそう語っていた。「そして開発する必要のある領域について取り組みました。プラクティスは7日間、クォリファイは2日間ありましたが、そのうちの数日は雨が降ったので、自分たちが思ったとおりの距離を走れたわけではありません」

 予選が行われる週末を迎えると、ポールポジション獲得を賭けて9台だけが出走できる“シュートアウト”に琢磨が進出するのは困難に思われてきた。「クルマは徐々によくなっていきましたが、それでも予選に向けて十分なスピードが手に入ったとは思えませんでした。ファスト・フライデイ”では、スピードの伸びがいまひとつで、バランスにも満足できませんでした。しかし全体のレベルは高く、230mphを越えるドライバーが多くいたことを驚異的に思いました。」

 ホンダ勢で予選最高位に入ったのはジェイムズ・ヒンチクリフで、実際、彼は230.839mph(約369km/h)をマークしていた。いっぽう、琢磨のベストは229.201(約367km/h)で、ほんのわずかな差しかなかったことになるが、これこそ、今年のインディ500の予選がいかに熾烈な争いだったかを示しているといえる。「ホンダとHPDはツインターボ・エンジンの開発を見事にやり遂げたと思います。だから、自分もこのレベルで戦えなかったことはとても残念です。土曜日は気温も低くコンディションが良かったので、もう1度アタックすることを希望していましたが、セッションは雨のため1時間半にわたって中断されました。この結果、僕たちは記録を更新することができませんでした」

 「日曜日も難しい状況で、アタックは1度しかできません。この日はずっと温かくなりましたが、思うようにスピードを乗せることができませんでした。僕にとってのファステストラップでは、ターン3でウォールぎりぎりのところを走りました。1インチ(約2.54cm)もなかったくらいです! それでも僕はスロットルを緩めませんでした。僕たちのマシーンはスタビリティが不足していたので、ラインはどうしてもアウト側にふくらんでしまいます。結果は23位。自分たちの期待とは違っていましたが、決勝に向けては、この結果自体は構いませんでした」

 「月曜日はフルタンクでのテストを行いました。予選後のプラクティスは今年はじめて行われた試みで、レース時の走行をシミュレーションするつもりでした。そこでトラフィックのなかを走ろうとしましたが、あわせてマシーンのバランス取りもしていました。このときも思うような結果が得られなかったうえ、小さなトラブルで走行時間が失われてしまいました」

 「金曜日に行われたカーブデイでは1時間走行できましたが、引き続きバランスに関しては満足できませんでした。トラフィック内でのスタビリティが低いうえにアンダーステアも解消できていませんでした。このアンダーステアの問題を解決しようとすると、今度はスロットルを踏んだときにリアが不安定になってしまうのです」

 けれども、フォイト・チームの奮闘の成果もあり、“本番”である第98回インディ500までにマシーンの状態は大幅に改善されることとなった。「チームは素晴らしい仕事をしてくれました。ついにトラフィックのなかでもマシーンがいい感触を示すようになったのです。ここまで立て直してくれたことを、とても心強く思いました」

 「レースデイのコンディションは完璧でした。真っ青な空に覆われ、ファンの皆さんは興奮していて、去年より混んでいるように思われました。そしてパレードラップを走っているときは最高の気分を味わいました!」

 マシーンの状態が改善されていたうえ、レース距離の最初の3/4では一度もイエローが提示されないという異例の展開となった。

 「スタートはまずまず上手くいきました。スムーズなスタートで、素早くリズムに乗ることができました。僕のまわりにいたドライバーは、マシーンのバランスがあまりよくなく、アンダーステアに苦しんでいるように見えました。でも、僕にとっての最初のスティントは好調で、コース上でたくさんのマシーンをオーバーテイクしながら23番手から12番手までポジションを上げることができました」

 「第2スティントと第3スティントに向けては、トラフィック内のフィーリングを改善するため、ピットストップの際、フロントのグリップを高める方向でフロントウィングやタイアの空気圧を調整しました。ところが、プラクティスで十分なデータを集められていなかったため、期待したほど正確な調整を行うことができませんでした。この影響で第2スティントと第3スティントでは激しいバランスシフトが起こり、ひどいオーバーステアとなってしまいました。そこで僕はウェイトジャッカーやアンチロールバーを最大限活用してニュートラルステアに近づけようとしましたが、マシンをコントロールするのは至難の業でした」

 「とはいえ、いちばん大切なことはリードラップに留まることです。けれども、イエローがずっと出なかったため、一歩間違えるとあっという間にラップダウンにされる可能性がありました。インディ500で130周もイエローが出ないとは思ってもみませんでした! ただし、第4スティント以降はバランス改善の為の調整を進めスピードを取り戻すことに成功します」

 チャーリー・キンボールがクラッシュして最初のイエローが提示されたとき、琢磨は14番手につけていた。さらに、ディクソンがクラッシュするまでに、琢磨はジャスティン・ウィルソンやファン-パブロ・モントーヤを追い抜いて10番手まで浮上していた。そして全員がピットストップを行ったこのとき、琢磨はセバスチャン・ブールデを攻略して9番手へとポジションを上げる。

 このとき、琢磨のマシーンには“歓迎されない”破片が突き刺さっていたが、それでもリスタートではカルロス・ムニョスやクルト・ブッシュをターン1のアウト側から仕留め、ジェイムズ・ヒンチクリフとエド・カーペンターが接触してウォールに流されて行く左側をすり抜けていった。つまり、これで琢磨は5番手へと浮上したのだ!

 「とっても面白かったし、ここで勝負に出なくてはならないことはわかっていました。最後のピットストップを終え、ニュータイアを履いて燃料もたっぷり積んでいる。ちょうど2012年のときのようでした。とてもエキサイティングで、あのときと同じくらいいいレースになることを期待していましたが、改めてリスタートが切られるとクルマの調子がおかしいことにすぐ気づきました。ディクソンのマシーンの破片がアンダーボディにダメージを与えていたのです。ただし、フロントウィングは大丈夫そうに見えたので、そのまま走り続けましたが、エアフローの乱れからダウンフォースが減っていて、リスタート後は1ラップごとに1台か2台のマシーンに抜かれるようになりました。このときは、とても悲しい気分になりました」

 残り10周でタウンゼンド・ベルがクラッシュすると、イエローのままインディ500を終わらせるのではなく、観客を喜ばせるために赤旗を提示してレースを一時中断とし、フィニッシュまで残り6周のスプリントレースを行うことをオフィシャルは決めた。この場合、レースの中断中もマシーンへの作業を行うことは許されないので、チームは、競技が再開される直前のイエロー中に琢磨をピットに呼び戻すことを決めた。「サイドポンツーンの下にカーボンの大きなパーツが張り付いているのを見つけました。そのときは何の作業もできませんでしたが、イエローが出ているときにこれを取り除き、テープを貼り付けました。残念ながら集団に追いつくほどの時間はなく、リスタートが切られたとき、僕はちょうどターン3に進入しようとしているところでした」

 フレッシュタイアを履く琢磨はリードラップを走る最後のドライバーで、ポジションは20番手だった。最終ラップ、琢磨は数台のスリップストリームに入ると、同じくリードラップを走行していたジャック・ホークワースを仕留め、19位でチェッカードフラッグを受けた。

 「チームは素晴らしい働きをしてくれました。モントーヤとも最高のバトルができましたし、ピットストップ作業にも文句のつけどころがありませんでした。期待したような結果が残せなかったことは残念で仕方ありません。でも、とてもエキサイティングでいいレースだったと思います。優勝できるスピードはありませんでしたが、もっといい順位ではフィニッシュできたことでしょう」

written by Marcus Simmon
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