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「本当に痛ましい出来事でした」 ラスヴェガス・モーター・スピードウェイで開催されたIZODインディカー・シリーズ最終戦でダン・ウェルドンの死亡事故が起きたことについて、佐藤琢磨はそう心中を打ち明けた。「ダンの奥さん、ふたりのお子さん、ご両親、そして家族の方々に心からお悔やみを申し上げます」
「重大な事故であることはわかっていましたし、ダンがマシーンから運び出されたことも知っていましたが、どれくらい深刻な状況かはわかりませんでした。15台が関係する、本当にものすごい事故でした。あたり一面にパーツが散らばり、マシーンは炎に包まれていました。とてもひどい状況で、激しいショックを受けました」 この週末、KVレーシング・テクノロジー-ロータスは好調で、琢磨はポイント争いで13番手となれそうな気配を漂わせていた。なにしろ、琢磨自身は34台中16番グリッドを得ていたものの、チームメイトのトニー・カナーンはポールポジションを勝ち取っていたのだ。 「トニーは最初のプラクティスからずっと調子がよさそうでした」と琢磨。「彼と同じ方向でクルマを仕上げようと思いましたが、満足なスピードを引き出すことはできませんでした。僕たちはクルマを完全にリビルトしていました。前戦のケンタッキーが終わってから、いったんマシーンをバラバラに分解したのです。何が原因だったかを調べるためでしたが、それほどシンプルな問題ではないことがわかりました。そこでチームはフリクションに関係するパーツをすべて組み直し、インディ500並みの大作業を行なうことにしたのです」 「ラスヴェガスはとても速いコースです。バンク角はテキサスより浅めだけれどかなり深く、コーナーの曲率はシカゴ並みに大きいため、クルマのセットアップは比較的容易で、グリップを引き出す必要はあまりありません。クルマの考え方は他のサーキットとだいぶ違って、空力パーツはレギュレーションで認められている範囲内ですべて取り外していきます。しかも、ドラッグを減らせるのであれば、メカニカルグリップを落とすことさえ厭いません」 1.5マイル・レースで200ラップを戦うフォーマットにかすかな不安を覚えながらも、レースで好成績を収めることを琢磨は期待していた。「ツーワイドやスリーワイドがかなりの距離で見られるだろうということがわかっていました。とてもエキサイティングです。でも、それと同時にものすごい集中力とライバルに対する信頼関係も求められることになります」 「僕たちのクルマはトラフィックのなかでは良好なハンドリングだったので、グリッドポジションのことはあまり気になりませんでした。なぜなら、レースではみんなが巨大な集団となって走ることがわかっていたからです」 「問題は、最終戦で少しでもいい成績を残したいと誰もが意気込んでいたことにあります。集団となって走るためにトップチームのアドバンテージは相対的に小さくなり、小さなチームが好成績を収めるための条件が揃っています。このため、どのドライバーもいつも以上に接近し、アグレッシブな走りを見せていました」 「ラスヴェガスのコース自体に問題はありません。問題は、そこをどう走るかという点にありました。この点を心にとどめ、お互いにスペースをしっかりとることが大切だったのです。ここのところ、僕たちはエキサイティングなレースを実現できていたので、ドライバーたちはさらにアグレッシブになり、必要以上に接近して走るようになっていました」 アクシデントは、トップ10を追っていた琢磨の直後で発生した。「本当に恐ろしい光景で、心が痛みました。その後、僕たちは“レースをすべきかどうか”について判断を求められました。そこで状況をすべて見渡し、追悼パレードを行なうことにしました。赤旗のままレースが終わることを望むドライバーはいませんでした。そこでインディ500のグリッドのようにスリーワイドで隊列を組み、ダンを追悼するとともにファンの思いに応えることにしたのです」 こうして、琢磨にとっても波瀾万丈だったシーズンは幕を閉じた。この春、彼の母国は大規模な自然災害に襲われて大きな被害を受けたのに続き、琢磨の父は病魔に倒れ、そして今回の事故が起きた。しかし、悲しみのまっただなかにありながら、琢磨はアイオワとエドモントンでポールポジションを獲得し、この2レースに加えてサンパウロとニューハンプシャーで首位を走行した。2年目のインディカー・シーズンは、琢磨にとって大成功のうちに終わったといえるだろう。 「ダンのアクシデントについては言葉もありませんでした。僕はただ彼の家族のことを考えていました。ダンは偉大なレーシングドライバーであると同時に本物のジェントルマンでした。モータースポーツ界の人々は、彼を失って悲しみにくれることでしょう」 インディカーはダンの功績を称え、追悼のウェブサイト?? www.danwheldonmemorial.com ??を立ち上げた。 「このこととは別に、僕はスポンサーの方々、熱心に応援してくださったファンのみなさん、そしてKVレーシング・テクノロジー-ロータス・チームに心からお礼を申し上げたいと思います。今季は本当にいろいろなことがありましたが、レースではエキサイティングなシーンがたくさんあり、素晴らしいポテンシャルを示すことができました」 今後、琢磨は家族のもとに戻り、来季に向けた準備を進めることになる。「これからは来年の方針を固めていくことになります。ファンのみなさんには、発表できる状況になったらすぐにお知らせします!」 「それとともに、日本に帰ってWith you Japanの仕事にも取り組むことになります。3月に始まったこのプログラムは、津波の被害を受けた子供たちの支援を行っています。僕たちが行なっている活動については、いつものように www.WithYouJapan.org や www.facebook.com/WithYouJapanCharity でチェックできます。この1年間、僕たちのチャリティ活動にご支援いただいた皆さんに心からお礼を申し上げます」 written by Marcus Simons |