COLUMN |
NTTインディカー・シリーズの1戦が開催されたセントルイスのゲートウェイ・オーバルコースで佐藤琢磨が6位でフィニッシュしたと聞けば、またもや彼が力強いリザルトを手に入れたと思われることだろう。しかし、本来であればもっといい成績を残せたはずだった。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのNo.30をつけたダラーラ・ホンダは、予定していた燃料が入らないというトラブルに見舞われたため、このコースでかつて優勝したこともある琢磨は理想の成績を収めることができなかったのだ。それでも、今回の結果により、琢磨はポイントテーブルのトップ10圏内に返り咲くことができた。
今回、インディカー関連のイベントはすべて1日に集約されただけでなく、ストックカーレースのNASCARとも同じ1日を分け合うことになった。この種の“ダブル・イベント”は以前にも開催されているが、インディカーのスケジュールがここまで短縮されたのは初めてで、プラクティスを1回行なうとすぐに予選に入り、投光照明のもとで決勝レースが行われた。 「まったく、呆れるくらい短いスケジュールでした」と琢磨。「夜間、走行するには、日中とは大きく異なるバランスが必要となります。通常は、プラクティスがあって、予選があって、それから夜間に最後のプラクティスが行なわれ、これがチームにとっては重要なウォームアップとなっていました。それでも車高を1mm変えるくらい、コンディションは大きく異なっているのです。セントルイスで最後にナイトレースが行なわれたのは2019年のことですが、もちろん、このときはまだエアロスクリーンはありませんでした」 「プラクティスは、あまり順調とはいえませんでした。去年は絶好調で、ダブルヘッダーの第1レースではもう少しで勝てそうだったほか、第2レースはポールポジションからスタートしました。自分たちのバランスはとても優れていると自信を抱いていましたが、今年のトラックコンディションは昨年ほどよくありません。このコースが再舗装されたのは2017年のことですが、その後は徐々にコースが遅くなっていくのが自然な変化です。おかげで最高の感触は得られませんでした。走行時間が極めて短いため、十分なスピードを手に入れられなかったのです」 プラクティスを13番手で終えた琢磨は、予選で17位となったものの、アレックス・パロウにペナルティが科せられたため、決勝レースには16番グリッドから臨むことになった。「このコースに限っていえば、速く走るには絶対の自信が必要です。かつてオーバルコースといえば、たとえばテキサスのようにフラットアウトで走行できましたが、このコースではコーナーへの進入でブレーキングが必要ですし、ターン3とターン4でもスロットルを戻さなければいけません。つまり、200mph(約320km/h)でヘアピンコーナーを曲がっているようなものです! これはとてもチャレンジングなことで、もしも自信がなければ、まともには戦えません」 「予選後にパルクフェルメが始まると、それ以降はマシーンに触れることができなくなります。したがって、予選のセットアップでは多くの妥協を強いられます。車高は低すぎて、あちこちでボトミングする状態です。おかげで『リアがスライドしたらカウンターステアでとめる』をひたすら繰り返すようなドライビングとなりました。かなり大変でしたよ。ただし、僕はプラクティスでの速さがなかったので、予選で究極的な速さを追求することはできませんでした。そこでレースセットアップに集中することとしたのです」 レース序盤で波乱が起きたため、本格的な競技が始まるまでには少し時間を要した。琢磨はスタートでロメイン・グロージャンの前に出たが、このときはまだスタート・フィニッシュ・ラインを越えていなかったと判定されてしまう。続いて前方でアクシデントがあり、続いてスコット・マクラフリンをパスした結果、琢磨は12番手となったが、ほどなく最初のイエローが提示される。このコーション中に、インディカー・シリーズは琢磨に対し、グロージャンの後方に移動するよう指示を下す。ところがリスタートで琢磨はグロージャンを再び仕留めると、接触事故でマシーンにダメージを負ったサイモン・パジェノーを攻略し、13番手に浮上。直後に、パジェノーのマシーンから破片が飛び散ったため、またもやイエローが提示されることとなった。 この次のリスタートで琢磨はライナス・ヴィーケイの先行を許し、オープニングスティントの大半を14番手で周回することとなる。「あちこちでイエローが提示される荒れたスタートとなりました。スコット・マクラフリンとのバトルは楽しかったです。ターン1の終わりからターン2にかけて、スリップストリームをうまく使って彼のインサイドに飛び込みましたが、スコットはいつも極めてフェアなドライバーです。いっぽうでジャンプスタートと見なされたのは残念でした。ロメインがスピードを緩めたので、グリーンフラッグが振られる前に彼を追い抜く格好になりましたが、これで元のポジションに戻るペナルティを受けました。でも、それは構いません。もう一度、正々堂々と彼と戦い、ロメインだけでなくほかのドライバーもオーバーテイクしました。けれども、その後もイエロー、コーションが連続しました。とても荒れた夜になりそうな気配が漂っていました」 ほどなくコノー・ダリーのアクシデントでイエローが提示されると、ほとんどのドライバーはピットストップを行なった。ここで琢磨は14番手のままコースに復帰。グリーンフラッグが振られたところでマクラフリンを抜き返すと、続いてジャック・ハーヴェイを攻略する。この直後にパロウ、ヴィーキー、スコット・ディクソンが絡むアクシデントが発生。これでイエローが出ると、琢磨は8番手となっていた。しかも、幸運にもNo.30は無傷なままである。「いたるところでバトルが行なわれていました。スコットは、すんでのところで避けました! 彼と接触しなくて済んだのは本当にラッキーでした。僕は左に進路を変えましたが、それ以上、インサイドに向かうのは不可能で、かすかに彼のマシーンと接触し、フロントウィングのエンドプレートが彼のタイヤに触れたような気がしました。幸いにも僕のマシーンにダメージはなく、ポジションを上げることができました」 この時点でさえ、チームの戦略のおかげで琢磨はとてもいいポジションにつけていた。「去年よりも周回数が60ラップ多いので、4ストップが基本になると思われましたが、イエローがとても多かったので3ストップを前提に周回することにしました。これに必要な燃費走行も問題なくできそうで、ペースも良好でした」 事実、リスタートが切られると、琢磨はライアン・ハンター-レイをパスして7番手となり、次のストップまでこのポジションで走り続けた。そしてこの戦略がアンダーカットを可能にし、琢磨は5番手に浮上。第3スティントに入って間もなく、今度はアレクサンダー・ロッシをオーバーテイクして4番手となった。ほどなくコルトン・ハータがメカニカルトラブルに見舞われると、琢磨は3回目のピットストップを前にして3番手まで駒を進めることとなる。「僕たちはできる限り燃料をセーブしていましたが、それととも速いペースでも周回できました。この頃は、本当にレースが楽しく思えました。通常、ホンダ・エンジンの強みは燃費のよさにあるとされていますが、僕たちはほかのドライバーよりも早くピットストップを行なったうえで、その後の戦略について考えました。どのピットサイクルでも、僕たちは本来より1周か2周早くピットストップしました。このためとても長い最終スティントになると予想されましたが、もしも計算どおりであれば、最後まで走りきれるはずでした」 ほかのドライバーが3回目のピットストップを行なっているころ、琢磨は2番手を走行しており、その前を走っているのはセバスチャン・ブールデただひとりだった。しかも、ブールデはあと1回、ピットストップを行なわなければならない。「ブールデは通常のシーケンスから外れた戦略だったので、実質的にレースをリードしていたのは僕でした。そして、またイエローになりました」 これはロッシのクラッシュによるもの。そしてこのとき、琢磨のマシーンにはピットストップ中に十分な燃料が入っていなかったことが明らかになる。そこでイエローコーション中に琢磨は隊列を離れてピットに向かい、残る57周を走るのに必要な燃料を給油したのである。このため、グリーンフラッグが振り下ろされたとき、琢磨は6番手まで後退。そしてリスタートでは激しいファイトを繰り広げた末にブールデが先行し、彼に続くポジションで琢磨はフィニッシュしたのである。 「燃料が足りないと聞かされたときには『ウソだろ!?』と思いました。これで優勝をフイにしました。僕はブールデと同じタイミングでピットインし、6番手まで順位を落としたのです。これはとても残念でした。もしもトラブルがなければ、最後まで走りきれると確信していたからです。彼は自分のポジションを守りきりましたが、なにも間違ったことはしていません。僕たちはハードなバトルを楽しみました。あれが5番手争いではなく、優勝争いだったらよかったのですが! 僕たちには優勝を狙えるスピードがありました(実際、ロッシのアクシデント直前に琢磨がマークしたファステストラップは、ほかのどのドライバーよりもコンマ2秒は速かった)ので、勝てなかったことはめちゃくちゃ悔しかったです。メカニックたちはピットストップで素晴らしい働きをしてくれ、僕はたくさんのドライバーをオーバーテイクしました。それまで喜びで湧いていたピットは、トラブルが起きたことにひどく腹を立てていました」 この後は、短いインターバルを挟んで西海岸での3連戦が始まる。最初はオレゴン州のポートランド・ロードコース、続いてカリフォルニア州のロードコースであるラグナセカを訪れ、最後はロングビーチの市街地コースでシーズンを締め括る。「いずれも楽しいコースで、このうちふたつのコースにはいい思い出があります(琢磨はポートランドとロングビーチで優勝経験がある)。きっとエキサイティングな3週間になるでしょう!」 written by Marcus Simmons |