COLUMN |
日曜日の夜、アクシデントが多発したIZODインディカー・シリーズ第3戦で好成績を収められるはずであっただろうにと、少なくない数のドライバーが嘆き悲しみながらロングビーチを後にしたはずだった。そして残念ながら、佐藤琢磨もそうしたドライバーのひとりだった。
残り18周となったとき、このレースのウィナーとなるマイク・コンウェイとバトルをしていたところ、琢磨はグレアム・レイホールに追突され、タイアがパンクしてピットイン。その後、レースに復帰したものの、4周遅れの21位でフィニッシュしたのであった。「今日はマイクを抑えきれるとは思いませんでした」と琢磨。「トップグループにチャレンジできるほどのスピードを、僕たちはまだ手に入れてなかったからです。でも、トップ6であれば、僕らにも可能性はあったと思います」 上位進出の夢はかき消されてしまったが、それにしても、2010年のロングビーチに比べると、KVレーシング・テクノロジー-ロータス・チームの実力が大きく進歩したことは間違いなかった。「去年はとにかくスピードが不足していて、しかもレースでは何も起きませんでしたから……」と 琢磨。「早く忘れたくなる週末でした」 「昨年の問題点は解決できたはずだったので、今年は期待を胸にロングビーチにやってきました。プラクティスは、完璧とはいえないまでも悪くなく、1台1台のマシーンからベストのパフォーマンスを引き出すように努力していました。チームとして一致協力して3台の作業に取り組んでいたのです。この週末はチームとしての強み、そして僕たちの問題との向き合い方が威力を発揮したと思います。ラップタイムを見ただけではわからないかもしれませんが、僕たちは着実に進歩していきました」 「マシーンは挙動が予測しにくい仕上がりで、好ましいバランスに持っていくのはとても困難でした。ロングビーチのコースはバンプ、路面の傾き、そして縁石が多く、これがマシーンを不安定にさせます。それでも、セッションを追うごとに状況は良くなっていき、予選直前にはバランスにもまずまず満足できるようになったので、いい成績が得られるだろうと期待していました」 しかし、彼らが走らせるダラーラ・ホンダは、予選でスピードが伸び悩んでしまう。琢磨は、予選の第1セグメントを通過するのに必要なトップ6に入るのは至難の技だろうと感じつつも、まずは8列目を手に入れるのに充分と思われるタイムをマーク。そこから、さらにタイムを詰めるためにもう1度アタックすることにした。 「インディカー・シリーズは恐ろしいほどコンペティティブで毎回接戦が繰り広げられており、コンマ1秒違っただけで大きく順位が変動することもあります。今年のロングビーチはソフトなレッドタイアが新しいタイプに切り替わり、僕のマシーンはそれによってバランスがシフトしてしまう点が問題になりました。予選では1セグメントあたり1セットのタイアしか使えませんが、次のセグメントに進出するには、あとコンマ3秒ほどタイムを切り詰めなければいけませんでした。僕の掴んだ手応えからいえば、それは非常に難しいタスクのように思われましたが、やってみないことにはわかりません。イチかバチかの気持ちで臨みましたが、ブレーキングでリアタイアをロックさせてしまい、1コーナーをクリアすることはできませんでした」 その後、琢磨には厳しいルールが適用され、11列目の22番グリッドへの降格が決まる。「僕のアクシデントによりイエロー・フラッグが出て、それ自体は問題にならなかったのですが、チェッカードフラッグが提示された直後にフルコーション扱いとなり、僕のファステストラップとその次に速いラップは記録から抹消されてしまったのです。フルコーションを出した場合はこのペナルティが適用されますが、ローカルイエローの場合は本来ペナルティはありません。チームはこの判定に抗告しましたが、受け入れてもらえませんでした」 この結果、琢磨はレース序盤、ロングビーチではお馴染みのひどい渋滞に巻き込まれることとなる。「レッドタイアがレースで好パフォーマンスを示すことは分かっていたので、今回はブラックタイアでスタートを切ることにしました。この作戦はうまくいき、僕は燃料とタイアをセーブしながら走行を続けました」 琢磨と同じカーリン・モータースポーツからイギリスF3に参戦していたチャーリー・キンボール(このときレッドタイアを履いていた)に抜かれ、一時は23番手に順位を落としたが、燃費を稼ぎながら走った琢磨は、前を走るドライバーより最初のピットストップを数周ほど引き延ばすことに成功して16番手まで浮上。レース中盤には何台かを抜き去り、最後のピットストップを終えたときには11番手まで駒を進めていた。しかも、10番手を走るジャスティン・ウィルソンがスピンしてこの日最後のフルコーションとなり、これで琢磨は10番手まで順位を上げることとなった。 「このレース展開にはとても満足していました」と琢磨。「チームはピットストップで素晴らしい働き振りを示してくれました。僕はマイク・コンウェイの前を走っていて、リスタートの後には僕の前方でウィル・パワーとエリオ・カストロネヴェスが絡むアクシデントが発生しました。これで僕は6位か7位です。しかも、燃料は最後まで走れる量をしっかりと積んでいて、レッドタイアのライフもまだ充分残っていたので、これから先のチャレンジが待ち遠しくて仕方ないと思っていました」 「ところが僕がマイク・コンウェイとサイド・バイ・サイドになりながらターン6に入っていったところ、後ろを走っていたグレアム・レイホールが僕に追突しました。これでタイアがパンクし、僕のレースは万事休すとなったのです。とても残念でした」 次戦に向け、琢磨とインディカー・チームはブラジルを目指して南下する。5月1日にサンパウロの市街地コースでレースが開催されるからだ。「みんなひどくがっかりしましたが、レースの内容についてはとてもポジティブに捉えていて、今後はスピードを向上させるためにさらにハードに働かなければいけないと考えています。僕たちは大切なことを学び、自分たちに必要なことを深く理解するなかで、セットアップはどんどん磨かれていっています。きっとブラジルでも前進できるでしょうし、力強いレースができるよう頑張るつもりです」 written by Marcus Simon |