COLUMN |
全長2マイル(約3.2km)のスーパースピードウェイ、フォンタナで開催された500マイル(約800km)レースで佐藤琢磨は6位に入り、好調さを保ったまま2014年ベライゾン・インディカー・シリーズを締め括った。
「どうやら悪い流れを断ち切れたようです!」 何度も不運に見舞われながら、シーズン終盤に向けて徐々に調子を上げてきた琢磨は、高らかにそう宣言した。 今シーズンが残り5レースとなったとき、困難な戦いを強いられてきた琢磨はポイントテーブルの21番手となっていた。 ところがトロントで5位、ソノマで4位、そしてロサンゼルス近郊のフォンタナ(ここではポイントが倍増された)で6位に入った結果、最終的な成績をシリーズ18位まで伸ばすことができた。 ちなみに、最後の5戦で獲得したポイントの合計で比較すると、No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを駆った琢磨は146点で、244点のスコット・ディクソン、204点のトニー・カナーン、チャンピオンのウィル・パワー、そして169点のファン-パブロ・モントーヤに続く5番手の成績だったことがわかる。 フォンタナのレースウィークは実質的に水曜日のオープンテストで幕を開けた。 「午後のプラクティスにくわえ、夕方から夜にかけても走行セッションが設けられました」と琢磨。「予選は午後2時の開始、そして決勝はナイトレースなので、これですべてのコンディションを理解することができました。 特に日が沈むと気温が急激に下がるので、とても助かりました」 「昨年のフォンタナではマシーンの仕上がりがあまりよくなかったため、今年はセットアップの方針を大幅に見直しました。 さらに、今シーズンはオーバルレースが少なかったので、毎戦なにかを学び取り、セットアップを進化させるように努力しました」 「金曜日のフリープラクティスでは、これまでいいと考えられていたものをすべて組み合わせてからテストメニューを始めました。 ただし、結果は予想外のもので、別の解決策を見つけ出さなければならなくなりました。 特にコーナーでのスタビリティが思わしくありませんでした。 フォンタナの路面はバンピーで、車線と車線の間にあるつなぎ目も大きな問題となります。 なにしろ、ニュータイアを履いていない限り、車線をまたいで走ることができないほどなのです」 予選は順調で、琢磨はここで4位に入り、3列となって整列するスターティンググリッドでは2列目のイン側に並ぶこととなった。 「マシーンの仕上がりについてはまだ確認できていない部分が残っていましたが、すべてうまくいくことを期待していました。 ただし、たとえニュータイアを履いていてもグリップは高くありません。 なにしろ気温は華氏90度(約32℃)、路面温度は華氏120度(約49℃)を越えるほどだったのです。 しかも、フォンタナでよく見られる砂漠からの風が吹き荒れていました」 「コースはいちばん低いイン側がもっとも距離も短いので、そこを走ることも考えられますが、バンプがあるうえに、コーナリングスピードを考えるとバンク角が不十分なため、それはできません。 反対に上側にいけば路面はスムーズですが、さすがにいちばん上の車線は走行距離が長くなりすぎます。 僕は、ターン1とターン2では高めのレーン3を走り、ターン3とターン4ではいちばん下のレーン1を走ることにしました。 アタックの2周目ではタイア・デグラデーションのためにマシーンがやや不安定になり、少しスロットルを戻さなければいけなくなりました。 それでも、僕はとてもハッピーでした。 すべてをまとめあげたチームは素晴らしい仕事をしてくれたと思います」 予選後の夜遅い時間帯にはもう1度プラクティスが行われたが、ここで琢磨はミハイル・アレシンが派手にクラッシュした影響を受けることとなる。 「僕はすごく近くにいたので、マシーンの破片がまるで雨のように降ってきました。 その一部はコース上に散らばり、別の一部は僕を飛び越えていきましたが、細かな破片によりウィングやフロアなどがダメージを受けてしまったので、交換しなければなりませんでした。 このコースでは、本当に些細なことがマシーンのバランスに大きな影響を与えることになります。 なにしろ、フロントウィングは0.1度単位で調整するほどなのです。 そこで僕のエンジニアは、500マイルの長丁場であることを考慮し、ややコンサバティブなセットアップでスタートすることを決めました」 琢磨は最初のスティントで8番手に後退。 その後、残り75周のときにライアン・ハンター-レイがスピンしてこのレース唯一のイエローが提示されるまで、琢磨は10番手前後のポジションで周回を重ねていった。 「これはオーバルではよくあるシナリオですが、タイア・デグラデーションが大きいとき、スティントを長めにするのはあまり得策ではありません。 多くのチームは、燃料を使い果たすよりだいぶ前にピットストップを行っていました。 ところが、僕たちはピットサイクルのいちばん最後で給油を行うことが何度かあり、そのため何度も順位を落としてしまいました。ニュータイアでは215mph(約344km/h)で走れるのに、タイアのパフォーマンスが落ち始めると平均速度は210mph(約336km/h)か、ひどいと206mph(約330km/h)まで落ちました」 「まるで、目標とする給油の戦略を達成するために、僕たちはどんどん順位を落としているような状況でした。 しかし、スティントを短くすることでハイペースを維持したグループは、もしイエローが出なかった場合、燃料を極端にセーブするかピットストップを余計に行わなければならなくなり、順位を大きく落とすことにつながります」 けれども、ハンター-レイのアクシデントでイエローが提示されたことで、フィールドはリセットされ、スティントを伸ばしていた僕らの戦略がピタリとハマってトップリザルトを得る夢は打ち砕かれてしまう。 誰もがピットストップをした結果、リスタートのとき琢磨は8番手。 その後、琢磨は11番手に後退し、さらに追い上げて7番手となったが、最後のピットストップ・サイクルで8番手へとポジションを落としてしまう。 しかし、エリオ・カストロネヴェスにペナルティが科せられて7番手となった琢磨は、残り19周でパワーを追い越して6位となり、その後はジェイムズ・ヒンチクリフを追走しながらチェッカードフラッグを受けた。 「リードラップに留まることがとにかく大切なので、僕たちはこれを目標に走り続けました。 何人かの速いドライバーたちはイエローが出たタイミングによってラップダウンとなっていたのです。 僕のコース上のポジションはあまりいいものではなく、失った順位を抜き返さなければいけませんでした。 さらには、ラップダウンになっている速いドライバーとバトルをすることもありました。 僕たちは最後のピットストップを予定よりもやや早めに行い、ヒンチクリフを追いかけていきました。 あとレースが2、3周あったら、面白いことになっていたでしょう。 タフで長いレースでしたが、ピットでは一度もミスがありませんでした。 メカニックたちは素晴らしい働きをしたと思います」 「4番グリッドからスタートして6位でフィニッシュしたことには少々不満も残りますが、それでも僕たちは力強い走りをして、いい成績を残すことができました。 また、シーズン序盤の苦しい戦いのなかから僕たちは見事に立ち直り、終盤戦ではチャンピオンシップのランキングを引き上げることができました。 これも素晴らしいことだったと思います」 多忙を極めたインディカー・シリーズはこれで幕を閉じたが、来季に向けた準備など、琢磨は忙しいオフシーズンを迎えようとしている。 「本当に過密なスケジュールだったので、しばらく落ち着いた毎日を過ごし、気分転換を図りたいですね。 この秋も日本ではたくさんのイベントが予定されていますし、来年に向けた準備もしなければいけません」 「今シーズンはポールポジションを2回獲得し、いくつかのレースでトップを走り、表彰台や優勝を賭けたバトルに何度も挑みました。 けれども、そのたびに困難に直面したり、不運に見舞われました。 僕たちの本当のパフォーマンスは結果には表れていませんが、僕たちはたくさんのことを学び、そしてかなりの前進を果たすことができました。 チーム全員の健闘を称えたいと思います!」 written by Marcus Simons |