RACEQUALIFYINGPRACTICE
COLUMN
COLUMN
Rd.19 [Sat,19 October]
Auto Club Speedway

変わらなかった“流れ”
 全長2マイルのフォンタナ・スピードウェイで開催された2013年IZODインディカー・シリーズの最終戦でも、佐藤琢磨の運気は変わらなかった。なにしろ、レースの折り返し地点を過ぎたあたりで、琢磨はマシーンを惰性で走らせてピットに戻り、そのままリタイアに追い込まれたのだから……。

 250周/500マイルで競われるレースの144周目、コース上のゴミやマシーンの破片を拾った影響で琢磨のマシーンはオーバーヒートを起こし、エンジンが不調に陥って戦線離脱を余儀なくされた。この結果、No.14のフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは17位とされ、チャンピオン争いの最終結果でも同じように17位となった。

 事前にフォンタナでのテストを行なっていたこともあり、西海岸に向かう琢磨とフォイト・レーシングの志気は高かった。「フォンタナで行なわれたテストに1日参加し、ここでコンペティティブなパッケージであることが確認できたので、僕たちには少し自信がありました」と琢磨。「タイアのスペックは去年とは違っていました。また、テストでは様々なアイテムを試しました。クルマのバランスはよく、いい状態でしたが、本番はナイトレースなのにテストはすべて日中に行ないました」

 ところが、金曜日にコースを走り始めたとき、マシーンの感触は思わしくなかった。「90分間のプラクティスで、路面がグリーンの間はいいフィーリングだったのですが、タイアの摩耗が進むにつれてスタビリティが低下していきました。なんとかこれに対処しようとしましたが満足のいく結果は得られず、プラクティスが終わるころにはとてもナーバスな挙動を示すようになりました」

 「ダウンフォースの制限が掛けられたインディカーでフォンタナを走ると、ターン1とターン2ではとてもトリッキーな動きを見せることがよくあります。コース幅が広くバンク角も深いので、いろいろなラインでコーナーに進入することができるのですが、各レーンを仕切るつなぎ目がとてもスリッパリーだったりします。しかも、各レーンのバンクが少しずつ違っているので、これをまたいで走ろうとするととてもナーバスな動きをします。いっぽうのターン3とターン4は、多少バンプがありますがそれほどバンク角の変化がアグレッシブなものではないので、こちらはレーンをまたぐことがよくあります」

 「ここでセッティングを変更したところ、リアのスタビリティが失われてしまい、ターン3でスナップ・オーバーに見舞われました。おかげで僕はいきおいよくウォールに接触。ひどい週末のスタートとなってしまいました」

 これで予選には出走できなくなったが、驚くべきことに、金曜日の走行を締め括る夜のプラクティスまでにマシーンの修復は完了したのである。「衝撃はとても大きかったけれど、幸いにもダメージはあまり大きくありませんでした。バックアップカーに乗り換える必要もありませんでした。修復の必要があったのはリアエンドと車体の左半分で、メカニックたちはマシーンを修復するのに素晴らしい働きをしてくれました。ただし、予選はその2時間後だったので、残念ながら間に合いませんでした」

 「それでも、夕方のセッションを走れたのは素晴らしいことでした。そうでなければ、いきなり夜の決勝を迎えることになったはずです。僕は20番手に留まりましたが、それでもいくつかのアイテムを試し、自信を取り戻すことができました。ただし、大きなトラフィックのなかでハンドリングを確認することはできませんでした。マシーンは、とりあえず自分が望むようなスタイルでドライブできるようになっていましたが、それでもタイアが摩耗するとオーバーステア傾向を示していました」

 これで琢磨は最後尾25番グリッドからのスタートとなったが、レースは序盤から順位を上げていく期待のもてる展開となった。そして最初のピットストップが行なわれる頃には19番手まで浮上していたのである。「今回は500マイルの長いレースなので、徐々に順位を上げていけばいいと考えていました。マシーンのフィーリングはまずまず良好でした。路面は非常に滑りやすい状態でしたが、 スタート直後は他のマシーンが密集して走行していたので、上手く勢いにのせて順位を上げるチャンスに恵まれました」

 「タイアの性能低下が始まったとき、去年と同じように順位を上げられることを期待していましたが、今回はプラクティスのときのようにスタビリティが低下していきました。状況は少しずつ難しくなっていったので、早くフレッシュタイアに履き替えたいと思っていました」

 コース上に多くの破片などが散らばっていたため、1回目のピットストップでは琢磨だけでなく多くのドライバーがタイムをロスした。「ラジエターのエアインレットからゴミを掻き出す必要がありました。また、チームはオイルと冷却水の温度が上昇していることを心配していました。ラリー・フォイトがコース上の破片を拾っていることに気づいたので、メカニックたちがそれを取り出そうとしました」

 「昨年は、ターン3につながるバックストレッチの220mph(約350km/h)でアプローチする部分に大きなバンプがあり、これに乗り上げると4輪が宙に浮いてホイールスピンを起こし、エンジンのリミッターが作動してしまうほどでした! このため今年はバックストレッチ全体の路面を削りましたが、その破片というかホコリがコース上に残ったままでした。カリフォルニアの砂漠では雨がほとんど降らないので、ずっと洗い流されなかったのです。それでホコリが何度もコース上に現れ、リスタートのときにはまるでサンドブラストをかけているかのようにホコリが舞い上がりました!」

 「コースの清掃係は繰り返しホコリを払おうとしましたが、たくさんのドライバーがこの問題に悩まされたほか、このホコリのせいで捨てバイザーもあっという間に台無しになってしまいました」

 ピットストップが長引いたせいで琢磨は周回遅れとなったが、最初にコーションラップとなったところでリードラップに復帰。この段階で周回数はまだ170周も残っていた。「長い夜に向けて、僕は再スタートを切ることができました。この頃になると、マシーンのフィーリングは段々よくなってきました。路面は引き続きとても滑りやすい状態でしたが、ラバーがだんだんのってきたほか、日が沈んで気温が下がり始めたため、僕たちには好ましい状況となり、いくつか順位を取り戻すこともできました」

 実際、琢磨はオリオール・セルヴィアとジェイムズ・ジェイクスをオーバーテイクして18番手に浮上。さらに次のコーションラップでは16番手へと駒を進めた。続いてグレアム・レイホールとジャスティン・ウィルソンをパスして14番手と挽回。その直後にウィルソンを巻き込む大規模な多重事故が発生したため、コース上は長い時間、イエローが提示されたままとなった。

 「アクシデントの残骸は凄まじい量でした。ジャスティンのことがとても心配で、1日も早い回復を祈っています。事故のあともドライバーがコクピットに閉じ込められたままになっているのを見るのは辛いものです」

 チームは琢磨を2回ピットに呼び寄せ、燃料がちゃんと入っているかどうか、そしてフレッシュタイアがパンクしていないかどうかなどを念入りにチェックした。これはまだレース半ばのことで、この後の展開はまったく予想できない状況だったが、残念なことに、それから20周ほどを走ったところで琢磨はリタイアを喫することになる。

 「水温がどんどん上がり続けたのでエンジンがオーバーヒートしてしまい、パワーが低下しました。残念でしたが、今回は本当にサバイバルレースとなりました。完走したのはたったの8台です。こんなことは、CART時代のミシガン500マイル以来、なかったそうです」

 最終戦を終えた琢磨は日本に戻り、鈴鹿と富士でスーパーフォーミュラ・シリーズのレースに臨むことになるが、これを別にすれば、今後は2014年のインディカー・シリーズをどう戦っていくかが主なテーマとなる。「いいこともそうではないこともたくさんあった2013年は、本当に驚くようなシーズンでした。でも、僕たちは初優勝を達成しただけでなくポールポジションも勝ち取り、そのほかのレースでも高いポテンシャルを発揮できたので、とてもエキサイティングなシーズンでした。引き続きこの勢いを保っていきたいと思います」

 「今シーズンもたくさんのことを学びました。まずはABCサプライ・AJフォイト・レーシングのスタッフに心から『ありがとう!』といいたいですね」

written by Marcus Simmons
▲TOPへ

TOPページへ戻る
takumasato.com
(C)T.S.Enterprise Japan LTD.
All rights reserved.


Powered by:
Evolable Asia Corp.