RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.5 [Sat,01 May]
Kansas Speedway

初のオーバルレースで大奮闘!
 佐藤琢磨にとって初のオーバルレースは多くのスリルを生み出し、トップ6でフィニッシュできる可能性を示唆したが、カンザス・スピードウェイのレースが残り14周となったところで、琢磨は日本人ドライバーの武藤英紀と接触し、残念な結末を迎えることとなった。

 ここに至るまで、琢磨と、ロータスがサポートするKVレーシング・テクノロジーのダラーラ・ホンダはコンスタントにポジションを上げ、元F1ドライバーである琢磨にオーバルの経験がなかったことがまるで信じられないほど、インディカー・シリーズのトップドライバーたちとバトルを繰り広げては抜き去っていったのである。

 全長1.5マイル(約2.4km)で、“トライ・オーバル(おむすび形)”のカンザス・スピードウェイでは平均速度が210mph(約336km/h)を上回る。文字どおり、琢磨にとっては未知の世界である。当初の予定では前戦ロングビーチが終わった翌週に、琢磨を含むインディカー・シリーズ・ルーキーを対象とするルーキー・テストが行なわれるはずだったが、これは悪天候のためキャンセルされてしまう。

 テストはレースウィークの水曜日に延期され、その結果に琢磨は強い手応えを感じることになる。「オーバルのテストは今回が初めてでした。100ラップ以上を走行しましたが、オーバルでインディカーがどのように動き、どうセットアップすればいいかを学ぶうえで貴重な経験となりました。単独走行はとても順調で、多くのことを理解するのに役立ちました」

 金曜日にも天候を理由とするスケジュールの見直しが行なわれたが、ようやく実施された全車が参加してのプラクティスで、またもや琢磨は新たな経験をすることになる。「他のマシーンと一緒にオーバルを走ることは、単独走行とはまったく別の経験でした。集団で走るとものすごいタービュランスが発生して簡単にグリップを失ってしまうので、マシーンに確実にエアフローを導いてダウンフォースを手に入れるには、いつもと異なるラインを走行する必要がありました。これは素晴らしい経験で、レースの前に是非とも知っておかなければならないことでした」

 オーバルで迎えた初めての予選だったにも関わらず、琢磨は4周連続の走行で13番手につけるという素晴らしい働き振りを示した。しかも、上位2名のドライバーにペナルティが下され、琢磨は11番グリッドからスタートすることが決まる。琢磨のチームメイトは、いずれもインディカー・シリーズを1シーズン以上戦った経験の持ち主だが、にもかかわらず、琢磨はKVチームとして最上位の予選結果を得たのである。「予選でのパフォーマンスにはとても満足しています」と琢磨。
「プラクティスでは決勝用のセッティングに専念していたので、初めて試した予選用トリムがいいパフォーマンスを発揮してくれたことは本当に嬉しかったですね」

 そして迎えたレースのスタート。オーバル・レーシングのニューカマーにありがちなことだが、慎重な構えで臨んだ琢磨は集団のなかでポジションを落としてしまう。「少しでも勢いを失うと大きく順位を落としてしまうんです! でも、その後はポジションも落ち着き、周回を重ねていくなかでたくさんバトルができました」

 実際、最初のピットストップが始まる頃には、琢磨はトップ10に肉薄していた。また、この日、最初のフルコーションとなったとき、琢磨がリードラップを走行していたことも重要なことだった。ここで琢磨は重大な局面を迎える。ダン・ウェルドンとミルカ・ダノに挟まれる形でピットレーンからコースに向かっていく際、ヴェネズエラ人ドライバーと接触。この結果、琢磨は念のため、もう一度ピットストップを行なうこととなったのだ。「ダンがピット作業を終えて近づいてきたうえに、既にサイド・バイ・サイドだったミルカがどんどん近づいてきたので、僕はサンドイッチ状態になって行き場を失ってしまいました。このとき僕たちは接触しましたが、おかげでもう一度ピットストップを行なわなければならなくなり、つまりは順位を落とすことになったので、非常に残念なできごとでした」

 けれども、ここから琢磨は戦闘を再開。インディカー・シリーズのビッグネームたちにレースを挑み、そしてオーバーテイクをし、ついにはエリオ・カストロネヴェスとサイド・バイ・サイドとなってトップ6圏内に進出したのである。「僕はひとつひとつ順位を上げていきました。サイド・バイ・サイドのレース、それに腕利きのドライバーとバトルするのは文句なしにエキサイティングでした。レース全周と言っても過言でない、100%そのすべてが純粋なレーシングだったのです。サイド・バイ・サイドのまま3周連続で戦っても勝負がつかないときは、一度後ろに下がってから再び戦いを挑む。これは本当にエキサイティングなレースです」

 無線を通じて前後の状況をドライバーに伝える“スポッター”役を務めてくれたのは、ロジャー安川だった。琢磨がイギリスF3選手権でタイトルを勝ち取ったとき、ロジャーもイギリスでレースを戦っており、その後はレギュラードライバーとしてインディカー・シリーズに参戦した経験を有している。「僕たちはぴったり息があっていたし、ロジャーはインディカーの経験が豊富なので、彼と組むことができて本当によかったと思います」

 残念ながら、この日最後と思われたフルコーションが終わり、グリーンフラッグが提示されたところで、琢磨のレースは幕を閉じることになる。「大きな集団が僕の目の前を走っていました。武藤選手と僕はピットストップを終えた直後で、5番手と6番手につけていました。リスタートのとき、僕は武藤選手とサイド・バイ・サイドとなります。僕の目には、彼が次第にアウト側に寄っていき、ふたり揃って行き場を失ってしまったように映りました。けれども、この後になって、僕たちがラップ遅れのシモーナ・デ・シルヴェストロを追い越そうとしたとき、シモーナが不用意にラインをアウト側に変えたことがわかりました。アウト側に僕がいることは武藤選手もわかっていましたが、シモーナを避ける為に進路を変更する他に打つ手はありませんでした。他にどうしようもなかったのです。とても不運なことでした」

 今後、琢磨はケンタッキー・スピードウェイで数日間のテストをこなしてから日本に飛び、もてぎのレースに向けたプロモーション活動を行なう。その後は“ビッグレース”の準備に取り組む。次のレースは、あのインディ500なのだ。「これから1年でいちばん忙しい月を迎えます。けれども、今回は多くのことを経験でき、オーバル・レーシングについての理解が深まりました。インディのコースはカンザスとは大きく異なっているでしょうが、今週末のいい流れを保って、新しいチャレンジに臨むことを心から楽しみにしています」

written by Marcus Simmons
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