RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.15 [Sat,15 September]
Auto Club Speedway

もうひとつの500マイル・レース
 カリフォルニア州フォンタナのオート・クラブ・スピードウェイで開催された2012年IZODインディカー・シリーズの最終戦は、スリリングでドラマチックな展開となったが、その500マイル・レースの大半を通じてトップ5を走り続けた佐藤琢磨には大きな注目が集まった。

 No.15をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダを駆る琢磨は都合3回トップに浮上し、最後のリスタートではライアン・ハンター-レイと激しい4番手争いを演じた。残念ながら、ファイナルラップにあたる250周目のターン1で琢磨はウォールに接触、結果は7位となった。そのいっぽうで、琢磨が競り合ったハンター-レイはシリーズチャンピオンに輝いたのである。

 結果は残念なものだったが、インディ500のときと同じように、琢磨はスーパースピードウェイで繰り広げられる500マイル・レースで抜群の戦闘力を示した。「僕たちは1ヵ月前にここでテストを行ないました。けれども、そのとき参加したのはたった3台だったのでコースはグリーンなままで、理想的なコンディションとはいえませんでした。また、走行したのは日中のとても暑い時間帯でした。結果的に非常に重要なデータを収集し、このユニークなコースにあわせた基本セットアップを学ぶことができましたが、僕たちは、1日のなかのごく一部の時間帯しか走ったことがなかったのです」

 「これとは別に、レースイベントの2日前にもテストが行なわれました。このときは20台が走行しましたが、僕たちは参加していませんた。このテストではナイト・セッションも行なわれたので、実際の決勝レースで経験することになる夜間の走行も確認できたことになります。日中は華氏100度(約38℃)にもなりますが、砂漠なので日が沈むとぐっと冷え込むのです」

 「結果的に、このテストに参加しなかったことがディスアドバンテージになりました。プラクティスでは何度もイエローになり、あまり走行できなかったのでフラストレーションが募りました。テストを終えた段階で、試したいことはまだたくさん残っていたのですが、そのうちのごく一部しか実際にはできませんでした」

 オーバルレースの特性、レース距離の長さ、そしてエンジン交換に伴う10グリッド・ダウンのペナルティが科せられることなどを考慮に入れれば、琢磨にとって今回の予選があまり意味のないものであることは明らか。しかし、それでも琢磨は16番手とまずまずの成績を残す。なお、今回は10グリッド・ダウンのペナルティが多くのドライバーに科せられたため、最終的に琢磨は21番グリッドからスタートすることになった。

 「予選結果については、あまり喜ぶべきじゃないと考えていました」と琢磨。「でも、このコースで僕たちが記録したスピードとしては、予選アタックのときが過去最速でした。走るたびに状況はよくなっていたのです。自分たちが正しい方向に進んでいると確認できるのは素晴らしいことです」

 そして45分間のプラクティス・セッションが始まった。「このセッションではマシーンのバランスに納得がいきませんでしたが、そのおかげで、決勝に向けてどの方向に進むべきかがわかりました。レースまでに僕たちはセッティングを大幅に変更しました。そのうちのいくつかは、まだテストしたことがないもので効果は確認していませんでしたが、これで上手くいくとの自信は持っていました」

 レースが始まり、30周目を迎える頃になると、琢磨は21番手からトップ10圏内にジャンプアップし、チャンピオン争いを演じるハンター-レイやウィル・パワーを後方に置き去りにしていた。最初のピットストップが始まった段階では8位だったが、このとき、琢磨はピットストップを引き延ばしていた関係で一時的にトップに浮上する。いわば、燃費の点でも琢磨が優位に立っていた証拠である。やがてパワーがクラッシュすると全車が再びピットに飛び込んだが、これ以降、琢磨はトップ5圏内を走り続けることになる。

 「スタートは悪くありませんでした。周囲の状況を確認しながら、慎重に走り始めました」と琢磨。「いったんレースが落ち着くと、マシーンの感触がいいことを確認できたので、少しずつポジションを上げていきました。マシーンの調子は上々でした。他のドライバーたちは、1セットのタイアで5ラップか10ラップ走ると苦しむようになっていました。レギュレーションによってダウンフォースはとても小さい状態に制限されていたので、急激なタイア・デグラレーションが起きていたのです。いっぽう、僕たちのマシーンに一発の速さはありませんでしたが、ペースはとても安定していました。それに、前のクルマを追い抜くために様々なラインで、どのように走れば良いのかなどを見つけながらレースを進める必要がありましたが、それにもうまく対応できていました。ただし、だからといって安心するわけにはいきませんでした。なぜなら、日が沈んだ後はコースコンディションが大きく変化すると予想されていたからです」

 レースの途中では、トニー・カナーン、エリオ・カストロネヴェス、アレックス・タグリアーニ、そして今回優勝したエド・カーペンターらと激しい鍔迫り合いを演じた。そして残り22周の段階ではタグリアーニを仕留め、再びトップに浮上する。その後、琢磨はカーペンターに攻略されたものの、ほどなくタグリアーニがトラブルに見舞われたため、このレースの最後から2番目となるフルコーションとなった。

 「まるで、インディ500をもう1度戦っているような気分でした。変化するコンディションにマシーンをアジャストしながら、僕はスピードを上げていきました。当初はダウンフォースの少ないことを心配していましたが、幸いにも、オート・クラブ・スピードウェイはいくつもの走行レーンを選ぶことができたので、高いスピードを保つことができました」

 「コースの上側のレーンを走行すれば高い速度は保てますが、長い距離を走ることになるので、結果的に下側のラインを走るのとラップタイムは変わらないことになります。日が沈んでからはサイド・バイ・サイドで走れるとともに、違ったラインを選べるようになりました。気温が高いときはグリップも限られていますが、日が沈むとペースは上がり、サイド・バイ・サイドのレースもできるようになったので、とてもエキサイティングでした」

 「けれども、レース終盤に向けて、僕たちのスピードは徐々に鈍っていきました。コンディションの向上に伴ってアクセルの全開率が大きくなってくると、フレッシュ・タイアを履くライバルたちのスピードはぐんと上がりました。この時点では、もはや自分が優勝できるとは思っていませんでしたが、タイアのデグラレーションが進むと、ライバルたちのスピードが下がり始めるいっぽうで、僕は安定したペースで走り続けることができました。ピットストップではちょっとした問題があり、ピットインするたびに順位を落としていましたが、最後の2回のリスタートではドライブトレインにも軽いトラブルを抱えるようになりました。ボルチモアのときとよく似た症状だったので『なんてことだ! もう2度と起きて欲しくなかったのに……』と、思わず呟いてしまいました」

 たしかに、タグリアーニのドラマが起きて以降、琢磨のリスタートには勢いがなくなっていた。一度はダリオ・フランキッティにあっさり抜かれ、もう1度はハンター-レイの先行を許したので、カナーンのクラッシュにより赤旗が提示されたとき、琢磨は4番手となっていた。フィニッシュまでは、たった6周を残すのみである。

 琢磨とハンター-レイのふたりはリスタートでスコット・ディクソンに抜かれ、4番手争いを演じることになった。しかし、ファイナルラップでNo.15のマシーンはウォールと接触。幸いにも、最後までリードラップを走行していたのは6台だけだったので、琢磨は7位とされた。

 これらのフルコーションがなく、そしてリスタートでスピードが鈍るトラブルさえ起きなければ、琢磨はカーペンターに続く2位でフィニッシュしたとしてもおかしくなかった。「僕はガナッシの前を走っていて、エドとともに順位を上げたり下げたりしていた。タグリアーニをオーバーテイクしてトップに立ったときは、『よし、このポジションを守りきろう』と考えていました」

 「ファイナルラップでは、ライアンとサイド・バイ・サイドになってターン1を目指しました。彼が第4レーンから第3レーンに移ってきたので、僕も第3レーンから第2レーンに移ろうとしましたが、突然、コントロールを失ってしまいました。レーンからレーンに移るときは、そのつなぎ目で急激にグリップ・レベルが落ちることがあるので、細心の注意を払わなければいけなかったのです」

 「まるでジェットコースターのようなシーズンでしたが、結果的に自分たちの目指す最終目標には辿り着けませんでした。けれども、素晴らしいシーズンだったことは間違いありません。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのインディカー復帰に際し、ドライバーに選んでもらえたことはとても光栄なことですし、チームは最高の仕事をしてくれました。僕たちは、ひとつの新しいチームとしてたくさんのことを経験するとともにたくさんのことを学び、抜群のポテンシャルとパフォーマンスを発揮しました。ポディアム・フィニッシュも達成できたのですからね!」

 「みんな来年の仕事をもう始めているので、チームが大きく前進することは間違いなく、もしも2台体制にできればこんなにいいことはありません。冬の間に素晴らしい準備ができることを楽しみにしています」

 しかし、琢磨が休暇に入るのは、まだ先のことである。この週末は日本に帰り、菅生で開催されるフォーミュラ・ニッポンのレースに参戦するからだ。琢磨はまだサーキットを見たこともないのに、ここでデビュー戦を迎えるのである!

 「火曜日に日本に着いて、金曜日の朝までにはサーキットに入る予定です」と琢磨。「そしてクルマに乗り込むことになりますが、フォーミュラ・ニッポンにはドライ・コンディションでたった30分しか走ったことがありません。そんな状態で、とてつもなくコンペティティブなシリーズに出場するのです!」

 琢磨が乗るのは、チーム無限が用意したスイフト・ホンダのマシーンである。「菅生は、昨年被災した仙台のすぐ近くにあります。今回、ホンダはたくさんのチャリティ・イベントを準備していて、エンジョイ・ホンダも開催されるし、僕もWith you Japanのキャンペーンを行ないます。このイベントには、被災地からたくさんの子供たちを招待しているほか、ファンの方々もたくさん応援に来てくれると思います。きっと難しいレースになるでしょうが、週末がやってくるのを僕は心待ちにしています!」

written by Marcus Simmon
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