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フラストレーション。久しぶりにアメリカン・オープンホイールレースが戻ってきたデトロイトのベルアイルにおいて、IZODインディカー・シリーズに参戦する26名のドライバーのうち、25名がこの言葉の意味を噛みしめたはずだが、とりわけ佐藤琢磨はその思いが強かったことだろう。
1週間前のインディ500で素晴らしい走りを披露した琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングにとっては、本当に苦しい週末となった。けれども、デトロイトのプラクティスで困難に見舞われながらも、琢磨は予選を12位で通過し、レース中盤になると彼のダラーラ・ホンダは力強い戦い振りを披露するようになっていた。もっとも、それはレース戦略が効を奏したからだが……。 ところが、その後、琢磨のマシーンは悪名高き縁石に乗り上げ、バリアに向かって放り投げられてしまった。このとき、一旦落ち着いていたレースは、その直後にコースの一部が破損したために赤旗中断とされる。まったくもってフラストレーションの溜まる展開だ。「困難で、厳しい週末でした」 琢磨はそう振り返った。 2008年以降、ベルアイルではレースが開催されなかったので、琢磨にとっては今回が初の参戦となったが、イベントの開幕直後に天候が崩れたため、セッティングなどを行う時間はさらに短くなってしまった。とはいえ、琢磨は最初のフリープラクティスでトップタイムをたたき出し、卓越したコントロール能力を披露したのである。 「雨のなかでドライビングするのはまったく問題ありませんが、今回はこれが状況をより困難なものにしました」と琢磨。「あまり多くのことを学べないのは間違いありませんし、マシーンをセットアップする時間も短くなってしまいます。実質的には、2回目のセッションがこの週末の始まりだったといえるでしょう」 「コースはとてもバンピーで、アスファルトがコンクリートに変わったり、またコンクリートがアスファルトに変わったりを何度も繰り返していました。コンクリートはとんでもなく滑りやすかったのですが、ウェットではかなり楽しめましたよ! ただし、とてもチャレンジングなコースで、ドライのセッションでは本当に苦労しました。マシーンのバランスは決してよくありませんでした。セッティングをしていくのは、思った以上に困難な作業でした」 「マシーンは何かが少し足りないだけのようにも思えましたが、このサーキットでは自信を持ってアタックすることがとても重要になります。なにしろ、そこら中でマシーンはバンプに乗り上げているのですから。僕たちは全力でマシーンの改良に取り組み、3回目のセッションまでに状況はかなり改善されました。とはいえ、いくつかの点では大きく進歩したものの、まだまだやるべきことはたくさん残されていました」 琢磨は予選でグループ6番手となり、トップ12だけが挑むセッション2への進出を果たした。ここでは最下位に終わったものの、グレアム・レイホールにペナルティが科せられたため、琢磨は11番手に繰り上げとなった。「予選に向けてマシーンを変更しなければいけませんでしたが、これがこの週末、オルタネートタイア(レッドタイア)で走る最初の機会となったことに助けられました。第2セグメントに進出できたのは今季初のことで、僕はできることすべてをやりましたが、12番手以上のタイムは記録できませんでした」 レースが始まると琢磨は順位を上げて9番手となり、4番手のEJ.ヴィソが先頭を務める長い列に加わった。誰にとってもまったく手詰まりの状況だったが、21ラップ目に琢磨はライアン・ブリスコーのインに飛び込み、これを攻略するという素晴らしい活躍を示す。そこで琢磨はピットロードに進入し、ヴィソが巻き起こしていた渋滞を一気に飛び越えようと試みた。 「このコースでオーバーテイクするのは至難の業です。僕たちは、レース戦略が上手くいくかどうか、様子を見ることにしました。スタートは超接近戦で緊張感溢れるものでした。僕は周囲を囲まれてどこにも抜け出すことができず、中位グループに留まっていましたが、ターン2で目の前が開けたので順位を上げることに成功しました」 「ライアンをオーバーテイクしたところで、僕たちはタイアを交換し、前がつかえていない状態でどのくらいペースが上げられるのか、試してみることにしました」 ピットストップがひととおり終わったとき、琢磨は“ヴィソの渋滞”を乗り越えて7番手に浮上していたので、この戦略は上手くいったといえるだろう。ただし、集団の後方からのジャンプアップを狙い、琢磨よりも早くピットストップしていたトニー・カナーン、マルコ・アンドレッティ、アレックス・タグリアーニらには先行されてしまう。もっとも、硬めのプライムタイアでスタートした琢磨は、フィニッシュまでこのままソフトなオルタネートタイアで走り続ける予定だった。 「ピットから出てくると、すぐにタグリアーニにパスされました。なにしろ、すでにペースを上げていたタグリアーニに対して、僕のタイアはまだ冷え切った状態でしたから。これがきっかけとなり、僕は数秒を失いました。戦略面でいえば、僕たちは素晴らしい状況にありました。というのも、オルタネートのレッドタイアを装着して先頭集団を追撃できる立場にいたからです。ところが、マシーンのバランスは期待外れなものでした。確かに順位は上げられましたが、ペース的にはそれほど速くなっていませんでした」 そして悪夢のようなことが起きる。後にジェイムズ・ヒンチクリフが事故を起こしてレースを中断に追いやったのと同じような形で、琢磨はターン12でリタイアに追い込まれたのである。「ターン6やターン11では舗装がはがれ始めていて、とても危険な状況になっていました。コースは非常に滑りやすく、しかも訳のわからないパーツがどこかから飛んできたりしました。ターン12の縁石はとても高く、僕は一度もこれに触れたことはありませんでした。ところが、このときこれにヒットすると、ステアリングにものすごい勢いの乱暴なキックバックが起こり、この衝撃でステアリングから手が離れてしまいました。ステアリング上で手が滑り、それを取り戻そうとしましたが、マシーンは空中に舞い上がっており、そのままウォールに飛び込んでいきました」 これでマシーンの左前部が破損した琢磨にできることといえば、コクピットから降り立つくらいのもの。あとは、次の週に控えたレースに気持ちを切り替えることだけだろう。3週連続で開催されるオーバルレースの皮切りは、ハイバンクでお馴染みのテキサス・モーター・スピードウェイ。昨年、琢磨が力強い走りを見せたコースだ。 「今週末は、新しくてチャレンジングなコースでのレースを楽しみにしていただけに、とても残念な結果に終わってしまいました。けれども、これからオーバルレースが始まります。昨年のテキサスではとてもいい戦いができたので、今回も同じような展開になることを期待しています」 written by Marcus Simmons |