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うねるような丘が続くカリフォルニア州の乾燥したエリアに、チャレンジングなソノマのロードコースはある。ここは、ヨーロッパでのレース経験が豊富で、IZODインディカー・シリーズのパーマネントサーキットでこれまで何度もカミソリのような速さを示してきた佐藤琢磨がもっとも得意としているコースのように思える。ところが、KVレーシング・テクノロジー-ロータスと琢磨は、2年連続で本来の競争力を発揮できなかったのである。
今回、予選を16位で通過した琢磨は、何も失う物はないとばかりに3ストップ作戦のギャンブルに打って出たが、この戦略は功を奏さなかった。 「ここで思うような実力を発揮できない理由が何なのか、僕には理解できません」と琢磨。「昨年は、好調だったミドオハイオのパッケージをソノマに持ち込みましたが、うまくいきませんでした。今年は、タイアのスペックが変わったにもかかわらず、ミドオハイオではそれに対応することができ、満足のいく結果を得ることができました。けれども、昨年とまったく異なるセットアップの考え方でソノマに臨んだにもかかわらず、一度もコンペティティブな走りをできませんでした」 プラクティス開始当初、No.5をつけたダラーラ・ホンダは驚くべきことにタイムモニターの最下位付近につけていたが、その後の伸びも順調とはいえなかった。「ここはとてもチャレンジングなサーキットで、普通だったら大好きなコースなんですが、なぜかスピードに乗ることができません。先週、ソノマでは公式テストが行なわれたため、プラクティスはとても短いものとなり、しかも僕たちは良好なバランスを見つけられずに苦しんでいました」 そのことを思えば、予選での琢磨のパフォーマンスは力強いものだったといえる。グループ内の順位は8番手、しかもタイムをあとコンマ1秒短縮できればQ2に進出できたのだが、スターティンググリッドは16番手となってしまう。「レッドタイアのほうがバランスは多少よくなりましたが、Q1を突破できなかったのはものすごく残念でした。僕たちはとても苦しんでいましたし、スピードが伸び悩んだことには深く落胆しました。クルマが安定していなかったのです」 さらに、スタートまであと15分というときになってドラマが起きる。「クルマから水が漏れ出ていたので、メカニックたちはラジエター交換を強いられました。彼らは素晴らしい働きぶりを見せ、たった数分で作業を終えます。レース戦略に関しては、柔軟に対応できるように準備していました。スタートポジションのことを考えると、何か人と違ったことをしなければいけません。そこで、まず硬めのブラックタイアでスタートし、早めにピットストップを行なってソフトなレッドタイアに交換することとしました。こうすれば、余計なピットストップが必要になりますが、レッドタイアの力でペースを上げられると考えたのです」 このような戦略で順位を上げるにはイエロー・コーションが必要となるが、ツイスティーでコーナーの多いソノマであれば、他のコースよりもそうなる可能性は高いと考えられた。 レース序盤、琢磨は15番手まで順位を上げ、この状況に深く満足していた。「スタートはまずまずでした。僕はレッドタイアを履いたマルコ・アンドレッティに食い下がっていたので、決して悪くはありません。その頃、チームメイトのトニー・カナーンがピットストップを行なってレッドタイアに履き替えたところ、誰にも邪魔されない状態で走り、ペースも上がりました。そこで僕らもピットストップを行なうことにしたのです」 カナーンと琢磨はこれで3ストップ作戦を選ばざるをえなくなったが、この戦略を成功させるにはふたつの問題点が残されていた。ひとつは、まだコーションが一度も出ていないこと。しかも、エド・カーペンターを抜きあぐねていたTKのペースに琢磨も付き合わされてしまったことである。 「あの時点では僕のほうがずっと速かったので、何とか抜かそうとしましたがうまくいかず、結果的に彼らふたりの後方で20秒近くをロスしてしまいました。これで僕のレースは非常に厳しい展開となってしまいました」 3回目のピットストップを行なったとき、琢磨はラップダウンとなったが、ここにきて彼がレー ス序盤に待ち望んでいたイエロー・コーションがようやく提示されるという皮肉な展開となる。そのリスタートでは、アレックス・タリアーニやジェイムズ・ジェイクをパスするというエキサイティングなシーンも披露したものの、その後はリードラップのドライバーたちとほぼ同じペースで走り続けたため、フィニッシュまでほとんど単独で走り続けることとなった。「タフで、長いレースで、リスタートは楽しめましたが、それ以上のことは何もできませんでした」 琢磨はそう締めくくった。 もっとも、たった1週間で次のレースを迎えることは幸運といえるかもしれない。インディカー・サーカスの一団はアメリカ大陸を西から東へと渡り、新設されたバルティモア市街地サーキットで開催される初のレースに挑むことになるのだ。そして、琢磨は早くもその次に故国・日本で開催されるもてぎでの一戦を楽しみにしている。 「バルティモアのレースは、今回とはまったく異なったものになるでしょう。僕たちはセブリングでテストを行ない、トニーがいくつかの異なるダンパーを試してくれましたが、これはきっと市街地コースで威力を発揮してくれるはずです。だから、その次のもてぎでもいいレースが演じられると期待しています」 written by Marcus Simons |