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目まぐるしい展開となる1マイル・オーバルにおいて、佐藤琢磨はまたも傑出した競争力を披露した。2年目のIZODインディーカー・シリーズに参戦する琢磨は、ニューハンプシャー・モーター・スピードウェイでまたしても優勝争いを演じたのである。
ニューイングランドに位置するこのコースで最後にインディカーレースが開催されたのは1998年のこと。つまり、現役のインディカー・ドライバーはベテランを含め、このトリッキーなコースでレースを戦った者は皆無に等しかった。これが琢磨にとって有利な条件であることはいうまでもない。 ただし、一部に例外はあった。KVレーシング・テクノロジー-ロータスのチームメイトであるトニー・カナーンが、まさにその例外的な存在だった。 「昨年、このコースでトニーはファイアストンのタイアテストで500マイル(約800km)を走行しました」と琢磨。「したがって彼はこのコースのフィーリングと特性を掴んでいました。僕たちはミルウォーキーのときのものをベースにしたセッティングを持ち込みましたが、フラットオーバルのミルウォーキーに対し、ニューハンプシャーにはバンク角が徐々に変化するという違いがあります。いちばん下のレーンのバンク角は2度で、中央のレーンは7度ですが、その境目はシャープなキンクのようにバンク角が変化しているのです。このため、中央のレーンから下側に移動するたびにキャンバー変化が起こり、マシーンは不安定になります。いっぽう、いちばん上のレーンを走るとコースからはみ出すことになるので、レースでは実質的に使えません」 「つまり、とてもチャレンジングなサーキットといえますが、木曜日のオープンテストでは様々なことを試すことができ、自分たちにとっては大きな助けとなりました。僕は120ラップ以上を走行し、満足できる結果を得ました。週末の滑り出しとしてはとてもスムーズなものでした」 土曜日朝のプラクティスでも同様の好感触を得た琢磨が予選で8位になったことは、決して悪い成績ではなかったにせよ、どちらかといえば落胆すべき結果だった。 「僕は10番目でしたが、トニーは3番目の出走だったので、コースコンディションはセッション後半ほど良くはありません。このため、彼が好タイムを記録したことに誰もが大喜びしました。僕のアタックではターン1からターン2にかけてずっとフラットアウトで駆け抜けられたため、みんなで好タイムを期待していました。僕のエンジニアたちは大いに盛り上がっていたので、僕も期待に胸を膨らませていましたが、僕が走る数分前から突風が吹き始め、ストレートでは強い向かい風にあってスピードが伸び悩みました。僕たちにできることは何もありませんでした」 日曜日の朝に行なわれたウォームアップにおいて、KVRT-ロータスの琢磨、カナーン、EJ.ヴィソの3人はいつものように異なるセットアップを試し、レースに向けて最良のセッティングを探った。「マシーンのバランスは良好で、トラフィックのなかでもいいフィーリングが得られました」と琢磨。 その期待通り、No.5をつけたダラーラ・ホンダは決勝で快進撃を示し、最初のピットストップを向かえる直前には5位まで順位を上げていた。「レーシングラインは1本しかなかったので、コース上でオーバーテイクするのは非常に難しい状況でした。けれども、僕はリスタートで順位を上げたほか、集団のなかでサイド・バイ・サイドを演じるのはとてもエキサイティングでした」 「周回遅れに追いついたときは絶好のチャンスで、これを使って順位を上げていきました。僕はオリオール・セルヴィアやライアン・ハンターーレイとバトルをしていましたが、やがてふたりともピットに入っていくのが見えました。彼らよりも燃料をセーブすることができたので、僕はもう1周余計に周回し、グリーン中に行われたピットストップでまんまとポジションを上げることに成功しました。ピットインする前に充分に温まっているタイアで周回したので、ここでマージンを稼ぎ、コースに復帰したときには2位に上がりました」 琢磨がレースリーダーのダリオ・フランキッティまであと1.2秒というところまで迫ったとき、雨のためコーションとなった。リスタートで琢磨はスコットランド人ドライバーに仕掛けたが、その直後にはセルヴィアの防戦に手一杯となってしまう。「タイミングはぴったりのリスタートを切れましたが、エアロダイナミクスの影響かギア比のためかはわかりませんが、ターン1でダリオに迫るほどのスピードはありませんでした。そしてオリオールと戦う羽目になりましたが、そこでは2位に留まることに成功しました」 その後、カナーン、マルコ・アンドレッティ、トーマス・シェクターが絡む事故が発生し、またもやコーションとなる。続くリスタートで、琢磨は再びフランキッティに襲いかかった。「マシーンが横転したトニーにケガがなかったのは不幸中の幸いでしたが、リスタートでは悪夢が起きました。確かに僕はダリオと非常に接近していましたが、彼に戦いを挑もうとしていました。そしてターン4で完全にサイド・バイ・サイドのまま、僕は再びタイミング合わせたのです。彼のほうが少しリードした状態で僕は自分のラインを守ってまっすぐ走行していましたが、次の瞬間、彼は僕のほうに向かって下がってきたように見えました。2台の距離が非常に接近していたことから、残念ながら僕らは絡み合ってしまいました。この辺はビデオで再確認したいところですが、僕自身も、もっと距離をおくべきだったのかもしれません」 これでフランキッティはウォールと衝突。琢磨は右フロントタイアがパンクし、フロントウィングにダメージを負った。そのリペアを終えてコースに復帰したとき、琢磨は8番手となってリードラップを走る集団の最後方につけていた。このとき、予定にないピットストップを行ない、さらにイエロー中にもう一度ピットストップを行なったことで、琢磨は他のドライバーとは異なるピットスケジュールでレースを戦うこととなった。この結果、琢磨は残り45ラップとなったところでトップに浮上する。この後、琢磨は10周以上にわたって首位を走行したが、このとき、琢磨のファンやチーム関係者は雨が降り始めてレースが中断されることを心から願っていただろう。そうなれば、最後にもう1度だけピットストップしなければいけない琢磨に優勝のチャンスが訪れるからだ。しかし、そのチャンスはついにやってこなかった。 ウィル・パワーやダニカ・パトリックの直後でコースに戻ったとき、琢磨は7位になっていたが、この集団はギリギリのところでリードラップを走行している状態だった。琢磨がピットストップを行なってわずか15周後、雨が降り始めて最後のコーションとなる。もう少し早く雨が降り始めていれば、琢磨は優勝できたのに! ところが、まだ雨が降り続いていたにもかかわらず、レースが残り8周となったとき、驚くべきことにグリーンフラッグが振り下ろされる。これで大混乱が起きたことは言うまでもない。パトリックがコントロールを失い、これを避けようとしてパワーが急ブレーキをかけたところへ琢磨が接触。さらに完全にスピン状態となったパトリックが琢磨のマシーンに激突し、続いて周回遅れのエド・カーペンターやアナ・ベアトリスがここに突っ込んでいったのである。 「レース中盤で起きたことを思えば、僕が首位に立てたのは驚くべきことでした。その後でピットストップを行い最後のリスタートに備えて整列したとき、コースは濡れていてひどく滑りやすい状態でした。ダニカがスピンしたことに気づくにはウィルに近づきすぎていて、これをきっかけにして多重クラッシュが起きてしまいました。ダニカがスピンしたとき、ウィルは急激にスピードを落としたので、接触を避けるのは不可能な状況でした」 レースはその後、コーションの状態で数ラップを周回してから赤旗が提示され、そのまま終了となった。このとき琢磨は11番手になっていたが、オフィシャルは競技の公平性を鑑み、最後のリスタートが行なわれる直前の順位を最終結果にすることを決めた為、琢磨の順位は7位に復帰した。力強くレースを戦い、まずまずの結果を収めてさらなる自信を得た琢磨は、カリフォルニアに建つロードコースのソノマを目指して西に移動することになる。 「複雑な気持ちですね。自分たちがコンペティティブであることを示し、非常に力強いパフォーマンスを発揮したので、レース後は誰もがサムアップをしてくれましたが、一面ではタフなレースでもあり、手放しで喜べる状況ではありませんでした」 「昨年のソノマは残念な結果に終わりました。ミドオハイオのセットアップをベースにしていたのでコンペティティブに戦えることを期待していましたが、思い通りの展開にはならず、同じことは今年のバーバー・モータースポーツ・パークでも繰り返されました。もっとも、すでに新しいセットアップ・フィロソフィーを考案しており、これで1日テストできることになっているので、今度こそいい結果を残せると期待しています」 written by Marcus Simmons |