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Rd.15 [Sun,19 September]
LAGUNA SECA

奇跡のスピード 第15戦 ラグナセカ
 改装されて以来、追い抜きが難しくなったとされるアイコニックなロードコースにおいて、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのNo.30をつけたダラーラ・ホンダは次々とライバルをオーバーテイクし、次第にポジションを上げていった。不運なことに、23番グリッドからスタートした佐藤琢磨はNTTインディカー・シリーズのラグナセカ戦でなんらかの成果を持ち帰れなかったが、今回も、その予選におけるパッケージングに比べると、決勝でのペースは圧倒的に優れるものがあった。ただし、残念なスピンのため、そしてそれを上回るほど残念なスコット・ディクソンとの接触により、琢磨のレースは不本意な結末を迎えてしまう。それでも一旦は走行を再開したものの、フィニッシュまで数周を残してリタイアしたため、公式には27位完走と記録されることとなった。

 ここのところ大きな課題となっている金曜日と土曜日のフィーリングに関しては、今回もフラストレーションが募る結果に終わった。最初のセッションで19番手、2回目のセッションで26番手となった琢磨は、予選でまたも苦戦を強いられてグループ12番手となり、23番グリッドからスタートすることになったのだ。「最初のプラクティスが終わったとき、僕たち(琢磨にくわえて、チームメイトのグレアム・レイホールとオリヴァー・アスキュー)はみんなマシーンのバランスに不満を持っていました」と琢磨。「そこで、それまでとは異なる方向に改めましたが、これもまた間違っていました」

「予選直前の2回目のプラクティスでも、僕たちはまだなにもできていませんでした。この段階で別の方向に変更するのは困難なので、いまのセットアップが予選でうまく機能することを期待していました、そうはなりませんでした。激しい接戦が繰り広げられているなかで、僕はアンダーステアやオーバーステアと戦っていて、満足なスピードが得られない。これとは対照的に、別の方向を選んだチームメイトはとても順調のように思えました。狙ったとおりのコンディションになったことが彼らに味方したようです。自分の予選結果は残念でしたが、チームメイトが速くなったことは嬉しかったです。5月のインディGP以来、僕たちは異なる考えからの方向性を試してきたのです」

 そして、これは大当たりだった。決勝当日のウォームアップで、琢磨はバツグンの速さを示し、ファステストラップを叩き出したのだ。「(アスキューが乗る)45号車のセットアップをフルコピーしました。すると、どうしたことでしょう、まったく感触が違っていたのです! ほんのちょっとしたことが、ものすごく大きな差を生み出すのです。これには僕たちも驚き、レースに大きな期待を抱きました」

 決勝レースでは、アレクサンダー・ロッシのスピンにより本格的な競技の開始が遅れ、この日最初の、そして結果的に最後となるイエローが提示された。琢磨を始めとする後方集団はこのとき早めのピットストップを行ない、先頭とはやや異なるサイクルのレース戦略を選択したが、マシーンは好調で、給油はフィニッシュまでにあと2回だけで十分と予想された。「(ポートランド戦が行なわれた)前の週と同じで、2ストップ作戦を困難にするため、インディカー・シリーズはレース距離を5周長くし、3ストップのフラットアウトな戦いを生み出そうとしていました。僕たちはブラック・タイヤでスタートしましたが、今度はレッド・タイヤです。それでも2ストップ作戦としては少し早めの展開ですが、なんとか実現できると考えられました。次の3スティントで1、2ラップ分ずつ燃料をできれば、きちんとした戦略として成立できたのです」

 残念ながら、このピットストップによって琢磨は25番手に後退したが、ほどなく挽回を図り始める。グリーンフラッグが振り下ろされると、多くのマシーンをパス。さらにライナス・ヴィーケイ、セバスチャン・ブールデ、エリオ・カストロネヴェス、ヘイムズ・ヒンチクリフらに挑みかかった。くわえてピットストップしたドライバーもいたため、20ラップ目までに琢磨は2番手となっていたのだ。間もなく、ピットストップ後にニュータイヤを履いて猛チャージしてきた今シーズンのチャンピオン候補であるアレックス・パロウにコース上で抜かれたものの、琢磨は3番手となって2回目のピットストップを行なったのである。

 18番手でレースを再開した琢磨は、またしても猛追を再開。エド・ジョーンズ、コナー・デイリー、カストロネヴェス、マックス・チルトン、ジャック・ハーヴェイ、そしてディクソンを、90周のレースの26周目までに攻略した。すべて順調のようだ。「マシーンは素晴らしく、1周か2周に1台はオーバーテイクしていました。全般的に僕たちは速く、こんなにたくさんのオーバーテイクをロードコースでできることに感激しました。僕はターン4の進入で素早く右に切り返してオーバーテイクしましたが、いちばん多かったのはコークスクリューのブレーキングですね。これは最高に楽しかったです。たくさんオーバーテイクして、たくさんサイド・バイ・サイドを楽しみました。ピットストップで2、3秒ほど失ったので、大きく挽回するのは難しいだろうと思っていましたが、実際にコースに戻ってみると、またオーバーテイクができました。すべてよかったです。とてもクリーンなバトルがあったり、ブロックが厳しいことがあったり、ときにはホイール同士が接触することもありました」

 やがて、コークスクリューで悲劇が起きる。「内側の縁石に乗り上げてしまいました。いままで一度もしたことがないミスでスピンしました。あっという間の出来事でした。後方からクルマがくることはわかっていました。特に、スコットはまだ抜かしたばかりだったので、すぐに近づいてくるだろうと思っていました。でも、コークスクリューは急な下り坂なため、彼がどこにいるかはわかりません。僕はブラインドコーナーのまさにレーシングライン上にいましたが、ほんの少しだけ移動してラインから外れる余地はありました。ところが不運にも、そのときスコットはある方向に行くと決めたようでしたが、それが僕からは見えず、結果的に2台は接触しました。僕はトラックロッドにダメージを負ったため、ピットストップに戻って1ラップを失う羽目となりました」

 そして琢磨は周回遅れの最後尾となって戦いに復帰した。現実的に考えれば、ライバルの脱落がない限り、そのままのポジションで終わるのが普通だが、もう1度チャレンジしてみる価値はあるだろう。「ブラックタイヤを装着して走り始めたところ、コース上を走っているなかで、僕はいちばんペースが速いドライバーのひとりとなっていました。ただし、高速コーナーのバランスだけは満足できません。フロアにダメージを負っていると推測されました。それでも走り続けたところ、スコットとの接触でディフューザーのサイドウォールがなくなってダウンフォースを失う深刻な状況に追い込まれました。最後のスティントにはレッド・タイヤを履いて臨みましたが、ダウンフォースを失っていた景況で、数周でニュータイヤ効果が終わると、僕のラップタイムは2、3秒ほども遅くなったので、安全上の理由からリタイアすることをチームは決定しました」 この時点でも、ほかのドライバーはまだ全員、走行を続けていたのだから、琢磨が追加のポイントを獲得できる望みはまるでなかったことになる。
「フロアさえダメージを負っていなければ走り続けられたはずなので、とても残念です。ミスさえしなければ、とても興味深い成績が手に入ったことでしょう。間違いなく上位で入賞できたはずです」

 琢磨がいま目指しているのは、次週行なわれるシリーズ最終戦のロングビーチで好成績を収めることだけ。琢磨が2013年にインディカー初優勝を果たした舞台が、この西海岸の市街地コースだったことは皆さんもご存じのとおりだろう。「ラグナセカのいい流れをロングビーチに持ち込むつもりです。市街地コースでの僕たちのパフォーマンスはさらに改善されているので、とても興味深いレースになるはずです。2020年は新型コロナウィルスの影響で、僕にとっては特別な思い出があるロングビーチにやってくることはありませんでした。これほどステキな場所でシーズンを締めくくれるなんて、本当に最高です」

written by Marcus Simmons
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