COLUMN |
ミルウォーキー・マイルが2年ぶりにIZODインディカー・シリーズに戻ってきた。つまり、2010年にシリーズデビューを果たした佐藤琢磨がこの伝説的なコースのレースに挑むのは、これが初めてのこととなる。
にもかかわらず、琢磨はピットストップ中の不運なアクシデントを乗り越えて8位でフィニッシュ。KVレーシング・テクノロジー-ロータスにまたも好成績をもたらしたのである。 テキサス・モーター・スピードウェイのレースを5位で終えた直後、日本に帰国しなければならなかった琢磨にとっては、大変な困難の伴う週末となった。水曜日に琢磨の父親が逝去、これを看取ってから急ぎミルウォーキーに戻り、プラクティスに出走することになったのである。彼はレース後の月曜日に再び帰国し、父の葬儀に参列する。しかも、同じ週にはアイオワのレースが控えているのだ。 個人的な悲しみに加え、ミルウォーキーでの金曜日の滑り出しは決して好調とはいえなかった。「このコースは、隅から隅まで全部理解しておかなければいけません」と琢磨。「コーナーを曲がるのにスロットルを戻さなければいけないという、とてもユニークかつチャレンジングなコースです。基本的にバンクがないので、この点でも苦労することになります。言い換えれば、コンクリートウォールに囲まれた、超高速コーナーが連続するコースのようなもの。おかげで、平均速度自体はシリーズのオーバルコース中いちばん低いのに、インディ500に匹敵するスピード感があります」 「僕たちはインディ500の直後にテストでここにきましたが、そのときは風がとても強かったので40ラップ少々しかできませんでした。また、プラクティスではちょっとした問題があって50ラップほどしか走行していません。おかげで、ニュータイアを使っても16番手が精一杯でした。決して好調な滑り出しとはいえません」 しかし、土曜日になると状況が好転し、琢磨はプラクティスで2番手となると、予選では5番手をマークした。「トニー・カナーンやEJヴィソとともに3人で異なったセットアップを試し、どれがベストかを確認しました。予選でのセットアップはコンペティティブなものでしたが、これが決勝でも威力を発揮してくれればいいと期待していました」 「予選はとてもエキサイティングでした。5番グリッドが手に入ったことは本当によかったのですが、いざ予選でいい結果が得られると、決勝ではそれ以上の成績を期待してしまうものなのです!」 カナーン、琢磨、ヴィソの3人はそれぞれ4位、5位、6位で予選を通過。KVレーシングはこれまで以上の好成績を望んでいたが、未知数の部分も残っていた。琢磨はプラクティスでの走行量が少なかったので、決勝の展開が読めなかったのである。「たくさん走り込んだわけではなかったので、スティント中にタイアの状態がどう変化していくのか、またはバランスがどうシフトしていくのか、把握できていなかったのです」 「スタートしたときのフィーリングはとても良好でした。目の前の2台をオーバテイクしそうになりましたが、すぐにコーションとなりました。リスタートの段階では、スティントの中ほどまで好調に思えましたが、そこから徐々にグリップを失い、バランスに苦しむようになります。ハンドリングが悪化していったのです。続いて多くのトラフィックに巻き込まれるようになり、マーブルと呼ばれるゴムの破片をタイアに付着させてしまい、11番手か12番手まで大きく順位を落としてしまいました」 そしてピットでのドラマが起きる。「まったくのカオスでした。ピットボックスはとても狭く、込み合っていました。僕の場所はとんでもなく小さかったうえ、その後方にはすでにトニーが止まっていたので、まっすぐな状態でしっかり止めるのは不可能な状況でした。そこで正確な角度でピットボックスへ進入すべく慎重にアプローチしていたのですが、ここで色々なことが起きてしまったのです」 「目の前にいたガナッシの1台はハイレーンを走っていたので、僕は自分のピットにアプローチするのに備えてローレーンに移動しました。ところが、彼はハイレーンからいきなりローレーンを横切ってピットボックスに入っていきました。このため僕は止まりきれず、ライアン・ブリスコーのピットに飛び込む形になりました」 琢磨とメカニックは懸命になって状況の回復に取り組んでいたが、ピットボックスに用意されていた右用タイアと、左側のタイアを持って戻ろうとするメカニックの間に充分なスペースがなく、このためメカニックのひとりをひっかけ、転ばせてしまう。これによりNo.5をつけたKVレーシング・テクノロジー-ロータスは自動的にドライブスルーペナルティを科せられることとなり、周回遅れとなる。ただし、幸いにもメカニックにケガはなかった。 この後、琢磨はタイアに発生したブリスターに苦しめられながらも追い上げ、ついにはレースリーダーがピットストップしたところで周回遅れから脱出。そしてレース戦略に従ったピットストップが一巡したときにはリードラップに返り咲き、そのままレースを走り切ったのである。 「ピットストップしたときには右リアタイアのライフは完全に終わっていました! そこで右リアタイアを労るようにセットアップを変更しましたが、今度は右フロントタイアが剥離を起こし始めたのです。ものすごい勢いのバランスシフトだといえます。けれども、とにかくプッシュするしかありませんでした。結果的にレースを最後まで走り切ることができたのはいい経験になりましたし、スコットやエリオとバトルしながらフィニッシュできてよかったと思います。チームにとっては大変な1日でしたが、僕自身はたくさんのことが吸収できたし、おかげで理解を深めることができました」 エキサイティングなミルウォーキーに続いては、昨年、ルーキーだった琢磨が驚異的な速さを見せたアイオワでのレースに臨むことになる。「ミルウォーキーはエキサイティングだったし、ものすごいレースでした。とにかくブレーキをよく使うし、タイアの摩耗も早く、タービュランスも大きい。それに、レース中の忙しさでもずば抜けていると思います。本当にエキサイティングでした。でも、レースはとても楽しかったし、いい経験になったと思います」 「去年、僕はアイオワのレースを心から楽しみました。あのときのパッケージングは強力だったので、今年のレースも待ちきれない気分でいます。今回はナイトレースになるのでコンディションは異なりますが、それでもいい成績を残せると期待しています」 written by Marcus Simmons |