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Rd.8 [Sun,13 June]
DETROIT RACE2

オーバーテイク満載の市街戦 第7、8戦 デトロイト
 デトロイトのベルアイルで年に1度開催されるNTTインディカー・シリーズのダブルヘッダー戦で、琢磨は今シーズン・ベストとなる4位入賞を果たした。第2レースは12位に終わったものの、予選で苦戦が予想された週末としては納得できる成績を収めたといえる。実際のところ、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダは、2レースともに激しく追い上げており、より上位を狙える可能性も十分に残されていた。

 デトロイトのレースが年に1度開催されることは前述のとおりだが、インディカーのカレンダーに含まれるほかの多くの市街地レースと同じように、新型コロナウィルスのパンデミックに見舞われた昨年は“モータウン”での開催も見合わされることになった。そのためもあって、琢磨はこれまでに2度ポールポジションを勝ち取り、2度表彰台に上ったことのあるデトロイトに戻ってこられたことを、ことのほか喜んでいた。「デトロイトは素晴らしい場所です」と琢磨。「1980年代にF1グランプリが開催されていた当時から、ここはレースの街で、インディカー・シリーズでも長い歴史を誇っています。その市街地コースは他に例がないもので、インディ500の直後に開催されるのが恒例となっています。このため、路面がスムーズで、しかも平均速度が恐ろしく高いインディアナポリスから、バンピーで複雑なレイアウトのデトロイトへと、わずか数日の間に戦いの場所を移すことになります」

 2020年にレースが開催されなかったため、デトロイトにとっては2021年がエアロスクリーン初登場の年となり、このためセットアップも大きく変更しなければならなかった。「2019年のデトロイトと2021年のセントピーターズバーグを混ぜたようなセットアップを、今回はベースラインとして用意しました。これは、決して悪くありませんでした。素晴らしいとまではいきませんでしたが、それほどバランスが外れていたわけでもありません。僕たちに必要だったのは、全体的なグリップでした。プラクティスが75分間の1回しかなかったことも、状況を難しくしていました。したがってたくさんのメニューをこなす必要がありましたが、セッションの途中で赤旗中断となったため、実質的には1時間ほどしか走行できませんでした。しかも、市街地コースなので、週末を通じての路面コンディションの改善は非常に大きなものになると予想されていました」

 琢磨はプラクティスで12番手のタイムを残したが、予選グループでは8番手に留まり、土曜日のレースには16番グリッドから挑むことが決まった。「タイヤに十分なエネルギーを与えるのが難しく、このためレッド・タイヤのポテンシャルを引き出すのが困難でしたが、これに比べるとレースカーのパフォーマンスは強力でした。予選ではもっとスピードが必要でしたが、マシーンを改善するのに必要な時間がありませんでした。予選の第2セグメントに進めなかったのは残念ですが、それでも僕はチームのなかでトップの予選結果を手に入れていました」

 決勝のスタートで、琢磨はまさに飛ぶような勢いを見せた。数台のマシーンはレッドタイヤを取り外すために早々とピットインしたが、この作戦がデトロイトで機能したことは滅多にないからだ。そして琢磨はライバルたちを次々とパスしていった。7周目にはスコット・ディクソンとフェリックス・ローゼンクヴィストを攻略して4番手に進出。8周目にはエド・ジョーンズとサイモン・パジェノーをオーバーテイクして2番手へと駒を進めた。その3周後にはディクソンに抜かれたものの、それでも琢磨は18周目に最初のピットストップを行うまで3番手に踏み止まっていた。
「とても楽しかったです。2019年は、2ラップ目に最初のイエローが出て、ほぼ全員がピットに飛び込んでタイヤ交換をしました。なぜなら、デグラデーションの激しいレッド・タイヤを一刻も早く取り外したかったからです。しかも、2021年仕様のタイヤでロングランを経験したドライバーがいなかったこともあり、多くのドライバーは、タイヤの性能が下がり始める前に2年前と同じことをしようとしました。ただし、僕たちのタイヤは好調で、フロントグループを追い上げることができました。そして、5ラップを過ぎるとみんなのペースが落ち始めて、“楽しい時間”がやってきました。僕のペースはとても速く、たくさんのドライバーをオーバーテイクしました。なにしろ、プライム・タイヤを履いていたディクソンまで仕留めたのです。続いてトップを走るウィル・パワーを追い上げましたが、やがてディクソンが調子を上げてきて、僕を追い越すと、そのまま遠ざかっていきました」

「僕たちは、タイヤ交換を済ませたグループの動向を注視していました。ただし、ウィルや僕と比べても、彼らのペースは決して速くありません。そこで、最初のスティントを、2ストップ作戦が可能になる18ラップまで引き伸ばすことにしました。これで、続くふたつのスティントをプライム・タイヤで走れるので、すべて順調と思われたのです」

 ところが、ピットストップでは不運にも右リアタイヤの交換に手間取って5秒を失い、大きく順位を落とすこととなる。「ピットストップ後は、ウィルの直後でコースに戻れる予定でしたが、実際にはマーカス・エリクソンとサイモンに先行されてしまいました。それでも、僕たちは引き続き好調でした」

 続いて、ローゼンクヴィストの恐ろしいアクシデントが発生。誰からも愛されているスウェーデン人ドライバーをコクピットから救出し、壊れたバリアを修復するのに、およそ1時間を費やすこととなった。赤旗中断の前後で提示されたイエロー中にピットストップを行なったドライバーがいたため、グリーンフラッグが振り下ろされたとき、琢磨は3番手となっていたうえ、フィニッシュまでに必要なピットストップは残り1回だけだった。「とても暑い1日でした。気温は90?(約32℃)を越えていて、しかもエアロスクリーンのためあまり風を受けることができません。レース途中でさえ、僕たちの体重は5ポンド(約2.3kg)ほども減っていました! 僕のレーシングスーツは汗でぐっしょりだったので、この赤旗中にスーツとアンダーウェアを着替えることができたのは、本当に助かりました!」

 残り24周で最後のピットストップを実施したとき、琢磨は4番手で、パワー、エリクソン、そしてライナス・ヴィーキーの3人が前方を走行していた。残り6周の段階でヴィーキーをパスし、3番手に浮上したところで、ロメイン・グロージャンのクラッシュにより再び赤旗中断となった。残る4周で競技を再開すべくグリーンフラッグが振り下ろされたのだが、不運にもパワーのマシーンがスタートできなかったため、琢磨はエリクソンに続く2番手となっていた。

「とてもいい状況でした。グロージャンがクラッシュしたのは、彼には申し訳ありませんが、僕にとってはラッキーでした。なぜなら、ここまでリスタートのたびに僕は順位を上げてきたからです。可哀想なウィルはマシーンを発進させられず、マーカスと僕が順位を上げました。僕はリスタートに集中していましたが、我々のチームは特にプライマリータイヤに十分なエネルギーを与えることができず、このため最初の数周は、タイヤを作動温度までウォームアップできませんでした。最終コーナーでマーカスと同じペースを保とうとしましたが、リアタイヤが耐えきれず、危うい状況に陥りました。さらに悪いことに、僕の近くにいたのは2台の速いマシーンだったため、マーカスはそのまま走り去り、リスタートでライナスはいとも簡単に僕を追い抜いていきました。さらに、内側にライナスがいたため、僕は外側でマーブルに乗ってパト・オワードの先行を許してしまったのです。そして、このトップ4台が後続をぐんぐん引き離していったのですが、僕自身が前を走るドライバーたちに追いつくことはありませんでした」

 琢磨にとっては腹立たしいレースとなったが、最初のピットストップで問題が起きる直前、琢磨はエリクソンの前を走っていて、しかもふたりは同じ戦略でレースを戦っていた。「僕は2番手につけていて、トップのドライバーに戦いを挑んでいたので、4位フィニッシュは残念な結果です。勝つチャンスのあるレースでした。ただし、4位も悪くありません。手堅く、そして納得のいくパフォーマンスでした。チームの誰もがいい仕事をしてくれました。そしてチームメイトのふたりも5位と6位でチェッカーを受けました」

 日曜日のレースは、予選グループで10位となり、19番グリッドからのスタートとなったため、琢磨にとってはさらに厳しい戦いが予想された。「土曜日のレースで不足していた部分を改善しようと努めました。これによって少し取り返すことができたのですが、それまでよかった別の部分のスピードを今度は大きく失うことになりました。チームメイトとは異なることを試しましたが、僕たちの状況は正反対で、でも似たような結果を辿りました。そこで、レースでは土曜日と同じようなことが起きるのを期待していました」

 オープニングラップではマックス・チルトンがアクシデントを起こし、イエローが提示される事態となったが、この混乱のなか、琢磨は15番手までポジションを上げていた。ここで琢磨はピットストップすると、全体の半分ほどのドライバーがそうしたように、レッドタイヤからブラックタイヤへと履き替える。ここから、琢磨は徐々に追い上げて行った。「少しずつ、でも確実に、僕は上位陣に近づいていきました。たくさんオーバーテイクをして、本当に楽しかったです。土曜日ほど好調ではありませんでした。なぜなら、まだ傷んでいないプライムタイヤを履くドライバーをパスするのは難しいからです」

 やがて、序盤にピットストップしなかったドライバーがピットに入るようになると、琢磨は4番手まで浮上。そして26周目に2回目のピットストップを行なうと、給油とタイヤ交換を済ませた。その直前、ニュータイヤに履き替えたばかりのコルトン・ハータが琢磨の直前でコースインしてきたのだが、「彼の姿は即座に見えなくなりました」と琢磨は語る。「昨日に比べてペースがよくないように感じられました。この状況はその後も続き、終盤に2回のイエローが提示されるまでは、12番手へとポジションを上げるのが精一杯でした」

 2度のうちの1回はジミー・ジョンソンのスピンに伴うもので、レースが再開されたとき、琢磨はライアン・ハンター-レイとフェルッチをパス。その直後に、今度はグロージャンのアクシデントで再びイエローが提示された。「リスタートでサイモン・パジェノーをオーバーテイクしようとしました。前日もこの日も、ターン3の進入で多くのドライバーをオーバーテイクできたのですが、このときはブレーキで2フィート(約61cm)ほど行き過ぎたようです。これでライアンとサンティーノに追い越されてしまいました。僕はトップ10に入りたかったので、トライをしました。結果としては複雑な心境ですが、まずはよかったと思います」

「デトロイトでオーバーテイクするのは最高で、このコースではいつも多くのアクションが見られます。僕たちはたくさん楽しみましたし、ファンにとっても素晴らしい週末だったと思います」

 続いてインディカーの一行が目指すのは、ウィスコンシン州ののどかな景色のなかに建つロードアメリカ・サーキットである。「昨年は開催されませんでしたが、2019年のレースは楽しかったです。ロードアメリカは、世界でもっとも素晴らしいサーキットのひとつで、きっと多くの観客が詰めかけてくれることでしょう。とても楽しみですし、力強くレースを戦いたいと願っています」

written by Marcus Simmons

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