RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.2 [Sun,25 April]
ST. PETERSBURG

目を見張る挽回劇 第2戦 セントピーターズバーグ
15番グリッドから6番手まで追い上げる完璧なレース運びは、いかにも佐藤琢磨らしいものだった。そんな活躍が見られたのは、NTTインディカー・シリーズ第2戦セントピーターズバーグでのこと。No.30レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダを駆る琢磨は、1週間前にバーバー・モータースポーツ・パークで開催されたレースがそうだったように、土曜日は苦戦を強いられたものの、今回は日曜日に見違えるほどコンぺティティブな走りを披露したのである。

「6位という結果は、ベストなものではありませんし、僕たちが期待していたものでもありません」と琢磨。「ただし、与えられた環境のなかで、ペースの点で苦しんでいた僕たちにとっては、とてもいい結果でした。ピットストップはすべてミスがなく、上位を走るドライバーには、正直なところストラテジーにも選択の余地はあまりありませんでした。僕はコース上で全力を振り絞りました。今日はとても暑かったので、体力勝負のレースだったと誰もが指摘していたほか、実際のところ多くのドライバーが暑さに苦しんだと思います。だから、トップ6でフィニッシュできたことには満足しています」

 チームの面々は、半年前に2020年シーズン最終戦が開催されたのと同じフロリダの市街地サーキットに帰ってきた。ただし、毎回接戦が繰り広げられるインディカー・シリーズではしばしば起こるように、戦いの様相は前回とは大きく異なっていた。「昨年のセントピーターズバーグは秋まで延期されたので、ここでレースを戦ったのはついこの間のことだったような気がします。フロリダの冬はあまり厳しくないので、この市街地コースはほとんど荒れていません。しかもタイアのスペックやマシーンもほとんど変わっていません。したがって、トップ6の速さを示した去年と同じレベルから、今年もスタートできると期待していました」

 ところが期待どおりの展開とはならず、琢磨は最初のプラクティスで18番手と苦戦。そして2回目のプラクティスでは20番手へと後退した。「シーズンオフの間に、どのチームも長足の進化を遂げたようです。おかげで、1/10秒が大きくものをいう大変な接戦となりました。バランス的には、それほど悪くありませんでしたが、シンプルに苦戦を強いられていました。僕たちはストレートスピードが伸び悩んでいて、2本あるストレートの最後で計測するスピードトラップでは僕がいちばん遅い状態でした。1本のストレートで0.1秒近くロスしていたので、1周あたり0.15秒か0.2秒ほど遅れていた計算になります。もしも0.2秒タイムが速かったら、順位はだいぶ上がっていたはずです。どうやら厳しい週末になりそうな気配でした。2回目のプラクティスでは少し状況がよくなったものの、どのドライバーも速くなっていました。エンジニアのマットと僕はいろいろなことを試しましたが、プラクティスが短いため、クルマを速くするのはとても難しい状況でした」

 予選では流れが好転し、琢磨はグループ内の8番手となり、15番グリッドからスタートすることが決まった。「最終的にスピードをいくぶん伸ばすことに成功しましたが、ターン10で僕がごく小さなミスを犯したために0.1秒ほどロスしたほか、ストレートでも遅れをとっていました。大変残念です。セントピーターズバーグの予選を、僕は毎回のように楽しんできました。これまでにポールポジションを手に入れたこともありますし、トップ5のグリッドは何度も獲得したことがあります」

 驚くべきことに、決勝当日のウォームアップで琢磨は2番手のタイムをマーク。もしも、同じタイムを予選で記録していればグループで5番手となり、第2セグメントに進出していた計算になる。「あれが予選だったらよかったのに!」と語ると琢磨は笑った。「ウォームアップではプッシュ・トゥ・パスを試すことができて、セッション中に最大30秒使えます。そこで僕はこの30秒分を1ラップで使いましたが、基本、皆同じようにしているようです。このレースで優勝したコルトン・ハータも同じことをしました。ただし、それでだけではなく、マシーンが全体的に進化していて、これにはとても満足していました。予選後、自分のデータとチームメイトであるグレアム・レイホールのデータを見比べたところで、僕たちのスピードがいくぶん速くなっていたことがわかりました。これはとても勇気づけられることです。なにしろ、ウォームアップでの2番手という結果が本来の実力を反映していなかったとしても、硬めのブラック・タイヤを履いたときのペースでいえば、僕らは5番手か6番手だったのですから……」

 数年前に比べると、ファイアストンのレッドタイヤはライフの点で大きく改良されており、1スティントのペースについていえばふたつのコンパウンドの間に大きな差は見受けられなかった。ところが琢磨は「ブラックタイヤでスタートすることにしました」という。「なぜなら、最初のスティントでできるだけたくさんの周回数を重ねる必要があったからです。この場合、唯一心配なのは、ブラックタイヤが不得意とするスタートですが、幸運にも、僕と近いグリッドからスタートするほとんどのドライバーはプライマリータイヤを選んでいました」

 スタート直後にスコット・マクラフリンをパスした琢磨は、ターン1で勢いを失ったアレックス・パロウを攻略し、13番手へと浮上。その後、レースは落ち着いた展開を見せたが、ジミー・ジョンソンのスピンでイエローが提示され、続いてリスタートが切られると、程なく琢磨の進撃が始まった。まずはターン1でジェイムズ・ヒンチクリフのインに飛び込んで12番手となる。このとき、ヒンチクリフがインに迫ってきたのだが、琢磨によると「ラッキーなことに僕はダメージを受けませんでしたが、アンラッキーなことに彼のタイヤはパンクしました」という。

 2周後、琢磨はターン10でライアン・ハンター-レイを華麗にパスし、11番手に順位を上げる。「あれは楽しかったです! ライアンが僕のことを信頼してくれるのと同じくらい、僕もライアンのことを信用しています。アンドレッティ・オートスポーツでチームメイトだった僕たちは、互いを尊重しあう関係を築いていたのです」

 その4周後、ライナス・ヴィーキーとパト・オワードを鮮やかに仕留めた琢磨は9番手となる。「ヴィーキーはレッドタイヤのデグラデーションに苦しんでいて、最終コーナーの出口でふたりがサイド・バイ・サイドになるという奇妙な状況だったため、この隙に彼らをオーバーテイクしました。これにはとても満足しました」 ここから琢磨が最初にピットストップを行なうまでには6周が残されていた。この間に琢磨は、一旦は引き離されていたスコット・ディクソンとの差を徐々に詰めていく。3番手のドライバーを先頭とする列のいちばん後方を走っていたのが、8番手のディクソンだった。

 最初のピットストップでディクソンを攻略することはできなかったものの、琢磨はセバスチャン・ブールデのアンダーカットに成功。やがてチームメイトのレイホールはアレクサンダー・ロッシと絡む悲劇に見舞われたため、琢磨は6番手へと駒を進める。続くスティントでレッドタイヤを履いていた琢磨は、ジャック・ハーヴェイ、サイモン・パジェノー、ディクソンらを含むグループの最後尾につけたが、パジェノーがハーヴェイをパスしたのを除くと、ほとんど動きは見られなかった。続いて琢磨はブラックタイヤに交換。さらに2度のイエローコーションを挟みながらも、そのまま最後のスティントを迎える。

「トップ5を走るドライバーのスピード差はごく小さく、このためオーバーテイクは至難の技でした。僕はポジションを守って走り続けましたが、リスタートのときでさえ、誰もアタックを仕掛けることできませんでした。レース終盤の最初に出たイエロー後のリスタートでは、ディキシーとの間隔が少し縮まったので、僕はできるだけブレーキングを遅らせましたが、少しだけオーバースピードだったようで、彼にクロスラインを仕掛けられてそのまま抜き返されました」

 ほどなく後方から追っ手が迫ってくる。「レッドタイヤを履くマーカス・エリクソンが追い上げを始めました。彼は僕やディキシーよりもペースが速く、やがて僕とのバトルになりましたが、なんとか抑えていました。とても緊張感溢れる戦いで、ものすごく楽しかったです!」

 セントピーターズバーグのレースを戦い終えても、琢磨たちが緊張感を解くことはできない。なにしろ、翌週はテキサス・モーター・スピードウェイでダブルヘッダーが開催されるのだ。「とても楽しみです」と琢磨。「僕たちはテキサスで1日テストを行ない、とてもいい成果を手に入れました。ただし、だからといって僕らが十分にコンペティティブというわけではありません。僕たちは新しいエアロパッケージを持ち込みますが、こうした冬の間の努力が報われることを期待しています」

written by Marcus Simmons
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