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Rd.2 [Sat,04 July]
INDIANAPOLIS RACE 1

ようやく迎えたシーズンの幕開け 第2戦 インディGP
 インディカー・シリーズの開幕が3ヵ月遅れとなるのがたとえ平気だったとしても、佐藤琢磨がレースを戦うまでにはそこからさらに4週間待たなければならなかった。しかも、さらに腹立たしいことに、琢磨が本当の意味で勝負に挑めるようになったのはレース中盤を迎えてからのこと。インディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースで開催されたインディGPの途中でようやく態勢が整った琢磨は驚異的な追い上げを見せ、最終的に10位でフィニッシュしたのである。

 6月初旬にテキサス・モーター・スピードウェイで行なわれた開幕戦で、琢磨は超過密スケジュールの犠牲者となっていた。琢磨は予選中にマシーンをクラッシュさせてしまったのだが、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのメカニックたちは彼らのダラーラ・ホンダを補修するのに必要な時間が与えられず、琢磨にとってのシーズン開幕は7月第一週のインディまで“お預け”になったのだ。

「テキサスでは辛い思いをしました」と琢磨。「通常のスケジュールであれば、レースまでにマシーンを補修する時間は十分にありましたが、いつもと違って予選と決勝のインターバルが極めて短かったため、作業は間に合いませんでした。これはとても残念なことでした。いうまでもなく、世界中を襲う現在の状況は極めて困難なものです。そのことはわかっているつもりですが、それでも苛立ちを抑えることはできませんでした。ただし、多くのスポーツイベントがいまだに開幕さえできていないのですから、僕たちはレースができることを素直に喜ぶべきなのかもしれません」

 琢磨がいうとおり、インディGPのスケジュールは実に立て込んだもので、90分間のフリープラクティスに続いて予選、レース当日のウォームアップ、さらに決勝レースを立て続けに行なう予定になっていた。「基本的に恐ろしくタイトなスケジュールなため、できることはごく限られていました。プラクティス・セッションが90分間あっても、直後に予選が行なわれるため、走行後にデータを分析する時間はありません。したがって、どういうアプローチで戦うかを事前に決めておかなければいけませんでした」

 琢磨とグレアム・レイホールといういつものコンビに、スペンサー・ピゴットが操る3台目のマシーンが加わったことで、RLLRチームは作業を分担することができた。「僕たちはとてもアグレッシブで実験的な考え方のセットアップを冬の間に開発していましたが、これを熟成する時間がありませんでした。スペンサーは僕が昨年の予選で使ったセットアップで走るいっぽう、僕はこれとベースラインが近いセットアップで戦うことになりました。なぜなら、今季から採用されたエアロスクリーンの影響を見極める必要があったのと、去年に比べて30?(約17℃)も気温が高かったからです」

「けれども、1回のセッションですべてを試すのは極めて困難でした。僕は半分ほどまで作業をこなしたものの、まるでハイブリッドカーのような状態でした。そして予選を迎えます。決してコンペティティブではないものの、まずまずの線まで仕上がっているだろうと僕たちは予想していました」

 プラクティスでNo.30のマシーンを操る琢磨は16番手のタイムをマーク。続く予選では同じグループの9番手に留まり、決勝には17番グリッドから挑むことが決まった。「今回もものすごい接戦となりました。けれども、僕たちは予選後に1本のストレートにつき0.2秒もタイムをロスしていたことに気づきます。これは実にショッキングでした。今回、エンジン・マッピングに新しいコードを用いましたが、そのギア・シフトのストラテジーに問題があったのです。これは予想外のことで、速く走ろうとするとトラブルが表面化しました。予選をブラック・タイヤで走っていたときはグループ内で3番手か4番手につけていたので問題ないと捉えていましたが、レッド・タイヤでアタックするとスピードが大幅に低下したのです。これさえなければ予選の第2セグメントに進めていたので、とても残念です。ただし、グレアムは素晴らしい活躍を見せて予選で4位に入りました。チーム全体が力をあわせて戦っているのを見るのは本当に素晴らしいことでした」

 新しいセットアップで臨んだウォームアップで10番手に入った琢磨は「レースが待ちきれない」思いでいたが、ハンドリングが不可解な症状を示したため、この望みはすぐに消え去ってしまう。たった4周を走っただけで26台中の24番手まで後退した琢磨は早めのピットストップを行なうと、ペースが回復し始める20周過ぎまで最後尾を走行していた。

「たった数周走っただけで、手の打ちようがなくなりました」と琢磨。「ただちにバランスで苦しみ始めました。最初は、自分たちのセットアップがコンディションにマッチしていないのかとも思いましたが、グレアムは絶好調で周回を重ねています。ハンドリングは極度のアンダーステアだったので、マシーンに問題があるのは明らかです。そのことを無線で報告しましたが、ピットストップまではどうすることもできません。昨年に比べてレースが5周短縮された影響でイエローが出なくても燃料をセーブする戦い方が可能になったため、僕たちは2ストップ作戦でレースに挑みました。しかし、たとえ予定していた燃費を達成できたとしても、僕たちのペースがあまりに遅かったため、3ストップ作戦に切り替えることにしました。幸い、手元にはこれに必要なタイヤが十分残っていました」

 実際のところ、あまりパフォーマンスが高くないブラック・タイヤで決勝スタートを迎えたわけだが、予選の第2セグメントに進出できなかった関係で、琢磨たちは新品のレッド・タイヤを2セット残していたほか、予選でしか使っていないユーズドのレッド・タイヤも手元にあった。琢磨のマシーンにレッド・タイヤが装着されると、セットアップにも大幅な変更が加えられた。「ピットストップを行なうたびにフロントウィングの角度を起こしていきました。通常のレースでは、フロントウィングの調整しろを半ターン変えるかどうかというところですが、今回は6ターン以上もフロントウィングを起こしました! それでも良好なバランスは得られませんでしたが、リアサスペンションの一部が内部で問題を起こしていることがレース後に判明しました」

 たとえ「完璧からはほど遠い」ものだったとしても、マシーンの状態が改善されると琢磨はセイジ・カラム、ザック・ヴィーチをパスし、他のドライバーたちがピットインを行なうと8番手まで浮上。ここでオリヴァー・アスキューがクラッシュしてイエロー・コーションとなったのだが、おかげで琢磨は難しい状況に追い込まれることになる。

「そろそろピットに入るタイミングでしたが、僕がバトルをしていたドライバーをオーバーテイクしようとした目前で彼はピットインを行ないました。そこで逆転を狙ってコース上に留まることにしたのですが、やがてまさに僕がピットに戻ろうとしたところでピット・クローズを示すライトが点灯しました。慌ててピットロードエントリーから芝生を横切り、コースに復帰しますが、これは非常にまずいタイミングです。なにしろ燃料がほとんど残っていなかったのですから。ただし、ピットクローズ中は燃料補給が最大で2秒間しかできないことが規則で決められています」 そこで琢磨はこれに従い、ピットがオープンになった後で再びピットインを行ない、今度はフルサービスを受けたのである。「これでかなりタイムをロスしましたが、イエローが出たときはおそらくこうするのが正しいのでしょう。結果的に僕は中団のポジションでコースに復帰できました」

 レースが再開されたとき、琢磨は18番手だった。その後、調子が上がらないアレクサンダー・ロッシ、マックス・チルトン、マルコ・アンドレッティをオーバーテイク。さらに他のドライバーがピットインしたため、琢磨が最後のピットストップを行なう直前には6番手まで浮上。そして琢磨は14番手でレースを再開した。

 フィニッシュまでの23周で、琢磨はジャック・ハーヴェイ、トラブルを抱えペースが伸び悩んでいたピゴット、ザック・ヴィーチをパス。最後にコノー・ダリーを仕留め、10位でフィニッシュした。「最後のスティントはエキサイティングでした。なにしろ、次から次へとライバルたちに追いついたのですから」

「僕たちは全力を尽くしましたが、ペースは期待したほど速くはありませんでした。どこかの調子がよくない限り、あそこまで遅くなるとは考えられません。レース後にエンジンカバーを外したところ、サスペンションのあるパーツが明らかに壊れていることが判明しました。このような状況だったので、僕は10位でフィニッシュできたことをとても嬉しく思いました。とりわけ、ハードワークをこなしてくれたメカニックたちにはとても感謝しています」
「もうひとつ嬉しかったのが、グレアムが素晴らしいペースでレースを走り抜き、2位でフィニッシュしたことにありました。これは、僕たちが2020年シーズンのために開発したセットアップ・フィロソフィーが順調に進化していることを示しています。ただし、シーズンはまだ始まったばかりなので、今後は僕も追いつくつもりです」

 次週はロードアメリカでダブルヘッダーが開催されるので、琢磨が復調するまで長く待たされることはないだろう。「ファンのみなさんにはずいぶんお待たせしましたが、きっと面白いレースをお見せできると思います。これは素晴らしいことですよね。レースがダブルヘッダーとなるのはチャレンジングですが、インディアナ・モーター・スピードウェイの勢いを保っている僕たちにとっては都合がいいことでしょう」

written by Marcus Simmons
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