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ポコノで行なわれたインディカー・シリーズの500マイル・レースは、佐藤琢磨を含む5台のマシーンがオープニングラップのアクシデントに巻き込まれ、琢磨はわずか1マイルほど走っただけでリタイアに追い込まれた。不幸中の幸いだったのは誰も大きなケガをしなかったことだが、6月に始まった琢磨の不運は8月のポコノでも繰り返されたのである。
とはいえ、琢磨は全長2.5マイル(約4km)のポコノ・スーパースピードウェイを心から愛している「初めて参戦したときから、ポコノではいつもレースを楽しんできました」と琢磨。「必ずしもいい成績を挙げたわけではありませんが、予選では素晴らしい結果を残しています。アンドレッティ・オートスポーツから臨んだ2017年はポールポジションを獲得しましたし、AJフォイト・レーシングに在籍していた当時もトップ3に入っています。とにかく素晴らしいコースで、たくさんの楽しい思い出があります。今年の僕たちはオーバルでとてもコンペティティブなので、ポコノでコンペティティブでない理由はどこにもありません。僕たちのスーパースピードウェイ・パッケージは、(琢磨がインディ500で3位に入った)インディアナポリス・モーター・スピードウェイでもテキサスでも非常に強力だったので、ポコノも楽しみにしていました」 ところが土曜日にペンシルヴァニアの田園地帯は荒天に見舞われる。このため2回のプラクティスと予選はキャンセルされ、スターティンググリッドはポイント・スタンディングのオーダーによって決められた。つまり、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダは7番グリッドからスタートするわけだ。この日の遅くに雨が止むと、2時間のプラクティスが行なわれた。当初予定されていながらキャンセルされた、2度の1時間セッションがこれに置き換えられたのだ。 「去年と同じで、とても残念です。空模様は僕たちの味方というわけではないようです。予選がキャンセルされたときはとてもがっかりしましたが、その後のプラクティスを走行して『これは少しラッキーだったかもしれない』と考え直しました。なにしろ、まったく思うようにいかなかったからです。僕たちはタイムシートのいちばん下あたりをうろうろしていました」 結果的に琢磨は18番手となった。「僕がこれまでにスーパースピードウェイで経験したなかで、もっとも苦しいプラクティスとなりました。マシーンのバランスを整えるのがひどく難しくて、スタビリティにも問題がありました。バランスをよくするためにパフォーマンスを下げる変更さえ行ないましたが、こんなことでは決して速く走れません」 「2時間の走行枠をひとつのセッションにまとめることは、走行できる時間の長さは同じでも、途中にデータを分析したりセットアップを変えたりする時間がないので、意味としてはまったく違ってきます。これでできるのは簡単な調整くらいです。僕とチームメイトのグレアム・レイホールは苦戦を強いられたうえ、そのまま決勝レースに挑むことになりました」 いつものように、ポコノのオープニングラップはきわめてドラチックなものだった。「新しいエアロパッケージのおかげでオーバーテイクはほとんど見られません。このため、どのドライバーもスタートとリスタートでなんとかチャンスを手に入れようとし、スリップストリームに入ろうとして懸命になります。普段であれば、誰かの後ろについてスリップストリームを得ようとする動きはとてもエキサイティングなものですが、ときとして最悪の結果を招くことがあります」 「僕の走り出しはあまりうまくいきませんでした。スタートの直前、減速と加速を繰り返すアコーディング効果の影響を受け、加速するタイミングをわずかに逃してしまいました。ターン1までにひとつポジションを落としましたが、すぐにこれは取り戻します。僕はライアン・ハンター-レイを追走していて、とてもいい具合にコーナーから脱出できました」 「僕もライアンもターン1でアレクサンダー・ロッシが苦しんでいることに気づきました。ここでライアンは左へ向かったので、僕は自然とアウトサイドを選択しました。基本的に僕はスコット・ディクソンを追っていて、まっすぐ走っていましたが、その直後に接触し、大変な事故に発展しました」 最初に絡んだのはロッシとハンター-レイで、琢磨のマシーンはコースのアウト側に向かったところ、ジェイムズ・ヒンチクリフと接触。これがきっかけでフェリックス・ローゼンクヴィストが巻き込まれたのだが、彼のマシーンは空中に浮き上がってからフェンスに激突。琢磨のマシーンは上下逆さまの状態でコース上に止まった。「いちばん恐いのは大きな衝撃です。今回の事故はとてもひどい状況に見えましたが、僕はウォールと2度衝突したあと、ほかのマシーンと3回接触しました。マシーンが上下逆さまになったのは、僕のレース人生で初めてのことです! けれども、衝撃のエネルギーからうまく逃れることができました。停止するまでに4回か5回は衝突しましたが、コクピット内の様子はそれほどひどくありませんでした」 「外側のウォールに向かっていったときは深刻な事態になるかもしれないと思いました。衝突の角度があまりよくなかったことをはっきりと覚えています。ターン2は左に曲がっているので、僕はインサイドからアウトサイドに進んでいきました。このため、衝突の角度は60度に近い状況でした。これはマズイと思ったものの、もはやマシーンをコントロールする術を持たない僕にはどうにもできません。激しい衝撃に備えて身構えましたが、フェリックスと接触したおかげで衝撃の加わる角度はずっと浅いものになりました。これは僕にとっては幸運でしたが、フェリックスにとっては不運なことでした。フェリックスのことが心配でしたが、セーフティ・チームがいつものように素晴らしい働きをしてくれました」 この事故で琢磨はたくさんの非難を浴びることになる。とりわけロッシとテレビ解説者は「琢磨がコースの下側に下がってロッシと接触したのが事故の原因だ!」と激しく糾弾した。しかし、琢磨のオンボードカメラが捉えた映像を見ると、これとは違った構図が見えてくる。「アクシデントの際には混乱が起きるもので、なにが起きたかについて100%の確信を持てるとは限りません。僕がたしかに覚えているのは、まっすぐ走っていたということです。多くの人々が『琢磨が下がっていった』と非難していますが、僕は自分の記憶を辿って話さなければいけません。事故直前、僕のペースはとてもよくて、すでにロッシを抜いていると思いましたが、彼と接触してしまいました」 「メディカルセンターにダリオ・フランキッティがやってきて『タク、メディアに向かって何か話す前に、注意してリプレイを見直したほうがいいよ』とアドバイスしてくれました。というのも、ダリオはアレックスが上に上がってきたと思っていたようです。ただし、どれほど見ようとしてもこの目で確認することはできません。テレビ中継では僕が下がったと指摘していたようです。もしかしたらそう見えたかもしれませんが、いずれも相対的な動きです。ライアンが上がってきて、真ん中のロッシはどうすることもできず、上に上がってきた。僕のオンボードカメラが記録した映像を見ると、僕はまっすぐ進んでいて、2台が上がってきているように思えます。だからこそ、僕が下がっていったように見えたのでしょう。路面の継ぎ目は平行かつ直線的に伸びています。これを基準にして見ると、僕がまっすぐ走っていたことがわかります」 「ただし『僕が正しい』と言うつもりはありません。あれは純粋なレーシングアクシデントで、僕たちは本来、もっと間隔を開けるべきだったのです。僕のミスでもなければ誰かのミスでもありません。ただ、僕たちは接近しすぎたのです。僕はとても落胆するとともに、アレックスのチャンピオンシップ争いに影響を与えてしまったことを申し訳なく思いました。それにしても、見れば見るほど、タフなレーシングアクシデントだったことがわかってもらえるでしょう」 インディカー・シリーズはポコノからセントルイスのゲートウェイ・オーバルへとダイレクトに向かう。「昨年はいい週末になりませんでした。でも、コースは楽しめたので、今度はコンペティティブなパッケージが用意できることを期待しています」 written by Marcus Simmons |