RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.13 [Sun,28 July]
Mid-Ohio

小石が招いた災い
 インディカー・シリーズにおける佐藤琢磨の復調がなかなか見通せない。ミドオハイオ戦ではまたも“シーズン半ばのジンクス”に見舞われ、琢磨に非がなかったにもかかわらずオープニングラップでアクシデントに巻き込まれてしまう。それ以降、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLLR)のダラーラ・ホンダはトップグループに匹敵するスピードを示しながらも、首位のほぼ1周遅れを走り続けた。このため、期待外れな結果に終わったプラクティスと予選に続き、17番手からスタートしたレースでも琢磨の純粋な速さを上位フィニッシュには結びつけられなかった。しかも、レース中にイエローコーションが提示されなかったのだから、琢磨にとってはなおさら困難な状況だったといえる。こうして、琢磨は上位に食い込めるポテンシャルを持ちながらも19位に終わった。これは、オープニングラップで起きた不運なアクシデントがきっかけとなって給油にトラブルを抱えた影響でもあった。

 RLLRにとってミドオハイオは一大イベントである。「いつも僕たちはここで大声援を受けることになります」と琢磨。「ここにはレイホール・ファミリーがたくさん訪れるほか、ホンダの工場も建っているのです」 けれども金曜日のプラクティスは芳しくなく、1回目のセッションは14番手、2回目は20番手に沈み込み、土曜日の午前中に行なわれた3回目のプラクティスも18番手に終わった。

 「僕たちはコースで苦しみ、マシーンは高いパフォーマンスを発揮してくれません。しかも大変な接戦で、このコースでは滅多にないことですが、僕たちはなぜかラップタイムをまとめることができませんでした。初日からバランスとグリップの両面で苦しんでいたのです。特に金曜日はひどいアンダーステアで、スナップオーバーも経験したほか、満足なグリップは得られませんでした。2回目のセッションでレッド・タイアを装着したときの感触は悪くありませんでしたが、セッティングを正しく仕上げるのは困難で、僕のマシーンもチームメイトであるグレアム・レイホールのマシーンも、セットアップの方針という面ではいったりきたりを繰り返していました。
(琢磨が圧勝した)バーバーでのセットアップは使い慣れたものなので、これがうまく機能することを期待していましたが、ミドオハイオではうまくいきませんでした」

 予選グループ内の順位は9番手だったので、予選はそれほど悪くなかったともいえるが、第2セグメントには進出できず、17番手グリッドからのスタートが決まった。「僕たちのホームレースとしては悪夢といっていい結果です。僕もグレアムもあとコンマ数秒が足りずに第1セグメントで敗退しました」

 ウォームアップではNo.30が7番手となり、決勝に向けてかすかな期待が芽生えた。「ほんの少しよくなりました。このときはレッド・タイアも使いましたが、同様にレッド・タイアを装着したドライバーは全体の1/4ほどでした。ミッドオハイオでは3ストップが定石となるものの、ときとして2ストップとなりこともあります。そこで僕たちはレッド・タイアでロングランしたときのデグラデーションを確認しようとしたのです。結果は悪くありませんでした。マシーンのフィーリングは良好で、レッドでもブラックでもペースは悪くなさそうでした」

 スタート直後の1コーナーで琢磨はジャンプアップを達成。そのまま、ミドオハイオではお馴染みのターン4まで続く高速セクションを疾走していった。そのブレーキングエリアでマシーン間の間隔が狭まるとレイホール、マックス・チルトン、サンティノ・フェルッチをパスして3つ順位を上げる。ところが不運にも、琢磨の前にいたジェイムズ・ヒンチクリフはアウト側にはらんだ後で元のラインに戻ろうとし、この影響でアロウ・シュミット・ピーターソン・モータースポーツのチームメイトであるマーカス・エリクソンが琢磨と接触してしまう。「ちょっと運が悪かったようです。長いストレートに続いて、ターン4に向けてヘビーブレーキングを使っているとこでした。ここではサイド・バイ・サイドもできるほか、エキサイティングなコーナーがいくつかあります。前のドライバーが思ったよりも早めにブレーキングしたので、僕はそのイン側に飛び込みました。このときはまったく問題がないように思われました。勢いはあったものの、停まることもできたからです。けれども、アウト側からアプローチしてきたヒンチはかなり勢いがよかったようで、大きく減速しなければいけませんでした。これを避けようとしたマーカスがコーナーの中央付近にやってきます。イン側から進入した僕もコーナーの真ん中付近でドリフトし、2台は接触しました。ここで左フロント・タイアがパンクしたのに、コーナーを2、3抜けるまで僕はそれに気づきませんでした。おかげで操舵が利かなくなり、僕はグラベルに飛び出してしまいます。このため僕はピットに戻ってタイア交換を行ない、再びコースインしたのです」

 琢磨がコースに復帰したポジションは、トップを走るウィル・パワーのやや前方だった。ところがこのスティントで、琢磨はペンスキーのマシーンをジワジワと引き離していった。「とてもいいペースでした。最初、ウィルは僕の8秒後方を走っていましたが、最終的にはこれがほぼ15秒差まで広がりました。僕たちはウィルを上回るペースで周回していただけでなく、彼よりも遅いタイミングでピットインできました。つまり、ブラック・タイアを履いているときの僕たちの速さはホンモノだったのです。もっとも速いドライバーのひとりだったといってもいいでしょう。そこでプッシュし続けました。イエローが出れば挽回のチャンスになったでしょうが、残念ながらそうはなりませんでした」

 最初のピットストップが一巡したとき、琢磨は19番手まで浮上していた。やがて琢磨はラップダウンになったものの、第2スティントの終盤に差し掛かるまでこのポジションを守り続けていた。「ところが計算よりも早く燃料がなくなったので、僕たちはとても驚きました。少なくともあと1周は走れたはずなのに、ピットインしなければならなくなったのです」

 続くスティントで琢磨はRCエナーソン、チルトン、マティアス・ライスト、マルコ・アンドレッティを攻略して15番手へと躍進。やがてスコット・ディクソンをパスしてリードラップに返り咲く。ところが、これで最後のスティントのはずだったにもかかわらず、フィニッシュ前にスプラッシュ&ゴーをしなければならなくなったのだ。「僕がピットにいるとき、スコットにラップされました。このとき、計算上はまだスティントの半ばで、給油せずに走れるはずでした。目の前に何台かがいたので、彼らに追いついてオーバーテイクしました。さらにイエローが出ることを期待しましたが、そうはなりません。結局、スプラッシュ&ゴーを余儀なくされました」

 「レース後、フューエル・リグがダメージを負っていたことが判明します。オープニングラップでコースオフしたとき、たくさんの砂利が舞い上がり、そのうちのひとつがフューエル・リグに噛み込んだため、完全には満タンにできなくなっていたのです。予定よりも1周か2周早くピットストップしなければならなかったのは、このためでした。しかもイエローが出なかったので挽回できなかった。とても悔しい週末となりました」

 「本当だったらもっと前のポジションで戦えたはずですが、ブラック・タイアでのペースが速かったことは僕たちの自信となりました。とはいえ、今年の夏はずっと不運が続いています……」

 ペンシルヴァニアのポコノ・スーパースピードウェイで開催される次戦でこそ、この悪い流れが断ち切られると期待しよう。「インディカー・シリーズは夏休みに入りますが、僕たちにとってはリフレッシュするいい機会になりそうです。すでに数日間にわたってシミュレーターでテストしているので、ポコノが楽しみです。“トリッキー・トライアングル”とも呼ばれるポコノのレースを、僕はいつも楽しんできました。できれば、ここでいいレースを戦い、シーズン残りのレースで好成績を挙げたいと願っています」

written by Marcus Simmons
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