COLUMN |
ジェイムズ・ヒンチクリフが縁石に弾き飛ばされて佐藤琢磨に接触したとき、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダはインディカー・シリーズのロードアメリカ戦で6位入賞のチャンスを失った。これで琢磨は一時順位を落としたが、それでも挽回して10位でレースを終える。ただし、チャンピオン争いではひとつポジションを落として6番手となった。
結果は芳しいものではないが、フリープラクティスで苦戦を強いられた琢磨とグレアム・レイホールが予選で躍進したことは大きな驚きだった。なにしろ、FP1で2番手だった琢磨は、残るふたつのセッションを18番手で終えていたのである。 「FP1はうまくいきました」と琢磨。「僕たちにはいいベースセットアップがあって、昨年はこのおかげで力強く戦うことができました。いっぽう、(琢磨が席巻した)バーバー・モータースポーツ・パークでは素晴らしい成績を収めました。2019年のロードコース・セットアップはバーバー用をベースとしたものなので、これを基本としてロードアメリカ向けのセットアップを施しました。僕たちには自信がありましたが、実際には期待どおりにいきませんでした。雨の影響でマニュファクチュアラー・テストが行われず、FP1の結果も僕たちの実力を正しく反映していたとはいえません。2回目のプラクティスではスピードが伸び悩み、3回目では方向性が間違っているように思われました。エンジニアリング・チームは軽いパニックに陥っていたようで、グレアムと僕は異なるセットアップを試すことにしました。ふたりともコンセプトは同じですが、別々の方向性を試したのです」 ところが、予選ではすべてが順調に進んだ。Q1グループから挑んだ琢磨は2番手となり、易々と第2セグメントに進出。そこで5番手になるとファイアストン・ファスト6に駒を進め、6番手のタイムを残した。「予選では2台ともいいペースで走りました。このため、どちらのセットアップがいいかは判断できませんでしたが、嬉しい結果でした! マシーンの感触はずっとよくなっていました」 「2回目のプラクティスで僕たちはレッド・タイアを試しました。レッドはブラックに比べてほんの少しグリップがよかったけれど、デグラデーションは激しそうでした。昨年はレッド・タイアで戦うレースだったので、この結果には不安を覚えました。金曜日の最後にはウォームアップ(琢磨はこれを15番手で終える)があったので、セットアップ作業はまだ完全に終わったわけではなく、しかもこれがFP2の直後に行われたので解析する余裕はありません。けれども、Q1とQ2ではレッド・タイアから良好なグリップを引き出すことができました。Q3では2セットのタイアで1ラップずつ走るか、それとも1セットで2ラップを走ってレースのためにタイアをセーブするかが悩みどころです。結局、僕は1セットで2ラップを走りましたが、十分なグリップは得られませんでした。また、僕はダウンフォースをやや多めにし、グレアムはやや少なめにして走りましたが、ふたりの間にはわずかに100分の7秒しかタイム差がありませんでした。でも、プラクティスで苦戦したことを考えれば、予選を(グレアムの)5位と6位で終えられたことを喜ぶべきでしょう」 レースのオープニングラップはとてもドラマティックな展開になった。スタートの混乱でセバスチャン・ブールデとヒンチクリフに先行されて8番手へと後退した琢磨は、ターン1からターン3にかけてアウト側のラインを守ってふたりを抜き返すと、ターン5ではジョセフ・ニューガーデンに鋭く切り込んで5番手となったのだ。 「スタートでは、前のクルマとの間隔を少し開けようとしたジョセフがスロットルを緩めたらしく、また、サイド・バイ・サイドになりかけたグレアムはスロットルを踏み込むタイミングでまだ半車身ほど先行していました。ターン1へのアプローチでは誰もがイン側を目指していたので、僕はアウト側から攻めるつもりでいましたが、ここにジョセフが(アウト側に)戻ってきたため、僕はブールデに抜かれただけでなく、ヒンチクリフにも抜かれそうになりました。ターン1のアウト側には危険な縁石があり、僕はほとんどヒンチクリフにオーバーテイクされそうな状態になります。けれども、ターン3にはアウト側から進入できたので、僕はブールデとヒンチクリフをまとめて仕留めることができました。コーナーの立ち上がりは素早く、ジョセフのスリップストリームも使えました。ジョセフはポジションを守ろうとしましたが、ブレーキングでマシーンが流れたおかげで僕はイン側に飛び込み、チームメイトの後ろにつけました。ジョセフには『ありがとう』と言いたいですね!」 2ラップ目、琢磨はレイホールにチャレンジして4番手に上がろうとしたが、この影響でニューガーデンの先行を許してしまう。3ラップ目のターン1で琢磨は再びニューガーデンのイン側をうかがったが、このとき勢いを失ってしまい、ターン3の進入ではヒンチクリフに仕掛けられることとなる。 「グレアムを攻略するチャンスがありました。でも、僕はスロットルを緩めて彼の後ろにつけたところ、ジョセフにスリップストリームを使われてしまいました。ターン12の出口で僕たちはサイド・バイ・サイドになり、彼に先行されました。続いて、僕はジョセフのスリップストリームを手に入れましたが、直後に彼は自分のラインに戻ったのです。これ自体は構いませんが、2台の間隔は半車身もなかったので、僕はターン1に浅い角度で進入することになり、その結果として理想的なラインでコーナーから脱出できなくなりました。この影響で縁石に乗り上げ、おかげでヒンチとサイド・バイ・サイドになったのです」 「ヒンチは縁石の内側にタイアを落としていたため、しっかりとターンできず、僕たちは不運にも絡んでしまいます。かなり危うい状態になりましたが、僕はどうにか態勢を立て直しました。ただし、ここで順位を落としたうえ、コースオフした影響でタイアが本来の性能を取り戻すまで、しばらく待たなければいけませんでした」 これで琢磨は12番手に転落。ただし、早めに1回目のピットストップを行うまでにはエド・ジョーンズ、マルコ・アンドレッティ、スペンサー・ピゴットを攻略して9番手へと返り咲く。いっぽう、ピットストップを早めに行ったのは、フレッシュな空気を採り入れることと、もしかしたらアンダーカットが可能かもしれないという希望に基づく判断だった。しかし、この作戦は成功することなく、レースが残り5周になったときには、不思議にもイエローが出なかったこともあって12番手へと順位を落としていた。 「今回のレースは3ストップが基本で、12ラップ目には最初のピットストップを行うことができました。このときはレッド・タイアの性能が落ちかけていたので、僕たちはブラック・タイアに換えてアンダーカットを狙いました。けれども、冷えたタイアでピットアウトしたため、ペースが伸びません。どうやらアンダーカットができるのはF1だけのようです。その後のスティントではブールデやライアン・ハンター-レイとバトルし、ときには彼らの前方にサイモン・パジェノーやスコット・ディクソンの姿も見えました。けれども、最後のスティントまで本当のチャンスが訪れることはありません。僕は最初のピットストップを誰よりも早く行っていたので、最後のスティントに備えて燃料のセーブもしなければいけなかったのです」 「最後のスティントを迎える前からレッド・タイアがあまり機能しないことはわかっていましたが、もしかしたらレース後半に状況が劇的に変わり、レッド・タイアがさらに速くなって長持ちするようになっているかもしれません。ここで、みんなはレッドを選びましたが、僕はブラックを履くことにしました」 この判断は正しかった。最後のスティントにおいて、琢磨は残り5周でブールデをパスして11番手に駒を進めると、最終ラップにはハンター-レイを攻略して10番手となる。「彼らはレッド・タイアで一旦はリードを広げたけれど、それからペースは同じくらいになって、やがて苦しみ始めたことがわかりました。まずはブールデを仕留めると、ファイナルラップになってようやくライアンのテールを捉えます。このときはとても面白いバトルになりました。彼のほうがプッシュ・トゥ・パスの残りは多くて、ふたりともメインストレートではこれを使いました。ターン1でライアンはインを守るラインを選んだため出口側で苦しくなり、僕はターン3に向けてラインをクロスさせます。このとき2台ともドリフトしましたが、僕はこういう戦いが大好きです。2台とも限界ギリギリだったことはイン側のホイールがロックしていることからもわかります」 「ライアンはターン5に向けて猛追してきて僕をパスしましたが、この後でふたたびサイド・バイ・サイドに持ち込むと、僕はギリギリのハードブレーキでコーナリングの主導権を握りました。長いストレート、ヘビー・ブレーキング、サイド・バイ・サイドなどは、ロードアメリカのまさに名物です。少なくとも今回は、力強く立ち直って貴重なポイントを獲得し、チャンピオンシップでのダメージを最小限に食い止めました。僕たちのマシーンで表彰台に上れたとは思いませんが、トップ6は可能だったでしょう」 トロントで行われる次戦に先立ち、琢磨は撮影のために日本へ向かい、そこからイギリスに渡ってグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加する。ここで琢磨は、アラン・プラストとアイルトン・セナが1988年F1選手権を16戦15勝で席巻したマクラーレン・ホンダMP4/4を走らせるのだ。「最高に楽しみです。レーシングドライバーなら誰もが操ってみたいと思う夢のマシーンですし、グッドウッドを訪れるのは本当に久しぶりです。その後でトロントを訪れるのも楽しみです。トロント戦は今季最後の市街地レースになります。去年はマシーンがとてもコンペティティブだったので、今年も好調なはずなので、いい結果が出せると期待しています」 written by Marcus Simmons |