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Rd.9 [Sat,08 June]
Texas

一瞬のミスで栄冠を棒に振る
 「本当に残念です」 佐藤琢磨が悔しそうに呟く。「大きな成功を収められそうな週末だったのに、望みどおりにはなりませんでした」 テキサス・モーター・スピードウェイで開催されたインディカー・シリーズの一戦を、琢磨はそんな風に振り返った。好調のうちに2019年のシーズン前半を終えた琢磨はテキサスでポールポジションを獲得すると、その決勝では最初のピットストップを行なった61周目までレースをリードしていた。ところが、その直後に不運なアクシデントが発生してクルーのクリス・ウェルチを転倒させ、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダは勝機を失う。この結果、琢磨は3周遅れの15位でレースを終えた。

 木曜日の夜に行われた最初のフリープラクティスからすべて順調に進んでいるように思えた。2時間の予定だったセッションは嵐のような天候によりおよそ半分に短縮されたが、バンク角の深い1.5マイル・オーバルで琢磨は2番手タイムをマークする。「通常、最初のプラクティスは日中に行なわれ、これに続いて予選と夜間のプラクティスが実施されます。ところが、今回はスケジュールが変更となりました。その理由はNASCARのトラックレースが走行したことだけではなく、タイアに多数のブリスターが発生した昨年の事態を心配したファイアストンの意向も関係していました。今回、彼らは構造とコンパウンドを改良したタイアを持ち込んできました。そのタイアを、決勝レースと同じ夜のセッションで最初に試したいとファイアストンは考えたのです」

 「走り出しからマシーンはコンペティティブでした。セットアップのコンセプトはインディ500用からヒントを得たもので、昨年のテキサスで使ったものとは大きく異なっています。けれどもマシーンは速く、トラフィックでの挙動も良好でした。チームメイトのグレアム・レイホールと僕は、細かい調整部分を除けば同じセットアップを用いていました。残念ながらセッションが短縮されたことでタイアは1セットしか使えず、それもフルに使い切ったわけではありませんでしたが、ブリスターは発生しませんでした。マシーンによっては細かい問題も起きたようですが、いずれもタイア空気圧が原因だったと思われます」

 夜のセッションで速かった琢磨は、金曜日の日中に行なわれた2回目のセッションでも2番手と好調で、予選に向けては楽観的なムードが漂っていた。「とても暑い日でした。木曜日のセッションが短縮されたおかげで、タイアのセット数には少し余裕がありました。レース用のセットアップ作業は順調に進み、セッション後半ではローダウンフォースの予選シミュレーションを3回行ないました。走るたびに僕たちは速くなっていって、予選に向けても自信を抱いていました。マシーンの状態はとにかく好調でした」

 その言葉に偽りはなく、琢磨はスコット・ディクソンを僅差で破ってポールポジションを獲得。これはインディカー・シリーズで手に入れた通算9度目のポールポジションで、今季2度目にあたる。「グレアムのスピードを見たときはちょっと心配になりました」 この予選でグレアムは9番手に終わった。「バランスはいいけれど6速が少しハイギアード過ぎて思ったほどスピードが伸びなかったと、グレアムは教えてくれました。ただし、彼と僕の間には4台のマシーンが走ることになっていました(予選の出走順はチャンピオンシップの逆順となるため、ポイント争いの上位ドライバーにとっては有利になる)」

 「ウォームアップを行なったとき、少し自信がわきました。そしてグリーンフラッグが振り下ろされると、僕はできるだけホワイトラインに沿って走行しました。この日は暑かったので、僕たちはあまりダウンフォースを減らしませんでした。テキサスのコースはずっとコーナリングしているような状況で、もしも欲張ったセッティングのマシーンにするとトラクションを失うことになります。ちょっとおかしな話ですよね。だって、普通トラクションといえば低速コーナーとかヘアピンコーナーで使う言葉で、200mph(約320km/h)以上で走っているときには使いません。いずれにせよ、僕たちはダウンフォースを少し多めにして短い走行ラインをトレースすることにしたのです。マシーンのバランスは完璧で、スリップアングルはとても小さく、予選でトップになれたことは本当に嬉しかったです。実質的にライバルとなったのはディクソンだけで、彼とは僅差になりましたが、なんとか破りました。これは素晴らしい結果です。チームは最高の仕事をしてくれました。なかでもエンジニアリングチームには最大限の賛辞を送りたいと思います」

 長い待ち時間を経て決勝レースが行なわれたのは土曜日の夜。スタートではディクソンの加速がよかったが、琢磨はインサイドを守ってターン1に進入するとトップを守りきった。それは完璧なスティントで、琢磨は5度もチャンピオンに輝いたドライバーにおよそ2秒の差をつけていた。「とても安心していられる状況でした。ライバルを引き離していったのです。マシーンのバランスには満足していました。プラクティスではフルタンクで走る機会がなく、タイアのデグラデーションについてわからなかったので、1秒以上のリードを築いてからは後続とのギャップをコントロールすることにしました。最初の30ラップは本当に余裕のある走行でしたが、やがて周回遅れが現れるようになるとタービュランスの影響で難しい状況となりました。かつてテキサスでは2番目や3番目の車線を使うこともありましたが、いまでは走行ラインは基本的に1本しかありません。レギュレーションによって今年は1000ポンド(約450kg)もダウンフォースが増えたはずですが、それで状況が大きく変わったとはいえなかったと思います」

 「それでも、最後の20ラップでリアにブリスターが発生するまで、すべてはうまくコントロールされていました。この影響でトラフィック内でのオーバーテイクはとても難しくなりました。また、このレースはフューエル・ウィンドウが非常に広いため、何人かのドライバーは早めにピットストップを行なっていました」

 そして運命の61周目、琢磨はピットロードに向かった。
「本当にひどいことが起こりました。いくつもの要因が重なったのは事実ですが、結局のところは僕のミスでした。ピット・ボックスに向けて向きを変えるタイミングを見誤ったのです。しかもスピードが高すぎたため、マシーンを停められませんでした」
「巨大なグランドスタンドの間からレースコースに日が差し込んでいて、この光がチームのピット・ストップ・ボードを照らしていたため、僕にはよく見えませんでした。第2の問題は、通常ピットボックスにマシーンを停めるときは無線で『3、2、1』とカウントダウンしてもらうのに、サンティーノ・フェルッチは僕のピットのすぐ前にいたため、彼の声は聞こえませんでした。おかげでピットストップの準備を行なうのが遅れてしまいます。1秒の遅れが深刻な状況を招くため、本来はいつでもブレーキが踏めるように準備をしておかなければならないにも関わらず、です。」

 「220mphに比べれば60mph(約100km/h)はずいぶん遅く感じるかもしれませんが、マシーンには慣性力が働いているため、ピットでの減速や停止は簡単でありません。ブレーキングのタイミングが遅れたのでブレーキペダルを強く踏み込みましたが、おかげでタイアがロックし、マシーンはメカニックに向かって一直線に流れていきました。僕は瞬間的にブレーキを緩めてマシーンを直進状態に戻すと、再びブレーキを踏み込みました。とてもドラマチックに見えたのは、その影響でしょう。このとき、マシーンの左前がエアガンのホースを引っかけてしまい、これがクリスの足に当たり、彼は僕のマシーンに飛び乗る格好となりました。本当に、最悪の状況です」
「これまで20年間レースを戦ってきて、ピットストップでやや手前にマシーンを停めたり、行きすぎた場所に停めたことは一度もありませんでしたが、かりにミスしたとしても最大でタイアひと転がり分程度です。いままでオーバーシュートしたことは一度もなかったので、そのことを気に病んだこともありませんでした。自分のチームのメカニックがマシーンと接触してレースを棒に振るのは、言葉にできないほど辛いことです。誰も深刻なケガを負わなかったのは不幸中の幸いとしかいいようがありません。クリスは手を打撲したようですが、骨折には至りませんでした。彼が無傷だったのは神様のおかげだったのでしょう」

 この事故の責任を問われた琢磨には数周後にストップ&ゴー・ペナルティが科せられる。これを消化してコースに戻ったとき、琢磨は3ラップ遅れになっていた。その後、クラッシュで脱落するドライバーが現れるたびに琢磨はポジションを上げていき、最終的には15位でチェッカードフラッグを受けた。

 「もしもイエローがたくさん提示されればリードラップに戻れたかもしれませんが、今日はイエローのタイミングも僕に味方してくれませんでした。ほかのドライバーを追い越したこともありますが、周回数が異なるドライバーをいくら抜いても順位は変わりません。あの夜、僕はひどく落ち込みましたが、レースではなにが起きるかわからないので、チームはそのまま走り続けるよう僕に指示しました。そこで僕は一生懸命走りましたが、結果は変わりませんでした」
「チームには本当に申し訳なく思っています。とりわけ美しくてコンペティティブなマシーンを作り上げてくれたメンバーには心からお詫び申し上げます。しかし、僕は自分の職務を全うできず、おかげでチームは勝利を手に入れられませんでした」

 これまでは殺人的なスケジュールでレースが続いていたが、ウィスコンシン州のロードアメリカで次戦が始まるまでには少しだけ時間に余裕がある。ちなみに、昨年のこのレースを琢磨は4位でフィニッシュした。「ロードアメリカに行くのが待ちきれない気分です。僕たちに何ができるかを証明したい。ロードアメリカはもっとも素晴らしいコースのひとつで、昨年、僕たちはコンペティティブな戦いを演じました。だから、今年も僕たちがコンペティティブでない理由はどこにありません」

written by Marcus Simmons

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