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Rd.8 [Sun,02 June]
Detroit Race 2

気まぐれな勝利の女神
 インディカー・シリーズ恒例の2連戦“デュアル・イン・デトロイト”は佐藤琢磨にとって今年も悲喜交々の週末となった。今回も運と天候が様々に変化して信じられないような展開を生み出し、ほとんど全ドライバーが琢磨と同じような運命を辿ったのである。その結果、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る琢磨は第1レースを3位でフィニッシュし、今季3度目の表彰台に上ったいっぽうで、同じベル・アイランドの市街地コースで行なわれた第2レースでは13位に沈み込んだ。この結果、琢磨はポイント争いで引き続き5番手につけている。

 それでも、RLLRにとってこの結果は“救い”となった。マニュファクチャラー・エアロキットが用いられていた頃はこのコースで無敵を誇った彼らも、2018年にスタンダード・エアロキットが導入されてからは苦戦を強いられるようになったからだ。そして、その状況は2019年も変わらなかった。「金曜日は僕たちにとって非常に苦しい1日でした」と琢磨。彼はイベント初日に行なわれた最初のプラクティスを10番手で終えると、2回目は15番手に後退。そしてウィームアップでも15番手に留まった。「インディ500を3位でフィニッシュした直後だったので、僕たちにとっては大切な週末でした。メカニックは誰もがやる気満々でしたし、僕たちはデトロイトに戻ってこられたことをとても喜んでいました」

 「ただし、トラックの性格はインディアナポリスとは180度異なります。シリーズ中、もっとも平滑で、もっともスピードの高いスーパースピードウェイに対して、おそらくデトロイトはトロントに続いて2番目にバンピーなコースです。それでも僕はデトロイトが好きです。たくさんのいい思い出があり、チームにとってはもっとも多くの成功を収めたコースでもあります。実際、2017年にはグレアムが2連勝を果たしています。また、(琢磨がアンドレッティ・スポーツに所属していた)この年、僕はポールポジションを獲得しましたが、このときのタイムは依然としてデトロイトのラップレコードとされているのです!」

 「けれども、先ほども言ったとおり2018年のレイホール・チームはこのコースでコンペティティブとはまったくいえませんでした。僕たちはこの問題を解決することができず、2017年のセットアップもまったく機能しません。今季、僕たちはロードコースとストリートコースのために異なる考え方のセットアップを用意し、金曜日はこのセットアップをグレアムが試すとともに、僕は昨年のセットアップを改善する作業に取り組みました。ところが、僕たちはともにセットアップを煮詰めることができず、いい感触をまったく掴めませんでした。そこで土曜日の予選ではグレアムが試していたセットアップを移植しました。これは理想的とは言いがたい状況です。なぜなら、マシーンがどんな挙動を示すのか、まるでわからなかったからです。それでも、僕はこのセットアップを試すことにしました」

 琢磨は自分の予選グループで5位になり、9番グリッドからスタートすることが決まる。「マシーンの感触は金曜日よりも改善されていましたが、スピード不足は相変わらずでした。予選グループでは5番手になったものの、ポールタイムと1秒も開きがあったことはショックでした。決勝レースに向けて、セットアップの問題を解決する糸口はまだ掴めていなかったものの、天候が不安定だったので、ウェット・コンディションになることを祈っていました」

 そして、それは現実のものとなる。問題だったのは、雷の影響でスタートが遅延になり、レースが短縮されたことだ。この影響で、すでに路面が乾き始めてからスタートが切られることになったものの、全ドライバーがファイアストンのレインタイアを装着してレースに挑んだ。「雨がしっかり降っているうちにスタートできればと思っていましたが、安全は常に優先されなければならず、僕たちは雷雲が去るのを待ちました。スタート時点ではまだかすかに霧雨が降っていましたが、コースコンディションは徐々に回復している状況でした」

 それでも依然としてトリッキーな状態だった。その証拠に、琢磨の目の前でザック・ヴィーチがスピン。こうしてグリーンフラッグが振り下ろされる前に、琢磨は8番手へと浮上したのである。続いてターン2では琢磨とパトリチオ・オワードが不運にも接触。30号車にはなんのダメージもなかったが、メキシコ出身のオワードのマシーンはバリアまで弾かれ、修復のためにピットストップを余儀なくされた。「僕はターン1のアウト側からオワードをパスしました。あとでビデオを見たところ、僕たちはかすかに接触していましたが、コクピットのなかでは感じられませんでした。ほんのわずかな接触だったのです。可哀想なオワードにはお詫び申し上げます」

 2015年のデトロイトでは、雨でコースがぐっしょりと濡れているなか、琢磨はチーム・ペンスキーの一群をあっさりと抜き去って首位を快走したことがある。今回、琢磨はコルトン・ハータとライアン・ハンター-レイをパスして5番手に駒を進めたが、ウィル・パワーの先行を許すことになる。ペンスキーのパワーは後方グリッドから激しく追い上げてきたのだが、この拍子に琢磨はグリーンへと追いやられてしまう。「今年のレースは2015年のときとはだいぶ違っていました。僕は力強く走っていましたが、ウィルから猛攻を受け、彼は僕をオーバーテイクするとそのまま走り去っていったのです。彼があと数インチ(10cmほど)だけスペースを空けてくれていたらよかったのですが! ライアンはターン1のアウト側からパスしました。楽しいバトルでしたが、同じようにフラストレーションも感じていました」

 エド・ジョーンズがクラッシュしたとき、何人かのドライバーはすでにスリック・タイアに履き替えていたが、ここでイエローが提示されたため、琢磨もピットストップしてタイアを履き替えると、リスタートのときには6番手となっていた。リスタートが切られて何周か後には、今度はスコット・ディクソンがアクシデントに遇ったためイエローとなり、これで琢磨は5番手。次のリスタートではハンター-レイを再びパスして4番手となったのに続き、最後のコーションとなる直前にはフェリックス・ローゼンクヴィストを攻略して3番手に浮上する。残り11ラップのスプリント・バトルで琢磨は3番手のポジションを守りきったものの、先行するジョセフ・ニューガーデンとアレクサンダー・ロッシは捉えられないままフィニッシュを迎えた。

 「ドライのラインが1本だけで、これを外れるとウェットパッチが残っているというトリッキーな状況でした。通常、この手のコンディションではレッド・タイアを装着します。コンパウンドが柔らかくてグリップが良好なうえ、ワーキングレンジも比較的低いからです。ただし、新品のレッド・タイアは急激なデグラデーションを引き起こします。このときは、ほとんどのチームがブラックをチョイスしたはずです。このタイアでチョイ濡れのコンディションを走るのはトリッキーですが、それで最大限頑張らなければいけないのです」

 「ライアンが早めにピットストップしたことで先行していたので、僕は再び彼をオーバーテイクしなければいけませんでした。ただし、僕たちはお互いをリスペクトしており、僕はターン3で彼をパスしました。フェリックスを攻略したときは接近戦で、ややアグレッシブな動きでした。けれども、フェリックスはとても有能な若手ドライバーで、彼と戦うのはいつでも楽しいものです」

 「先頭の2台は大きく先行していました。ふたりともとても速かった。最後のイエローが終わってから、ターン3に進入するロッシの姿を目にしましたが、まるで歯が立ちませんでした。彼らを追っていくことはできても、路面が次第に乾いていったので、ペースを保つのは困難でした。いっぽうでフェリックスとライアンは僕に追いつこうとしており、後方には長い列が連なっていたので、そのポジションを守ろうとしました。チームの力で大きく挽回することができました。ピットストップのタイミングも適切で、ピット作業は素早く、3位に入ったことを僕はとても嬉しく思っています」

 もしも土曜日にRLLRチームが苦戦していたとしたら、それは日曜日の予選でも同じことだった。「それまでとは違うセッティングを試しましたが、完璧にはほど遠いものでした」 そう語る琢磨は16番手からのスタートで、チームメイトのグレアムはギアボックスの不調により後方からレースに挑むことになった。「さて、どうしましょうか? 上空にはきれいな青空が広がっていたので、僕たちは実験的なセットアップを試すことにしました。これは、もしかしたら最悪の結果を招くかもしれないし、うまくいけばいい結果が得られるというものでした」

 今回もまた琢磨はスタートでハンター-レイとバトル。ターン3で琢磨はマーカス・エリクソンと軽く接触したが、ここから様々な出来事が連鎖的に起こり、琢磨は7つポジションを上げて9番手となる。「ノーズに少しひっかき傷ができていましたが、フロントウィングにダメージはありませんでした」

 これに続くイエローで琢磨はただちにピットストップを行なうと、他の多くのドライバーと同じようにレッド・タイアを外し、レースの残り周回数を走りきれるようにブラック・タイアを装着した。このとき、ピット作業がやや遅れたためにひとつかふたつ順位を落とし、14番手でリスタートに臨む。「マシーンの調子は少しよくなっていて、状況は急速に収束していきました。イエローとリスタートが何度も繰り返され、一時は僕がマーカスをパスして2番手になったこともあります。表彰台を獲得する可能性もあったと思います」

 そこまでポジションを上げられたのはピットストップ・シーケンスの影響だったが、レースが残り20周少々となったころ、琢磨は正真正銘の5番手につけていた。そしてこのレースで出入りが激しかったパワーがピットストップを行なって琢磨の目の前でコース復帰を果たそうとしたときのこと。琢磨はターン3に向かうところで攻略を試みたものの、これが成功しなかったうえに、ハンター-レイとロッシに先行されて7番手に後退する。「目の前にウィルがいたとき、僕はプッシュ・トゥ・パスのスイッチを押しましたが、スイッチが作動しない状態になっていて、残念ながら彼をオーバーテイクできませんでした。これは、スロットル・ペダルの踏み込み量と関係のあることだったようです。そのときはターン2に進入するところで、スロットルをオン・オフしていました。このためプッシュ・トゥ・パスが解除されてしまい、僕たちはストレート上を同じスピードでしか走れませんでした。アウト側につけていた僕は極限まで遅めにブレーキをかけたところ、ウィルも同様にポジションを死守して膨らんできた為に、僕は出口で勢いを失い、ライアンとロッシに抜かれました。本当に不愉快な状況でした」

 ピットシーケンスの異なるジョーンズを攻略した琢磨は6番手となり、フィニッシュまであと12周となるまで琢磨はこのポジションで周回を重ねた。「ロッシをオーバーテイクしようとしましたが、僕は勢いを失っており、ターン4に向かうところで再びフェリックスの姿が目に入りました。彼はターン4にダイブ。ここで僕はブレーキを踏んだため、苦しい立場に追い込まれます。僕たちが接触したとは思いませんでしたが、タイアの一部が割けてパンクしていました」

 これで琢磨はピットストップを余儀なくされ、16番手に後退。間もなくローゼンヴィクストがクラッシュして赤旗が提示されたとき、琢磨は15番手になっていた。レースは残り4周で再開。この間に琢磨はマックス・チルトンとジョーンズを仕留めて13番手へと前進する。「僕にできることは、あまりありませんでした。僕はライバルたちをオーバーテイクしましたが、それだけのことです。うまくいけば6位か7位でフィニッシュできたでしょう。今回のレースをポジティブに受け止めるとともに、今週末にテキサス・モーター・スピードウェイで開催される次戦ではいい結果が残せると期待しています」

written by Marcus Simmons
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