COLUMN |
佐藤琢磨の母国である日本でのレースを終えたIZODインデイカー・シリーズは、インディカーの生まれ故郷であるアメリカに戻り、フロリダのホームステッド-マイアミ・スピードウェイで最終戦を迎えた。琢磨の成績は1周遅れで18位というもの。決してニュースのヘッドラインを飾るような結果ではないが、ドラマチックなシーズンの幕切れとしては??そして大忙しのレースの結末としては??、納得できる成績だったといえる。
しかし、プラクティスが始まったときから、琢磨はNo.5をつけたKVレーシング・テクノロジー・ダラーラ・ホンダに手を焼くことになる。「ホームステッドの1.5マイルのオーバルは、とても特徴的なコースでした」と琢磨。「バンクの角度が上と下とでは異なっていて、ふたつのストレートに挟まれたコーナーの曲率は非常に急でした」 「路面はスムーズだけれど滑りやすく、バランスのいいマシーンに仕上げるのはとても難しい。複数のチームはレース前にテストを行なったそうですが、たしかに、このコースはよく理解する必要があると思いました。最初のプラクティスでは悪戦苦闘し、マシーンのバランスには満足できませんでした。コーナーへの進入ではオーバーステア傾向が強く、コーナーに入ってからはひ どいプッシュ、つまりアンダーステアだったのです」 けれども状況は改善され、ロータスのサポートを受けるマシーンに乗る琢磨は予選で9番手を獲得する。「予選の展開はまったく異なったもので、とても満足しました。マシーンは扱いづらかったのですが、新しいタイアを履いて高いグリップ力を得たので、オーバルコースでは最短距離となるバンクの下側を走ることができました。もちろん、再短距離を走ることでコーナーの曲率はいっそう強くなるので、ハンドルを切りすぎて抵抗にならないように気をつけねばなりません。予選では走行距離と走行抵抗の良いバランスを見つけることが大切になります」 「インディカーに参戦して初めて、予選での出走順は27番手で最後尾となりました。これはラッキーでしたね。これにも助けられて、思いっきり攻めることができました」 次に起きたことも、琢磨にとっては初体験だった。「ナイトレースに備えて、日が沈んでから45分間のプラクティスが行なわれましたが、このときはマシーンの挙動が予想とまるで異なっていて、とても驚きました。なにしろ、夜にレーシングカーを走らせるのは、これが初めての経験だったのです! テキサスではサスペンション・トラブル、シカゴではピットストップで事故に巻き込まれ、どちらも辺りが完全に暗くなる前にリタイアを喫していました。ケンタッキーのレースがスタートしたときはすっかり暗くなっていましたが、あのときは1周もできませんでしたから……。夜になると、スピード感が一層増します。影、光、火花、色々なものが普段とは違って見えます。しかも、日中とはマシーンの挙動も変わってくるので、決勝用のセッティングは推測しながら決めなければいけません。KVの3台はどれも苦しい状況で、僕たちはセッティングの変更がうまくいっていいレースになることを祈るしかありませんでした」 しかし、序盤戦は期待通りに物事が進まなかった。「最初のスティントは苦戦を強いられ、バランスがよくないためにいくつもポジションを落としました。そこで最初のピットストップでタイアの空気圧とフロントウィングの角度を調整したところ、ペースが上がってオーバーテイクできるようになりました。リスタートでは順位を上げましたが、今回はスピードの伸びが悪く、全般的に厳しいレースとなりました。自分ひとりでは前のドライバーに追いつけなかったので、大きな集団のなかに入り込まない限り、オーバーテイクはできませんでした。その代わり、後ろのドライバーには簡単に抜かされていました」 そしてバトルがあり、アクシデントがあった。「ライアン・ハンター-レイと2ワイドになっているとき、大きな接触がありました。コーナーでアウトにはらんできた彼に激突され、僕は大きくよろめいてしまいました。けれども何とか持ちこたえ、コースに復帰しました。かなり焦りましたよ! その後、残り15ラップから20ラップになったところで、僕たちは3ワイドになり、僕は2台に挟まれる格好となりました。しかも、いちばん下側のマシーンが上がってきたので、僕は行き場を失い、アウト側のマシーンと接触してしまいます。このときはステアリングへのキックバックが激しく、瞬間的に手を離してしまいました。走行中にとんでもない事態に陥りましたが、ステアリングは左いっぱいまで切ってある状態のまま、うまくターン3からターン4にかけてのラインにのっていたため、なんとかコーナーを切り抜けて惨事を逃れました。いま考えるとちょっと笑えるような珍事ですが、そのときは、それどころではありません!しかも、それによって再び順位を大きく落してしまいました」 この影響で、琢磨はインディカーのデビューシーズン最後のレースを18位で締めくくることとなった。「ものすごいサバイバルレースでしたが、マシーンのバランスがトリッキーだったことを考えると、チェッカーを受けられただけでも喜ぶべき状況でした。期待通りの成績だったとはいえないものの、もてぎを含めた最後の2戦では、本当にいい経験ができたと思います」 「最終結果がすべてを物語っているとは限りません。毎回毎回、僕らは苦しい状況に遭遇しましたが、チームとしてはたくさんのことを学び、徐々にいい答えを出せるようになっていったので、1年間、一生懸命がんばってくれた僕のクルーとチームには心からお礼を言いたいと思います。僕自身も非常に多くのことを学んだし、たくさんのドラマがあり、いろいろな経験を積み重ねました。それにしても、これほどの苦戦を強いられるとは、自分の想像を遥かに超えていましたけどね。非常にタフなシーズンでしたが、来年の飛躍に結びつけられる1年だったと思います」 written by Marcus Simmon |