RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.17 [Sun,16 September]
Sonoma

ダブルポイントの罠
 ソノマで行われた2018年ベライゾン・インディカー・シリーズ最終戦で、佐藤琢磨は上位入賞に向けて順調に周回を重ねていた。ここでポイントを稼げれば、トップ10でチャンピオンシップを終えるのも難しくないと思われたのである。ところが、北カリフォルニアのツィスティーなコースを85周して争われるレースの15周目にして、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダはリタイアを余儀なくされる。琢磨は最下位とされたが、最終戦は通常の2倍のポイントが与えられるダブルポイント・イベントだったため、残念ながら琢磨は12位でシーズンを終えることになった。

 前戦ポートランドの数日後、RLLRチームは琢磨の#30号車とグレアム・レイホールの#15号車を伴い、ソノマで行われる事前のテストに臨んだ。この場合、レースウィークの木曜日に行われるテストには参加できなくなる。「当初、僕たちはレースウィークに行われるテストに参加するつもりでしたが、ペンスキーがその前の週のテストに参加するとの情報がもたらされたのです。これまでペンスキーはソノマでライバルチームを圧倒してきました。昨年はトップ4を独占したほどです。そこで、ペンスキーとともに走れば、自分たちの実力を推し量る目安になると考えたのです。しかも、エンジニアはデータの分析に1週間をかけられます。いっぽうで、事前のテストとレースウィークでコンディションが異なればデメリットになりますが、それでもエンジニアはテストを行う価値があると判断したのです」
 
 「テストはまずまずうまくいきました。そのときのスピードやバランスに関して必ずしも満足する必要はありませんでした。僕たちはセットアップを変更したときの影響を見極め、どちらの方向に進むべきかを判断しました。結果の一部は決していいものではありませんでしたが、だからといって無意味だったわけではありません。なぜなら、『その方向に進んではいけない』ことが読み取れたからです!」

 金曜日の最初のプラクティスで#30は14番手につける。ただし、2回目のセッションで状況は好転し、琢磨はひとつ上の13番手でプラクティスを終えた。「最初のプラクティスはそれほどよくありませんでした。木曜日のテストに参加したチームが勢いを保っていたからで、僕たちはセッティングの調整に追われました。これには少し時間がかかったものの、決して悪いセッションではなく、前の週よりもセッティングの変更にマシーンが的確に反応することが確認できたのは収穫でした。2回目のプラクティスではとても勇気づけられました。僕はトップ3もしくはトップ5をいったりきたりしていましたが、硬めのブラック・タイアを履いたときのパフォーマンスは上々でした。僕たちは楽観的に捉えていましたが、レッド・タイアを履いたときにいいタイムを記録できず、いいフィーリングも得られませんでした」

 続く土曜日、午前中のプラクティスで琢磨は8番手となる。「僕たちはとてもコンペティティブでした。他のドライバーがニュータイアに履き替えてからは少し順位を落としましたが、僕がニュータイアを装着したときはタイムシートのトップに立ったくらいです。ブラック・タイアでのタイムは常にトップ5に入っていたので、とても勇気づけられました。続いて、レッド・タイアのパフォーマンスを改善するための変更を行いました。今回、レッド・タイアにはまったく新しいコンパウンドが採用されました。路面のグリップがとても低いソノマでは、ブラック・タイアでさえ僕たちが通常使っているレッド・タイアよりも柔らかいコンパウンドを用います。当然、レッド・タイアのコンパウンドはこれよりもさらに柔らかくなります。僕たちがレッド・タイアの性能をフルに引き出せない理由の一部はこの点にあったのかもしれません」

 Q1の予選グループでは非常にコンペティティブで、ここで4番手となった琢磨はトップ12が出走できる予選の第2セグメントへの進出を果たした。「レッド・タイアでも徐々にスピードが引き出せるようになってきて、すべて順調に思えました」 ところが、第2セグメントで琢磨は失速。このセッションを最下位で終え、12番グリッドから決勝レースに挑むことが決まる。「路面コンディションがよくなってコンマ5秒ほどペースが速くなっていました。けれども、僕はQ1の段階からレッド・タイアでナーバスな挙動に苦しめられていたのです。高速コーナーではアンダーステアが過大で、低速コーナーでもナーバスな状態でした。Q2に向けてこれを解決しようとしたのですが、僕たちの期待どおりにはなりませんでした。高速コーナーではさらにアンダーステアが強くなり、スタビリティの面ではとてもトリッキーになっていたのです。予選が12位に終わってがっかりしました。自分たちのマシーンがトップ6に入るとは思いませんでしたが、もう少しそれに近い成績が得られると期待していたのです」

 この2週間前に琢磨が優勝したポートランドと同じように、ソノマも2ストップで走りきれるコースだった。ただし、そのためには何度もイエロー・コーションに助けられる必要があるうえ、タイア・デグラデーションが激しいと大幅にタイムをロスする恐れがあった。理論上は4ストップが最速だが、ソノマは追い抜きが困難なため、上位グリッドからスタートしてトラフィックに行く手を阻まれないことが必要となる。そこで琢磨たちは3ストップを選択。この戦略はピットウィンドウの幅が広いため、コーションのタイミング次第では順位がジャンプアップする可能性もあった。

 レースで琢磨はライバルを次々とオーバーテイクしていった。オープニングラップでは、タイトル獲得の可能性があるアレクサンダー・ロッシがアクシデントにあってコースアウト。さらにザック・ヴィーチをパスしたため、琢磨は10番手に浮上した。そして7周目にはサイモン・パジェノーを攻略して9番手となり、12ラップ目には前方の混乱に乗じてパト・オワードとセバスチャン・ブールデをパスする。「マルコ・アンドレッティと接触したアレックスはフロントウィングとタイアにダメージを負い、ここで僕はポジションを上げました。ソノマではオーバーテイクはほとんど不可能だと思っていたので、とても嬉しい展開でした。タイア・デグラデーションが大きいことがレースを面白くしていたのです」

 「ターン2でパジェノーを仕留め、続いてブールデに挑みました。オワードは予選で目の覚めるような走りを見せましたが、レッド・タイアではペースが伸び悩み、彼の後ろには長い列ができていました。グレアムとウィル・パワーはなんとかして彼をオーバーテイクしようとしていたものの、ターン11の進入でひどい混乱が起きます。これが僕にとっては大チャンスとなり、まずブールデをパスすると、直後にオワードを攻略しました。これでグレアムが6番手、僕が7番手となり、すべて思いどおりに運んでいるように思えました。間もなくレッド・タイアのデグラデーションがひどくなっていったので、僕はピットに飛び込みました」

 これが14周目のこと。ところが15周目に#30はピットに戻り、そこでリタイアを喫してしまう。「パジェノーにはアンダーカットされましたが、とてもいい展開だと思っていました。トップ6は確実な展開です。新品のブラック・タイアに履き替えた僕は、ここで長いスティントを消化するつもりでした。新品のブラック・タイアがもう1セットあったほか、最後のスティントは新品のレッド・タイアで走るつもりだったので、順位を上げるチャンスは十分にありました。ところが、アウトラップで突如としてパワーダウンが起きます。どうやらエンジンが音を上げてしまったらしく、ここでリタイアを余儀なくされました」

 これは琢磨のシリーズ結果に大きな影響を及ぼした。「最終戦はダブルポイント・イベントだったので、最初にリタイアすることだけは避けたいと思っていました。これが自分の身に起きたのは(インディ500に続いて)今季2度目のことで、とても多くのポイントを取り逃しました。チャンピオンシップの成績にも大きな影響がありましたが、僕にはどうすることもできませんでした」

 悪いことがあればいいこともある。決勝が行われた9月16日、チームは琢磨が2019年も残留することを発表したのだ。「とてもハッピーだし、ものすごく嬉しく思っています」と琢磨。「ボビー・レイホールとマイク・ラニガンはドライバーのためにできる限り良好な環境を整えてくれるので、とても気持ちよく仕事ができます。今シーズン、僕たちはとても大きな期待を抱いていました。結果的に思いどおりにならなかったのは、#30が新しいチームで、新しいメカニックたちを向かい入れ、良好なチームワークを構築する必要があったためです。僕たちはこれを成し遂げましたが、それには時間が必要でした。シーズン中盤から終盤にかけて、僕たちは大きく進歩しました。全般的にいえば、いいシーズンだったと思います。いいことも悪いこともありましたが、2019年シーズンには問題を解決する自信があるので、安心してシーズンオフを迎えることができます。シーズン中に来季の予定を発表したのは初めてのことですが、おかげで安定した体制を保つことができます! ボビー、デイヴィッド・レターマン、マイク、そしてすべてのスタッフに心からお礼を申し上げます!」

written by Marcus Simmons
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