COLUMN |
No.30 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る佐藤琢磨は、ゲートウェイ・インターナショナル・レースウェイで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの第15戦を9位で終えた。これ自体は決して悪い結果ではないが、本来であればこれよりもはるかにいい成績を手に入れられるはずだった。ところが、最悪のタイミングでコーションとなったために、せっかくの素晴らしい戦略が台無しになってしまったのである。
うまくいけば、週末の流れを一変させるレースになるはずだった。金曜日のプラクティス、琢磨は思うようにタイムを伸ばすことができず、最下位の21番手に沈み込んでいた。「セントルイス戦をとても楽しみにしていました」 琢磨がゲートウェイ・オーバルのレースに挑むのは、昨年に続いてこれが2回目となる。「去年のプラクティスと予選ではホンダ最速となるほど好調でした。ただし、決勝レースはあっという間に幕を閉じてしまいました」 「今年のプラクティスはややトリッキーでした。なぜなら、多くのチームがテストに参加するいっぽうで、僕たちを含むごく一部のチームだけがテストに参加できなかったからです。そしてプラクティスは天候の影響で間に中断を挟むことになり、僕は最下位になりました。マシーンのどこかがおかしいように思われました。ステアリングを握っていていいフィーリングを得たことは一度もありません。セッション後にマシーンを洗いざらいチェックしたところ、1本のダンパーに不具合があることがわかりました。これは本当に残念でした。すべてのダンパー、ピストン、バルブなどは事前にチェックされますが、おそらくインストレーション・ラップで壊れたかどうかしたのでしょう。このおかげでマシーンの感触が悪く、僕は1セッションを棒に振ることになったのです」 公式予選は、結果的に雨で中止とされた。逆説的な言い方になるが、おそらくこれは琢磨に都合のいいことだったようだ。このためスターティング・グリッドはチャンピオンシップの順位で決められ、琢磨は13番グリッドに並ぶことになった。「幸か不幸か……。なんといっていいか、僕にはわかりません。いずれにせよ、予選はキャンセルされました。予選は最初のプラクティスに続いて行なわれる予定だったので、きっと僕は21番手だったと思います。これは最悪ですよ! チャンピオンシップ順のスターティンググリッドも理想的というわけではありませんが、少なくとも悪い展開ではありませんでした」 金曜日の夜に行われた最後のプラクティスで琢磨は13番手のタイムをマーク。どうやら本来の状態に戻りつつあるようだ。「ダンパーの不具合を見つけた4時間後にセッションが行なわれました。マシーンは正常な状態に戻って僕のペースも上がりました。このため5番手から10番手くらいのポジションにつけていました。ただし、セッティング作業はまるまる1セッション分遅れている状態で、ここからライバルたちに追いつくのは容易ではありません。マシーンの感触はまずまずでしたが、スピードとバランスに関してはまるで満足のできない状態で、レース・セットアップは想像でまとめ上げるしかありませんでした」 「マシーンのパフォーマンスがトップ5に食い込むとは思えず、せいぜいトップ10の状況だったので、レースではリスクに賭けることにしました。今シーズン導入されたエアロキットはダウンフォースが大幅に削減され、500ポンド(約227kg)ほど減らされています。去年のダウンフォースの量はこのコースにぴったりで、シーズン中、最良のショートオーバルに思えました。ターン1から2にかけてはとてもトリッキーで、スロットルを戻すかわずかにブレーキを使いましたが、ターン3と4はひたすらフラットアウトで、そのままターン1に進入していけました。けれども、500ポンドものダウンフォースを失ったため、ターン3と4を全開で通過することはできなくなり、チャレンジングなコーナーとなりました。インディーカーが望んでいたのはこういう状況ですが、このダウンフォースでは前のマシーンに接近できないので退屈なレースになる危険性を秘めていました。オーバーテイクするのは不可能に近く、ポジションを上げるのは至難の技と思われたのです。いっぽう、計算上は4ストップ作戦がいちばん速かったものの、10ラップ+αのイエローがあれば3ストップも不可能ではありませんでした。そこで僕たちはこの戦略に賭けることにします。なにしろ、僕たちのマシーンが飛び抜けて速いわけでもなければ、コース上でオーバーテイクができるとも思えなかったからです」 決勝レースが始まると琢磨はいくつか順位を落としたが、間もなくセバスチャン・ブールデのクラッシュでイエローが提示される。「昨年のことがあったので、スタートは慎重に臨みました」 去年はレースがスタートする前にリタイアに追い込まれたことを思い出したようで、琢磨は軽い笑い声を上げた。「セバスチャンがクラッシュしたとき、僕はこんなことを考えました。『OK、これでチャンスが手に入った』 僕たちは燃料をかなりセーブしない状態でしたが、3ストップは不可能ではありません。リスタートではターン1のアウト側から何台かオーバーテイクしましたが、これは楽しかったですよ。すべて順調で、やがてチームメイトのグレアム・レイホールもオーバーテイクしました。彼よりも僕のほうが余計に燃料をセーブできたようです」 最初のピットストップを長引かせたおかげで琢磨は63〜64周目にトップに浮上。ピットストップを終えると15番手でコースに復帰した。次のスティントでも次第に順位を上げて124〜125周目には首位に立ち、2回目のピットストップを済ませると14番手でレースを再開。その後、ジェイムズ・ヒンチクリフをパスして13番手へと駒を進める。このとき琢磨はラップダウンになっていたが、残るピットストップはライバルたちよりも1回少なくて済む……。 ライアン・ハンター-レイのマシーンがコース上に止まってイエローが提示されたのは173周目のこと。これで琢磨たちの努力は水泡に帰した。ここで誰もがピットストップを行ない、琢磨は8番手でコースに復帰。形のうえではリードラップに返り咲いたが、ここから順位を上げる可能性は極めて小さい。「2回目のピットストップまではすべて順調で非常にいい展開でした。ところが、その後のイエローは最悪のタイミングで提示されました。すべてがリセットされ、もう1度イエローとならない限り、僕たちは5〜7周分の燃料が不足する見通しでした。レースを積極的に戦うこともできましたが、僕たちにオーバーテイクができるとは思えません。つまり、8位でフィニッシュする展開だったのです。そこで僕たちはさらに燃料をセーブすることにし、スティントを引き伸ばしました。僕たちは大幅にスピードダウンしましたが、このペースで走り続けるとトップグループは最後に燃料のスプラッシュが必要になると期待していました」 琢磨は再びラップダウンとなったが、一旦前に出たドライバーたちがピットストップを行なうと、琢磨はまたもやリードラップに返り咲き、8番手となった。続いて、すでにピットストップを済ませているエド・ジョーンズに追い越されたため琢磨は9番手に後退。レイホールをひとつ上回る順位でチェッカードフラッグを受けた。「ポジションが下がっていくのは信じられないほどイヤな気分でした。けれども、チームの2台が揃ってトップ10でフィニッシュできたのですから、それほど悪い結果だったとはいえません」 いずれにせよ、表彰台に上ってもおかしくないレースを台無しにしたのは、ハンター-レイのイエローだった。「たしかに表彰台も不可能ではなかったと思います。最悪のケースでも5位には入ったはずです。僕たちはギャンブルに打って出て、それはかなりうまくいっていました。燃料の面でも目標どおりだったし、すべて順調だっただけに、最後の最後でうまくいかなくなったことは残念でした」 今回は決してスリリングなレースではなかった。「昨年に比べると、コーナーへの侵入速度は大幅に向上していますが、そこから全ドライバーがブレーキングを行ないました。これはこれでいいのですが、残念だったのは、このコースに複数の走行ラインが存在しなかったことにあります。だからサイド・バイ・サイドではなく1列になって走らなければならず、ダウンフォースも不足していました。おかげで、レース中は誰かの後を追って走るのが極めて困難でした。このためショーとはほど遠いレースになりましたが、インディカーも何らかの対策が必要になるはずです」 この後は、短い休みを挟んでシーズンの最後を飾る2連戦が開催される。そのいずれもがロードコースだが、セントルイスに続いて実施されるのは、インディカーが訪れるのは久々となるオレゴン州のポートランドである。「オレゴンはもっとも美しい州のひとつです。このコースにはCARTの時代から続く素晴らしい歴史がありますが、当時のことを知っている現役ドライバーはごくわずかしか残っていないようです。僕にとっては初走行で、とても楽しみにしています。コース全長は短めです。木曜日にはオープンテストが行なわれますが、僕たちがテストに参加するのはずいぶん久しぶりのこと。最後にテストしたのはたしかロードアメリカですが、したがってテストの結果が僕たちを正しい方向に導くとともに、コンペティティブにレースを戦えることを楽しみにしています」 written by Marcus Simmons |