RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.11 [Sun,08 July]
Iowa

速さで勝ち取った表彰台
 エキサイティングなショートオーバルのアイオワ・スピードウェイは、佐藤琢磨にとって必ずといっていいほど相性のいいサーキットだが、今回ここで挙げた3位が、いまのところ今シーズンのベライゾン・インエディーカー・シリーズで獲得したベストリザルトとなっている。No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダは決勝レースで素晴らしい速さを見せ、これが10番グリッドから表彰台に駆け上がる原動力となった。しかも、同じくレース中に琢磨は正真正銘の2番手まで浮上したほか、最後のピットストップ・シーケンス中には短時間ながら首位にも立った。さらに驚くべきは、RLLRがこのコースで最近行われたテストに参加していなかったことにある。「インディカーを戦うチームは参加できるテストの日数に上限が定められています」と琢磨。「僕たちのチームはロードアメリカのテストに参加したので、ほとんどのチームが姿を見せたアイオワのテストはスキップすることにしました。したがって走り始めは厳しいものになると予想していましたが、走行を重ねるにつれて徐々に期待が高まっていきました」

 「実際、最初のプラクティスは16番手でした。シャシーのバランスとグリップレベルはまだ期待したレベルに達していませんでした。アイオワは信じられないほどバンピーなコースなので、速く走るにはマシーンに自信を抱けなければなりません。なにしろ、どこを走っていてもリアのグリップを失ってしまいそうなコースなのです。セッションは45分間と短かったので、予選シミュレーションは1回しかできませんでした。2回目を行おうとしましたが、これはトラフィックの影響でうまくいきませんでした。したがって難しいプラクティスだったといえるでしょう」

 それだけでなく、ポイントランキングの逆順とされた予選の出走順も琢磨には不利に働いたが、それでも10番グリッドを獲得したのだから立派なものだ。「当初、僕はトップ10のグリッドを目標としていたので、この時点では任務完了だったといっていいでしょう。アタックラップに関しては満足していましたし、スピードについても不満はありませんが、それでもマシーンをさらに改良する必要があると考えていました」

 最後のプラクティスで琢磨は8番手となった。「ダウンフォースのレベルは、予選と決勝でまったく同じです。インディカー・シリーズはダウンフォースの最大値をこれまでに比べて1000ポンド(およそ454kg)少なく設定しましたが、昨年の段階でも僕たちはダウンフォース不足に苦しんでいたのです。このため、予選でさえ誰かがフラットアウトで走りきったとは思えません。しかも、レースではどのマシーンも大きくスライドすることが予想されました。僕たちのマシーンは徐々に進化していましたが、それでもトラフィックのなかを走っているときはペンスキーとアンドレッティの2チームが有利だったことは明らかです。僕たちはグリップとバランスをさらに改善させようと努力しましたが、夜に行われたプラクティス・セッションは、気温が上昇した決勝レースとはコンディションが異なるものでした。決勝ではかなり厳しいタイヤ・デグラデーションにさらされることが予想されました」

 このため決勝前になにかしら実験的な試みをすることになり、琢磨はチームメイトのグレアム・レイホールとは大きく異なるセットアップで走行した。「これはややリスキーなことでした。スプリング・パッケージを変えるだけなら、まだ簡単です。でも、僕がしたかったのはロールセンターを変更するといった根本的なことでした。そうしなければいけないように思えたのですが、いままでこれをテストしたことは1度もありませんでした」

 しかし、これはうまくいった。決勝が始まると、琢磨は直ちにエド・カーペンターをパスして9番手に浮上。続いてジェイムズ・ヒンチクリフ(彼はそのまま順位を上げていき、このレースで優勝した)とザック・ヴィーチに先行されて11番手に後退。しかし、最初のスティントが進行していくと、琢磨はエド・ジョーンズ、スコット・ディクソン、アレクサンダー・ロッシを攻略したうえにヴィーチを抜き返し、最初のピットストップまでに7番手へと順位を上げた。「走り始めた当初は『OK、ちょっとアンダーステアが強すぎるかもしれないな』と思いましたが、それはどのドライバーにとっても同じ状況に思えました。それでも、僕はなんとかポジションを守り抜きました。30ラップを過ぎるとハンドリングはどんどん変化していったので、ありとあらゆるツールを駆使しましたが、こうした状況で僕のマシーンは強力でした。したがってスティントの後半になると順位を取り戻すという展開になりました」

 忘れるわけにいかなかったのは、長くレースリーダーを務めているジョセフ・ニューガーデンが目を見張るようなペースで走行していたことで、琢磨はリードラップの最後尾で走ることとなった。「これは重大な問題でした! 彼はほかのドライバーを全員周回遅れにしそうな勢いでしたが、僕はなんとかこれを免れました。彼が直後に迫ってくると、僕はラップ遅れのマシーンをその間に置くようにしたのです」

 最初のピットストップではRLLRのメカニックたちが素晴らしい働きを見せた。その活躍はレース中、ずっと続くことになる。琢磨はウィル・パワーとロバート・ウィッケンズを出し抜くと、スペンサー・ピゴットに攻略され、レースが落ち着きを取り戻した頃には6番手となっていた。第2スティントでは、ライアン・ハンター-レイとサイモン・パジェノーを仕留めて4番手へと駒を進めたものの、ここでヴィーチがクラッシュしてこの日、最初のイエローとなり、ほぼ全員がピットストップを行うことになる。

 第3スティントで琢磨は再びピゴットとヒンチクリフをオーバーテイクし、2番手に浮上。続いてニューガーデンが最後のピットストップを行うと、ピットストップをいくぶん引き延ばした琢磨は3ラップにわたってトップを走行した。「ラップタイムはたったの18秒なので、グリーン中にピットストップを行うとフルに2ラップ遅れとなります。早めにピットストップを行うと、その直後にイエローが出てポジションを大きく恐れがあるので、できればこれは避けたいところです。自分のペースが他のドライバーより速いのは嬉しいことで、ポジションを上げるほどにどんどん自信を抱けるようになりました。僕はピゴットと“ヒンチ”をコース上でパスし、ジョセフの直後にあたる本物の2番手となりました。僕たちはピットストップをできるだけ引き延ばしました。ところが、ジェイムズをオーバーテイクして間もなく、タイアの寿命が尽きていることに彼が気づき、それで早めにピットストップを行ったのだと思いました。おそらく、僕より4ラップは早かったので、これは重大な局面と思われました。僕たちが長くコース上に留まっていたことは明らかです。なぜなら、ピットストップ自体は素早かったのに、コースに戻ったとき、僕は2番手から5番手に後退していました。なにが起こったのか、僕には理解できませんでした」

 このとき琢磨は、ピゴット、ヒンチクリフ、ウィッケンズの3人にいわゆるアンダーカットを仕掛けられたのである。スティントが進行するにつれて琢磨のペースは相対的に速くなっていったが、やや遅いタイミングで提示されたイエローがコース上のポジションを上げる妨げとなったのだ。この影響で、琢磨はレースを失いかねない際どい立場に立たされた。「残り20周で、ほとんど全員を追い越しました。まず、周回遅れのエド・カーペンターをパスしたばかりのピゴットを仕留めます。エドはミスをしたわけではなく、ただスピードが伸び悩んでいたのです。スペンサーはギャップを広げつつありましたが、その前に僕はエドをオーバーテイクしなければいけませんでした。ターン2で僕はいちばん下のレーンを走っていました。ここはグリップがいいものの、路面はバンピーです。僕はかなりの速度差で接近し、ちょうどエドとサイド・バイ・サイドになったところで、彼は急にスローダウンしたように見えました。最初はただスロットルを戻しただけと思いましたが、実はハーフスピンしていたのです! そして彼のフロントウィングが近づいてくると、僕の右リアのボディワークを引っかけていきました。それはちょっとこすっただけで、運がいいことに実質的には何のダメージもありませんでした。これでイエローが提示されましたが、もしも僕がそこにいなかったら、エドはスピンしてマシーンはクラッシュしていたでしょう。つまり、僕が彼の姿勢を正してあげたのです。レース後にインタビューを受けていると、エドがやってきて、インタビューが終わってから深々と感謝されました。なにしろ、僕がいたおかげで何十万ドル(何千万円)も支払わずに済んだからです!」

 コーションになったのはレースが残り7周となったときのこと。ここでニューガーデンとウィッケンズは、最後の最後でグリーンが提示されたことを想定してニュータイアに交換するというギャンブルに出た。これで琢磨は3番手に浮上。しかも、結果的にレースはイエローのまま終了したので、琢磨は3位でフィニッシュすることとなった。「No.30のメカニックたちにとっては素晴らしい結果となりました」

 琢磨の最近の進歩は目覚ましく、過去3戦に限っていえば琢磨は4番目に多くのポイントを獲得したドライバーとなっている。そして今週末、インディカー・シリーズは国境を越えてトロントを目指す。「僕たちにとっていい風向きになってきました。表彰台を獲得できたのは素晴らしいことですし、この後に続くトロントやミドオハイオでのレースを本当に楽しみにしています。今回の成績はチーム全体で勝ち取ったもので、力強くシーズン後半を戦うことを期待しています」

written by Marcus Simmons

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