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Rd.8 [Sun,03 June]
Detroit Race 2

不可解なウェットレース
 これまではベルアイランド・サーキットで抜群の速さを見せてきた佐藤琢磨だが、2018年ベライゾン・インディカーシリーズの“デュアル・イン・デトロイト”では幸運と不運の両方を体験することになった。土曜日には今シーズン最高の5位でフィニッシュ。ところが日曜日は残念な17位に終わったのである。

「シーズンが開幕する前から今年のデトロイトを楽しみにしていました」と琢磨。「僕自身もデトロイトにはいい思い出がいくつもあります。何度かポールポジションを獲得したり、レースをリードしたこともありましたが、これまでは運に恵まれず、期待するような結果を残したことはありません。昨年は、現在のチームメイトであるグレアムと僕とでポールポジションを分け合い、レースではグレアムとレイホール・チームが圧勝しました。このため、今年も大きな期待を抱いたのは自然なことでした。過去数年間にインディカーのパッケージは何度か変わってきましたが、レイホール・チームはこのサーキットでいつも強力だったのです」

 そうした希望が、フリープラクティスで無残にも打ち砕かれてしまう。最初のセッションで12番手、続くセッションで13番手という結果は、悲惨とはいわないまでも、完全に中団グループに埋没するものだった。これは、45分間のセッションが2回しかなかった影響でだと琢磨は語る。「したがって持ち込みの状態のセッティングがとても重要になります。もっとも、だからこそデトロイトで強力なパッケージを用意してきたレイホールに期待していたのですが……。ところが、プラクティスは僕たちが期待したほどスムーズにはいきませんでした。まったくダメというわけではありませんが、十分にスピードを引き出せなかったのです。バランスやグリップの点でも満足できなかったので、自信を持って予選に臨むわけにはいきませんでした」

 それでも、予選で状況は好転することになる。“デュアル・イン・デトロイト”はインディカー・シリーズ中、唯一のダブルヘッダー戦。今回の予選はふたつのグループに分けた後、全体でもっとも速かったドライバーがポールポジションを獲得、遅かったほうのグループで最速だったドライバーが2番グリッドからスタートするというフォーマットが採用された。そしてポールシッターと同じグループのドライバーは奇数番目グリッドに、もうひとつのグループのドライバーは偶数番目グリッドに整列する。同じ予選グループのマルコ・アンドレッティが全体のトップだった琢磨は、ここで4番手のタイムを記録したため、7番グリッドから決勝レースに挑むことになった。

「マルコは素晴らしいラップをまとめ上げました。僕たちのグループに属するドライバーはみんなコンマ1秒差でした。僕はポールポジションにはわずかに手が届きませんでしたが、少なくとも差は詰められました。僕たちはまずまず満足していました。僕とグレアムは7番手と8番手で、僕たちの速さもこの辺にあると思われました」

 好スタートを切った琢磨はオープニングラップでウィル・パワーをパスして6番手に浮上。7周目にはライアン-ハンター・レイを攻略して5番手となる。その1周後、3ストップ作戦を選んだロバート・ウィッキンズがピットストップを行ったためにポジションを上げたが、数周後にはレイホールに先行されて5番手に後退。琢磨はこのポジションのまま最初のピットストップを行った。

「ほとんどのドライバーがレッドタイアでスタートしました。このほうが走り始めのグリップはありますが、デグラデーションは大きいようでした。過去数年のデトロイト戦では、レッドタイアはグレイニングが激しく、1スティントを走りきることができません。このため、レッドタイアはできるだけ早めに交換し、安定した性能のブラックタイアに履き替えるのがトレンドになっています。ただし、この場合は3ストップ作戦となるので、どのような展開になるのかを見ることにしました」

「ウィルをパスするのは、いつも最高の気分です。その後に現れたライアンはタイアのグレイニングに苦しんでいるようでした。やがて僕のタイアも急激に性能が低下してきたので、あとはこれをどう持たせるかの勝負となりました。ブラックタイアを履くグレアムは順位を上げていきましたが、そのほかのドライバーはみんな同じ小さなボートに乗っているような状態でした」

 第2スティントは「おおむね順調」で、2回目で最後となるピットストップを終えたとき、琢磨は7番手となっていた。間もなくレイホールがアクシデントを起こしたためにこの日、最初のコーションとなり、グリーンが提示されたところでエド・ジョーンズとエキサイティングな5番手争いを演じることとなる。「ターン1の進入でエドをオーバーテイクしました。これはとても楽しかったのですが、やがて僕はひどく苦しむことになります。タイア空気圧に関係することなのか、タイアが何かを拾ってしまったのかはわかりません。いずれにしても、リアタイアのグリップがゼロになり、いたるところでスケートしているような状況になります。おかげでトップ4のドライバーにはぐんぐん引き離されました。ターン2で彼にオーバーテイクされたときには、かなりひやっとする状況になりますが、ターン3では抜き返すことに成功します。そのポジションを守って走り続けると、ラップタイムも回復してきました。5位完走という結果を僕は受け入れます。最終的に力強いパフォーマンスを示し、日曜日に向けて勢いを手に入れることができました」

 日曜日のサーキットがウェットに転じたことは、このようなコンディションでいつも上位に食い込むドライバーにとって朗報といえた。しかし、予選は惨憺たる結果に終わり、琢磨は予選グループの10番手で20番グリッドからスタートすることが決まる。「雨粒が落ちてきているのを見たときは最高の気分でした。ところが、期待とは正反対の展開となりました。最初の計測タイムは2番手。雨が降ると直ちにトップに立つのが常だったので、僕は自分自身にこんなふうに語りかけました。『うーん、ヘルメットをかぶっているから、いまは照れ隠しで頭をかくわかにはいかないぞ!』 やがて、本当に信じられないことが起きます。周回するごとに僕の順位が落ちていき、最終的に自分のグループの最後尾で、トップの3.5秒落ちでした。ウェットコンディションでこんな結果に終わったことはありません。根本的に、僕たちが理解できていないことがあるようです。とてもショックで、ひどく落胆しました」

 不本意な予選結果となったので3ストップ作戦を選択。これは、すでに雨は止んでいたものの、一度ウェットになった路面はグリーンな状態に転じているため、レッドタイアのデグラデーションはさらにひどいものになると予想された結果である。スタート後に数台がコースアウトし、琢磨は17番手に浮上。途中、ペンスキーのジョセフ・ニューガーデンやサイモン・パジェノーと心おどるバトルを演じたものの、「特別、素晴らしいペースではなかった」ため、終始17番手前後で走り続けることになったのだ。

 最後のピットストップを終えたとき、琢磨はニューガーデンとジェイムズ・ヒンチクリフに続くポジションでコースに復帰したが、ふたりを攻略するのは不可能に近かった。「プッシュ・トゥ・パスを使っても、ダウンフォースが不足していてオーバーテイクできませんでした。彼らを追い抜くにはペースが遅すぎたのです。これは本当にがっかりな結果で、イエローもまったく救いにはなりませんでした」

 ただし、同じレース2ではグレアムが5位でフィニッシュしたので、今後の市街地コースやロードコースのレースでは期待が持てるだろう。続くレースはハイバンク・オーバルのテキサス・モーター・スピードウェイが舞台となる。「テキサスで再び高速バトルを演じることになります。昨年はこのレースを力強く戦いましたが、今年は新しいパッケージングなので、どうなるかが楽しみです。できれば、いいレースになることを期待しています」

written by Marcus Simmons
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