COLUMN |
インディアナポリスの“マンス・オブ・メイ”が、今年はベライゾン・インディカー・シリーズのインディGPとして幕を開けた。ここで用いられるコースは、琢磨がBARホンダを駆って表彰台を得た2004年アメリカGPのモディファイ版。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダを駆った琢磨は、このレースを10位で終えた。驚くべき成績ではないが、何度か順位を落としながらもよくリカバーしたというべきだろう。「最終的には力強く挽回したいいレースになりました」と琢磨。「ただし、自分たちの実力を考えると少し残念な結果です」
最初のフリープラクティスで5番手につけた琢磨は、トップからのタイム差も0.1秒と好調だった。ところが2回目のセッションで17番手に転落してしまう。これは、今季繰り返されてきた悪い流れの前兆といえる。「僕たちはみんな1ヵ月半前にテストを行っていました。当日はとても寒く、スピードやバランスに関して必ずしも満足できる状況ではありませんでしたが、僕たちはクルマについて学ぼうとし、これまでとは少し異なるセットアップ・フィロソフィーのレースカーを持ち込みました。FP1では、いいスピードを引き出すことができ、以前よりマシーンに満足していました。ところが、午後になると気温がかなり上昇し、他のドライバーに比べて僕たちのスピードは大きく落ち込みました。僕とグレアムのふたりは揃ってFP2で苦しみ、そのまま予選に挑むことになったのです」 「気温の上昇がグリップ・レベルに見逃せない影響を与えたようです。展開としては、フェニックスのオーバルコースで起きたこととよく似ていました。もちろん、一方はショートオーバルで他方はロードコースと異なっているので、同じような状況とは思えないかもしれませんが、そこにはひとつの傾向があって、僕たちはその解決策を見つけ出さなければいけません。というのも、気温が上がったときのスピードの落ち方が僕たちは極端だと思われるからです」 2018年に初めて起きた嬉しい変化は、予選の第1セグメントでしっかりとした速さを示し、予選グループで5番手につけたことにある。これで第2セグメントへの進出を決めた琢磨は11番グリッドを獲得。これは、ファイアストン・ファスト6に駒を進めるにはほど遠い成績のように思えるが、あと0.2秒速ければそれも達成できたのである。 「最近の何レースかでは、僕たちは不運にもタイムを記録できませんでした。けれども、今回はついにそれができました。僕は第2セグメントに進出しましたが、これまでに比べればずっといい成績です。最初のプラクティスに比べて、僕たちは上位陣との差を縮め、もう少しでファイアストン・ファスト6に進出できるところでした。そこでフロントロウが獲得できたとまでは思いませんが、もしも1周を完璧にまとめることができれば、おそらくファスト6への切符が手に入ったでしょう。僕はスピードを取り戻しましたが、アタックラップは残念ながら完全にクリーンとはいえず、第2セグメントを突破できませんでした」 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、予選に向けてマシーンの微調整を行ったのみ。そしてウォームアップでは考え方の異なる決勝用のセットアップを煮詰め、安定したペースを手に入れなければならなかった。しかし、これはうまくいかず、琢磨は17番手に終わる。「とても苦しい状況でした。僕たちは予選中にマシーンを開発することができず、まったく異なるセットアップで走っていました。つまり、僕たちはどちらつかずの状態で、今後の方向性を決めなければいかなかったのです。そこで決勝用のセットアップを半分だけ進め、これがレースでうまく機能することを期待しました」 ここまではよかったが、オープニングラップに起きたドラマにより琢磨はピットに舞い戻ることとなる。スタートではいくつもポジションを上げたが、ターン2でサイモン・パジェノーとジョーダン・キングと混戦を繰り広げた直後にスペンサー・ピゴットが琢磨を急襲。まだ若いアメリカ人ドライバーは、その責任を問われてペナルティが科せられた。「ターン1ではいつもなにかが起こります。5ワイドはもちろん、6ワイドや7ワイドになることもありました。でも、そこからコースは急激に狭くなります。僕は心から信頼するエリオ・カストロネヴェスを追っていましたが、目の前に小さなスペースを見つけたので、マシーンを大きくアウト側に振ることにしました。ここで少なくとも4台をパスしましたが、ターン2では逆に進路を譲らなければならず、少々もとのポジションを失いましたが、に戻りました。それでもおそらく8番手までジャンプアップできたのですからでしたが、スタートはとても良かった悪くなかったと思います」 「ターン5とターン6は通過速度が非常に高いシケインで、ここで僕はピゴットとサイド・バイ・サイドになりました。ただし、サイド・バイ・サイドのままここを通り抜けるのは不可能です。このとき僕はレーシングラインで、ピゴットはコースアウトするライン上にいたので、おそらく彼はシケインをクリアできずに一旦コースオフし、その後でまたコースに戻ってくるだろうと予想していました。ところが不運にも、彼は縁石に引っかかって空中を舞っていったのです! しかも、あらぬ方向に向かって飛び上がり、なんと僕のほうに迫ってきました。僕は驚いてアクシデントを避けようとしましたが、結果的に僕たちは接触。僕はグリーンに押し出されると、最後尾まで落ちてしまいましたコース上を全車両が通過するのを待つ羽目になったのです。これには本当にがっかりしました」 このため琢磨はピットイン。燃料を大量に再び満タンまで補給して走行を再開する。ただし、ペースは素晴らしいものだった。琢磨は何台もオーバーテイクして、予定していた最初のピットストップを行うときには6番手まで挽回していた。ここまで琢磨はブラックタイアを装着。しかし、ロードコースと市街地コースでは、各ドライバーはレッドタイアとブラックタイアを少なくとも1スティントは使用しなければならない。そしてレッドタイアブラックタイアでの走行は悲惨なものとなり、琢磨は集団の後方に向けて真っ逆さまに順位を落としていく。しかし、これはしっかりとした理由があってのことだった。 「このコースでは、以前からレッドタイアのほうがバランス、グリップ、ドライバビリティの点で優れていました。そこで34ストップのレースでは、誰もが3セットのレッドタイアと1セットのブラックタイアを使います。ブラックタイアのペースは遅く、通常レッドタイアよりもラップタイムで1.5秒ほど下回りますが、僕の場合は2.5秒、ひどいときは3秒も遅れをとっていました。これは理解しがたいことです。きっと空気圧が低すぎたのだろうと思っていましたが、いつまで経っても空気圧が上昇する気配はみられませんでした。ブレーキングではスタビリティが低く、コーナーではアンダーステアで、コーナーからの立ち上がりではトラクションが不足していました」 「無線で状況を知らせたところ、チームからは『状況を調べていみる』との答えが返ってきたものの、僕はピットウィンドウに入るまで走行を続けなければならず、その間に一旦抜かしたすべてのドライバーに抜き返されました。レース後に調べてみると、なんとリアタイアが左右反対に装着されていたことがわかりました。したがって空気圧もまったく間違っていたことになりますが、それ以上に問題だったのはタイアの構造にありました。左右反対に装着したら、タイアはまったく機能しません。どうしてこんなことになったのか、しっかりと調査する必要があります」 レッドタイアに履き替えた琢磨は、最後のふたつのスティントで再び巻き返しを図った。やがてジョセフ・ニューガーデンがスピンすると、レースは一度リセットされ、誰もが新品のレッドタイアを装着してタンクを燃料で満たし、チェッカードフラッグが振り下ろされるまでスプリントレースを繰り広げることとなった。「僕は20番手くらいからレースを再開しました。これは本当に素晴らしいスティントでした。僕はもっともペースが速いドライバーのひとりで、たくさんのドライバーをオーバーテイクしました。ライバルたちとの真っ向勝負で20番手から10番手まで返り咲いたので、強い自信を抱きました。しかもフィニッシュ間際には前方先頭グループに迫っていました。辛い週末でしたが、自分たちの身に降りかかったことを考えれば、トップ10でフィニッシュできてよかったと思います」 インディGPが終われば、直ちにインディ500に向けた準備に取りかかることになる。2017年に優勝した琢磨にとっては初の防衛戦となるレースだ。「スーパースピードウェイに戻ってくるのが待ちきれない気分です。いいプラクティスになることを期待していますし、できれば強力なマシーンを作り上げたいですね。それに、いつものチームメイトであるグレアムに加えて、古い友人のオリオール・セルヴィアとも一緒に戦えるのですから、本当に素晴らしいと思います」 「新しいクルマと新しいパッケージでスーパースピードウェイに挑むことになります。オープンテストを走った当初の印象は良好だったものの、僕たちが本当にどこにいるかはわかりません。大変なチャレンジになるでしょうが、きっと楽しいでしょうし、ディフェンディングチャンピオンとしてインディ500を戦うとどんな気持ちになるのか、想像もつきません! きっとエキサイティングなレースになるでしょう」 written by Marcus Simmons |