COLUMN |
ベライゾン・インディカー・シリーズのロングビーチ戦で、佐藤琢磨はほぼ最後尾のグリッドから表彰台に手が届くポジションまで追い上げた。ところが残念なことに、今度は絶対に取り戻せないほど大きく遅れたポジションへと再び転落したのである。21位という結果は彼らの努力にまるで見合っていないものだが、琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは今後に向けて大きな自信を手に入れたといえる。
金曜日のフリープラクティスで、琢磨はFP1で6番手、FP2で4番手と力強い滑り出しを見せた。しかし、No.30をつけたダラーラ・ホンダからさらなるスピードを引き出さなければならないことを、琢磨もチームもよく理解していた。「開幕戦のセントピーターズバーグに比べれば、はるかにスムーズな展開でした」と琢磨。「マシーンのバランスは悪くありませんでしたが、グリップ・レベルに関してはもう少し改善しなければいけないように思われました。順位自体は悪くないものの、トップとのタイム差は大きく、たくさんのライバルがそのギャップを埋めるポジションに浮上することが予想されました。多くのチームがタイムを縮めることがわかっていたので、この順位で安心しているわけにはいかなかったのです」 「ロングビーチではよくあることですが、初日から2日目にかけて路面にラバーがのり、コースコンディションが劇的に改善されるため、マシーンにも多くの変更を施さなければいけません。予選を迎えるまではマシーンに満足できませんでしたが、それでも長足の進歩を遂げていました」 金曜日のセッションはターン1でスライドし、ウォールと接触して幕を閉じた。「ラインを外すと急激にグリップが低下します。しかもレッド・タイアのライフは実質的に1周しかなかったようですありません。3ラップ目には、ほとんどグリップが残されていませんでしたないのです」 土曜日の午前中に行われたFP3では15番手まで後退したものの、チームは自信を抱いていた。スピードは間違いなく向上しているが、部分的に提示されていたイエローと最後には赤旗が振られたことで、実力に見合ったタイムを出せなかったことがわかっていたからだ。 しかし、予選は惨憺たる結果に終わった。なにしろ、琢磨はNo.30のマシーンを22番グリッドに並べることになったのだから……。「マシーンは進歩していましたが、そのパフォーマンスを発揮するチャンスがありませんでした。チームメイトのグレアム・レイホールは別の予選グループチームから出走し、ファイアストン・ファスト6まで進出しました。僕は、彼に比べると運に恵まれませんでした。アタックラップのタイミングが悪く、コースインしたときに複数のドライバーが前方で間隔を空けるためにスロー走行していた為、アタックを開始したとき、僕の後ろを走っているドライバーはほとんどいません。このため、タイアを満足にウォームアップできませんでした。最終コーナーを立ち上がって次のアタックラップに入るときはホイールスピンがひどく、ターン1ではタイアが温まっていなかったのでマシーンは小刻みに揺れながらスライドしました。僕はタイアをセーブする方針にし、いっぽうで2周目に向けて万全の対策で内圧を上げようとしました。ところがその最も大切なラップが始まったターン1の進入ではローカルイエローが提示されていました。僕がターン1に進入する直前にはイエローが解除したところでイエローが提示されるようされになったので、実際には僕がそれほど大きくやったほどペースを落とす必要はなかったのかもしれませんが、確実にタイムロスしましたなかったのかもしれません。そしてところが、僕と同じようにターン1でそのイエローを作った張本人である受けたマルコ・アンドレッティが前方を走行していました。彼は僕に進路を譲ることもできたし、レーシングスピードで走り続けることもできたでしょう。ところが、僕はターン8で彼に追い付いてしまったのです。その後のセクタータイムを見ると、追いつくまでの僕はトップ6に十分入る速さだったことがわかるので、セグメント2に進出できたはずです。けれども、最後のセクションで彼に捕まったため、大幅にタイムロスする結果となってしまったのですを伸ばすことができませんでした。これで僕の予選は終わりました。とても強い不満を感じました」 このため、レースでは戦略が重要な意味を持つことになる。22番グリッドからスタートするとなると、通常は優れたレース戦略とともにいくぶんかの幸運が必要となる。しかし、これとは異なる戦い方もある。ダウンフォースを削ってライバルたちをオーバーテイクしていくという戦略だ。このセットアップを日曜日朝のウォームアップで試したところ、嬉しいことに琢磨は11番手のタイムをマークする。「ダウンフォースを削ると1周のラップタイムは遅くなってしまいまするのが一般的です。けれども、このセットアップはストレートが伸びるうえに良好なバランスも見つけることができたの良好で、とても勇気づけられました。最大の疑問はタイア・デグラデーション(性能劣化)にありました。なぜなら、ダウンフォースを減らすと99%の確率でタイアの持ち・デグラデーションが悪化するからです」 スタートが切られるとサイモン・パジェノーのアクシデントですぐにイエローが提示されたが、改めてグリーンフラッグが振り下ろされると、琢磨は次第に順位を上げていった。最初のスティントでザカリー・クラマン・デメロ、ギャビー・シャヴェス、スペンサー・ピゴット、アンドレッティ、ザック・ヴィーチを攻略。さらに他のドライバーがピットストップを行ったため、遅めにピットインした琢磨はこの時点で6番手まで浮上し、14番手でコースに復帰した。第2スティントでは、ジョーダン・キングをオーバーテイクし、ライバルたちがピットストップを行ったために再び順位を上げた。カイル・カイザーのマシーンをコースへ戻すためにイエローが提示されたとき、琢磨は6番手につけていた。琢磨はあと1回ピットストップする必要があったが、それは彼の前を走るドライバーたちにとっても同様だった。 「ロングビーチはいつ走っても素晴らしいコースですし、コース上でオーバーテイクできたのでとても楽しかったです。もちろん、本来ダウンフォースが必要となるコーナーではステアリングと格闘することになりますが、僕たちはメカニカル・グリップを大幅に向上させることに成功していました。上位陣とは、レース戦略がもたらした幸運ではなく、実力で堂々と渡り合うことはできました。しかも、レース中盤までに6番手へと浮上できたので申し分ありません。ライアン・ハンター-レイとは何度かサイド・バイ・サイドを楽しみましたが、ほとんどのドライバーはターン1のブレーキングでオーバーテイクしました」 「レース中盤まで、トップ8のドライバーは同じレース戦略で走っていました。誰もがあと1回ピットストップを残していました。僕のタイアはまだ新品に近い状態でした。このときレッド・タイアを履いていたのは僕とセバスチャン・ブールデだけで、ほかのドライバーはほとんどブラック・タイアを装着していました。したがって、レース終盤に向けて僕が順位を上げるのは保証されたも同然でした。なにもかも計画どおりに進行していたのです」 ところが、リスタートが切られて間もなく、琢磨を悲劇が襲う。ハンター-レイがコントロールを失い、琢磨は彼を避けきれなかったのだ。「昨年はライアンのチームメイトだったので、彼がターン5でとても速いことを知っていました。このターンでの彼はいつも自信にあふれ満々で、よくターン6のブレーキングでライバルのインに飛び込んでいきました。そのとき、ライアンはウィル・パワーを追っていて、僕はふたりの後方につけていました。すると、ライアンはさらにウィルに接近していきました。ターン5から立ち上がるとき、ライアンがオーバーテイクしようとしていることがわかりました。けれど、少しパワーをかけ過ぎたようで、コーナー出口でハーフスピンに陥ります。僕は避けようとしましたが、最後の最後で彼はグリップを回復させ、こちらに戻ってきました。そのとき既に彼の内側に急接近していた僕のフロントタイヤと彼のテールが流れ、僕と接触したのです」 接触の衝撃自体は小さかった。通常であればインディカーにダメージを与えるようなレベルではまったくなかったのだが……。 「接触した角度がよくありませんでした。このためフロントのアップライトを固定するボルトが折れてしまったのです。滅多に起きるトラブルではありませんが、おかげでピットに戻らなくてはならなくなりました。これさえなければ僕はレースを走りきっていたでしょう。しかも、このとき僕の後方を走っていたドライバーが表彰台に上っているので、残念でなりません」 マシーンの修復により琢磨は11ラップ遅れとなる。その後の走行は、今後のレースに向けてのデータ収集となったといっても過言ではない。好成績を収められたレースだったことは間違いが、今回琢磨が見せたパフォーマンスは、今後に向けた素晴らしい前兆と見ることもできる。 来週はアラバマのバーバー・モータースポーツ・パークでの一戦に臨むことになるが、ロングビーチとはコースの特性とは大きく異なる。ご存知のとおり、琢磨はアップ・ダウンの激しいこのコースを愛して止まない。「バーバーでは冬の間にテストを行いました。路面温度は大きく異なるでしょうし、テストは天候の影響で中断されましたが、いいアイデアを手に入れたので、それをさらに改善できることを期待しています」 written by Marcus Simmons |