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Rd.2 [Sat,07 April]
Phoenix

砂漠に起きた”季節の変化”
 フェニックスでのレースは、佐藤琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングにとって落胆以外のなにものでもなかった。アリゾナの1マイル・オーバルで琢磨は11位完走を果たしたものの、2月のオープンテストで琢磨とグレアム・レーホールが見せた速さを思えば、期待を下回る結果だったと言わざるを得ない。

 「2月のオープンテストはとてもポジティブで建設的なものでした」と琢磨。「テストは2日間で、昼と夜のセッションを2回ずつ繰り返しました。つまり、暖かい日中のコンディションと、涼しい夜のコンディションを経験したことになります。そうした異なる環境のなかで、僕たちはとてもコンペティティブでした。したがって、大きな期待を抱いたのは当然といえるでしょう」

 週末最初のフリープラクティスで、すべてが根本的に間違っていることを示す最初の兆候が現れた。「砂漠の真ん中にあるフェニックスでは実質的に冬はありませんが、それでも2月と4月ではずいぶん気温が異なります。オーバルを走るクルマは気温の影響を大きく受けます。だから、グリップが低下して苦しむことになるとは予想していました。2月のテストよりも自分たちが遅くなることは承知していましたが、これほど悪い展開になるとは予想していませんでした」
「インスタレーションラップを走り終えると、ほかのドライバーがラップタイムを記録するまで待機することにしました。最初に走り出したのはジェイムズ・ヒンチクリフでしたが、そのタイムは平凡なものでした。路面温度は2月に比べて30F°(約17℃)以上も高かったので、コンディションは決してよくないことが予想されました。ヒンチが所属するシュミット・ピーターソン・モータースポーツは、オープンテストのとき必ずしも速かったとはいえなかったので、もう少しほかのドライバーがタイムを記録するまで待つことにしました。その後で僕たちも走り始めましたが、そこで、ヒンチクリフがものすごくコンペティティブであることに気づきます。おそらく、僕たちは長く待ちすぎたのでしょう。最初の走行を終えたとき、コースコンディションがどれほど僕たちのマシーンに悪影響を与えているかを知って愕然としました」

 「テストからレースウィークエンドにかけての変化という観点でいえば、各チームは3つのグループに分類できました。シュミット・ピーターソンは好調で大きく躍進したチーム。ペンスキー、ガナッシ、アンドレッティはパフォーマンスを維持したチーム。そしてトップから最下位グループに転落したチームの3グループですが、僕たちは残念ながら最後のグループに属していたようです…! 僕たちも高い気温に備えた準備をしていましたが、2月のテストがあまりにも好調だったので、あまり大きく変更する必要はないと捉えていました。 『なぜ、そんなことしなきゃいけないの?』という状況だったのです。このため、クルマは基本的に同じ状態でしたが、まったく使い物になりませんでした。しかも、セッションが始まってから時間がだいぶ経過していたので、セッティングを大幅に変更することもできません。予選に備えてニュータイアを連続投入し、コンディションに出来る限り順応することくらいしかできませんでした。装着したくらいです。セッションが終わったとき、僕を取り巻く状況は快適ではなかったし、マシーンはもまるでコンペティティブではありませんでしたし、自信を持ってアタックできるような状況ではありませんでした」  

 そのことを思えば、予選で難しい状況に直面した琢磨が13番グリッドを獲得したことは大きな進歩だったといっていい。今季より導入された全チーム共通の空力パッケージ“ユニバーサルキット”は従来に比べてダウンフォースが減少しているため、ニュータイアを履いていてもフラットアウトでコーナーを抜けることができず、ときにはダウンソフトさえ必要になる。

 「ウォームアップ・ラップではターン4の出口でスナップ・オーバーステアが起きました。自信を築いていくうえで、決して嬉しいできごとではありません。最初のアタックラップではターン1からターン2までスライドし、2ラップ目ではターン2でリアが弾かれるように滑ったのでスロットルを戻さなければいけませんでした。あのときは、本当にビックリしました。ギリギリのところでした」  

 2018年からオーバルの予選アタック順はポイントテーブルの逆順とされることになった。つまり、第2戦の今回は開幕戦セントピーターズバーグの最下位から順にアタックしたのである。このため、セントピーターズバーグを制したセバスチャン・ブールデが最後にアタックし、ポールポジションを獲得。ところが、フロリダの市街地コースで2位だったレイホールは最後から2番目にアタックしながら11位でフェニックスの予選を終えたのである。このことからもチームの実力がわかろうというもの。しかも、琢磨はレイホールより先に出走するのだから、コンディションに恵まれていないだけでなく、セッティングマシーンの大幅変更を余儀なくされていたマシーンのハンドリング状態を試す先陣役となっチームからモルモットのような扱いを受けたのはやむを得ないことだった。  

 金曜日の夜に行われたウォームアップ・セッションでは状況がやや好転し、琢磨は10番手のタイムをマーク。「このときは温度が大きく下がりました。ある意味、2月の日中に近いコンディションとなったので、僕たちにとって有利な状況に近づいたといえます。それでも、僕たちはセットアップを大幅に変更しなければいけませんでした。そこでグレアムと僕とでセッティングの方向性を大きく分け、どちらにするかを判断することになりました」

 「僕が行なったあるロングランはコンペティティブな内容で、トップ5に匹敵するものでした。これでタイアマネージメントに関しては自信を得ることができました。また、ウォームアップでニュータイアを使わなかったので、決勝ではニュータイアを1セット分余計に使えることになりました。これでピット戦略の幅が広がったといえます」  

 最初のスティントは、ルーキーのピエトロ・フィッティパルディがクラッシュして2回続けてコーションになったことを除けば、比較的平穏な展開だった。スタートで14番手となった琢磨は、こんなことを感じていたという。「誰もが注意深く走っている様子でした。なにしろ、ユニバーサルキットでオーバルレースを戦うのは誰にとっても今回が初めてだったので、この先の展開が予想できなかったからです。スタートは悪くありませんでしたが、僕とグレアムが追い上げを開始しようとしたところ、それがとても難しいことを思い知らされます。バランスシフトの点では、誰かの後ろを走るのは昨年よりも少し容易になりましたが、ダウンフォースが大きく減少していることには変わりありません。また、ウィングの角度にも制限があるので、基本的には去年の予選レベルのダウンフォース用セッティングで決勝を走っているようなものです。にもかかわらず燃料の搭載量はこれまでのレースと変わらないのですから、フラットアウトで走れるはずがありません。ときには、コーナーの手前で3回ダウンシフトを行なうことがあったほどです! 単独ひとりだけで限界的な走行をしているだけでもマシーンのグリップ力は限界的で、ときはコース幅を目一杯使う必要があります。えますが、生き残るためにはつまり、常にベストのラインを走らなければいけません。したがってサイド・バイ・サイドや前車に接近した走りをするのはまるで不可能でした」  

 フィッティパルディのアクシデントでコーションとなったときは全員がピットストップを行なったため、琢磨は9番手に浮上するチャンスを手に入れる。このとき、琢磨が走らせる30号車はロングランを得意としていたことから、第2スティントは長めに周回することが決まる。このため次にイエローが提示されるのを待つこととなったが、そのチャンスは巡ってこなかった。それどころか、早めにピットストップをしてニュータイアを得たドライバーたちがペースを上げ始めていた。琢磨は2度目のピットストップを行なう直前に2番手まで順位を上げたが、コースに復帰すると11番手に後退。直後にサイモン・パジェノーに追い越されてしまう。「レースはどんどん厳しいものになっていきました」 琢磨はそう語った。  

 グリーン中に行なわれた次のピットストップが一巡したとき、琢磨はギリギリでトップ10に加わるポジションを走行していたが、ここでエド・ジョーンズがクラッシュ。この日最後のコーションになるとともに、レースは残り8周で再開されることになる。「この直前のピットストップを終えてからは、タイアマネージメントに専念しました。なぜなら、フィニッシュまでは長い道のりだと思われたからです。ところがその途中でイエローが提示されました。そのとき装着していたタイアで、僕はかなりの周回数をこなしていましたが、このタイミングでピットストップするドライバーはそれほど多くないと予想されました。いっぽう、タイアのセット数に関して僕には余裕があったので、このときチームはピットストップすることを決めます。ところが、驚いたことにおよそ80%のドライバーが僕と同じようにピットストップを行なったのです。このため、その後は多くのドライバーがニュータイアを装着して走行することになり、僕はパジェノーにオーバーテイクされて11位でチェッカードフラッグを受けました。もしもこのときステイアウトをしていれば、僕はヒンチクリフとレースしていたはずなので、7位か8位でフィニッシュできたでしょう。もちろん、そのほうがいい結果ですが、トップ4のドライバーに迫るような走りはできなかったはずです。いずれにせよ、テストであれだけコンペティティブだったのに、レース週末ではペースが大幅に伸び悩んだのですから、残念でなりません」  

 次戦の開催地は、琢磨がインディカー初優勝を遂げたロングビーチ。このコースを琢磨が愛して止まないことはいうまでもない。今年2度目の市街地レースを前にして、琢磨はこんなコメントを口にした。「セントピーターズバーグではファスト6に残ることができたので、ロングビーチでも力強くレースを戦いたいと願っています」  

 このレースに向けた準備は、実はフェニックスよりも前に始まっていた。ロサンジェルス・エンジェルスとクリーヴランド・インディアンズが戦う試合の始球式で琢磨がボールを投げることになったからだ。「マリオ・アンドレッティの2シーター・インディカーを借りて数ラップを走行しました。マリオのシートポジションは僕にもぴったりでした! 皆さんに楽しんでもらったり、逆に怖がらせたりするのは楽しいですね。これに続いて、僕は大リーグの試合が行なわれる野球場でボールを投げたのですが、信じられないような体験でした。これを実現してくれたエンジェルスに感謝します」

 「ボールを投げるのは、スポーツのなかでも特に苦手なので、投げる前は少し緊張していました。2シーターのドライブが終わってから、仲のいい松本浩明カメラマンと一緒にYouTubeを見て、ボールの投げ方を勉強しました! エンジェルスでプレイする大谷翔平選手と会えたことも嬉しかったです。大谷選手も僕もデサントと契約していますが、これまで会ったことは一度もありませんでした」

 「マウンドに立てるなんて、滅多にできない経験ですよね。ボールを投げるのは、簡単そうに見えますが、なかなか実はとても難しいものですね。ただし、次はもっと上手くできると思いますよ!」

written by Marcus Simmons
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