RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.16 [Sun,03 September]
Watkins Glen

わずか数秒で消えた“夢”
 ワトキンスグレンでベライゾン・インディカー・シリーズの一戦が始まった直後の数秒間は、佐藤琢磨とNo.26 アンドレッティ・オートスポーツ・ダラーラ-ホンダにとって理想的な展開となった。2コーナーまでに琢磨は4番グリッドから2番手へとジャンプアップ。そのまま勢いにのり、トップを走るチームメイトのアレクサンダー・ロッシをまさにオーバーテイクしようとしたときのこと。琢磨のマシーンはパワーを失い、このトラブルを解消しようと努力するメカニックたちにとっては悪夢も同然の状況に陥ったのだ。結果的に琢磨は4ラップ遅れの19位でフィニッシュしたが、これは彼らに相応しい成績とはまるでいえなかった。

 2016年のワトキンスグレン戦はアンドレッティにとって散々な結果に終わった。そこでチームはミドオハイオでのテストを見送り、ニューヨーク北部の素晴らしいサーキットを訪れて距離を稼いで走行データを収集することにした。「昨年は4台揃ってQ1で敗退したので、チームはミドオハイオの代わりにワトキンスグレンでテストを行うことにしたのです」と琢磨。「テストは順調にいきましたが、もちろんレースウィークエンドとテストではコンディションが異なります。それでも、いくつかのアイテムのフィロソフィーを確認する作業はとてもうまくいき、僕たちは大いに自信を得ることができました」

 その流れはレースウィークのプラクティスでも保つことができた。最初のセッションこそ17番手だったが、2回目のセッションでは9番手まで浮上したのである。「初日は強い手応えを感じました。ただし、週末に先立ってハリケーンが通過した影響で、風向きは180度変わっていました。バランスは大きく変化しましたが、これは誰にとっても同じことです。また、チームメイトはとてもコンペティティブでした。僕たちは様々なことを試しながらスピードを高めていったので、僕にとっても満足のいく状況でした」

 土曜日の午前中に行われたセッションで琢磨は6番手へと順位を上げた。「すべてが正しい方向に向かって進んでいました。今年からレギュレーションが改正になり、フリープラクティスでも柔らかめのレッドタイアが1セット使えるようになりましたが、今回はブラックとレッドの間でスピードやパフォーマンスの点に大きな差がないことが明らかになります。レッドはコンパウンドが柔らかいので高い性能を素早く発揮できるようになり、グリップも高いのですが、バランスの点ではややトリッキーで、グリップを余すことなく引き出すのも難しいように思われました。ブラックのグリップ・レベルはレッドほど高くないものの、とても力強く、安定しています。現在、僕たちが使っているダウンフォース・レベルでワトキンスグレンを走ると、信じられないくらいスピードが高く、コーナーによっては4.5Gにも達します。そしてブラックのほうがより安定していたのです」

 こうした傾向はどのチームにも共通したもので、最初のふたつのセグメントでは多くのドライバーがレッドタイアを使ったものの、最後のファイアストン・ファスト6に進出したドライバーはブラックを履いていた。琢磨はその後も順調に進歩していく。第1セグメントでは予選グループの4番手、第2セグメントでは3番手となり、ファスト6では4番グリッドを手に入れたのだ。「第1セグメントはグループ1から出走したので、路面はまだグリーンな状態でした。路面温度はとても低かったので、すぐに温度が上がるレッドタイアを選びました。ファスト6に進出できたのはとてもよかったです。ここではレッドではなくブラックを履きましたが、非常にコンペティティブなセッションとなりました。僕はたった0.1秒差でポールを逃したのです! ターン9まで僕はトップでしたが、ここはとてもトリッキーなコーナーで、簡単にタイムをロスします。ジョセフ・ニューガーデンはここでホイールをダートに落とし、遅れをとりました。アレックスは素晴らしい走りでポールを獲得しましたが、僕たちはたった0.1秒差でトップを逃したのですから、4番手で満足する必要はありません。ただし、僕たちがとてもコンペティティブなのは間違いなかったので、日曜日のレースが楽しみで仕方ありませんでした」

 日曜日は雨が降った。ウェットコンディションを得意とする琢磨にとってはなんの問題もない。ウォームアップでは「80%がダンプ・コンディションでしたが、4周目にはタイヤのライフが終わっていました」という。このため、パドックには数多くのクエスチョンマークが渦巻くこととなる。「グリッドには様々なレベルのダウンフォースを選択するドライバーが揃いました。僕たちのチーム内でも設定がばらけたほどです。僕は間をとり、スプリングを数百ポンド柔らかくして、ダウンフォースもなかほどを選ぶという、いわばハイブリッドなセッティングにしました。いっぽう、ペンスキーはダウンフォースを非常に重く、またガナッシは非常に軽く設定していました」 オフィシャルがウェットレースを宣言したため、スタート時にはウェットタイヤの装着が義務づけられた。ただし「フォーメーションラップでは70%がドライ」という状況で、どのドライバーもできるだけ早い段階でスリックに履き替えたいと思っていた。

 琢磨はスタートを完璧に決める。「アレックスとディキシー(スコット・ディクソン)はサイド・バイ・サイドになっていたので、僕が脇をすり抜けることはできませんでした。ジョセフはとてもアグレッシブで、彼がアレックスのイン側に飛び込むのが見えました。ただし、彼はターン1で行きすぎてしまったため、ここで僕はディキシーをパスするチャンスを手に入れました。ターン2に向けて僕はとても勢いがあり、ジョセフを攻略します。この段階では完璧な展開で、完璧なスリップストリームに入っていたので、99%の確率でアレックスとトップ争いができたはずです。ところが上り坂のターン4に進入したところで突然エンジン・パワーを失ったため、ジョセフは僕に追突しかけました。しかも、僕のマシーンは6速にも入らなくなっていたのです」

 すべてのドライバーが直ちにピットへ飛び込むと、その数周後にはジェイムズ・ヒンチクリフがコース上で停止したためにコーションとなる。この段階で、アンドレッティとHPDのエンジン担当者はデータをダウンロードするチャンスを手に入れ、その後No.26のマシーンを再びコースに送り出したが、これは何の役にも立たなかった。「まるでF3カーを運転しているようでした! 僕たちはまだ問題を解決できていませんでした。ピットからはパワーをもう1度使うように指示されました。つまり、コース上で一度すべてをシャットダウンしろというのです。しかし、ギアを入れることができなかったのでエンジンは始動せず、マシーンは停まってしまいました」

 このため2度目のコーションとなったものの、セイフティクルーはNo.26をピットまで連れ戻してくれた。琢磨はこれでリードラップから脱落したが、チームが首尾よく問題を解決してくれることが期待された。結果的に、チームはこれを成し遂げたものの、レースに復帰したとき、琢磨は4周遅れとなっていた。「チームは原因を突き止めてくれました。ウェイストゲート・バルブを制御する電気ケーブルの1本にトラブルがあり、おかげでブーストを完全に失っていたのです。ウェイストゲートは、当日の朝、まったく新しいコネクターとともに交換されていたので、このコネクターに問題があったと思われます。これは本当に残念なことでした。ここ3戦か4戦は、予選では非常に好調なのに、決勝で何らかの不運が起きるというレースが続いています」

 この後のレースは一種のテストセッションとなった。「第1スティントではバランスに問題を抱えていました。でも、最後のスティントで、僕たちはとてもコンペティティブになります。コース上のドライバーたちとレースを繰り広げましたが、僕の順位には関係ありませんでした」 琢磨はセバスチャン・ブールデに次ぐファステストラップを記録していたが、残り4周となったところでレッドタイアを装着し、ファステストラップの栄冠をブールデから奪い取った。

 「とても期待の持てるレースだったので、本当に残念でした。こうなったからには最終戦のソノマに期待するしかありません。これがもうシーズン最後のレースだなんて、信じられない気分です! ワトキンスグレンでは素晴らしいスピードを発揮できたほか、チームは昨年ソノマで大成功を収めています、僕自身はソノマで好成績を手に入れたことはありませんが、これまでハードに働き続けてきてくれたNo.26のマシーンに関わるメンバーに、シーズン最後のレースでいいことが起きて欲しいと願っています」

 もっとも、琢磨はワトキンスグレンに続いて彫刻家のもとを訪ねることになる。インディ500のウィナーは様々なことを経験するが、そのひとつとして、ウィナーの顔はボルグ-ワーナー・トロフィーに刻み込まれるのである。できれば、ソノマではもうひとつのトロフィーを手に入れたいところだ。「コンペティティブなパッケージが手に入り、シーズンをいい形で締め括れることを心から期待しています」

written by Marcus Simmons
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