RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.11 [Sun,09 July]
Iowa

不可解なデグラデーション
ショートオーバルのアイオワ・スピードウェイでは、ベライゾン・インディカー・シリーズのなかでも特に意外なレースが起こりがちだが、今回、この7/8マイルのサーキットではいつもにも増して予測不可能な戦いが繰り広げられた。とりわけ佐藤琢磨にとってはアップ&ダウンの激しい週末だったといえる。なにしろ、アンドレッティ・オートスポーツ・ダラーラ・ホンダを駆って臨んだ予選でホンダ勢でトップとなる5番グリッドを手に入れながら、レース前半はペースが伸び悩んで周回遅れに転落し、結果的に16位でフィニッシュしたのだから……。

前戦のロードアメリカが終わった直後、チームはアイオワでテストを実施していた。「ひどく風が強い日だったので、エアロテストを行なうのはとても難しいコンディションでした」と琢磨。「それでも、たくさんのメニューを消化して、今年のフィロソフィーに従った新しいセットアップを昨年のものと比較することができました」

アイオワのレースはテストのときよりもさらに暑くなると予想されると同時に、予選前には75分間のプラクティスが1回しか行なわれないため、アンドレッティ・チームはこれまでとはやや異なるセットアップを選択することになる。「とても忙しくて、比較テストを行なう余裕はありませんでした。アンドレッティ・オートスポーツの4台のマシーンでテストする項目を分担しましたが、たとえチームメイトのマシーンで効果的なセットアップが見つかったとしても、オーバルのセッティングはひとつひとつのディテールが大きく結果を左右するので、他人のセットアップをそのままコピーしてもうまくいくとは限りません。僕たちの作業としては、まず基本となるセットアップを行い、続いて予選用のシミュレーションを実施しなければいけません。なぜなら、決勝前にはウォームアップ・セッションが用意されているからです。いずれにしても、テストのときとはコンディションが大きく異なっていました。とても暑くて、路面温度もすごく上がっていました。オーバルのセットアップは気温の変化に敏感で、バランスとグリップレベルは驚くほど大きな影響を受けます。最初に走行したときは、路面がとてもグリーンな状態だったこともあってバランスやグリップには満足できず、このためたくさんの変更を行ってセットアップのフィロソフィーも異なるものにしました」

完全な予選シミュレーションを行う余裕はとうとう手に入らなかったが、それでも21人中20番手に終わった琢磨はある程度の手応えを掴んでいた。そうはいっても、さすがに自分が5番手グリッドを手に入れることまでは予想していなかったようだ。

「僕たちが手に入れたスピードに関しては、とても満足していました。チームで最初に予選に臨んだのはマルコ・アンドレッティでしたが、とても苦しいそうな走りでした。なにしろ、すべてのコーナーでスライドを強いられたのですから! テレメントリーデータを見ていましたが、どちらのサイドのコーナーでもアクセルをほぼ完全に戻さなければならない状態でした。次にアタックしたアレックスのバランスは悪くなかったようですが、全体的なグリップ力が完全に不足しており、スロットルを戻しながら忙しくステアリングを修正していました」

「エンジニアのギャレット・マザースヘッドと僕は、彼らのテレメトリーデータを見ながら『なんてことだ。僕たちはどうすればいいんだ?』と話していました。なぜなら、僕たちは彼らよりも少ないダウンフォースに設定していたからです。ウィングの調整は認められ 1ラップは18秒ほどで、通常の半分ほどしかありません。しかも、ウォームアップを1周するとグリーンフラッグが提示され、そこから2周のアタックを行うことになるのです。したがって事前にタイアを完全にウォームアップするのは不可能なので、コーナーごとにバランスが変わっていくうえ、最大6Gの横Gに襲われます。ウォームアップラップではまだフロントタイアが十分に温まってなく、このためターン1とターン2の間にあるバンプでマシーンがスライドした為、軽くスロットルを戻しました。それでも、バランスとグリップ感は恐れていたほど悪く、むしろかなりの好感触を得たので、残りの周回は全力で走り抜きました。チームは本当に素晴らしい仕事をしてくれたと思います」

土曜日の夜に行われたウォームアップは、トラフィックのなかを走るチャンスが得られなかったものの、まずまずの展開だった。とはいえ、走行時間は決して十分ではなかったので、レース用のセッティングは予想も織り交ぜて決定することとなる。迎えて日曜日、彼らのセッティングは、はじめとても好ましい反応を示したように見えた。オープニングラップでJRヒルデブランドと4番手争いを演じると、琢磨は5番手に落ち着いたからだ。ところが20周を過ぎると勢いを失い、この段階ですでに琢磨を抜かしていたミカエル・アレシンのクラッシュで最初のコーションが提示されたときには10番手までポジションを落としていた。

「スタートしたときはとてもハッピーでした。順位を守りきったことにも満足していましたし、その後はトップグループにまじって後続を引き離し始めていたのです。ところが、10周を過ぎるとリアタイアは“終わった”も同然の状態となります。デグラデーションがひどくてポジションを守れませんでした。しかも、1度ポジションを落とすと、勢いを失って急速に後退することになります。まだ1スティント分の周回数を走りきっていなかったので、イエローが出たのはラッキーでした。ピットストップしたときはフロントウィングを寝かし、少しでもリアタイアを守るセッティングに変更しました。ただし、これでも不十分で、第2スティントではさらに苦しい状況に追い込まれてしまいました」

メカニックたちの活躍もあってリスタートで琢磨は8番手まで挽回できたが、その後は再び順位を落とし始め、コースがグリーンのときに行なった2回目のピットストップまでには17番手となっていた。さらに悪いことに、琢磨がコースに復帰した直後に、カルロス・ムニョスが壁に接触して破片が飛び散り、この影響でイエローが提示。琢磨は2周遅れとなってしまったのだ。

「ひどいオーバーステアに苦しんでいました。マシーンがスライドするとタイア表面の温度は上がりますが、タイアは十分なグリップを発揮できなくなるので、内部の温度はむしろ下がります。こうして、ネガティブなスパイラルに入り込んでいくのです。タイア交換が必要なのは明らかだったので、僕は無線でSOSを送り、5ストップ作戦に切り替えることにします。そして僕はピットに飛び込みましたが、その直後にイエローとなりました。これは本当に残念でした。なぜなら、ショートオーバルでピットストップを行うと2ラップ・ダウンになり、そこから抜け出すのはとても難しいからです」

次のスティントは、コナー・ダリーが壁と接触してイエローが出たことで幕を閉じたが、このときひとつの混乱が起きる。リードラップを走行していたドライバーでピットストップを行ったのはチャーリー・キンボールのみ。この場合、琢磨とエド・ジョーンズは1周を取り返すことができるが、キンボールが見かけ上のトップに立つという予期しない事態となったために判断が錯綜。オフィシャルは琢磨とジョーンズにペースダウンしてセーフティカーの後方に回るように指示したのだ。「2001年イギリスF3のシルヴァーストンを思い出しましたね」 琢磨は笑いを堪えきれない様子だった。「僕たちは40mph(約64km/h)で走ることになったのです」 16年前の秋、セーフティカーランとなった際にレースリーダーを正確に特定するのは、当時のイギリスのレースオフィシャルにとってまだ容易なことではなかった。このため彼らは琢磨の存在を見逃し、実際には2番手だったドライバーの直前にセーフティカーを入れるとともに、セーフティカーが追い付きやすくなるように琢磨にペースダウンを指示したのである。ところが、このときひどい雨が降り続いていたため、再スタートまであとコーナーふたつだけになったところで琢磨はスピンを喫してしまう。タイアが冷えてまったくグリップを発揮できなくなったことが、その原因だった。しかし、最終戦で琢磨は鮮やかに完勝し、連戦連勝でタイトルを獲得したシーズンを白星で締めくくったのである。

こうして、アイオワでの琢磨は苦戦を強いられ、雨のために20分間の中断を挟んだレースがフィニッシュを迎えたとき、No.26のマシーンは2周遅れの16位となっていた。「2ラップ遅れになってからは、リードラップに返り咲こうとして懸命の努力を続けましたが、信じられないくらい難しいレースでした。予選で使ったタイアを履いて臨んだ4スティント目の再スタートでも苦しい状況は続いていましたが、その後は徐々に改善されていきました。まずまずのペースで走り続けた後、ニュータイアを履いて迎えた5スティント目では、トップグループと変わらぬペースで周回を重ねることができました。さらに、陽が傾いてバンクに影がさしてきたことも、僕のセットップにいい影響を与えましたが、すでに時遅しでした。この段階でリスクを犯す必要はまったくなかったものの、僕は前を走るドライバーに追い付いていきました」

この結果、琢磨はポイント争いで7番手に転落したが、いまは次のレースに集中すべきときだろう。今週末には国境を北に越えたカナダのトロントで次のレースが繰り広げられる。「アイオワで起きたことはしっかりと分析する必要がありますが、その後は早く忘れ去りたいレースですね! いずれにせよ、アイオワで3位表彰台を勝ち取ったライアン・ハンター-レイと彼のクルーには、心から祝福したいです。アンドレッティ・オートスポーツに所属する4人のうち、3人は不振に終わりましたが、彼だけはよかったので、これはチームの今後に好材料をもたらすことでしょう。トロントのレースは楽しみです。直前に行われた市街地レースはデトロイトですが、ここで僕たちは成功を収めたので、同じ公道コースのトロントでもいいリズムで走れそうです。しかも、トロントは今年最後の市街地レースです。なにより、僕はこのレースを毎回のように楽しんできましたし、良い思い出もたくさん残しているのですから!」

written by Marcus Simmons
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