RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.10 [Sun,25 June]
Wisconsin

満身創痍
 ロードアメリカがベライゾン・インディカー・シリーズのなかでも傑出したサーキットであることは疑う余地がない。しかし、佐藤琢磨がチャンピオン争いの夢をつなぐための場所としては、あまり好ましくなかったようだ。週末を通してNo.26アンドレッティ・オートスポーツ・ダラーラ-ホンダのペースは伸び悩んでいたうえに、ドライバーの琢磨は頸部に激しい痛みを抱えていたのである。

 そのうえ、琢磨はレースに先だって行なわれたテストに参加できなかった。なぜなら、インディ500を制した凱旋ツアーのため、日本で忙しい日々を過ごしていたからだ。「難しい選択でした」 琢磨が認める。「本来はいうまでもなくレース活動が最優先されます。ただし、このタイミングで日本に帰国することはインディ500のウィナーとしてこなさなければいけない仕事だったのです。テストに関しては、チームからたくさんの作業をこなしておくと伝えられていましたし、テスト後にシミュレーターを走らせることにもなっていました。また、今回のテストではインディ・ライツのドライバーが午前中のセッションで走ることになっており、天候の問題もあったため、レギュラー陣営はほんの数時間しか走れなかったようです。テストを行なうには、決して十分だったとはいえませんでした」

 「日本では、楽しくも忙しい時間を過ごしましたが、たくさんの声援をいただき、本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。チームが予定していたたくさんの比較テストも実施できたので、僕たちは自信を持ってロードアメリカに向かいました」

 ところが、レースウィークはテストと打って変わって温度が上昇し、路面コンディションが大きく変化したことから、アンドレッティ・チームは苦戦を強いられ、金曜日に行なわれた2回のセッションを琢磨は17番手と15番手で終えることとなった。「バランスの点でもグリップの点でも苦しみました。やはりテストをしていないと状況はより困難なものになります。いくつかのことは試しましたが、最大限の効果を出すには時間が足りませんでした」

 土曜日の午前中は涼しくなったものの、琢磨は再び15番手となった。しかも、突発的に起きた頸部の痛みが激しさを増してきたうえ、バランスの改善はいっこうに捗らなかった。「予選に向けてセッティングを大幅に変更しなければいけませんでした。良好なグリップがどうしても得られなかったので、全面的に見直すことにしたのです。プラクティスでは4人のドライバーがそれぞれ異なったセッティングを試しましたが、予選ではマルコ・アンドレッティのセットアップに全員が追随することになりました。いっぽう、予選ではレッド・タイアを履くとフロントのグリップが低下し、不可解なアンダーステアが起きるという問題に悩まされました。これは後にファイアストンから、問題のあったパッチのタイヤだったと説明がありました。タイムに悪影響を及ぼし、順位は間違いなくいくつか下がったと思います」

 このため、琢磨は予選のセグメント2には進出できず、20番グリッドからスタートすることが決まる。さらに、レースに備えて頸部を少しでも休ませるため、日曜日午前中のウォームアップに出走しないことにした。「とにかく休養をとって少しでもいい状態でレースに臨む。チームはこのことを考えて、ウォームアップを見送る判断を下しました。しかし、予選が終わってからチームメイトのセッティングを参考にしてマシーンを変更したため、レースにはぶっつけ本番に近い状態で挑むことになりました。さらに、コクピットには身体を支えるためのプロテクションをたくさん貼り付け、テーピングで身体を固定しました。おまけにドクターによるブロック注射を3本も打ってもらったのです」

 「いわば、ギックリ腰のような症状が頸部に起きたもので、神経に鋭い痛みが伝わり、言葉ではいえないほど苦しい思いをしました。おそらく、身体の酷使など、たくさんの要因が重なったことが原因になったと思います。F1に参戦していた当時にも、新しいHANSデバイスを試した時に似たような症状に苦しむことがありました。しかしあの時はシングルベルトでHANSごと肩を押さえつけられた為、血流が悪くなっておきた怪我でした。先週の症状はそれとは違うものですが、自分で頸を支えられないほどでした」

 このような状態では、レースのスタート直前にNo.26のコクピットから自信を感じ取ることは難しい。数ラップを終えると、琢磨はコノー・ダリーに続く最後尾まで転落したが、3ストップ作戦を選択していたため、4ストップ作戦で走る中団グループが2回目のピットストップを行なうと、順位をいくぶん挽回することができた。続く第2スティントではペースが上がったものの、第3スティントのオープニングラップを走行中、琢磨は高速右コーナーの“キンク”でスピン。コース上にマシーンを停めることになった。これでフルコーションになると、琢磨はピットに舞い戻り、1ラップ遅れとなってレースに復帰した。

 「ほとんど順位を上げることはできませんでした。第1スティントではとにかく状況を落ち着かせ、そこに馴染むことに注力しましたが、第2スティントでは速くなりました。素晴らしいペースとまではいきませんが、決して悪くありませんでした。ところが、第3スティントの初めで、僕は問題を抱えてしてしまいます。パッドに大きく寄りかかるようにしてドライブしていたので、クルマの感触を正確に掴めなかったようです。さらに、ニュータイアを履き、燃料も満タンにしていた影響で、普段だったら1周目でも問題のないキンクでマシーンが神経質な挙動を示し、フロントのグリップが一瞬にして抜けてしまったのです。僕はスロットルを緩めましたが、すでに強い勢いがついていたようです。マーブルに乗って、激しいスピンを喫しました。エンドプレートやフロントウィングにはあまりダメージがありませんでしたが、ボディの下側はかなり傷んでいて、アンダーウィングを失っていました」

 とはいえ、レース中はフロントウィングを交換することしかできず、琢磨は手負いのまま走行を続けることになった。そしてトニー・カナーンの同じ場所でのクラッシュで再びイエローになった後は、レース前半にコースアウトしていたチームメイトのアンドレッティとバトルを演じた。「僕はマルコを追っていましたが、彼はほかのドライバーとバトルをしていて、コースオフに追い込まれたため、僕は順位を上げることができました。その後は別のドライバーに追随していましたが、何かの破片が飛んできて、運悪く僕のフロントウィングに当たってダメージを与えてしまいます。これでダウンフォースをかなり失いました。ただし、もはやピットストップしても無駄だったので、僕はそのまま走り続けてゴールを目指しました」

 こうして琢磨は19位でレースを戦い終えた。ポイント争いでは依然として4番手につけているものの、トップのスコット・ディクソンとは56点もの差がつけられた。この次は? 1日だけ休息をとった後、火曜日には次戦に備えてアイオワ・スピードウェイでテストを行なう予定になっている。

 「ドクターによる治療と注射をしてくれたことに感謝しています。僕には休みが必要なのでしょうが、症状はよくなっているうえ、マシーンにはしっかりとしたパッドが貼り付けられました。レースまでには復調しているでしょうし、少なくともアイオワではブレーキを使いません! ロードアメリカは、いつ訪れても素晴らしい場所で、ファンの皆さんからは熱狂的な声援を送っていただけます。たくさんの観客が来場して、素晴らしい週末になったと思います。足りないのは、僕たちの競争力だけでした」

written by Marcus Simmons
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