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Rd.1 [Sun,12 March]
St. Petersburg

素晴らしい幕開け
 2017年ベライゾン・インディカー・シリーズの開幕戦セントピーターズバーグ。今季移籍した名門チームのアンドレッティ・オートスポーツからこの一戦に挑んだ佐藤琢磨は、数ラップをトップで周回した後に5位でフィニッシュするというエキサイティングなレースを演じた。

 AJフォイト・レーシングのNo.14をつけたマシーンで戦い続けて4年。今季からはNo.26アンドレッティ・ダラーラ・ホンダでシリーズに臨むが、琢磨がいわゆる有力チームからインディカーに参戦するのはこれが初めてのこと。計4台をエントリーするアンドレッティで琢磨のチームメイトとなるのは、ライアン・ハンター-レイ、マルコ・アンドレッティ、そしてアレクサンダー・ロッシの3人だ。「今回の挑戦は本当に楽しみですが、いっぽうでフォイトを離れることをとても淋しく思っています」と琢磨。「なにしろ4シーズンをともに過ごした家族も同然のチームですから、たくさんの思い出があります。また、AJとラリー・フォイト、それにチームの全員から受けたサポートは本当に素晴らしいものでした。最後の2シーズンはやや苦戦を強いられましたが、僕たちはこれまでに何度も素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。今年のセントピーターでも、顔を会わせるたびに互いにサムアップしました」

 「いっぽう、アンドレッティは仕事の進め方が異なるので、いまは新しいスタイルを学ばなければいけません。チームはここ何年間かにわてってたくさんの成功を収めてきましたが、とりわけインディ500でのパフォーマンスには目を見張るものがありました。また、アンドレッティは4台体制でインディカーにエントリーした最初のチームで、いまではガナッシやペンスキーも彼らに追随しています。その仕事ぶりはF1を彷彿とさせるものがあります。もちろん、F1はまた別世界ですが、チームのリソースや仕事のクォリティはバツグンに高く、マイケル・アンドレッティはチームに全力を投じています。もっとも高いレベルでインディカーを戦うという意味において、僕にとってはおそらく最高の環境だと思います」

 琢磨には新しいチームだが、そこには懐かしい顔もあった。琢磨がインディカーに挑んだ初年度と2年目に在籍したKVレーシングでエンジニアを務めたガレット・マザーシードと、アンドレッティで再びコンビを組むことになったのだ。「これは本当に素晴らしいニュースでした。なにしろ、あの頃に比べると、僕たちは互いにたくさんの経験を積んできましたから。また、チームは新しくても、そこに気心が知れたスタッフが在籍しているというだけでほっとします。インディカー・シリーズに活動の場を移してから、ガレット、ジェリー・ヒューズ(元スーパーアグリで、インディカーではレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングでエンジニアを務めた)、ドン・ハリデイ、ラウル・プラドス(最後のふたりはAJフォイトに所属)といったエンジニアたちと一緒に仕事ができて、僕は本当に幸運でした」

 まだアンドレッティとの契約が完了していなかったため、昨年12月にセブリングで行われたテストに参加できなかった琢磨は、フェニックスでのオーバル・テストに2日間臨んだほか、先ごろ実施されたセブリングで1日テストを行ったのみ。ただし、シミュレーターや様々な準備を行うことで「これまででもっとも充実したシーズンオフを過ごすことができました」と琢磨は語る。

 ただし、そうした成果が週末の滑り出しに反映されることはなかった。金曜日最初のプラクティスは16番手。その日の午後に行われた2回目のプラクティスではタイムを記録する前にクラッシュを喫した。「インディカーを戦うようになって、いちばん困難な金曜日だったかもしれません。とても過酷な1日でした。最初のセッションは、満足できるとはいえないものの、それほど悪くはありませんでした。僕たちのチームではセットアップのフィロソフィーを4人で分担して試すことになっていますが、僕はちょうど調子が出始めてきたところでした」

 「ところで、リーグが指定するブレーキは今季からブレンボではなくなりました。新しいブレーキは硬い素材を用いたもので、作動温度域が非常に限られていることが特徴です。このため、温度が低い状態では満足に作動しませんが、高温になると急激に減速Gが立ち上がります。このブレーキでレースが走りきれるかどうか、誰もが悩んでいたほどで、リーグは開幕直前にブレーキダクトのモディファイを認めることになったほどです。第2セッションが始まるとき、ペダルのフィーリングが驚くほどソフトだったので、走行前にブレーキのエア抜きを行いました。アウトラップの段階でブレーキとタイヤはしっかり準備が整っていると思えたので、ブレーキペダルを踏み込みましたが、まったく感触がありません。そしてタイヤがロックしてコントロールを失い、ウォールにヒットしたのです。これで走行時間を大幅にロスすることになると同時に、ソフトコンパウンドのレッドタイアを試す機会も失ってしまいました。今季より、2回目のプラクティスで1台あたり1セットずつレッドタイアが試せるよう、ルールが改正されていたのです」

 「チームのメカニックたちは最高の仕事でマシーンを修復してくれましたが、土曜日に行われた3回目のプラクティスではまだチームメイトから大きく遅れている状態でした。けれども、3人のチームメイトとエンジニアたちが全力でサポートしてくれました。これは本当にこのチームの強みだと思います」

 その言葉どおり、琢磨は最初の予選グループで3番手のタイムをマーク。12台が進出する第2セグメントに易々と駒を進めた。ここで4番手につけた琢磨はファイアストン・ファスト6に挑み、5番グリッドを勝ち取ったのである。

 「マシーンがあんなにいい状態になって、本当に最高の気分でした。思い切り攻めることができたうえに、とてもコンペティティブで、不満はなにもありません。もしかしたら、もっといい成績を残せたかもしれませんが、状況が状況だっただけに、この結果には心から満足できました」

 ところが、日曜日のウォームアップはあまりコンペティティブではなかったうえに、チームメイトのハンター-レイにブレーキトラブルが発生、ウォールに真っ直ぐ激突するという事件が起きる。それでも琢磨は110周の決勝で好スタートを決めることができた。レースが始まると、ジョセフ・ガーデンを早々とパスして4番手に浮上。序盤のコーションが終わると琢磨はこのポジションを確固たるものとし、ウィル・パワーがピットストップを余儀なくされたところで3番手に順位を上げる。そして26周目にトニー・カナーンとミカエル・アレシンの接触で破片が散乱してイエローが提示されたとき、琢磨はトップを走るジェイムズ・ヒンチクリフのわずか5秒後方につけていた。

 もっとも、このイエローは予選を上位で終えたドライバーにとって最悪のタイミングだった。後方グループのドライバーたちは1回目のピットストップを終えていたため、コーション中にピットストップを行ったヒンチクリフ、スコット・ディクソン、琢磨のトップ3は集団の最後方に並ぶこととなり、琢磨は12番手に転落したのだ。しかし、リスタートが切られると琢磨は驚くべき手腕を発揮し、たった1周で7番手まで挽回してみせたのである!

 「僕たちはおよそ半年もレースから離れていました。しかもセントピーターは空港の滑走路を使っているためにスタート部分はとてもワイドですが、ターン2はコークボトルでコース幅は急激に狭くなります。つまり、とんでもなくリスキーなのです! でも、僕の周りにいたのは信頼のおけるドライバーばかりだったので、とてもいいバトルを演じることができました。ヒンチクリフは新品のレッドタイアで、僕たちはユーズドのレッドを履いていました。だから僕は“ディキシー”を抑えていられるだけで満足で、その後は後続を引き離しながらヒンチクリフに迫っていきました」

 「2回目のリスタートでの僕のマヌーバはもしかしたら数名のドライバーをアンハッピーにさせてしまったかもしれませんね。ディクソンが追い上げを図ってヒンチクリフのインサイドに飛び込み。僕はそのさらにイン側を刺し、4ワイドとなりながら全員をオーバーテイクしました。ライアンは僕より5つ上のポジションにいて、僕たちは互いに接近していきました。このとき勢いの付き過ぎていた僕を彼が避けてくれたので、2台は接触せずに済みました。彼の協力なしにいい成績は残せなかったでしょう。僕たちは引き続きレース戦略に従って走っていましたが、3番手になるのは難しくないと思っていました」

 このとき、琢磨はインディカーの新人でこのとき3番手のエド・ジョーンズが率いる集団の後方につけていた。エドのペースが上がらなかった為、トップ2のセバスチャン・ブールデとシモン・パジェノーははるか前方に逃げてしまっていた。やがて全ドライバーがピットストップを行うと、琢磨はトップに浮上。そのまま数周したところでNo.26のマシーンもピットに舞い戻った。次のスティントを琢磨は4番手で走行していた。やがて徐々にパワーに接近していったが、ほどなくオーストラリア人ドライバーはピットストップを行った。

 これで3番手となった琢磨は、残り28周となったところでピットストップを敢行。このとき後続のドライバーに対しては十分なマージンを有していたが、ここで右フロント・ホイールの交換に手間取ってしまう。「僕たちには十分な余裕がありましたが、どうやらエアガンに問題があったようです」

 結局、琢磨は5番手となってコースに復帰。やがてパワーがスローダウンすると4番手に浮上した。けれども、後方からハンター-レイが猛追を開始。最終ラップの最終コーナーでチームメイトの先行を許した琢磨は0.0528秒差で5位に終わった。「もちろん表彰台に上れれば嬉しかったと思いますが、苦しい状況のなかでメカニックたちは本当に素晴らしい働きをしてくれました。最終ラップに入ったとき、あと6秒分のプッシュ・トゥ・パスが残っているとダッシュボードは伝えていました。これは最後のストレートにとっておくつもりでしたが、その1周前にあるコーナーでP2Pボタンを押したところ、なにか想定外のことが起きて残り時間がゼロになってしまったのです。(のちにラスト10秒は何かトラブルがあり、P2Pのハイブーストが全く掛かっていなかったことが判明。HPDは原因究明に努めている)このため最終コーナーでライアンに仕留められてしまいましたが、これはあくまでもレースの結果なので気にしていません。そもそも、彼が今週末してくれたことを考えれば、僕が順位を譲るのは当然だったのかもしれません」
「でも、僕は5番手に満足しています。こうした素晴らしいスタートが僕たちには必要だったのです。これはチーム・スタッフ全員が頑張った結果であり、これからの2017年シーズンを本当に楽しみにしているところです」

 次戦は琢磨が唯一インディカー・シリーズで優勝した経験を持つロングビーチが舞台。実は、1977年に開催された2回目のF1ロングビーチGPでマイケルの父であるマリオが優勝した経験を有しており、チームにとっては験のいいサーキットでもある。いっぽう、チームはバーバー・モータースポーツ・パークとソノマでテストを実施する予定だ。

written by Marcus Simmons
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