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Rd.16 [Sun,18 September]
Sonoma

歯車が噛み合わない戦い
 佐藤琢磨の2016年ベライゾン・インディカーシリーズは、最終戦ソノマで力走を見せた末に14位でフィニッシュして幕を閉じた。これは、琢磨にとってもAJフォイト・レーシングのメンバーにとっても、決してエキサイティングなレースとはいえなかったが、それでも琢磨が示したパフォーマンスは決して悪くなかったし、ややギャンブル的な側面を持つレース戦略が、今回はNo.14ダラーラ・ホンダの順位を上げるのにあまり役に立たなかっただけともいえる。

 過去には、こうした努力が実を結んだこともあった。今回、琢磨は予選を15番手で終えたが、2014年にはこれよりも低いポジションの20番手からスタートして4位でフィニッシュしている。また、2015年のレースでは18番手から8位まで浮上した。しかし、今年は琢磨が思うようなタイミングでイエローが提示されなかったのである。「戦略面に関していえば、今週末は運が悪く、そしてタフだったといえます」と琢磨。「僕らは懸命にレースを戦いましたが、それでも及びませんでした。あとほんの少しのスピードが必要だったのです。ときにはレース戦略の妙で好成績を得られることもありますが、その場合は自分たちにとって都合のいいタイミングでイエローが提示される必要があります。そうでなければ、予選結果がその週末における調子の具合を示していることが多いので、残念ながら僕たちはあまり速くはありませんでした」

 レースの1週間前、AJフォイト・レーシングはソノマでのテストに参加していた。「テストができたことはよかったと思います。僕たちは新しいことを学び、新しい考え方に基づくロードコース用セッティングを試すことができました。でも、ソノマは本当にタフなコースです。まず、グリップがとても低く、このためファイアストンはシーズン中に使われるタイアのなかでももっとも柔らかいコンパウンドを今回持ち込みました。おかげで、最初の1〜2周は高いグリップが得られるのですが、その後は激しいデグラデーションに見舞われ、スティント中のバランスシフトは極めて大きなものとなります。このためスティント中にラップタイムが2秒も3秒も落ち込むことがありますが、これはとても大きな低下です」

 「ソノマ周辺はワインの名産地としても有名で、1年を通じて好天に恵まれます。これはレースをするうえで恵まれているだけでなく、コース外でも素敵なレストランでおいしい食事やワインを楽しめることを意味しています。そのかわり、コースは埃や砂に覆われていて、これがドライバーにとっては大きなチャレンジとなります。テストを行なったのは1週間前のことですが、それでもコースコンディションはまるで異なっていました。ただし、僕たちには良好なベースセットを作り上げることができたので、セッションごとにそれを煮詰めていき、順調に進歩することができました」

 各ドライバーは金曜日に新品のファイアストン・タイアを3セット使うことができた。琢磨は最初のセッションで2セットを使って8番手となったが、次のセッションでは1セットしか使えなかったため、17番手に終わった。土曜日に行われた3回目のプラクティスでは、琢磨の相対的な速さをよりはっきりと示すことができ、12番手となった。「他のドライバーに比べて、僕たちはたくさん走るとともに、より多くの周回数をこなしており、ユーズド・タイアを履いたときのバランスにも満足していました。ただし、ニュータイアを装着したときのバランスはさらに煮詰める必要がありました」

 予選結果はそれほど悪いものでもなかったが、チームはさらにいい成績を期待していた。予選グループ内における琢磨のポジションは8番手。わずか0.12秒差でトップ6が進出できるセグメント2に駒を進められず、琢磨は結果的に15番グリッドからレースに臨むことになった。「期待外れの結果でしたが、純粋なスピードにかんしていえばわずかに不足していたのも事実です。予選グループ内の上位陣とは僅差でした。本当の接戦で、わずかな差で敗れたのです。最終戦ではQ2に進出したいと願っていたので、この結果は本当に残念でした」

 この予選結果と、ソノマが極めてオーバーテイクが難しいコースであることを考慮すれば、最初のピットストップを早めに行って他のドライバーとは異なるサイクルでレースを戦う戦略を選択することは、極めて論理的な判断だといえる。「過去2年間、ソノマではいい予選結果を得られませんでしたが、レースでは上位でフィニッシュできました。だから、今年もまた可能だと僕は思いました。レースは3ストップでも余裕で走りきることができますが、タイア・デグラデーションが激しいため、多くのチームは4ストップを想定していました。もしもスティントの終盤に1秒近く速いラップタイムで周回できれば、スティントごとに10秒ほどを稼ぐことができるのです」

 Q2に進出できなかった琢磨の手元には多くのニュータイアが残されていたので、AJフォイト・レーシングは5ストップを視野に入れていた。好スタートを切った琢磨は13番手に浮上、抜かれたトニー・カナーンとミハエル・アレシンは悔しい思いでオープニングラップを周回したことだろう。「僕たちのペースはよかったし、ポジションも悪くありませんでした。僕たちは早めにピットストップを行うつもりでしたが、もしもほかのドライバーも早めにピットストップを行うようだったら、逆に僕たちがスティントを引き伸ばすことも考慮していました」

 琢磨は11ラップ目に最初のピットストップを実施。残るドライバーたちがピットストップを行ったところ、琢磨は10番手まで順位を上げることになった。これは好ましい展開で、2回目のピットストップを同じく早めの31周目に行うと、琢磨は8番手へと駒を進めた。もちろん、次にピットストップを実施したことで琢磨のポジションは下がった。しかし、ほどなくウィリ・パワーがアクシデントを起こし、ダメージを負ったマシーンを排除するためにイエローが提示されたところ、琢磨は再び8番手に浮上。つまり、レース戦略はうまくいっているように見えたのだが、厳密にいえば、これが琢磨にとっては躓きの始まりだった。「このときイエローが提示されていなかったら、僕たちは間違いなくトップ10争いができていたはずです」

 その8周後、琢磨は3回目の給油のためにピットストップ。そして通常の戦略を選んだドライバーたちが3回目のピットストップ(このレースではこれが彼らにとって最後のピットストップとなった)を行うと、琢磨は6番手まで挽回した。しかし、残り周回数は23ラップもある。したがって、レース終盤にイエローが長く提示され続けない限り、琢磨は4回目のピットストップを行わなければならなかったのだ。レースが残り17周となったとき、琢磨は13番手につけていたが、その数周後にカナーンに抜かれて14番手に後退。そしてベテラン・ブラジル人ドライバーに続く格好で琢磨はチェッカードフラッグを受けた。

 「イエローは完璧なタイミングで提示されなければいけません。フルコースコーションとなったとき、僕はあと2回ピットストップしなければいけませんでしたが、他のドライバーは1回だけで十分でした。これはタフな展開だったので、僕には攻め続ける以外に選択肢はありませんでした」

 炎天下のソノマを85周して競われるレース中、イエローが提示されたのは中盤の3周だけだったので、すべてのドライバーにとっては過酷な戦いとなった。「今シーズン、もっとも苦しいレースのひとつでした。ソノマのレースではヘビーグレーキング、暑さ、Gフォース、他のドライバーとのバトルなどがあるので、フィニッシュしたときには本当に疲れ切っていました。これで成績がよければ、気分もずいぶん違っていたのでしょうが! けれども、今シーズンは本当にタフで、苦しい週末でした。メカニックたちはピットストップで本当に素晴らしい働きを見せてくれたので、もっと上位でフィニッシュしたかったと心から思います」

 2017年シーズンが始まるまでにはまだだいぶ時間があるが、インディカードライバーは椅子のうえで寛ぎながら冬を過ごすわけではない。新しいシーズンに向けた交渉も行なわなければいけないし、琢磨の場合であれば日本に帰ってファンやスポンサーの前に姿を現すことも必要となる。「今年もたくさんのイベントが計画されています。そのなかには、古いF1でデモ走行する予定もあるので、とてもエキサイティングです! 冬の間に素晴らしい分析結果が出て、嬉しいニュースをお届けできることを期待しています!」

written by Marcus Simmons
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