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Rd.9 [Sat,11 June]
Texas

苦渋の選択
6月11〜12日から2ヵ月以上も延期とされたインディカー・シリーズの一戦がテキサス・モーター・スピードウェイで開催される運びとなり、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングは248周のレースの72周目から先を戦うために再びこの地を訪れることになった。バンク角の強い1.5マイル・コースは、チームのオーナーである伝説的ドライバーの生まれ故郷に建っているが、琢磨の駆るNo.14 ダラーラ・ホンダは集団の後方を走行中に様々なトラブルを抱えたため、160周目を走り終えたところでピットに戻り、リタイアを喫することとなった。

「ドライビングに関していえば、一刻も早く忘れ去りたいレースとなりました」と琢磨。「本当に辛い夜でしたが、なにが起こったのかをしっかり究明し、それを今後のレースに生かすのが僕たちの仕事です」

6月の段階では、琢磨は予選を4番手で通過したものの、決勝が始まるとズルズルと順位を落としていく展開を強いられ、レースが赤旗中断になる前に、通常ではありえない状況のなかで不運にも周回遅れとなってしまった。「予選とは言え決して簡単なものではありません。ただし、自分の狙った位置を走行できるという意味では容易かもしれません。自分ひとりで走っているので、路面温度、気温、風向などから、自分たちがしたいことをはじき出すことができるからです」

「テキサスの予選、それに先週のポコノでは、非常に力強いパフォーマンスを示すことができました。ただし、オーバルコースでは予選と決勝はまったくの別物となります。決勝ではダウンフォースを増やしますが、タービュランスの影響も強く受けるうえ、予想不可能な様々な事態が発生します。したがって、レースの状態を完全にシミュレーションするのは実質的に不可能です。もしも実際に使えるダウンフォースやグリップが十分であれば、スピード、ダウンフォース、グリップのピーク値を多少下げてでもマシーンを進化させることができます。ただし、そうした細部を調整するのは非常にトリッキーです。なにしろ、僕たちは車高を0.25mm変化させたときの車高センシティビティについて議論しているわけですから……」

「僕たちはレースセットアップを理解するところから始まりましたが、比較的アグレッシブなセットアップについてはまだ試していなかったので自信はありませんでした。ポコノでもそうだったように、テキサスのレースで実力を発揮するのは難しそうな状況でした」

シリーズ主催者は、6月の71ラップを走り終えたときとまったく同じエアロ・セットアップにすることを求めたが、気温が変化している可能性が高いので、フロントウィングの角度調整を認めたほか、メカニカル・セットアップに関しては自由に変更できることになった。そこでセッティングの感触を掴むため、各ドライバーは決勝直前に行われた10分間のプラクティスセッションに臨み、セッティングの最終調整を行うこととなった。ところが、2周目を走る琢磨のマシーンにサスペンション・トラブルが発生、まだ本来のペースに達する前だというのに琢磨はウォールと接触することになる。

「残念なことに、パーツに不良品があったようです。僕は為す術もなくウォールへと吸い込まれていき、激突しました。メカニックたちは目を見張るような働きぶりを示し、レースまでの2時間半ほどで修復作業を終えました。ただし、マシーンの挙動も予測できなければエンジニアがセットアップの違いを読み取ることもできない状態でした。すべてのデータが失われてしまったのです。こうした状況で、唯一僕たちの救いになると期待されたのが、調整式のリアウィングでした。もしもメカニカル・セットアップが決まっていれば、これを使ってレース中にダウンフォースを減らしたり、逆に増やすこともできます。僕はラップダウンとしてレースに挑みましたが、スターティングポジションはジェイムズ・ヒンチクリフの直後にあたる2列目だったので、基本的にはあまり乱れていないフレッシュなエアのなかで走行ができました」

しかし、物事は彼らの期待どおりには進まなかった。リスタート後の2周目、琢磨はマルコ・アンドレッティに抜かれ、その3周後にはマックス・チルトレンに攻略され、さらにその4周後にはチームメイトであるジャック・ホークスワースにもオーバーテイクされてしまう。これで琢磨は最後尾の20番手となった。「最初からマシーンの状態はよくありませんでした。スピードも、グリップも、バランスも、何もかもが不足していて、ドライブするのが本当に難しい状態でした。エンジニアはテレメトリーデータを通じて車高が正常でないことを見つけ出します。おそらく、テキサスにくる前の段階で問題を起こしたロッカーにダメージを負っていたのでしょう」

バンク角が24度にもなるテキサスでは、各コンポーネントにのしかかる負荷が大きく、狙いどおりにセットアップを行ってあってもコース上で苦しむことがある。

「ウィングの角度とタイア空気圧を調整する以外、僕たちにできることはありませんでした。その後、バランスは改善されていきましたが、マシーンは十分なダウンフォースを生み出してくれませんでした。やがて無線にトラブルが発生し、システムを交換するためにピットインを余儀なくされ、ここでも数周を失うことになります。とにかくひどい状況でした!」

5日前にポコノで起きたクラッシュによりスーパースピードウェイ用のモノコックはダメージを負っていたが、チームにそれを修復する余裕はなかったため、琢磨は本来ロードコース/ショートオーバル用のマシーンでテキサスを戦っていた。しかし、このマシーンも数日後に開催されるワトキンスグレンのレースで使用することを考えれば、危険にさらすことは許されない。

「マシーンは正常な状態ではなく、不明な点があまりに多かったので、チームはレースから撤退することを決めました。あのまま走り続けても何も学べなかったでしょうし、数日後にはこのマシーンを使ってレースを戦わなければいけませんでした。テキサスはAJのホームレースなので、この決断は非常に悲しく、また残念なものでした。ポコノのときもそうでしたが、最後の30周は本当に素晴らしいレースが展開されたので、僕もそこに混じって戦いたいと思いました!」

これで今シーズンのオーバルレースはすべて終了。琢磨は最終戦の前に開催されるワトキンスグレンでのレースを楽しみにしているところだ。ニューヨーク州北部に位置するこの美しいサーキットでインディカー・シリーズが開催されるのは、琢磨がインディカーに参戦した初年度である2010年以来のこと。つまり、琢磨は6年ぶりにワトキンスグレンを走ることになるのだ。「チームはここでテストを行なう予定でしたが、残念ながらちょっとした問題が起き、テストを行うことはできませんでしたた。それでも、僕はワトキンスグレンが大好きです。2010年のレースでは予選で力強いパフォーマンスを示しましたし、アップ・ダウンや高速コーナーがあるコースレイアウトも最高です。当時は路面が荒れていましたが、最近、舗装がし直されたため、テストに参加したドライバーたちはコースレコードを5秒も上回るタイムを記録したようです。したがって、僕たちにとっては新しいチャレンジとなるでしょうが、レースが楽しみであることには変わりありません。ロードアメリカでのレース以降、僕たちはロードコース用セッティングについて新しい考え方を導入しているので、プラクティスではライバルたちに追いつき、力強く予選と決勝を戦いたいと願っています」

written by Marcus Simmons


第9戦 テキサス
史上最長のインディカーレース?


テキサス・モーター・スピードウェイで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの一戦は、まるでひと夏かけて行う庭掃除のような様相を呈している。本来、このレースは6月11日にスタートが切られるはずだったが、1日延期となったばかりか、そのフィニッシュは天候の影響で8月下旬に持ち越しとされた。そしてスタートが切られてからチェッカードフラッグが振り下ろされるまでの2ヵ月半の間に、各チームはいくつものイベントに取り組むことになるのだ。

この週末、雨の話題で持ちきりとなったテキサスで、佐藤琢磨とNo.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは力強い走りを披露した。なるほど、248周のレースの71周目までを終えた段階では、琢磨にとってベストの展開とは言いがたかったものの、予選4位という結果は、琢磨がテキサスで記録した成績としては過去最高のもので、チームを大いに勇気づけることとなった。また、中断となっている決勝レースでも、これまでのところ上位フィニッシュが期待されるほどの好走を示している。

2011年に5位でフィニッシュしたことを除けば、琢磨が過去数年間にテキサスで幸運に恵まれたことはなかったが、それでもこの超高速オーバルを琢磨は愛して止まないようだ。「テキサスで走るのをいつも楽しみにしています。なにしろ24度のハイバンクなので、スピードを満喫できるうえ、2ワイドや3ワイドがよく見られることでも有名です」と琢磨。「けれども、ここ数年は密集した戦いを防ぐため、ダウンフォースに制限がかけられていました。でも、個人的にこれはあまり好きではありません。この影響でグリップ・レベルが減少し、サイド・バイ・サイドはあまり見られなくなりました。そしてレースは一列縦隊の戦いとなり、誰がタイアをいちばん長持ちできるかの競争となりました。もっとも、それも決して悪くはないチャレンジですが……」

ほかの多くのインディカー・チームと異なり、AJフォイト・レーシングはテキサスで2016年仕様のエアロパッケージをテストしたことがなく、このため現実的に考えれば好成績が期待できる状態ではなかった。ところが、たった75分間のフリープラクティスを1度行った後に迎えた公式予選で、琢磨は4位に食い込んで見せたのだ。

「これがいいレースになるという情報を事前に手に入れていたわけではありません。もちろん、ここはAJとチームのホームコースですから、いい結果を残したいとは願っていました。けれども、ここでテストをしていなかったことが僕たちには気がかりでした。ただし、ドーム・スキッドとスーパースピードウェイ用のエアロ・パッケージを装着して走行したインディ500での経験から、僕たちはいいアイデアを思いついていました。もっとも、インディ500のときと何もかも同じというわけではなく、テキサスではダラーラが作ったオリジナルのリアウィングを装着し、迎角もマイナス6度までに制限されています。これはダウンフォースを規制するためのものですが、それでも調整しろが残されているほか、ガーニーフラップなどを取り付けることができました」

「僕は自分たちが考えるベストのパッケージで臨んだものの、満足のいく結果は得られませんでした。大きなバンク角は垂直荷重が大きいことを意味しており、計算によって求めたダウンフォースはシミュレーションを通じて得られた予測に過ぎません。そしてタイア・グリップの影響により、想定していたよりも高い速度域に到達していました。これによってクルマは上から押しつぶされたような格好となっており、車高を大幅に見直さなければなりませんでした」

「ほかのチームは1日分のテストを行なっていたので、75分間の走行は僕たちにとって決して十分とはいえませんでした。このためプラクティスはとても忙しく、またタフなものとなります。結果的に僕たちは予選シミュレーションさえできなかったばかりか、バランスとグリップに関しても決して満足できませんでした」

「このような状況だったので、予選結果は嬉しい驚きとなりました。データを見直した結果、プラクティス中に十分なダウンフォースを得られなかった理由が判明しました。僕たちには、この問題を補正できる自信がありましたが、その結果、得られるパフォーマンスに関しては推測の域を出ません。しかし、マシーンはアウトラップからいい感触を示していました。ダウンフォースはずっと大きいのに、ドラッグも低減されている……。とても効率的なセッティングで、スウィートスポットに収まっている手応えがありました。エンジニアたちが素晴らしい働きをしてくれたおかげでNo.14のマシーンは非常に速く、2ラップの平均で216mph(約346km/h)を上回る記録を叩き出して僕たちを驚かせたのです」 ところが、琢磨はわずか1万分の1秒差でエリオ・カストロネヴェスに3番グリッドを譲ることとなった! 「僕のパフォーマンス・エンジニアによると、この差は0.38インチ、もしくは9mmに相当するそうです。それも2ラップを走り終えたあとで!」

この後、チームは夜のプラクティスに臨んだが、これは土曜日に行われるナイトレースの実質的なウォームアップ走行となった。ところが、琢磨はレースセットアップでグリップ不足に見舞われるとともに、トラフィック内ではバランスにも満足がいかなかった。「僕とチームメイトのジャック・ホークスワースは5番手と6番手でしたが、これはニュータイアを装着してトーを活用したからに過ぎません。実際には、トラフィック内のハンドリングにはまったく満足できませんでした。このためレースに向けては、データを見直して大幅にセッティングを変更する必要がありました」

土曜日の午後にスピードウェイを襲った豪雨のため、予定されていた土曜日のナイトレースは実施が困難な状況となった。「雨は止んで青空も見えていましたが、レースのために路面を乾かすには時間が足りないように思われました。荷台にジェット・エンジンを積んだピックアップ─こんなのが見られるのはアメリカだけです!─で路面を乾かそうとしていたので、まるで空港にいるような気分を味わいました。とにかく、ジェット・エンジンの音が凄まじいのです。ところが、午後10時になっても路面から水がしみ出す問題が収まらず、レースは日曜日に延期されることになりました。それでもたくさんのファンがスピードウェイを訪れ、夜遅くまで待っていてくれたことに僕は心から感謝しています」

スタートは日曜日の午後1時に切られる予定とされた。ところが、ターン2とターン3から漏れ出している水を一気に排出させるため、オフィシャルは路面にドリルで穴を開ける作業を実施。このため予定の1時間遅れとなったものの、ようやくスタートが切られた。ところが、それから3周の間に琢磨は4番手から16番手まで後退してしまう。「残念ながら、僕たちのセッティングはあまり効率的ではなかったようです。おまけにアンダーステアもひどい状態でした。僕たちはリアタイアを、それも右リアタイアを特に温存しなければいけない状況にあり、このためスティントの序盤はアンダーステアとする必要がありました。けれども、僕たちはいささか心配しすぎたようです。僕たちのペースは上がらず、バランスが悪くてグリップが不足しているために2番目のレーンさえ走行できませんでした。一部のドライバーはとてもアグレッシブに攻めていましたが、やがて彼らは後退していきました」

ハンドリングの症状が落ち着くと、琢磨はぐんとペースを上げ、苦戦を強いられていたマルコ・アンドレッティをパスして15番手に浮上。しかし、やがて他のドライバーに攻略されるようになったため、38周目にピットに飛び込んだ。その数周後、コナー・デイリーとジョセフ・ニューガーデンが大クラッシュを演じ、長時間にわたってフルコーションとなる。しかも、この間に激しい雨が降り出したため、レースは8月まで延期とされたのである。

「本当に恐ろしいアクシデントでしたが、インディカーの安全性が高いために、ふたりとも深刻なケガを負わずに済みました。最初のピットストップまで、僕たちのペースは目を覆いたくなるようなものでしたが、その後はスピードが向上することを期待していました」

クラッシュが起きたときに先頭につけていた7台はフロントランナーではなく、いずれもステイアウト組。残るドライバーは全員ラップダウンである。ここで問題が持ち上がった。アクシデントによる破片がコース上に散乱していたため、オフィシャルは各マシーンをピットレーンに移動させる。この結果、まだピットストップを実施していなかったマシーンもピット作業が行えることとなった。これには、ラップダウンとなった琢磨を含む多くのドライバーが憤慨。とりわけ、本来であればリードラップに返り咲くはずだった琢磨は、ステイアウトしてトップに立ったジェイムズ・ヒンチクリフの直後につけていたので、その怒りは一入だった。

「ヒンチクリフは集団の先頭に立っていたのでいちばん最初にピットインしましたが、本来であれば、隊列はセーフティーカーの先導でコースを走っているため、ピットに入ったクルマが作業を終えると、隊列の最後尾に並ぶことになります。ところが、今回は全員がピットロードにいた為に、彼は隊列のなかほど、僕の目の前に入ることを許されたのです! なぜ、自分がラップダウンにならなければいけないのかが理解できませんし、とても悲しい出来事でした。オフィシャルはどうしてこうした事態になったかを見直す必要があると思います。彼らはコースがクリアになるまでピットクローズ、つまり作業できない状態を維持させるべきでした。なぜなら、たとえフルコーションでピットがクローズとなっていても少量の燃料を継ぎ足すことは可能で、ピットロードがオープンになったところで本格的なサービスを実施すれば何も問題は起きなかったのです」

「おかげで、僕は8月27日、1ラップダウンの17番手として72ラップ目からのレースに臨むことになります。こんな変な話は聞いたことがありません。ただし、幸いにも僕たちのマシーンはいい状態に仕上がっています。いいアイデアもありますし、力強く戦っていけるでしょう。8月27日には何度かイエローが提示されることを期待しています。そうすれば周回遅れから脱することができるでしょうし、上位を狙えると思います」

次戦は、インディカー・シリーズに復活したロードアメリカでの開催となる。不運にも、テキサスのレースが順延となった影響で、AJフォイト・レーシングを含むいくつかのチームは美しいウィスコンシンのロードコースで事前にテストするチャンスを逃すことになった。それでも琢磨は、昨年8月に2015年仕様のエアロパッケージでこのコースを走った経験がある。「本当に素晴らしいサーキットで、すべてのファンやドライバーはとても楽しみにしています。コースは高速で、狭く、クラシック・タイプといえます。チームのトレーラーが日曜日の深夜までテキサス・モーター・スピードウェイを出発できなかったためにエンジンとシャシーをロードコース用に変更できず、この影響でテストがキャンセルとなったのは残念です。僕自身も、嵐の影響でまだテキサスを出発できない状態です! けれども、来週には多くの情報を収集し、いいパッケージに仕上げられることを期待しています」

written by Marcus Simmon
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