COLUMN |
伝説的なインディアナポリス・モーター・スピードウェイで繰り広げられる“マンス・オブ・メイ”は今年もインディ・グランプリで幕を開けたが、No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを駆る佐藤琢磨は20番グリッドからスタートして、18位でフィニッシュするという不本意な結果に終わった。「最近行われたレースのなかでは、もっとも多くの苦痛が伴う1戦でした」と琢磨。「とにかく難しい戦いで、十分なグリップも得られなければ満足のいくスピードも得られず、ひどく苦しみました」
それでも、少なくともリードラップでレースを終えることで、琢磨はコンスタントなスタートを切ったシーズンを継続できたといえる。いっぽうのAJフォイト・レーシングにとっては、十分な競争力が期待できない戦いだったにもかかわらず、少しでも多くのポイントを獲得しようとして懸命に努力する一戦となった。 この週末は満足のいく部分がいくつかあったものの、木曜日に行われた2回のプラクティスを19番手と21番手で終えるという控えめなスタートを切っていた。「最近、開催されたロードレースではいずれも苦しい思いをしました。いいときと悪いときがあるものの、満足なグリップが得られたことはありません。マシーンをうまくまとめあげることができるのかどうかはまるでわからない状態です。前戦のバーバーでは、最高の結果が得られたとはいえませんが、フリープラクティスではとても速かったほか、レースペースも良好でした」 「昨年のインディでは、ホンダ勢のなかで最速の1台になるなど、いい経験をすることができました。しかし、今回の初日はそれと同様のパフォーマンスを発揮できなかったので、2日目に向けては多くを変更しなければいけませんでした」 金曜日のフリープラクティスで琢磨は5番手に浮上し、関係者を勇気づけた。「ようやく正しい方向性が見つかったような気がしました。しかし、コースコンディションが大きく変わった影響を、僕たちは誰よりも敏感に受けてしまったようです。僕たちのセッティングは極めてピーキーなうえにスイートスポットが狭く、バランスとグリップ・レベルは大幅に悪化しました」 琢磨は予選グループで9番手につけたものの、第2セグメントへの進出はならず、20番グリッドからスタートすることになる。「予選は最悪でした。今回は僕とジャック・ホークスワースのほか、アレックス・タグリアーニがチームに加わりました。そこで3台に異なったセッティングを施したところ、大きなダウンフォースをつけたジャックのマシーンがとてもよく走りました。僕たちはプラクティスで十分なメカニカル・グリップがあると判断し、ダウンフォースを削ることにしたのですが、温度が少し上昇しただけでグリップは急激に低下し始めたのです」 土曜日午前中のウォームアップは急に冷え込み、これがまたマシーンのセットアップに大きな影響を及ぼした。「たったの華氏50度(摂氏10度)しかなく、まるで冬に逆戻りしたような感じでした。タイアのデグラデーションが大きかったのでダウンフォースを増やす必要があった為、僕らはデグラデーションの問題を抱えるだけでなく、ストレート・スピードも伸び悩むことになりました。あれは本当に厳難しい状況で、ウォームアップから決勝に向けては何も改善を施せませんでした」 決勝が始まると、琢磨は3つ順位を落として21番手となった。そこで早めのピットストップを行ったところ、不運にもピットロード出口のブレンド・ラインを踏んでしまったためにピットでペナルティを科せられ、リードラップから脱落することになる。「最初のスティントには硬めのブラックタイアで臨みました。けれども、そのスピードにはまるで納得できなかったので、早めにピットストップを行ってレッドタイアに履き替えることにします。ピットロード出口での違反は僕のミスによるものですが、温度があまりに低かったためにタイアが全くグリップせず、ターン1に向けて進路をとることができず、ラインに触れてしまいました。同じペナルティを受けたドライバーがほかにも何人かいました。おかげでラップダウンとなったので、僕はフルコーションになるのを期待することにしました」 実際にフルコーションが出たのはレースが半ばを過ぎたあたりのこと。トップグループはピットオープン後、直ちにピットへ飛び込む必要があったので、先にピットストップを終えていた琢磨はリードラップに返り咲くことに成功。その後、改めて燃料補給を行うと、集団の最後方にあたる20番手でレースに復帰した。「あれはうまくいきました。イチからやり直し!という感じです。リスタートでは大いに楽しみました。いくつか順位を上げ、2台を同時にオーバーテイクしました。けれども、引き続きトップスピードは伸び悩んでいたので、徐々に順位を落としていくことになりました」 琢磨はジョセフ・ニューガーデン、マット・ブラバム、ウィル・パワー、マックス・チルトンの攻略に成功して一時は16番手に浮上。しかし、最後のピットストップを行うまでにこれら全員に抜き返されることになる。これで19番手に後退した琢磨は、最終ラップにホークスワースをオーバーテイクし、18番手となった。 「グリップを向上させるため、僕たちはタイアの正しい空気圧を探し求めていました。最後の第4スティントになって、ようやく多少満足のいく設定が見つかりました。おかげでレース終盤に向けて順位を上げることができましたが、18位が期待どおりの成績であるはずがありません。目指すようなグリップがどうして得られなかったのか、徹底的に調査する必要があります。とにかく厳しいレースでした」 「今シーズンになって僕たちが手にした勢いを再現できなかったのは本当に残念なことです。いまのところ今年はいい展開ですが、直近の2戦はあまりいい戦いではありませんでした」 しかし、その苦しさをいつまでも味わっている時間はない。この1日半後にはインディ500のプラクティスが始まり、全長2.5マイルのIMSにフルスロットルのエンジンが奏でるサウンドが響き渡ることだろう。「同じ場所ですが、まったく異なるレースの始まりです。アレックス、ジャック、僕の3人が力をあわせてインディ500に挑むのはこれが昨年に続いて2回目ですが、これがチームの戦い方に継続性を与えていることは間違いなく、できればこれがいいパフォーマンスを引き出す一助となることを願っています。とても楽しみです!」 written by Marcus Simmon |