RACEQUALIFYINGPRACTICE
COLUMN
COLUMN
Rd.4 [Sun,24 April]
Alabama

最後尾からの追い上げ
 ベライゾン・インディカー・シリーズのバーバー・モータースポーツ・パーク戦は、佐藤琢磨があとになって振り返りたくなるようなレースではなかったかもしれない。けれども、好調にシーズンをスタートさせた琢磨にとって、スタート直後に順位を落としたレースでその被害を最小限に抑えた意味は小さくない。しかも、今回はシーズン2度目の「コーションのないレース」となり、AJフォイト・レーシングがNo.14 ダラーラ・ホンダのポジションを上げる方法はストラテジー以外にない状況だった。そして13位でフィニッシュした琢磨が得たポイントは、ランキングでトップ10に留まるのに十分なもの。ちなみに、琢磨はいまポイントランキングの9番手につけている。

 金曜日の走行を終えて後片付けしているとき、チームはこの結果よりもはるかにいい成績を期待していたはず。なにしろ、この日のフリープラクティスで琢磨がトップタイムを記録しただけでなく、チームメイトのジャック・ホークスワースも2番手に食い込み、チームは1-2ポジションを占めていたのだ。「とてもいい1日でした」と琢磨。「長い間、行われてきたバーバーでのウィンターテストは、やがて2デイのオープンテストとして定着するようになりました。しかし、今年はこれがフェニックスのテストに置き換えられ、バーバーではプライベートテストを1日行なっただけです。例年、オープンテストは開幕前の3月に開催されていましたが、この時期はまだ寒く、かなり速いラップタイムが記録されることも少なくありません。ただし、4月にレースのためにこのサーキットを訪れると、それよりもずっと温かくなっていることが多い。今年、テストでバーバーを訪れたチームのほとんどは、3月末に開催された開幕戦セントピーターズバーグのあとでアラバマにやってきました。このため、新しいエアロパッケージを試すこともできました。これまでと今回のテストの最大の違いは、気温がずっと高かったためにとても信頼のおけるデータが得られた点にあります。僕たちのテストは大成功に終わったと思います。ラップタイム的にも僕たちはコンペティティブで、いくつものアイテムを試し、どのアイデアが有用で、どれがそうでないかを確認できました」

 このため、シーズン最初のロードコース・レースが開催される風光明媚なアラバマに再び戻ってきたチームはポジティブなムードに包まれ、実際のところ金曜日はすべてが予定どおりに進行した。最初のプラクティスで琢磨は5番手。そしてその後、行われた2度目のセッションではトップに浮上したのである。「僕たちは自信がありましたし、金曜日の僕たちは本当にコンペティティブでした。ラップタイムはいずれも僅差でしたが、ホンダ勢が一団となって速さを発揮しました。それにしても、タイムシートの上位に名を連ねるのは本当に気分がいいものです」

 「でも、さらに速いタイムが記録できることもわかっていました。元々コースは僕好みのものでしたが、ようやくこの流れるような素晴らしい高速コーナーの連続を満喫することができました。公式セッション中にAJフォイトが1-2ポジションを占めたのは、おそらくこれが初めてのことだと思います。ところが、土曜日になると状況は一転します。もちろん、それにはちゃんとした理由がありましたが、そのときはとてもショッキングな出来事でした。金曜日はテストのときより気温は高めでしたが、土曜日と日曜日に比べれば涼しい1日でした。土曜日は特に温かく、路面温度も気温も上昇しました。おかげでグリップ・レベルは低下し、コースコンディションは大幅に変わりました。ほんのわずかなことでクルマのバランスが変わってしまうことに、僕らは驚きました。コンディションの変化は誰にとっても同じことですが、僕たちには特に大きな影響があったようです。失ったグリップ・レベルを回復させようとして努力しましたが、すべて失敗に終わりました」

 土曜日のプラクティスは13番手という結果。したがって、トップ12のドライバーが出走できるQ2に進出できる可能性はまだ残されていた。しかし、毎回接戦が繰り返されるインディカー・シリーズの常で、琢磨は100分の数秒差でQ2進出のチャンスを逃し、16番グリッドに沈み込むこととなった。

 「まだ完全には理解できていない部分が残るセットアップで、これがコンマ1秒程度の影響を与えたのは間違いないと思います。予選のときは気温が高く、柔らかめのソフトタイアでは1周しかアタックできません。今回はシーズン最初のロードコース・レースで、このパッケージングでタイアがどんな特性を示すのかは、不明な部分が残っている状態でした。あと100分の3秒速ければQ2に進出できたので、とても残念です」

 「でも、僕たちには純粋にスピードが欠けていました。たった0.025秒差といえばそれまでですが、インディカー・シリーズはそれくらいの激戦なのです。それにしても16番手になるなんて、思ってもみませんでした」

 日曜日のウォームアップではふたつのセットアップを試したが、どちらも結果は芳しくなかった。そこで、いずれとも異なるセットアップで決勝レースに挑むことになった琢磨は、みずからの幸運を祈りながらグリッドに並んだ。そんな琢磨の目の前で多重クラッシュは起きた……。

 「グリーンフラッグが振り下ろされる前にカルロス・ムニョスが加速し始めましたが、思った以上に加速していることに気づいた彼は状況を正そうとしてミハイル・アレシンと接触してしまいます。彼はスピンすると、チームメイトのジャックに激突。僕はギリギリのところで難を逃れましたが、ダメージを受けなかったのは幸運以外の何ものでもありませんでした」

 「バーバーのオープニングラップでは、ターン1から3まではサイド・バイ・サイドで通過してヘアピンのターン5に進入しなければいけません。なぜなら、そこから先はオーバーテイクがきわめて困難になるからです。僕はターン2でアウト側に回り込むことを狙ったポジションでターン1をクリアしましたが、どうやらタイアに無理な負担をかけてしまったようです。ターン2の進入でリアグリップが一気に抜けて、思いがけず、あわやという事態に追い込まれました。ニュータイアなのでまずまずのグリップ力を発揮してくれると期待していたのですが、僕は不安定になった挙動を修正しなければいけませんでした。この結果、コーナーのいちばん外側までラインが膨らんでしまいました。必要なときにノーズをイン側に引き戻すことができず、アウト側に進んでしまったのです」

 これで琢磨は19番手となった。「僕の後にいたのは、アクシデントにあったスコット・ディクソンだけで、僕たちはなんとかして前の集団に追いつこうとしました。やがて、ペースが上がらないマックス・チルトンが先導する5台ほどのグループに追いつきました。もちろん、“ディキシー”からは猛アタックを受けましたが、なんとかしてそれはしのぎました」

 琢磨は燃料をセーブしていたが、あとでピットストップの際にジャンプアップを狙うのであれば、隊列を抜け出してクリーンなエアのなかを走る必要があった。琢磨はこれを実行、No.14のマシーンは14周目という早めのタイミングでピットストップを行った。やがてライバルたちがピットストップを実施すると、琢磨は14番手に浮上。続く第2スティントではルカ・フィリッピをパスして13番手となった。「僕はレッド・タイアを履いていて、とにかくアタックし続けました。まるで予選アタックのようなラップタイムが必要だったのです。このスティントが終わるとき、僕とディクソンは同じタイミングでピットストップしましたが、これは燃料をセーブするという意味で僕たちが正しい判断を下したことを示していました。なにしろ、彼は“燃費走行の王様”として知られているんですから!」

 続いて琢磨は硬めのブラック・タイアを装着。ピットストップが一巡した段階で12番手になる計算だったが、このときディクソンはレッド・タイアを履いていた。「彼が追い抜くのは時間の問題で、その2周後に僕をオーバーテイクしていきました。僕は燃費データに気をつけながら、できるだけ速く走ろうとしました。スコットはあっという間に視界から消えていましたが、スティントの後半になると著しいタイアグリップの低下が起きてペースが遅くなり、再び僕の目の前に現れました。最後のピットストップを行う前に、彼に追いつくところまで迫ったのです」

 「ここで僕たちはひとつの決断を迫られました。予選で使ったレッド・タイアを履くか、新品のブラック・タイアを履くかを選択しなければいけなかったのです。他のドライバーの様子を見ている限り、レッド・タイアを履くとスティント中に急激なペース変動が起きそうだったので、僕たちはブラックを選ぶことにしました」

 残り25周となったところでピットを飛び出した琢磨は、レッド・タイアを履くマルコ・アンドレッティを追撃することになる。「スティント後半になれば彼のペースも落ち込んでくると期待していました。けれども、この頃には日が傾きはじめて気温が下がっていたため、マルコはタイア・デグラデーションに悩まされずに済みました。しかも、レース中はイエローが提示されなかったのです。苦しい状況でしたが、隊列の最後尾から13番手まで挽回したのだから、決して悪い展開ではありません」

 バーバーが終われば“マンス・オブ・メイ”はもう目前。そして1ヵ月近くに及ぶ戦いは、伝説的なロードコースで開催されるグランプリ・オブ・インディアナポリスで幕を開ける。しかし、琢磨はその前に“フィルム・スター”に転じるのだ! 「まずロサンジェルスに飛んで、そこでインディ500に挑む僕を追うドキュメンタリーの撮影を行います。撮影部隊は日本からやってきて、続いてホンダ・パフォーマンス・デベロップメント、その翌日にはヒューストンに移動してチームを訪れる予定です」

 「たしかに残念な週末でしたが、No.14を走らせる僕たちはいい仕事をしたと思います。今回もたくさんのことを学んだので、この経験がインディGPコースの戦いで生かされることを期待しています」

written by Marcus Simmon
▲TOPへ

TOPページへ戻る
takumasato.com
(C)T.S.Enterprise Japan LTD.
All rights reserved.


Powered by:
Evolable Asia Corp.