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Rd.6 [Sun,24 May]
Indianapolis 500 Mile

信じられないアクシデント
 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダがアウトにはらんできたサガ・カラムとターン1のウォールとの板挟みになったとき、佐藤琢磨のレースはインディ500ではなくインディ0.5にもならないのではないかと思われた。けれども、素早い修復作業とチームのレース戦略、それに琢磨自身の懸命な追い上げにより、序盤の不運を乗り越えた彼は、優勝したファン・パブロ・モントーヤとわずか6秒差の13位でフィニッシュしたのである。

 レース中にホンダ勢の最速ラップを記録した琢磨のパフォーマンスは、オープニングラップでのアクシデントさえなければトップ6に入ってもおかしくないほど素晴らしいものだった。

 新しいエアロキットが導入された影響もあって、今年のインディ500に向けた準備はいつも以上に慌ただしいものとなった。「気持ち的には、インディ・グランプリがフィニッシュした段階でレースは始まっていました」と琢磨。「ロードコース用マシーンからスーパースピードウェイ用マシーンにエンジンを積み替え、メカニックたちはたった1日で準備を終わらせなければいけませんでした。例年、インディ500用の“インディカー”は、2ヶ月か3ヶ月をかけて、ボディカウル全体の立て付けや歪みなどを修正し、とても丁寧にマシーンを組んでいきます。けれども、今年は新しいエアロパッケージが導入されたため、僕たちには十分な時間がなく、プラクティスが始まった段階では、パーツの一部はまだ塗装のされていないカーボンむき出しの状態で走らざるを得ませんでした」

 「けれども、今年は少し涼しくて風も強かったものの、全般的にはプラクティスを通じて安定したいい天候に恵まれました。最初の数日はエアロパッケージについて学んで、続いてトラフィックのなかでマシーンがどのような挙動を示すかを確認しました。ひとりで走るのと集団のなかで走るのとでは、マシーンはまったく違う動きをするものなのです。そしてファスト・フライディを迎えると僕たちは予選の準備を始めます。ここではよりアグレッシブなターンインときれいなラインでコーナーをクリアすることに集中します。昼の12時から夕方の6時まで走り続けるなんて、ものすごい量のプラクティスだと多くの人たちは思われると思いますが、十分だったことは1度もありません。気温や風向きなど細部に関わることが山ほどあり、それらをまとめてマップを作っているのです。本当に、エンドレスな作業といってもおかしくありません」

 チームの3台目を駆るアレックス・タグリアーニが琢磨とジャック・ホークスワースのチームメイトになったことはボーナスというべき出来事で、予選までにしっかりマシーンを進化させられると琢磨は自信を抱いていた。しかし、マシーンが宙を舞うアクシデントが何度も起きたことから、インディカー・シリーズは予選も決勝レースと同じエアロパッケージで走行することを決定。これがホンダ勢にとっては大きな障害となって立ちはだかった。しかも、雨のため予選が日曜日1日に持ち越された結果、全ドライバーは4ラップのタイムアタックを1度だけしか行えないことになったのだ。

 「予選直前にハイブーストで走行したファスト・フライディはとてもスムーズなものでした。しかし、予選当日のプラクティスでアクシデントが起きた為、インディカー・リーグはレギュレーションの変更を決めたのです。ラップレコードを更新して平均230mph(約368km/h)の壁を破ることを誰もが楽しみにしていましたが、ブーストはレース用の低い状態に戻さなければならなかったほか、空力コンフィギュレーションはウィングを寝かせられたものの、レース用と同じものを使わなければいけませんでした。シボレー勢は、レース用と予選用でまったく異なるふたつのサイドポッドを用意していましたが、ダウンフォースが十分ではなかったためにドライバーはナーバスになっていました。ホンダは1種類のサイドポッドですが、ウィングレットなどが追加できるようになっていました。予選ではこれらの空力付加物を取り外して低ドラッグ化したパッケージを想定していましたから、決勝同様に取り付けて走らなければならないのは少々不利となったのです。しかし、安全性は何よりも優先されなければいけないので、僕たちはこの判断に従うことにしました」

 「ギアレシオをぴったりあわせることができなかったため、予選は残念な結果に終わりました。もっとスピードは伸びると予想していたのですが、ドラッグが大きかったようです。ギア比がハイギアードだったうえ、メインストレートとバックストレートでは風が大きく変わっていたことに対応できなかったのも、かなりのマイナス要因でした」

 琢磨の記録は27番手。ただし、数名のドライバーが変更されたことにより、琢磨は24番グリッドからスタートすることが決まる。インディ500のグリッドでは3台が横並びになるので、琢磨は8列目グリッドのアウト側からレースに挑むことになるわけだ。予選では満足のいくスピードを発揮できなかったものの、レースに向けたシミュレーションを繰り返し行った月曜日のプラクティスでは好調で、この結果に琢磨は満足げな表情を浮かべていた。「バランスがよかったので、かなりの手応えを掴んでいました。月曜日から金曜日のカーブデイまでセッティングをほとんど変更しなかったのは今回が初めてでした。だから、このときはレースが楽しみで仕方ありませんでした」

 その思いは、早くもターン1でフラストレーションに転じることになる。まず、琢磨が8列目のアウト側に位置していたことをご記憶だろうか?スタート直後はほとんど各車が横並びになっているものだが、イン側のライアン・ハンター-レイとの間にスペースをおいていたカラムは、アウト側に膨らみ、琢磨のマシーンをウォールとの間に挟み込んでしまったのだ。「まず、彼はミラーをまったく見ていなかったし、スリーワイドになって僕がアウト側にいることを彼のスポッターは伝えなかったようです。彼はライアンの動きに集中していて僕は見ていなかったといっています。サンドイッチ状態になった僕は壁とカラムの間に挟み込まれてしまいました。これは残念でした。レーシングアクシデントとも言えますが、起こるべきアクシデントではありませんでした。これは500マイル・レースで3台が横並びになっているのです。僕は走行ラインを守っていて、彼はターンのイン側に切れ込んでいくように見えたので、僕はこのチャンスを見逃さずに彼のアウト側から並び掛けていったのです。しかし、彼は膨らんできて2台は接触しました」

 「アクシデントにより、ステアリングアームが破損、マシーンの右半分は壁に押し当たって擦り傷のような状態になってしまいました。けれども、メカニックたちはイエローが出されている数分の間に素晴らしい作業で修復をしてくれました」

 2周遅れでレースに復帰した琢磨は、少し経ってから予定されていたピットストップを行うと、1/4周ほど後方を走行していたスコット・ディクソンに抜かれて3周遅れとなる。「辛い状況でした。普通のレースだったら、もう結果は見えているところですが、これは500マイル・レースですし、チャンスはあります。諦めるわけにはいきませんでした」

 その後はグリーンの状態が長く続いたが、やがてイエローが立て続けに提示されるようになる。イエローは周回遅れを脱出したい琢磨にとっては必要なものでした。レースリーダーたちがピットしても琢磨はコース上にステイすることで1周ずつ周回遅れを取り戻し、その後に琢磨はピットストップを行って最後尾から追い上げるという展開が繰り返された。このため、70周目を迎える前にブライアン・クローソンがクラッシュしたときには2周遅れに、続いて120周目までにエド・カーペンターとオリオール・セルヴィが接触すると1周遅れとなっていた。しかも、この頃になると琢磨は上位陣と互角のスピードで周回を重ねていたのである。そしてついに残り周回数が30周目となったところでコース上にマシーンの破片が飛び散ってイエローが提示され、琢磨はリードラップに返り咲くこととなった。もっとも、これはギャビー・シャヴェスが琢磨のマシーンに追突したために起きたもの。ただし、No.14をつけたマシーンにダメージが及ばなかったのは不幸中の幸いだった。

 「イエローが出てきたときのために、スティントをできるだけ伸ばすというのが基本的な戦略でした。3周の遅れを取り戻すには170周もかかりましたが、なんという挽回でしょうか! 本当に素晴らしいレース戦略で、クルーたちは最高のピットストップ作業をしてくれました」

 これに続いてイエローが提示されたのは、チームメイトのホークスワース、セバスチャン・サーヴェドラ、ステファノ・コレッティが関係する大事故が起きたときのことだった。

 「まるで爆発したように、至る所に破片がいたるところに散乱していました」 この事故はターン4に差し掛かったときに琢磨の目前で発生したのだが、この結果、19番手を走る琢磨が残り15周でどこまで順位を上げられるかに注目が集まった。ここで琢磨は1周で3つポジションを上げると、シャヴェスを抜いて15番手、タウンセンド・ベルをパスして14番手に浮上。その後、サイモン・パジェノーに攻略されて15番手へと後退したものの、琢磨のレースはまだ終わっていなかった。ジャスティン・ウィルソンを仕留めて14番手に駒を進めると、フィニッシュ間際にカルロス・ムチョスがピットストップを行ったおかげで13位フィニッシュを果たすことになったのだ。

 「終盤はスプリントレースでした。もちろん、結果は残念なものでしたが、僕たちは力強く戦うことができました。ペースもよかったと思います。最初の何スティントかはダウンフォースが不足気味でしたが、中盤までにはバランスもよくなり、タイアの空気圧変更もプラスに作用しました。けれども、カラムの態度には納得ができません。彼はレース後に謝りにくるのではなく、ケンカをしかけにきたのです。SNSにもナンセンスでバカげた書き込みがあるようですね。彼はライアンがアウト側にきたと言っていますが、僕は改めて映像を見ました。ライアンはターン1を抜けた後は直進してアウト側にきていないし、カラムの左側にはラインを守るための十分なスペースがありました。しかも、これはインディ500マイルの伝統、3ワイドでスタートするレースなのです。僕自身、何度も3ワイドの素晴らしいレースを見てきました。とても残念なことです」

 いずれにせよ、全体的なパフォーマンスは今後に期待を抱かせるもので、来週デトロイトのベルアイランドで開催される市街地レースに向けた“よき兆候”といえるだろう。「この勢いを次のレースにも生かすつもりです!」 琢磨は元気いっぱいにそう語った。

written by Marcus Simmon
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