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Rd.5 [Sat,09 May]
Indianapolis

ピンチはチャンス
 ベライゾン・インディカー・シリーズ第5戦インディ・グランプリの予選で不本意な22位となったとき、佐藤琢磨は決勝レースにもこの不運が持ち越されるだろうと思わずにはいられなかった。けれども、今回は違った。それどころか、琢磨は幸運にも恵まれて今シーズン初のトップ10フィニッシュを果たし、AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを9位入賞に導いたのである。

 「とてもいいレースでした」と琢磨。「最終的な結果よりもずっといい内容だったので、とてもハッピーです」

 もっとも、琢磨とAJフォイト・レーシングは週末の走り出しから好調で、プラクティス1とプラクティス2ではグレアム・レイホールとホンダ陣営のNo.1を競い合っていた。「インディ・グランプリ・コースにやってきたとき、僕たちはとてもいい状態でした。プラクティス1とプラクティス2では総合のトップ10に入るほど好調だったので、とても勇気づけられました。そうは言いつつも、エアロキットの考え方については、ふたつのメーカーの間に大きな違いがあるようです。このコースは、僕がF1を戦っている頃からそうでしたが、ハイダウンフォースにしてもローダウンフォースにしてもラップタイムにほとんど変化はありません。そしてシボレー勢はトップスピードが速く、ホンダ勢はブレーキングやコーナリングで強みを発揮していました。僕自身はマシーンのフィーリングやバランスに好感触を得ていましたが、異なるセッティングで臨んだプラクティス3ではあまりいい結果が得られなかったので、予選に向けては完全には確認がとれていないセッティングで挑むことになりました」

 琢磨を取り巻く巡り合わせは、ここから次第に悪くなっていく。アタック中にジャスティン・ウィルソンに引っかかり、予選グループで11番手となったのだ。しかも、タイアは実質的に1周しかもたなかったので、琢磨は大きな代償を支払わされることになる。

 「今回はタイアのウォームアップがとても速く、硬めのブラックタイアを履いていてもすぐにグリップが得られるようになりました。だから、レッドタイアの寿命はたったの1ラップしかありませんでした。ジャスティンはコンペティティブなドライバーですが、今シーズンはこれが初レースです。ピットから出てきたばかりの彼に引っかかったのは、ターン7に向かう長い裏ストレートで、彼には僕に気づく時間が十分にあったし、ふたつの選択肢が残されていました。ひとつは、すぐに避けること。もうひとつはコーナーを曲がった後で避けることです。ところが、彼はレーシングラインに留まったままで、僕はギリギリのところで避ける格好になったため、ダメージはとても大きくなりました」

 「彼がブロックしたかどうかは審議の対象となりましたが、1周前のラップタイムと比較することができなかったので僕がどの程度のタイムをロスしたのかもわからないという理由で、ジャスティンには何のペナルティも課せられませんでした。この判断には強い不満を持っています。僕は続けて2回目のアタックを行いましたが、タイアのグリップは失われており、思うように走れません。これにはとても落胆しました。たしかに、僕らには上位陣と並ぶほどのスピードはありませんでしたが、恐らく予選の第2セグメントには進めたでしょう。いちばん速いホンダ・ドライバーは11番手だったので、僕の順位である22番手とはだいぶ差があります」

 予選は残念な結果に終わったが、ターン1ではお馴染みの多重クラッシュが発生。ここで琢磨は幸運を掴み取り、スタートからわずか数秒で22番手から13番手へと大躍進を果たすこととなった。「100mと進まないうちにすべてを取り戻すことになりました! コース幅の広いストレートからつながるターン1は、コークボトルのように急に狭くなっているため、ハードブレーキが求められます。ここでは玉突き追突による大事故がよく起きます」

 「僕がいたグリッドの後方は平和なものでしたが、たくさんのパーツや砂ボコリが舞い上がるのが見えました。残念なことに、チームメイトのジャック・ホークスワースはここで反対方向を向いてしましたが、これを除けば僕にとってはラッキーな展開でした。ターン1にはエスケープロードがあって、ターン3でコースに復帰できるようになっているのですが、ここから続々とマシーンが現れてきたのはとても奇妙な光景でした。まるで、高速道路のランプのようでしたよ! ようやく僕は幸運に恵まれ、ダメージを負うことなくここを通過できました」

 11番手で琢磨がピットストップを行ったとき、トップグループを形成していたのはブラックタイアでスタートしたドライバーたちだった。琢磨はここで数台をパス。けれども、ターン1の事故に巻き込まれた後、レッドタイアで追い上げを図っていたトニー・カナーンには敗れる形となる。「シボレー勢はとても速くて、ストレートではTKのほうが7〜10mph(約11〜16km/h)も速いようでした。いっぽう、僕には3セットのレッドタイアがあったので、僕は僕自身のレースを戦い、その結果がどうなるかを見守ることにしました。それでも、最初のスティントは苦しいものでした。スタート前に軽い夕立のような雨が降ったので、コース上のラバーは流されてしまいました。このため僕はグリップ不足に悩まされました。おかげでペースは上がらず、いくつか順位を落とすこととなりました」

 その後、路面にラバーが乗り始め、琢磨がレッドタイアに履き替えると、状況は次第に好転していく。2度目のピットストップを行ったときには7番手争いを行うまで挽回し、カナーンの直後に迫っていた。「タイアを交換すると、グリップが得られることがすぐにわかりました。フロントタイアは少しグレイニングを起こしていましたが、それが収まり、燃料が少なくなってリアタイアへの負担が減ると、ペースがぐんと上がるようになったのです。僕は先頭グループに近づいていき、さらにピットストップごとにマシーンのアジャストを行っていったので、どんどんペースは上がり、何度かバトルを楽しむこともできました」

 「ピットストップではメカニックたちが素晴らしい働きを示してくれました。特に2回目と3回目のピットストップは本当に速くて、チップ・ガナッシ・レーシングを凌ぐほどでした。最初のピットストップを除くと、レースはずっとグリーンのままだったので、これはとても重要なことです。3回目のピットストップを行うとき、僕はTKの直後にぴったりと張り付いていましたが、メカニックたちが作業を終えてピットから飛び出すと、ピットレーンでは僕が先行していました。ところが、ピットスピードリミッターをリリースしたときにオーバーブーストが働いてエンジン回転数が制限されてしまい、1秒か2秒ほど僕のマシーンは加速しない状況となってしまいます。おかげでTKとサイド・バイ・サイドになったばかりか、タイアのウォームアップが済んでいるライアン・ハンター-レイまで横並びとなりました! ターン2では僕がTKのインサイドに入り、ほとんど3ワイドになりましたが、最終的にはライアンがスピードを緩めてくれたので助かりました。ストレートを下っていくとき、僕とライアンはともにプッシュ・トゥ・パスを使い、ギリギリまでブレーキングを遅らせましたが、なんとか順位を守ることができました。あれは、とても楽しかったですよ!」

 最後のスティントを好調なペースで走りきった琢磨は9位でフィニッシュした。「今季初めて、ようやくまともにレースを完走できました。とても嬉しい結果です。もちろん、9位は自分たちが望むような成績ではありませんが、まるで優勝したみたいに僕たちは喜び合いました」

 続く戦いは? たった1日のオフを挟み、月曜日にはインディ500のプラクティスが始まる。ホンダ製スーパースピードウェイ・エアロキットを用いた5月3日の初テストでは、なかなか期待の持てる結果が得られたようなので、いよいよ戦闘開始といったところだろう。「走り出した直後からマシーンは好調だったので、とても勇気づけられました。空気抵抗が大幅に削減されているので、去年よりもずっと速くなっています。しかも、2メーカーのスピードはとても似通ったものなので、ようやく対等な戦いができそうです」

 「実際、いいことが続々と起きています。第1に、インディ・グランプリの結果によりチームのモチベーションとモラルが向上しました。みんなでハイタッチしたり、ハグしたりしましたが、これは本当によかったと思います」

 「2番目に、インディ500ではアレックス・タグリアーニがチームの3台目のマシーンを走らせることになりました。彼は数年前にポールポジションを獲得しただけでなく、いつも非常に速いドライバーです。アレックスは様々な“裏技”を知っているでしょうし、彼のセットアップを僕たちのマシーンに移植できることを期待しています。もちろんジャックもコンペティティブなドライバーなので、プラクティスでは大チームがやっているように集団になって走ることができます。こうするとトラフィックにおけるマシーンのフィーリングを確認できるので、とても有用です」

 「最後に、今回は手術を終えたAJフォイトがサーキットに現れた初のレースとなりました。AJは調子がよさそうで、レース中はずっとピットスタンドに陣取っていました。これは素晴らしいニュースで、本当に幸せそうでした。いまは、500の準備のためにマシーンに乗るのが楽しみで仕方ありません」

written by Marcus Simmon
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