COLUMN |
ベライゾン・インディカー・シリーズが2015年シーズン第2戦のために訪れたのは、初開催となるルイジアナのNOLAモータースポーツ・パークだった。そこでは何度もコーションとリスタートが繰り返され、最終的には予定周回数を走りきることなくレースは打ち切られたが、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシング以上に苦しい戦いを強いられた者もおそらくいなかっただろう。
琢磨は他のドライバーに接触されたときにマシーン内部の電気ケーブルにダメージを負い、このためギアチェンジができなくなってしまう。しかも、レース終盤にダメージの修復を終えたマシーンはレースを再開できないというルールのため、琢磨はライバルたちよりも早くレースを終えることになった。 ここに至るまでもAJフォイト・レーシングにとっては失望の連続だった。それは#14ダラーラ・ホンダを走らせる琢磨だけではなく、#41のマシーンに乗るジャック・ホークスワースにとってもまったく同様だった。 「一刻も早く忘れたいレースになりました!」と琢磨。「僕たちがこのサーキットを訪れたのはレースの1ヶ月前のことで、これは2015年スペックのエアロパッケージで走る初めてのテストでした。12月や2月にこのサーキットでテストしたチームは少なくありませんでした。このため、僕たちはサーキットのことをまだ理解していなく、車高、スプリング、ギアなどベースセットアップに関してもわからないことがたくさんあったので、とても苦しい状況でした。僕たちはシェイクダウンテストの初日に、こういったことに取り組まなければいけなかったのです。だから、あまりコンペティティブではありませんでしたが、大切なことは、このとき貴重なデータを収集し、これを続くバーバーやセブリングのテストで試すことができた点にあります」 「今年はダウンフォースが大幅に増えてマシーンのキャラクターが大きく変わりましたが、バーバーではより自分たち好みのマシーンに仕上げることができました。続いてセブリングのテストではさらにマシーンを進化させることができたので、これらのテストを終えて大きな手応えを掴んだことに僕たちは自信を深めました」 「少なくとも僕たちはそう考えていたのですが、プラクティスでNOLAを走ってみたところ、期待とはまったく異なる状況でした。路面温度も気温もテストのときよりずっと温かく、多くのホンダ・ドライバーが苦しむことになりました。僕たちは、グリップも不足していればバランスもよくないという状態で、このためいろいろなことを変更しなければいけませんでした」 琢磨は、プラクティス2でトップグループとの差を1秒ほど詰めて見せ、今後に期待を抱かせた。「プラクティクス2の直前に激しい雨が降りました。幸運にもコースはどんどん乾いていき、最後の20分は走行することができました。路面が完全に乾くことは最後までありませんでしたが、全体的に見れば僕たちは速くなっており、これには勇気づけられました。ところが、プラクティス3ではまた後方に転落してしまいます。まるで出口が見えない状態で、トップグループとの差は逆に広がったのです。とても苦しい状況で、予選前にセッティングを根本から見直す必要に迫られました」 やがて猛烈な雨が降り始め、予選はくじ引きのような様相を呈してきたため、オフィシャルはポイントテーブルに従ってスターティング・グリッドを決定する判断を下す。つまり、開幕戦セントピーターズバーグのレース結果と同じオーダーで整列することにしたのだ。「基本的には、僕はどんなにコースが濡れていても気にならないし、天候が不順なほうがむしろ嬉しいときだってあります。僕は2番目の予選グループだったので、最初のグループが走っているのを見るのはなかなか楽しいものがありました。雨はどんどん強くなっていって、路面の水がまたたく間に増えていく様子が目で見えるほどでした。僕はセントピーターズバーグの予選を5番手で終えました。このとき、前の4人は全員グループ1に出走したペンスキー勢で、グループ2で僕はトップに立ちました。これはこれでよかったのですが、僕に見えるのは光る路面と、辺り一面が水浸しになっていることだけでした。マシーンはいたるところでアクアプレーニングを起こします。タイアがアクアプレーニングを起こすだけでなく、車体の底まで水に乗っていたから、車高が少し低すぎたのでしょう。ストレートでもマシーンはまっすぐ走らない状態で、計測ラップを2周走ったところで雷光が見え始めたため、セッションは中断となりました」 獲得ポイントにより琢磨は13番グリッドからスタートすることになったが、ウォームアップは霧のためにドクターヘリが離陸できず、セッションそのものが中止に追い込まれてしまう。したがって、琢磨は「まったくわからない状態のセットアップ」でグリッドに向かうことになったのだが、激しい雨の到来が予想されたため、決勝レースを行える時間は2時間か3時間ほどしかないと予想されていた。 乾きつつあるコンディションのもとで、フォイト・チームはセットアップの習得に取り組んだ。「それまでにない新しい考え方を採り入れたもので、これがうまく機能することを期待していました。難しいコンディションであることを考慮して、オフィシャルは決勝前に5分間の走行セッションを設けてくれたため、セッティングが問題なく作動することを確認できました。コンペティティブだったとはいいませんが、十分にドライブできる範囲のものでした。スタートの時点ではすでに雨は止んでいて、NOLAのスタッフはコース上の水を掃き出すために懸命の作業を行ってくれました。おかげで、セーフティカースタートではなく、2列に整列する通常のスタイルでスタートを切ることになったのですが、それは相当に恐ろしかったです。目の前は完全に真っ白で、ブレーキングポイントを見つけ出すためにはコースを斜めに見なければいけない状態です。しかも、直後につけているドライバーたちはスロットル全開だから、周りはまるで見えないのに僕がスロットルを戻すわけにはいかない。本当に最悪の状態でした!」 ハンドリングが思わしくないために10周も走ると19番手までポジションを落としたが、ここで琢磨はいち早くスリックタイアに交換する決断を下す。「おそらく、僕がいちばん早くピットインしたんじゃないかと思います。他に打つ手がなかったんです。ウェットタイアの性能はどんどん下がっていったし、僕は1周ごとにタイムを失っていたので、とてもつらい状況でした。通常であれば、スリックに交換するにはまだ非常にリスキーな状態でしたが、そのときの僕にはなにも失うものがありませんでした。ピットにいるラリー・フォイトと無線で相談していたところ、チップ・ガナッシのピットにスリックタイアが運び出されていることをラリーが教えてくれたのです。ただしラリーはあともう1周くらいコースに留まっていたほうがいいと勧めましたが、僕は『手遅れだよ。僕はもうピットレーンに入っているんだ!』と彼に伝えました。それでもメカニックたちは素晴らしい仕事をしてくれて、あっという間にスリックへの交換を終わらせてくれました」 「アウトラップは、スリックで走るにはまだたくさんの湿った部分が残っていたので、クルマが落ち着かずに苦しみました。嬉しい驚きだったのは、それでも1周を走るとグリップが上がってきたことにありました。ウェットパッチではまったくグリップは期待できませんでしたが、僕は失ったタイムをどんどん取り戻していきます。この展開を見て、たくさんのドライバーがピットに飛び込んでドライタイアに交換しました」 ただし、すでに何度もフルコーションになっていたため、スタートから1時間45分が経過したところでレースは打ち切られる見通しだった。琢磨は巧みなレース戦略のかげで12番手までポジションを上げていたものの、その後に待っていたのは失望だった。 「すべて順調だったのですが、リスタートではまるで石のようにタイアが冷えてしまうので、ウェットパッチに乗り上げたドライバーは次々とコースオフを喫していました。僕にとっての最後のリスタートでは、ターン3でチャーリー・キンボールが前を走っているドライバーに襲いかかろうとしていました。2台はそろってアウト側にはらんだため、イン側に大きなスペースが生まれます。ところが、その直後に2台は急な角度でこちらに戻ってきて、僕らは接触したのです。ウィングやノーズコーンにはダメージを負わずに済みましたが、チャーリーのマシーンがサイドポッドにあたり、このためギアボックスをコントロールするGCUが接触しました。これで電気ハーネスにダメージを受け、結果的にギアチェンジができなくなってしまったのです。メカニックたちはケーブルを交換しようとしてくれましたが、嵐に加えてレースの終わりが近づいており、僕はレースに復帰できませんでした。チームにとっては本当に苦しい週末でした。僕もチームメイトもフィニッシュできず、学ばなければならないことが残っていることに気づきました。なにしろ、僕たちはまたこのコースに戻ってこなければならないのです」 とはいえ、それは今週末に行われるロングビーチ戦の前ではない。2013年に初優勝を果たしたこのコースは琢磨にとって験のいい土地でもある。しかも、セントピーターズバーグでの速さを見ればわかるとおり、#14のマシーンはストリートコースを得意としているようだ。「速さに関しては自信があります。僕たちにとって2013年のレースは素晴らしいものでした。2014年は滑り出しで苦しんだものの、レースでのペースはまったく問題ありませんでした。なにしろ、アクシデントに巻き込まれるまでに6番手まで挽回していたんですから……。僕たちがペースを取り戻し、優勝争いに絡めることを期待しています!」 written by Marcus Simmon |