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トロントの市街地コースで開催されるインディカー・レースはいつも戦争のような様相を呈するが、それは今年も例外ではなかった。さらにいえば、チームメイトの手でリタイアに追い込まれるのは、もっとも避けたい事態である。ところが、佐藤琢磨を襲ったのは、まさにその最悪の事態であった。KVレーシング・テクノロジーのドライバーであるマリオ・モラレスに弾き出された琢磨は、わずか15周でレースを終えることになったのだ。
カナダ・トロント市内の展示会場地域に設定された市街地コースは、閉所恐怖症を起こしそうなほど狭く、習得するのが難しい。そのことを、ロータス・カラーのダラーラ・ホンダを走らせる琢磨は、金曜日のフリープラクティスの段階で思い知った。「トロントのコースは非常に個性的で、攻略が難しいことで知られています」と琢磨。「ほとんど全部のコーナーといってもいいくらい、バンプやコンクリート・パッチがたくさんあって、おかげでまったく予想がつきません。だから、1ラップをまとめるのがとても難しい。コンクリート・パッチに乗り上げるとグリップが激しく低下します。たとえば、アスファルトの上でターンインして、コーナーリングしていった場合、コンクリート・パッチに乗った瞬間、アンダーステアとなります。それからリアタイアも乗り上げると4輪が滑り出し、フロントタイアがアスファルト上に戻ると急激にグリップを回復してものすごいオーバーステアになります! これにバンプが加わるのだから、とても厄介なものになります」 「だから正しくセットアップするのは難しいし、レーシングラインを見つけるのも簡単じゃありません。コーナーによってはわざとエイペックスを外す走り方をしなければいけないのです」 それでも琢磨は徐々にタイムを縮めていき、1時間で開催される3回目のフリープラクティスが終了した土曜日の午前中の段階では、トップ12のみが出走できる2回目の予選に進出できる自信を深めていた。 「僕たちは着実に進歩していきました」と琢磨。「すべてを正しくまとめ上げるのは大変だったけれど、僕たちが選んだ方向は間違っていなかったようです。それにニュータイアの効果も期待できたので、柔らかめのレッドタイアで臨むアタックが上手くいくことを祈っていました」 そして、それは現実のものとなる。計測1周目、琢磨のラップタイムはグループのトップとコンマ1秒も差がなかった。最初のハードルをクリアできるのは、どうやら間違いなさそうだ。「計測2周目で僕はグループのトップに立ちました。グリップも上がってきて、さらにタイムを更新するのは間違いありませんでしたが、ヘアピンへのブレーキング中にギアボックス・トラブルが起きてしまいます。すべて電気的にキャンセルされたようで、まったく動きません。しかも、ピットレーンまではまだかなり距離があったので、その場で止まることになりました」 同じ頃、コース上の他の場所でも2台のマシーンがストップし、黄旗が提示されることになった。琢磨のマシーンは牽引されてピットに戻ったが、インディカーのルールでは、最後に戻ってきたドライバーにセッション中断の責任があるとみなされ、このため琢磨にはふたつのファステストラップを削除されるペナルティが科せられたのである。実際には、琢磨がセッションを中断させたわけではないにも関わらず! この結果、琢磨のグループ内での予選順位は9位となり、日曜日の決勝には18番グリッドから挑むことが決まった。 嵐を思わせる激しいオープニングラップのなかで琢磨は15番手まで順位を上げたが、次の2ラップでは、EJヴィソ、トーマス・シェクター(琢磨が2000年にイギリスF3に参戦していた当時からのライバル)、マリオ・ロマンチーニ、ポール・トレーシー、そしてモラレスにポジションを奪われてしまう。 「ウォームアップで新しいセッティングを試しましたが、あまり感触がよくなかったので、状況が改善されることを期待してさらにセッティングを変更し、決勝に臨みました。スタートはとてもエキサイティングで、オープニングラップは最高に楽しかった。サイド・バイ・サイドをたくさん演じましたが、残念ながら少しポジションを落としてしまいました。このコースでは、一度誰かに抜かれると勢いを失い、とても難しい展開に追い込まれて次々と順位を下げることになります。それにしても、PT(ポール・トレーシー)やEJと繰り広げたバトルはエキサイティングなものでした。僕たちは互いに相手のスペースを残しておいてあげたのです。僕自身は、後で必ず彼らに反撃するつもりでいました」 しかし、そのチャンスは巡ってこなかった。16ラップ目、琢磨がモラレスに急接近した際、ブラジル人ドライバーは琢磨にオーバーテイクのチャンスを差し出した。「モラレスはターン1でミスをして、ストレートからターン3にかけて、僕と彼は横並びになって走行しました。ブレーキングエリアに入っても、僕たちはサイド・バイ・サイドのままです。でも、次に起きたのはまったく信じられないことでした。僕のためのスペースを残すことなく、彼はどんどんアウト側に向かってきたのです。このため、僕は避けることができずに接触してしまいました。まったく理解に苦しみます」 またもや残念な結果に終わったわけだが、不幸中の幸いといえるのは、次のレースが間近に迫っていることだろう。インディカー・シリーズは広大な草原が広がるカナダ西部のアルバータ州を目指す。次戦は、高速でコース幅の広いエドモント空港サーキットがその舞台となるのだ。「トロントは熾烈なサバイバルレースで、僕はチャレンジしたかったけれどできませんでした。とても残念でしたが、次戦のエドモントンは1週間後の開催なので、早く頭を切り替えて、いい週末を迎えられるようにしたいと思います」 written by Marcus Simmons |