RACEQUALIFYINGPRACTICE
COLUMN
COLUMN
Rd.1 [Sun,29 March]
St. Petersburg

アクシデントに遭いながらも2台揃って完走
 2015年ベライゾン・インディカー・シリーズの第1戦は、佐藤琢磨にとって様々な意味を持つレースとなった。まず、そのプラスの側面を見れば、琢磨はホンダ陣営で最速のドライバーで、結果的にこのセントピーターズバーグ戦を制することになるファン-パブロ・モントーヤと長く続くバトルを演じることとなった。いっぽうマイナスの側面としては、フロントウィングにダメージを負ったためにピットストップを余儀なくされ、このため一時は最後尾まで転落したことが挙げられる。そして、もしもその中間的というものがあるのならば、開幕戦を13位で終えて貴重なポイントを獲得したことを挙げるべきだろう。

 2014年シーズンは8月という早い段階で幕を閉じたため、今年に向けた準備を入念に行なうことができた。この期間を活用してAJフォイト・レーシングはシーズンを通じてもう1台のダラーラ・ホンダを走らせる準備をするとともに、この1台をイギリス人の若手ドライバーであるジャック・ホークワースに託すこととなった。「今シーズンの開幕が待ちきれませんでした」と琢磨。「オフシーズンが長かった理由のひとつとしては、今年から新しいエアロパッケージが使えるようになったことが挙げられますが、もともと開幕戦として予定されていたブラジリア戦が残念ながらキャンセルとなったために、余計にオフシーズンが長引いたのは事実です。もっとも、ブラジリアでは2014年仕様のエアロパッケージを使う予定だったので、3月上旬にチームは2015年シーズンのパッケージをより重視する方向へと方針を転換しました。今年は非常に面白い流れだと思います。昨年の8月以来、僕はインディカーに乗っていなかったから、マシーンを走らせていない期間はとても長いものになっていたのに、3月中旬になると新しいエアロパッケージをシェイクダウンするためにNOLAモータースポーツパークを訪れることになったのです」

 「クルマは大幅に変わりました。見た目もずいぶんと違いますし、ダウンフォースは格段に増えています。ただし、シボレーとホンダの用意したエアロダイナミクス・パッケージのダウンフォースはあまりに大き過ぎました。この結果、これまで使ってきたパーツの強度について考えると、ウィングが発生するダウンフォースをもっと減らさなければいけないという結論に達したのです。インディカーではいまだにパワステが採用されていないことも、そう判断される理由のひとつでした。実は、ダウンフォースの1/3ほどはリアディフューザーで得ていたため、オフィシャルはディフューザーに付け加えられたスプリット板を取り外すことを決めます。これでダウンフォースは大きく減少することとなりました」

 「それでも2015年仕様のインディカーは驚くほど優れたパフォーマンスを有しています。多くのチームは12月ないし2月の段階でNOLAを訪ねており、車高やギアといった基本的な情報を手に入れていました。したがって僕らは追いつかなければいけませんでしたが、それでも充実した内容のテストでした。そこからアラバマ州のバーバー・モータースポーツパークに行って2日間のテストを行ない、続いてセブリングでもテストを行なったので、急に忙しくなりましたが、チームはシーズンオフを通じて素晴らしい準備をしてくれたと思います。今年は新しいエアロパッケージだけを専門に扱うエンジニアも追加されたので、2台体制にするといってもチームの規模としては2倍以上に膨れあがっていたのです」

 いっぽう、セントピーターズバーグといえば、昨年は琢磨がポールポジションを獲得したサーキットでもある。「セントピーターズバーグではここ何年もいい結果を得ています。それに、ベースとなるパッケージもいいので、自信はありました。最初のプラクティスも順調で、たくさんのいいデータが収集できました。ただし、2回目のセッションはウェットとなります。もっとも、土曜日と日曜日は降水確率が0%との予報だったほか、スペアパーツも不足気味だったので、誰も走行しませんでした」 続く第3セッションで琢磨は4番手につける。「土曜日の午前中に何をすべきかはわかっていました。僕は、できればセットアップがうまく進むといいと思いながら、少しだけ心配していました。でも、僕たちは本当に強かった。ホンダ勢のトップで、これは予選に向けたいい準備ともなりました」

 予選に入ってからも琢磨は好調を維持した。最初のセグメントで琢磨はトップ。これで難なく第2セグメントへの進出を決めた。その第2セグメントでは一時4番手だったものの、最終的には5番手に落ち着く。それでも引き続きホンダ勢のトップだ。そしてファイアストン・ファスト6で琢磨を凌いだのはチーム・ペンスキーの4台だけだった。「エキサイティングな予選でした」と琢磨。「この予選をとても楽しみにしていました。無条件に楽観的になる必要はありませんでしたが、それでも待ち遠しい気分でした。この空力パッケージを装着して、ソフトなレッドタイアで走るのは初めてのことでした。Q1でのフィーリングは抜群で、Q2ではセットアップをほんの少し調整するだけでわずかながら速くなりました。フィアストン・ファスト6までは本当に楽しかったのですが、ペンスキーはあまりに強力で、結果的には5番手となりました。もっとも、ホンダ勢のトップになれたことで深い満足感を味わえましたし、チームの働きぶりは賞賛に値すると思います」

 スタートでモントーヤを追い越した琢磨は4番手に浮上したが、接触によりホークスワースのフロントウィングが壊れて破片が飛び散ったため、すぐにコーションとなった。「ターン1は毎回カオスのようでした。モントーヤはエリオ・カストロネヴェスに仕掛けましたが、それで2台は接近しすぎたので、その隙にモントーヤを攻略できたのです。ジャックはフロントウィングを壊しており、そのことはチームから無線を通じて聞かされていました。僕たちのチームにスペアのフロントウィングはひとつだけしかありませんでしたが、それをジャックのマシーンに取り付けられることになりました。そのせいで僕はリスタートで慎重になり過ぎてしまい、順位をひとつ落としました」

 これでモントーヤは元のポジションに戻ったものの、最初のピットストップが終わるまで、琢磨はその背後に張り付いていた。間もなく、コース上に破片が落ちていたためにイエローが提示され、そのピットストップでセバスチャン・ブールデに先行されてしまう。最初のコーションでウィングを交換し、最後尾に下がっていたホークスワースはここでステイアウトし、上位に浮上。琢磨は7番手となる。リスタートでは、サイモン・パジェノ、モントーヤ、ホークスワース、ブールデ、琢磨の5人は一団となって1コーナーに飛び込み、大混乱を巻き起こした。「僕はブールデのインに飛び込むチャンスを手に入れました」と琢磨。「けれども、目の前にいたパジェノが急に減速し始めたのです。僕はヘルメットのなかで『行け、行け、行け!!』と叫びましたが、いっぽうで真横にはブールデが並んでいました。僕は行き場を失い、ブールデと接触してしまいます。軽く触れた程度で、昨年までのエアロキットだったらタイアの痕がつくくらいで何のダメージもなかったでしょう。ところが、限界を追求して作られた新しいエアロパッケージは非常に繊細で、このためエンドプレートにダメージを負ってしまいました。残念ながら、これでピットに戻らなければいけなくなったのです」

 チームにひとつしかないスペアのフロントウィングはホークスワースのマシーンに取り付けられてしまっている。しかし、幸運にもデイル・コイン・レーシングがスペアを持っていたのである! 「2014年仕様の古いウィングを取り付けるという手もありましたが、チームは素晴らしいアイデアを見つけ出してくれました。寛大なデイル・コインさんのおかげでフロントウィングを借りられることになったのです。でも、厳密にいうとこのフロントウィングの設定は僕たちが使っていたものとわずかに異なっていました。見た目にはほとんど変わらないように思えますが、実際には空気の流れに影響を与えるもので、それ以降は完全にポテンシャルを引き出すことはできませんでした」

 これで、あとは懸命に走り続けて、どんなチャンスが転がり込んでくるかを待つだけとなった。それでも琢磨は徐々に順位を上げ、最後の10周ではカルロス・ムニョスを抜いて13番手に浮上し、そこからフィニッシュまではジョセフ・ニューガーデンを追い続けることとなった。「ピットストップするたびに、そしてどのスティントでも必ず、少しずつポジションを上げていくことができました。カルロスとのバトルは面白かったのですが、ニューガーデンを追いかけている間にタイアのパフォーマンスが低下し始めました。もちろん、13位という結果にはまったく満足できませんが、2台が揃って完走できたことはよかったと思います。できればもっとたくさんのポイントを獲得したかったのですが、それでも少なくないポイントを手に入れたうえ、僕たちのポテンシャルが高いことを証明できました」

 シリーズ第2戦はフロリダから西に移動し、ルイジアナ州ニューオリンズ郊外のNOLAモータースポーツパークで開催される。「ちょっとインディGPコースに似たサーキットです」と琢磨。「アップダウンはなくて、複合セクションがあって、最後のセクションはちょっとミッキーマウス・サーキットのようだけれど、高速のシケインや長く続くコーナーもあって、とてもテクニカルです。運転するにはとても楽しいコースなので、レースに挑むのが楽しみです」

written by Marcus Simmon
▲TOPへ

TOPページへ戻る
takumasato.com
(C)T.S.Enterprise Japan LTD.
All rights reserved.


Powered by:
Evolable Asia Corp.