RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.16 [Sun,17 August]
Milwaukee

わずかなチャンスさえ味方にできれば……
 ベライゾン・インディカー・シリーズのミルウォーキー戦も、佐藤琢磨にとっては不本意な結果に終わった。2014年シリーズでいく度となく経験した絶望的な事態こそ起きなかったが、力強くレースを戦うために必要なちょっとした運もとうとう巡ってこなかったからである。

 ABCサプライ・ウィスコンシン250が開催されたミルウォーキーは、これまで琢磨が何度も速さをみせつけてきたコースなので、もしもちょっとした運さえ手に入れることができれば、望みどおりの結果が得られたことだろう。そうした思いがあったので、この伝統的なサーキットでの戦いを前にして、琢磨たちは大いなる希望を抱いていたのである。

 プラクティスでは、目の覚めるような結果こそ残せなかったものの、納得のいく進歩を果たすことができた。「週末の滑り出しは、あまりいいものではありませんでした」と琢磨。「2ヶ月前にテストしたときとはコンディションが大きく異なっていたのです。このテストでは、昨年のものから一新したとてもいいセットアップが見つかったので、そこからさらに速くする方法が見つかると考えていました。テストのときは気温が低く、様々な比較テストを実施できました。ところが、レースウィークに入ると気温はとても高くなっており、デグラデーションによりタイアの性能がひどく落ち込むようになっていたのです」

 「その後も僕たちはいくつかのテストメニューに取り組みました。フリープラクティス1では評価を下すのが難しい状況でしたが、2回目のセッションでは大幅な進歩が見られました」

 2周の平均スピードで競われる予選で、琢磨は10番グリッドを手に入れる。「もっといい結果が出せたかもしれません。コースコンディションはまたしても変わっていました。夕方の予選でしたが、まだ日は高く、けれども路面温度は急激に下がっていたのです。プラクティスではスタビリティが不足していましたが、予選ではアンダーステアのことだけを考えればそれで充分でした。つまり、リアのスタビリティが改善されたわけで、これは喜ばしいことです。プラクティスの段階では、全開でこのコースを走るのはおそらく不可能だと思っていましたが、実際に予選が始まってみると、スロットルを戻さなければいけないのはアンダーステアへの対処が必要なときだけで済みました」

 「だから、トップ10で予選を終えられたことを喜んでいましたし、セットアップの働きにも満足していました。つまり、いい手応えを掴んでいたのです」

 不運にもスタート直後のターン4で大きなスライドを喫したためにスピードが大幅に低下、おかげで最初のスティントでは19番手まで沈み込んでしまう。さらに悪いことに、琢磨の友人であるジャスティン・ウィルソンが16番手につけていたのだが、彼のペースが上がらず、最初のピットストップをグリーンのまま行うまで、琢磨もその後ろに一列縦隊で並ぶことになってしまったのだ。このとき、もしもイエローが提示ささればもっといい流れになっただろうが、ここでも琢磨には“ちょっとした運”が欠けていたのである。

 「残念なことにホイールスピンを起こしてしまいました。ギアは2速でしたが、ほとんど3速のスピードが出ていたので、本当に驚きました! このときもまだリアタイアが充分温まっていなかったようです。大きく順位を落としたことで、とてもがっかりしました。今年は、本当にオーバーテイクが難しい状況でした。ものすごくコンペティティブかつ僅差の戦いで、誰かを追い越すのは不可能も同然だったのです。1セット目のタイアを履いているとき、マシーンはひどいアンダーステアを示していたうえ、イエローが出ることもありませんでした。タイアが新しいときはいいペースを保てましたが、それは誰にとっても同じことです」

 トップを走るウィル・パワーのペースは速く、ピットストップが行われている間に琢磨はラップダウンとなってしまう。続く第2スティントではロシア人ルーキーのミハイル・アレシンとバトルを演じ、2回目のピットストップが始まる前にいくつかポジションを上げることに成功する。

 3セット目のタイアを履いて走行しているとき、カルロス・ムニョスがウォールと接触したため、待望のイエローが提示される。けれども、ここでもまた“ちょっとした運”が欠けていた。パワーはピットストップせず、ステイアウトを選んだのである。このため、ラップダウンになっていたドライバーがリードラップに返り咲くチャンスは失われてしまった。琢磨は、ここで多くのドライバーと同じようにピットストップを行い、17番手でコースに復帰することとなる。

 レース終盤にもう1度イエローコーションとなり、琢磨は15番手まで挽回した。ここで琢磨は目覚ましいスピードを示し、1周もしくは2周先を走っているドライバーを何人もオーバーテイクした。さらには、3番手争いをするジョセフ・ニューガーデンやトニー・カナーンと一緒に走ることもあった。

 「ウィルがステイアウトしたためにリードラップに復帰できなくなったことは本当に辛かった。ひとたびラップダウンになると、たとえどんなことをしてもリードラップに返り咲くのは至難の業です。路面コンディションが期待していた方向に近づくとペースは上がり、僕たちのマシーンがとてもいい仕上がりであることがわかりました。けれども、オーバーテイクがものすごく難しいことには変わりありません。今日のレースでは、コース上のポジションがすべてでした」

 「レースを通じて僕たちの燃費は良好で、今日はタイアのせいで誰もがピットストップしなければいけなくなりました。ニュータイアのほうが1秒ほどラップタイムは速かったため、スティントを長引かせると、かえって順位を落とすことになりました。1度だけピットストップ中のタイア交換に手間取ったことがありましたが、それを除けば、メカニックたちはいい仕事をしてくれたと思います。いずれにしても、とても残念な週末でした。ABCサプライは1400人もの家族や関係者を招待し、彼らは熱心に声援を送ってくれたので、苦しいレース展開となったことは本当に残念でした」

 立て込んだスケジュールのインディカー・シリーズは間もなく幕を閉じるが、それで琢磨のシーズンが終わるわけではない。最終戦のひとつ前にあたるレースがカリフォルニア州のソノマで行われるが、これに先だって琢磨はイギリスに飛び、スーパーアグリF1チームの懐かしい面々と再会を果たす。新たに始まるEVレースのフォーミュラEのテストがドニントンパークで行われるが、これにアムリン・アグリと名前を変えたチームが参加し、火曜日に琢磨を走らせることになったからだ。それが終わると琢磨は再び飛行機に飛び乗り、ソノマを目指す予定である。

 「去年はソノマで苦戦しました。でも、僕たちのロードコース用セッティングは進化しているので、今回はこれが役に立ってくれることを期待しています。きっと、僕たちはいい戦いができるはずです」

written by Marcus Simmon
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