RACEQUALIFYINGPRACTICE
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Rd.15 [Sun,03 August]
Mid-Ohio

闇のなかに消えた“光明”
 ベライゾン・インディカー・シリーズのトロント戦で今季最高位となる5位フィニッシュを果たし、今後にかすかな期待を抱いた佐藤琢磨とABCサプライ・AJフォイト・レーシングの#14ダラーラ・ホンダは、ミドオハイオではいつものような不運につきまとわれることになった。

 燃費計算の誤りから、琢磨は90周のレースの37周目にして燃料を使い尽くし、周回遅れとなった。運の悪いことに、これが起きたのは2回目のイエローコーション中のことで、このレースではこれ以降コーションとなることはなく、結果的に琢磨は上位争いに返り咲けなかったのである。

 週末を迎えたときには明るい希望を抱いていた彼らにとっては、まったく信じられないような結末だった。「僕たちはトロントが終わってからミドオハイオでテストを行いました」と琢磨。「これはとてもいいテストで、大きな手応えを掴みました。僕たちは過去ロードコースで用いてきたセッティングとは異なるアプローチを試し、様々なことを学びました。これまで僕たちはロードコースでのバランスやグリップがよくなく、ずいぶん苦しんでいたので、これは朗報でした。このため、僕たちは大きな期待を抱いてミドオハイオの週末を迎えたのです」

 この流れは金曜日にも持ち越され、最初のプラクティスで12番手だった琢磨は2度目のセッションで3番手へと躍進する。「最初のセッションでは順位がよくありませんでした。でも、このときはテストで積み残しとなっていたプログラムに取り組んでいました。しかも、最後の数周はイエローが提示されていたので、僕はタイムを更新できませんでした。それでもマシーンのフィーリングはとても良好でした」

 「2回目のプラクティスは気温がぐっと上がったため、多くのドライバーは午前中のタイムを更新できませんでした。ただし、僕はタイムを伸ばしたほんのひとにぎりのドライバーのひとりとなっていました。このときの展開にはとても満足していて、ようやくロードコース用のいいセッティングを見つけ出すことができたと喜んでいました」

 けれども土曜日になると事態は後戻りしてしまう。午前中のプラクティスではトップの0.6秒落ちだったのに、22台中21番手に沈みこんだのである。「信じられないくらいの接戦でした。路面のグリップは向上しているのに、タイアがしっかりと路面を掴んでいる感触がまるでなく、マシーンはあちこちでスライドしました。とても順調なセッションとはいえません。これに続いて予選に出走することになっていましたが、僕たちはセッティングの変更により状況が好転することを期待していました」

 けれども、チームはその結果を知ることができなかった。というのも、雨が降り始めたため、予選結果はほとんど運次第となったからだ。そして琢磨や、ミドオハイオ・マエストロと呼ばれて実際に日曜日のレースで優勝することになるスコット・ディクソンらは、予選中にラップタイムを記録することができなくなってしまう。「多くのドライバーが苦しめられましたが、僕もアウトラップでスピンしてしまいました。本当にひどく滑りやすいコンディションで、グリップはまったく感じられませんでした。また、ドライとウェットでこんなに大きな差があるとは思いませんでした。ミドオハイオのラップタイムはドライで1分ほどですが、それがウェットになると30秒も遅くなってしまうのです! 僕はなんとかしてタイアをウォームアップしようとしましたが、ダウンヒルにやってきたとき、速度はたったの40mph(約64km/h)だというのに、まるでスローモーションを見ているかのようなスピンをしました。ただし、まだエンジンがかかっていたので、何の問題もなくスピンターンができると思っていましたが、不運なことにギアがスタックして操作不能になってしまいます。僕はダウンシフトするか、ニュートラルにしようとしましたが、どうにもできません。やがてニュートラルにできないことをソフトウェアが検知すると、エンジンがセーフモードに切り替わり、その10秒後にエンジンは自動的に停止しました。このようなことは二度と起きないように改善しなければいけないと思います」

 「これで赤旗が提示されたため、ふたつのベストラップが取り消されることとなりましたが、もしも走行を再開してタイムを3回記録すれば、最後の1ラップ分は有効となります。けれども、オフィシャルが救助に来て、コース上でエンジンの再始動を試みましたが、信じられないことに、スプラインがなぜかスターターとかみ合っていないようでした。これでセッション中の復帰は断たれ、最後尾からのスタートが確定したので、僕はひどく落胆しました」

 日曜日のウォームアップで琢磨は6番手のタイムを叩き出し、チームに希望をもたらしたが、他のドライバーたちがどの程度の燃料を積んでいるかについては想像する以外になかった。「僕たちは戦いを再開できたように思われました。少なくとも、期待を抱くことのできる展開でした」

 琢磨は好スタートを切ったが、その数秒後にトニー・カナーンとマルコ・アンドレッティが第1コーナーでクラッシュ。この影響でイエローが提示されるとともに、琢磨はフロントウィングにダメージを負い、その交換のためにピットストップを余儀なくされた。「スタートがよかったので、これはいいレースになると思いました。ところが前方でアクシデントが起こってしまいます。このとき、僕の右側には別のマシーンがいたので避けることができず、マルコと接触してフロントウィングを痛めてしまいました。せっかく順位を上げられたのに、ここでポジションを落とすことになったのは残念でした。もっとも、それほど大きく順位を落とさずに済みましたが……」

 集団の後方を走行していた琢磨が早めのピットストップを行うのは、悪い判断ではなかったように思えた。このとき、琢磨はこのレースで優勝することになるスコット・ディクソンの直後を走っていたが、そのディクソンが10ラップ目にピットに飛び込んだため、琢磨はその次の周にピットストップを行った。「昨年は上位陣の多くが2ストップで決勝レースを走りきろうと試みました。でも、そのためにはイエローコーションが必要で、燃料をかなりセーブすることが必要となります。いっぽう今回は、予選がウェットだったため、どのドライバーも新品のレッドタイアを3セット持っており、僕たちは多くのドライバーが3ストップ作戦を選ぶだろうと考えていました。いずれにせよ、僕たちは早めにピットしてブラックタイアを使ってしまうことにしました」

 2回目のピットストップを行うまで、琢磨は後方集団のなかで走行を続けていた。ようやくピットストップのタイミングとなったその時、ライアン・ハンター-レイがスピンして2回目のイエローが提示された。「燃料が不足していることはわかっていましたが、コーションとなったためにピットロードはクローズとされました。ギリギリの展開で、チームは燃料がまだ持つと考えていましたが、実際には計算間違いを犯しており、僕はガス欠で止まってしまいました」

 マシーンはオフィシャルの手で素早くガレージに送り届けられたものの、これで琢磨はラップダウンとなった。「誰ともレースをしていないも同然だったので、かなり辛い展開でした。それでも、またイエローが提示されればラップダウンから抜け出せるかもしれないと思い、決して諦めませんでした。レッドタイアを履いているときのマシーンは決していい状態ではありませんでした。このためラップタイムは伸び悩んだので、本当に苦しいレースでした。ようやくロードコース用のいいセッティングが見つかったと思ったのに、まだこなさなければいけない仕事が残されているようです。これはフラストレーションのたまる状況です」

 この課題は2レース後のソノマまでにクリアしなければいけないが、その前にミルウォーキーでの一戦が控えている。全長1マイルのフラットなオーバルコースを琢磨がこよなく愛していることは、皆さんもご存知のとおりである。「昨年はこのコースで素晴らしい走りができましたし、先日もテストを行ったばかりです。このときも大きな手応えを掴んだので、今回も力強く戦えることを期待しています。しかも、今年はABCサプライがレースのスポンサーを務めてくれます。このためたくさんのゲストが訪れてくれる予定なので、ますます僕のモチベーションは高まっています!」

written by Marcus Simmon
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