COLUMN |
またもや不運のレース。テキサス・モーター・スピードウェイで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの一戦に臨んだ佐藤琢磨は、レースが残り10周となったときに13番手につけていながら、エンジン・トラブルのため戦列離脱を余儀なくされることとなった。
率直にいって、それは衝撃的といえる結末ではなかった。1週間前にデトロイトのベルアイルで行なわれたレースでは、なにひとつ過ちを犯していなかったにもかかわらず、No.14をつけたAJフォイト・レーシングのダラーラ・ホンダを駆る琢磨は事故に巻き込まれ、上位入賞のチャンスを奪われてしまった。けれども今回、チームは地元のレースでペースが伸び悩み、苦戦を強いられたのである。 「僕たちにとってはとても苦しい週末でした」と琢磨。「コースを走る時間が非常に短かく、たった1回のプラクティスだけで予選を迎えねばなりませんでした。しかも、今回はナイトレースなので、プラクティスや予選、それに決勝では、マシーンの反応は大きく異なっていました。このため、常に先を見越した戦い方が求められたのです」 「プラクティスは、目を覆いたくなるほど悪くもありませんでしたし、ものすごくいいともいえませんでした。今年のルールに従うと、昨年より大きなダウンフォースをつけられます。2012年、インディカー・シリーズは密集したレースを避けるためにダウンフォースの削減を決めました。昨年は、これがやや行きすぎたものだったことが判明しましたが、この2年間、テキサスのレースは力と力のぶつかりあいではなく、文字どおりのサバイバル戦となっていました」 その理由は、次のようなものだ。まず、ダウンフォースを減らせばマシーンのスライドが増える。するとタイアの性能が急速に低下し、これにあわせてグリップ・レベルも大幅に悪化してしまうのである。いっぽうで、ダウンフォースの増大は、ダラーラDW12のセッティングを見直さなければいけないことを意味する。「テキサス前にいくつかの検討を行ないました。インディ500以降はたくさんの作業を行なったので、強力なパッケージが手に入ると期待していました。けれども、トリッキーでハイバンク・オーバルのテキサスにマッチしたセットアップを見つけ出す作業は、簡単には進みませんでした」 「プラクティスでは予定していたテストをすべて終えるまでには至らず、予選を見据えたシミュレーションもできませんでした。しかも昨年は予選に出走できなかったので、マシーンがどうなるのか、予想するのは困難な状況でした。僕たちはあまり速くありませんでした。スタビリティが不足していたのでダウンフォースを減らすことができなかったのです。けれども、何人かのドライバーは非常に少ないダウンフォースで走っていました。彼らは、僕たちよりもずっと多くのメカニカルグリップを手に入れていたのでしょう。予選では、僕たちより速いマシーンがアグレッシブに攻めすぎた影響もいくぶんはあり、僕たちは16位に留まりました」 予選が行なわれた後の金曜日の夜にはもう1度、プラクティスが実施された。「状況は少しよくなりました。トラフィックのなかを走っていると、タイアのマネージメントが大きな問題であることが明らかになります。僕たちはダウンフォースを元のレベルに戻しましたが、それでもデグラデーションはひどい状態でした。マシーンの感触は、最初の10周はいいのですが、次の10周でデグラデーションが起き始め、その次の10周では徐々に苦しめられるというものです。1スティントはおよそ50周と見込まれていましたが、30周を超すとデグラデーションがひどくていいペースを保てません。いっぽうで40ラップ以上も安定して走れるチームもありました。僕はリア・スタビリティの確保に苦しんでいましたが、ついにはマシーンを改善できないまま時間切れとなってしまいました」 琢磨は、スタートが切られてわずか4周目で最初のイエローが提示されたときも16番手のままだったが、AJフォイト・レーシングはこの機会に彼をピットに呼び戻すこととした。「タイアはまだフレッシュで、燃料もたっぷり積んでいました。けれどもバランスには満足がいかなかったので、フレッシュタイアに履き替えて少しでもアドバンテージを手に入れようとしたのです。上位グループのなかにも同じ作戦を選ぶドライバーがいたので、いくつかの戦略が入り交じった状態となりました」 「スタートのときはまだ暑い状況でしたが、やがて気温が下がると路面コンディションがよくなり、ダウンフォースも増えました。でも、これは誰にとっても同じことです! おかげで少しは状況がよくなりましたが、追い上げを図るには不十分でした」 60周目を目前にして琢磨はリードラップから脱落。しかも、イエローコーションがほとんどなかったことから、追い上げを図るのは非常に困難な展開となった。「リアタイアのデグラデーションがすぐに起きてしまうため、フロントのグリップを落とさざるを得ず、したがってスティントの前半はひどいアンダーステアでした。アンチロールバーやウェイトジャッカーを駆使してもバランスがとれるようなレベルではありません。速いマシーンは、フロントタイアのグリップをより積極的に活用できたようです」 「第2スティントでフロントのダウンフォースを増やしたところ、走り始めはとても速かったのに、間もなくペースは大幅に落ち込んでしまいました。そこで、その後はフロントのダウンフォースを減らし、スティントを通じてできるだけ速いペースを保てるように工夫しましたが、それでも平均スピードは10mph(約16km/h)以上も変化しました。これはオーバルレースでは通常ありえないレベルの落ち込みです」 「それでも僕たちは12番手か13番手あたりで戦い続けていました。ときには順位を上げることもありましたが、大きな変化はありません。周回遅れになったのはやや不運で、挽回するのは困難になりました。最終的にはイエローコーションにより1周は取り戻すことができましたが、おかげで同じドライバーを4回も5回もオーバーテイクしなければならず、少しフラストレーションが溜まりました。そして残り10周となったあたりでトラブルが発生しました。パワーダウンを感じ始めると、その次の周にはエンジンが完全に息絶えてしまったのです」 次戦は、テキサス・モーター・スピードウェイのあるフォートワースからそう遠くないヒューストンで6月27〜29日に開催される。琢磨は昨年、ここでポールポジションを獲得しているので期待は大きく、前回のいい流れが今年に持ち越されることが望まれる。 そして、このダブルヘッダーレースは、待望されたここからの3週間のブレークを迎え、ひと段落したあとにやってくる。「本当に忙しいスケジュールだったので、ひと息つけるのは嬉しいですね。火曜日にはヒューストンでメディアから事前の取材を受けることになっていますが、その後はインディに行って荷物をまとめ、そこからテストが行なわれるミルウォーキーに向かい、さらに日本に飛びます。日本でも完全に休みになる日はありませんが、少しはリラックスできると思います。その後で行なわれるチームのホームレースは楽しみですね。昨年、僕たちは速かったので、今年もいい結果が得られることを期待しています」 written by Marcus Simons |