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Rd.7 [Sun,01 June]
Detroit Race 2

立て続けに起きた不運
 デトロイトのベルアイルで行われたインディカー・シリーズのダブルヘッダーレースで、佐藤琢磨は抜群に速かった。しかし、運の悪さでも人並みを外れていた。

 どちらのレースでも好成績を収めるチャンスがあったのに、どちらのレースでも勝機は琢磨の指の間をすり抜けてしまった。レース1ではレース序盤でギアボックス・トラブルが発生し、レース2ではインディカー・シリーズでキャリア5回目のポールポジションを獲得しながら、琢磨にはまったく非のないふたつの事故に巻き込まれてしまったのである。

 インディ500が終わった直後、チームはカナダ国境にほど近い島のなかに設けられた市街地コースに向かった。ここで、AJフォイト・レーシングのダラーラ・ホンダに乗る琢磨は滑り出しからまずまずの速さを示し、最初のプラクティスではトップ10に入ってみせた。

 「とても忙しいスケジュールでした」と琢磨。「ダブルヘッダーレースはいつも忙しいものですが、予選前には45分間のプラクティスが2度あるだけでした。ここで上手くいけば2レース続けていい結果が残せるでしょうし、そうでなければ2レースを立て続けに失うことになります! 僕たちは比較的いいスタートを切りました。バランスが特別よかったわけではありませんが、少なくともトップ10に入ることはできました」

 それでも残念なことに、琢磨は予選のセグメント2に進出できなかった。極めてコンペティティブな予選グループ内で8番手に終わったからだ。このため琢磨は15番グリッドからスタートすることが決まった。「プラクティスの結果から考えれば、もう少しいい成績が手に入ったはずです。けれども、スケジュールに余裕がなければ、いくら何かを学び取ってもそれをテストで反映させる機会はなく、確実にパフォーマンスに繋げることはとても難しいのです。予選は朝の8時30分に始まるというタフなもので、気温が低いためにグリップは高く、空気の密度も高い状態でしたが、僕たちはグリップ不足に悩まされました。あと100分の数秒速ければセグメント2に進出できたのに、それができませんでした」

 土曜日のスタートでは、柔らかめのレッドタイアを履くウィル・パワーとサイモン・パジェノーが強引に割り込んできたため、琢磨は18番手に後退する。けれども、その後でパジェノーとパワーは接触、パジェノーはリタイアに追い込まれ、イエローコーションとなった。このとき琢磨は、その後のピットストップの展開によりこのレースで優勝することになるパワーを追い越していた。「すべて満足のいく状況でしたが、数周するとギアボックスが問題を起こすようになりました。3速から4速にシフトアップできず、4速を飛び越えて5速に入ってしまうトラブルでした。しかも症状は安定せず、次第に深刻な状況に陥っていきました。このためピットに戻るしかありませんでしたが、ここでメカニックがギアボックスに小さな問題を見つけます。結果的にコースには復帰できましたが、数周のラップダウンになっていたので、残る周回はテストとして利用することにしました」

 けれども、どんな災いにもいい部分はあるものだ。なぜなら、このときの努力が実を結び、チームは日曜日の予選でポールポジションを勝ち取るマシーンを作り上げることができたからだ。「僕たちはいろいろなことを学びました。ただし、タイアの空気圧を変えたりとか、ほんの小さなことです。けれども、これがとても役に立ちました。僕たちにとっては必要なことだったし、ポジティブな影響を及ぼすことになったのです」

 トラブルが起きたとき、琢磨はパワーに先行していた。あのままいけば、琢磨は優勝できたのだろうか? 「そうは思いません。デトロイトの路面はレッドタイアとの相性が非常に悪いようです。最初の数周は高いグリップ力を発揮しますが、その後グレイニングが起き、パフォーマンスは急激に低下します。このため、レッドタイアでの走行は最小限に留める必要があります。僕はブラックタイアでスタートしましたが、当然、途中でレッドに交換しなければいけません。いっぽうのウィルは、このときすでにレッドを使い終えていたのです。しかも、デトロイトの特徴的な路面にあったタイア空気圧にあわせることができなかったため、僕たちは苦しむことになります。おかげでドライブしにくい状況でしたが、それでもコースに戻って何かを学び取ることが重要でした」

 結果は18位だったが、全体で8番目に速いファステストラップを記録したことは何らかの可能性を示していた。実際、日曜日朝の予選で琢磨は大きな飛躍を遂げることになる。「土曜日の夜、エンジニアたちとディスカッションしました。その後、僕は真夜中に目が覚めます。そこで僕はセットアップをどう変更して欲しいかについて、エンジニアにメールで知らせました。翌朝にもミーティングはありますが、それからではメカニックたちがジオメトリーを変更する時間はありません。朝、目覚めると、エンジニアから『そうしよう!』という返事がきていました。これで予選が本当に楽しみになりました」

 今回は、3段階で行われる通常の予選は実施されず、ふたつの予選グループに分かれて1度だけセッションが行われることになった。琢磨はふたつめのグループから出走した。「最初のグループでジェイムズ・ヒンチクリフがものすごいラップタイムを記録しました。1分16秒で走れるドライバーがいるなんて、想像もできませんでした。なにしろ、僕が土曜日にマークしたタイムは1分18秒3でしたから! けれども、自分がアウトラップを走ってみて、路面のグリップレベルがどれくらい上がっているかに気づき、驚きました。ラバーがしっかり乗っているうえに気温が低かったので、コンディションとしては理想的だったのです」

 「僕自身がアタックするのを楽しみにしていましたが、僕の直前でライアン・ハンター-レイがウォールと接触してセッションは赤旗中断となってしまいます。僕のマシーンはまだ完全にウォームアップが終わっておらず、クルマの挙動も十分に把握できていませんでした。レッドタイアでアタックする前に、何周か走ってブレーキやギアボックス・オイルなどの温度を上げて、準備万端にしておきたかったのです。けれども、セッションは残り数分しかありませんでした。最初のアタックでのタイムは1分17秒でしたが、このとき、僕はこう思いました。『マシーンの状況はいいし、グリップレベルは高いし、まだタイアはデグラレーションを起こしていない……』 そこで僕は最後の1周にすべてを掛けてアタックしましたが、これは最高のフィーリングでした。すべてのコーナーでマシーンは素晴らしいパフォーマンスを示し、最終的にはコースレコードでポージポジションを獲得できました。言葉では言い表せないくらい最高の気分で、深い満足感を味わうことができました」

 「レースのスタートもうまくいきました。誰にも抜かされることなくトップでターン1に進入していき、何の問題もありませんでした。すべて順調だったのです」

 マイク・コンウェイを除くすべてのドライバーがレッドタイアでスタートしており、早い段階でイエローコーションとなることを誰もが期待していた。そうすれば、残り周回数はブラックタイアで走りきれるからだ(インディカー・シリーズではレース中にレッドタイアとブラックタイアを少なくとも1度ずつ使用することが義務づけられている)。彼らの判断は間違っていなかった。序盤に3台が関係するアクシデントが発生したため、集団の後方を走るドライバーがまずブラックタイアに交換。2回目のイエローで、琢磨を含むトップグループがピットストップを行った。ピットではエリオ・カストロネヴェスとライアン・ブリスコーに抜かれたため、実質的に琢磨は3番手となったが、コース上での順位は17番手だった。「ピットストップで少し遅れました。ただし、まだピットしていないドライバーもいたので、レースはとても難しいものになります。あるときはブリスコーをオーバーテイクして、また次のときはポジションを落とすといったことの繰り返しでした。とても楽しいレースでしたが、やがてとんでもない災難に巻き込まれてしまいました」

 2回目のピットストップを行ったとき、琢磨はジャック・ホークワースの直後につけていた。ブリスコーはすでにピットを終えていて、琢磨はコースに復帰すると、間もなくオーストラリア人ドライバーの攻略に成功する。次の周にホークワースがピットストップを行い、琢磨の目の前でコースに復帰してきた。「ブリスコーは最初のピットストップであまりたくさんの燃料を給油していませんでした。おかげでピット作業では僕をオーバーテイクできたのですが、その後ピットストップでは長いスティントを走行しなければいけません。ジャックがコースに戻ったとき、彼のタイアは冷えた状態でしたが、僕とブリスコーのタイアはウォームアップが終わっていました。ターン3へのブレーキングでジャックとサイド・バイ・サイドになりましたが、僕はアウト側から無理なくオーバーテイクしました。ところが、僕とジャックの間に突然ブリスコーが割り込んできたのです。すでに僕は完全にコーナリング中だったのに、彼は止まりきれずにぶつかってきて、僕をスピンに追い込んだのです」

 これで琢磨はリードラップの最後尾に転落。けれども、このときコース上を走る誰よりも速いペースで驚くべき追い上げを図ると、集団の後方に追いついたのである。「僕はものすごく怒っていました。でも、マシーンが好調なのはとにかく嬉しいことでした。そのままいっていれば……、どうなっていたかはわかりませんが、ひどく悔しかったことは間違いありません」

 セバスチャン・ブールデがクラッシュしたこともあり、レースが残り6周となったとき、琢磨は11番手を走行していた。ところが、琢磨はマルコ・アンドレッティから同じような仕打ちを受けることになる。その後、マルコにはペナルティが下された。「残念でした。またもや追突されて、今回はウォールに接触してしまいました」 結果? またもや18位フィニッシュという残念なものだった。

 「とてもフラストレーションが溜まりましたし、とても落胆しました。僕たちには勝てるマシーンがありました。懸命に働いてくれたチームのスタッフには心からお礼を申し上げます。ポールポジションを獲得できたのは最高の気分でしたが、優勝はまたもお預けとなりました。でも、僕はこれからもチャレンジし続けます」

 そのチャンスは、今週末やってくるかもしれない。というのも、AJフォイトのホームレースであるテキサス・モーター・スピードウェイでの一戦が開催されるからだ。「今度もオーバルなので、とてもエキサイティングな気分です。インディ500ではレースデイにとても力強く走ることができました。あれからまだ1週間しか経っていませんが、ずいぶん前のことのような気もします。インディとテキサスではコースが異なりますが、ポジティブな部分を取り込むことはできるので、最高の結果を残したいと思います。チームのためにも、多くのポイントが絶対に必要なのです」

written by Marcus Simmon
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