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Rd.4 [Sat,10 May]
Indianapolis

アクシデントを乗り越えて9位完走
 2004年のF1アメリカGPで表彰台に上って間もなく10年周年を迎えようとしていたとき、佐藤琢磨はベライゾン・インディカー・シリーズ第4戦のグランプリ・オブ・インディアナポリスに挑むため、インディアナポリスのロードコースを訪れていた。

 普段であれば9位フィニッシュは特筆に値しない成績だが、No.14ABCサプライ・ホンダにとって極めつけにドラマチックなレースとなった今回は、琢磨とAJフォイト・レーシングが力をあわせて逆転劇を演じたという点において大きな意味があった。

 ところで、琢磨やファン-パブロ・モントーヤ、それにセバスチャン・ブールデといった元F1ドライバーがIMSのロードコースでのアドバンテージを有していると考えているのであれば、それは大きな間違いだ。なぜなら、あの当時とはコースがまるで異なっているからである。

 「コースは大幅に改修されました」と琢磨。「彼らはいい仕事をしたと思います。IMSなのだから雰囲気がいいのは当然ですが、かつてのグランプリコースに比べると、改修を受けていないのはターン1からターン4までだけで、ターン5以降はまるで異なっています。だから、僕たちにとってはまったく新しいサーキットも同然でした。路面がとてもスムーズなほか、FIA規格を満たした縁石も洗練されたものなので、インフィールドに施された改修は素晴らしいものだと思います。しかも、急減速するポイントが3ヶ所もあるので、バトルという面でもショーという面でも素晴らしいサーキットだといえます」

 「僕たちは事前にテストを行ないました。当日は寒かったので非常に速いスピードで走行できましたが、グランプリ・オブ・インディアナポリスが開催された週末は気温が上昇したため、テストで記録されたラップタイムは更新できませんでした。テストではトップにコンマ5秒ほど離されたので、満足できる結果とはいえませんでしたが、まずは可もなく不可もなくといったところでした。ただし、このコースでタイムを稼げるのは基本的にブレーキングとシケインだけなので、全体的に僅差で、トップとの差を埋めるにはかなり努力をしなければいけない状態でした。また、F1で走ったときと同じように、ダウンフォースを大きくすればインフィールドで速くなるものの、ダウンフォースを小さくすればメインストレートのスピードを稼げるという傾向がありました」

 決勝が行われる土曜日の朝にウォームアップが予定されていなかったため、どの陣営も木曜日に2回、金曜日に1回実施される計3回のプラクティスですべてを学び取らなければならなかった。「フリープラクティスでは本当に苦しみました。良好なバランスを見つけ出すことができず、僕らは少し遅れをとっていました。今回はマーティン・ポウルマンがチームメイトとしてエントリーしていたため、ふたりで協力してセッティング作業を行いましたが、うまい解決策は見つかりませんでした。僕たちは分担してふたつのプログラムに取り組んだものの、どちらも思うような結果が得られなかったのです」

 「僕たちは、金曜日の午前中に試す予定にしていたセッティングがいい結果をもたらしてくれることを期待していましたが、このセッションはウェットコンディションとなってしまいます。これが、僕たちのテストプログラムを試す最後のチャンスだったので、この機会が失われた結果、僕たちはまだ感触を掴んだことのないマシーンで予選に挑まなければいけないことになりました」

 残念ながら、琢磨は予選グループ内で8番手となったため、トップ6のドライバーを選ぶセグメント2に進出することができなかった。「0.25秒差と聞くと大したタイム差ではないように思えますが、インディカーのようにコンペティティブなシリーズでは実際の数字以上に大きな意味を持っています。最初のセグメントが終わると急に雲がわき上がり、豪雨が降り始めました。僕にとっては好きなコンディションで、セグメント2に進出していればチャンスとなったかもしれませんが、僕たちのマシーンはウェットでも決して好調とは言えませんでした」

 チームはそのとき直面していた問題にも取り組まなければいけなかった。「この週末、僕たちはクラッチの不調に悩まされていました。クラッチのつながるポイントがいつも以上に安定しなかったのです。起こっている現象について夜の間に解析を行い、適切と思われるポジションに設定しましたが、グリッドに向かう際にスタートのシミュレーションを行ったときも満足のいく状態ではありませんでした。クラッチのつながるポイントがずれていて、ただエンジンが空回りしているだけになってしまったのです。このときは他のドライバーが全員スタートした後で僕のマシーンが動き始める状況だったので、さらに問題の原因を追及しなければいけませんでした」

 とはいえ、おかげで琢磨は、ポールシッターのセバスチャン・サーヴェドラのエンジンストールがきっかけで起きたスタート直後の多重クラッシュに巻き込まれずに済んだともいえる。「5台か6台のマシーンが横並びになっている様子が見えました。それから何かが舞い上がり、大クラッシュが起きました。僕は破片を避けようとしましたが、何かがフロントノーズに接触してしまいます。この破片は僕が乗り上げたものではなく、どこかから舞い降りてきたものでした」

 フロントストレート上に散らばった破片や破損したマシーンを回収するためにフルコーションとなったが、この状況でピットレーン前を通過するマシーンの様子を確認したチームは、琢磨を呼び戻してフロントウィングを交換し、19番手でコースに復帰させた。

 レースがグリーンになると、琢磨はすぐに14番手へと浮上した。「リスタートではターン1の進入でいいポジションを取ることができましたが、その後、左リアのスタビリティがひどく低下していることに気づきました。もしかすると破片を踏んだ影響で左リア・タイアがパンクしている可能性も考えられましたが、ある破片が僕のマシーンのアンテナを直撃し、これでテレメトリー・システムが機能しなくなってデータの送信ができなくなっていました。このためチームは左リア・タイアの空気圧が低下しているかどうかを確認できなかったのですが、非常に危険な状況が何度か起きたので、安全を考えて僕はピットに戻ることにしました」

 これで琢磨はラップダウンとなったが、次のコーションで失地を挽回することになる。先頭グループにまだピットストップを行っていないドライバーがいて、次のコーションで彼らがピットストップを行うことに気づいていたAJフォイト・レーシングは、まずNo.14ABCサプライ・ダラーラ・ホンダをトップと同一周回に送り戻すと、続いて琢磨をピットインさせ、集団の最後尾に並ばせたのである。

 続いてファン-パブロ・モントーヤとグレアム・レイホールがクラッシュしたが、ここで琢磨のマシーンはさらなるダメージを受けることになる。「次のリスタートも成功しましたが、これはかなりエキサイティングなものでした! 僕は誰かとサイド・バイ・サイドになっていたものの、反対側は壁で、しかも何かが舞い上がるのが見えました。このとき、マシーンの進路は変えられなかったので、頭を左側にずらしたところ、モントーヤのウィングが僕のヘルメットをかすりながらヘッドレスト・プロテクターを直撃したのです!ミラーで状況を確認しましたがウィングなどにダメージはなかったので、そのまま走行を続けました。ヘッドレストに大きな穴が開いているのに気づいたのは、レースが終わってからのことでした」

 チームは他のドライバーと異なるレース戦略を継続していたが、これと琢磨の健闘があいまって、ほどなく5番手に浮上。ただし、最後のピットストップを行ったことで9番手に後退すると、おいすがるトニー・カナーンを振り切ってそのまま9位でチェッカードフラッグを?い潜った。

 「テレメトリーが使えなく、消費燃費に関する情報がなかったので、とても難しいレースとなりました。最後のスティントとなるリスタート前に僕たちはコース上に留まりました。先頭グループでは最後のピットストップを行いましたが、彼らはとてつもない燃費をセーブしなければなりません。チームの計算では、イエローが出なければ彼らは走りきれない状況だと考えていたので、僕らが再スタート後にやや遅れてピットストップを行ったことはギャンブルに値する効果がありました。というのも、最後のスティントはフラットアウトで走行できたので、前方を走る何人かのドライバーをオーバーテイクできたからです」

 というわけで、琢磨はたくさんのドラマを経験することになったが、結果的にまとまったポイントを手に入れることもできた。「レースの展開を考えると、トップ10でフィニッシュできたことは勇気づけられる成績だったと思います」

 グランプリ・オブ・インディアナポリスが終わって24時間と経たないうちに、今度はインディ500が開幕し、シリーズ最大の一戦に向けたプラクティスと予選が行われる1週間が始まった。「忙しいスケジュールですが、このままインディ500のプラクティスが始まるのですから、とてもエキサイティングです」

 「グランプリ・オブ・インディアナポリスはインディ500に向けた素晴らしいイントロダクションになりましたし、ターン1、ターン7、ターン13では素晴らしいオーバーテイクも見られたので、僕もファンも大いに楽しみました。インディ500に向け、メカニックたちは細部までこだわり抜いたニューカーを用意してくれたので、これを走らせるのがとても楽しみです。ロードコース用のマシーンであれば数週間程度で組み立ては完了しますが、彼らは僕のプライマリーカーを仕上げるのに数ヶ月を費やしました。とても美しいマシーンなので、いまからシェイクダウンが待ち遠しくて仕方ありません」

written by Marcus Simons
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